この夏、鎌倉の家は1日中27℃でエアコン電気代は1,406円(8月)でした
住まいのかたち | 2017.10.3
「一室空間」は「高性能な箱」であることが絶対条件
「無印良品の家」の基本コンセプト「一室空間」は、永く快適に、そして自由に暮らすための「脱・間取り」提案ですが、それは「高性能な箱」との組み合わせで、はじめて成立します。
間仕切りのないオープンな「一室空間」を安全に成り立たせるには、構造計算に基づく高い耐震性能が必要ですし、細かく仕切られていない大空間を少ないエネルギーで快適な温度に保つためには、高い温熱性能(高断熱・高気密)が必要だからです。
「無印良品の家」では、この2つの性能について、「経験と勘」ではなく、耐震性能は構造計算で、温熱性能に関しては全棟温熱シミュレーション(+AIR)で論理的に、この一室空間にふさわしい高性能であることを全ての家について証明しています。
家中を快適な温度にして暮らすということ
鎌倉の家大使の住まいレポートでおなじみの「鎌倉の家」(窓の家)は、こんなプランです。
トイレ・浴室と洗面所以外は、2階も含めてすべて一室空間になっているので、延床面積77.84㎡(23.54坪)とけして広い家ではありませんが、家族(みーさんと猫たち)がどこに居ても、お互いの気配を感じながら暮らせる、ゆったりとした空間となっています。
しかし、「確かに広々として感じ良いけれど、一般的な家のように例えばLDKだけ冷暖房を効かせることができないので、冷暖房費が普通よりかかる上に、夏は2階が暑く、冬は1階が寒い家になりそう。」と不安になる方も多いのではないでしょうか。
ご心配はまったく無用です。魔法瓶のように高い断熱性能を持った家であれば、一室空間と組み合わせることで、わずかなエネルギーで家全体の室温をコントロールできるからです
家の快適性を「温熱性能」として見える化するために、無印良品の家では、「+AIR」という温熱シミュレーションを全棟で実施しています。
「鎌倉の家」でも、この「+AIR」の温熱シミュレーションを実施しています。
下のグラフは、鎌倉の家が、室内の平均気温が冬でも18℃以下、夏でも27℃以上にならないように、エアコンで常に室温調整をした場合に、どのくらいのエネルギーが必要か、というシミュレーションをわかりやすくするためにコスト換算したものです。
日本の家で一般的に行われている局所間欠冷暖房(人がいる部屋だけを冷暖房する)ではなく、いわゆる24時間全館冷暖房なので、いくら「鎌倉の家」の断熱性能が高いとは言え、かなりの冷暖房費がかかりそうですが、ご覧のように1年間の冷暖房費は約3万円(月平均2,500円)という結果です。このコストなら、安心して家中快適な温度にして暮らせるのではないでしょうか。
しかし、上の結果はあくまで計算上です。実際に家全体を24時間快適な温度にして、本当にシミュレーション通りに行くのだろうか、という疑問は当然生じると思います。
実録「鎌倉の家」の夏の計測値
「鎌倉の家」(窓の家)では、実際の室温やエアコンに使う電気量、さらに照明やお湯など、家全体で使うエネルギーコストを記録していますので、この夏7~8月の2ヶ月間の計測値を大公開します(住まいレポートもあわせてお読みください)。
まずは、室温をみてみましょう。グラフの折れ線グラフが1時間おきに計測された■外気温、■1階室温、■2階室温です。日中の■外気温が、朝方の25℃以下から午後の30℃以上まで大きくグラフが上下に変化している中、室内は■1階室温も■2階室温も27℃前後でほとんど一定なのがよくわかります。
つまりこの「鎌倉の家」は、トイレと洗面・浴室以外の、1~2階に吹き抜けを通した約42帖の大空間を、暑くも寒くもない快適な室温に、1階と2階に1台ずつあるルームエアコンだけで24時間保っているわけです。
そんなにエアコンを使ったら、さぞ電気代がたいへん!と思われるかもしれませんが、7月の電気料金はなんと給湯や炊事洗濯、照明など、普通に生活するための光熱費全てを併せても3,496円、8月は3,637円(うち基本料金1,404円)しかかかっていません(!)。
電気使用量 | 電気料金 | ガス料金 | 電気+ガス料金 | |
---|---|---|---|---|
7月 | 109kWh | 3,496円 | 1,279円 | 4,775円 |
8月 | 116kWh | 3,637円 | 1,424円 | 5,061円 |
「鎌倉の家」では、メインの給湯は電気でまかなっていますが、その他に、補助として使用しているガス給湯器のガス料金が7月は1,279円、8月は1,424円(うち基本料金745円)です。
したがって「鎌倉の家」の7月のエアコンを含めた光熱費は、4,775円、8月は5,061円(うち基本料金計2,149円)となります。これは、延床面積82.80㎡(25.04坪)の一戸建ての夏の光熱費としては、驚くべき金額ではないでしょうか。
では、エアコンだけの電気料金を計算してみましょう。
7月の電気料金の3,496円から基本料金1,404円を引いた2,092円を、使用した全体の電力量109kWhで割ると、基本料金を除いた1kWhあたりの電気代は19円/kWhとなります。エアコンで使った電力量は81kwhですから、81(kWh)× 19(円/kWh) = 1,539(円)が、エアコンが実際に使用した電気にかかる電気料金! なんとわずか1,539円ということになります。8月は、74(kWh)× 19(円/kWh) = 1,406(円)です。
電気使用量 | 基本料金を除いた電気料金 | 1kwhあたりの電気料金 | エアコン使用量 | エアコンのみの電気料金 | シミュレーションの想定電気料金 | |
---|---|---|---|---|---|---|
7月 | 109kWh | 2,092円 | 19円/kWh | 81kWh | 1,539円 | 5,443円 |
8月 | 116kWh | 2,233円 | 19円/kWh | 74kWh | 1,406円 | 7,260円 |
「+AIR」温熱シミュレーションの想定電気料金(7月:5,433円、8月:7,260円)の計算は、もっと単純に基本料金も含めた平均単価を28円/kWhとしていますので、同じ条件で計算しても、7月は81(kWh)×28(円/kWh)=2,268(円)、8月は74(kWh)×28(円/kWh)=2,072(円)となり、24坪と小ぶりな家で一人暮らし、という条件ではありますが、実際の方がかなり優秀な結果となります。
にわかには信じられないかもしれませんが、ここでエアコン使用量をみてみましょう。棒グラフ、■1階エアコン使用量、■2階エアコン使用量(右端の数字が消費電力量kWh)です。
「鎌倉の家」大使のみーさんには、「夏の間は少なくとも2階のエアコンはつけ放しにしておいてください」とお願いしていましたが、夜になって外気温が下がってくると、エアコンが効きすぎて「寒い」ので就寝時は切っていたそうです。それ以外は外出時もつけたままにしているので、夜間以外はずっとエアコンが電力を消費しているのがこのグラフから読み取れます(■2階エアコン使用量)。9月に入り、外気温が25℃より下がった日は、エアコンをほとんど使用していません。
エアコンはすごく電気を使う、というイメージが一般的にはあるかもしれませんが、省エネ型のエアコン(いま売られているものはほとんどそうです)は、効率が良い上に、「インバータ」が組み込まれていて、室温が設定温度に近いときにはモーターの回転を小さくコントロールしてくれるので、「鎌倉の家」のように、断熱性能が高い故に設定温度の27℃から大きく室温が外れない場合は、スイッチが入っていてもそれほど電気を使いません。
例えばグラフの7月11日と12日を見てみましょう。
この日は外気温がいずれも日中32.3℃まで上がっていますが、エアコンの消費電力(■2階エアコン使用量)は100Whを上回っていません。100Whとは100ワット電球の使用電力と同じということです。本当に暑い日でもエアコンは、100ワット電球の使用電力と同じ電力しか使わずに静か〜に淡々と働いてくれているわけです。このときのエアコンは、「部屋を冷やす」のではなく、「冷えた室温を維持する」ために働いていると考えた方が良いでしょう。つまり一度冷えた部屋(家)の室温は、断熱性能が高いと簡単には温まらないので、エアコンはそれほど激しく仕事をしなくて良いのです。
しかし、例えば、7月27日〜29日は、動画の撮影や、庭づくり工事などで人の出入りが多かったので、玄関ドアや窓の頻繁な開け閉めなどで室温が上がり、エアコンが一時的にフル稼働し、■1階エアコン使用量が日中の使用で150Wh、■2階エアコン使用量は700Wh前後(通常運転の7倍)まで電気を使っています。
そのほかの日でも、玄関や窓の開け閉めが多かった日や、朝から夕方まで特に暑い日などは、一時的にフル稼働している日がありますが、それでもあくまでほんの一時的です。一度一生懸命働いて部屋が冷えれば、あとは高い断熱性能のおかげで、エアコン自体はゆるゆると働いていれば室温を27℃前後に維持できている様子がよくわりますね。
ちなみに、7月21日〜23日は、みーさんが大阪のご実家に帰るため猫シッターさんに「鎌倉の家」に泊まっていただいた日とのことです。猫シッターさんがおそらく設定温度を下げたのでしょう、いつもより強く稼働し、そのため冷えすぎてスイッチを切ったり、入れたりされているようで、室温もいつもより上下し1、2階の温度差もできてしまっています。
このちょっとした差からも、「鎌倉の家」くらい断熱性能が高い家の場合、エアコンのスイッチをON/OFFするより、ずっと弱運転(自動運転)で室温を上げないことが、省エネでかつ「いつも快適」でいられる、エアコンつけっばなし生活のコツ、といえるでしょう。
今回のデータ検証で、夏期において「鎌倉の家」(窓の家)は、シミュレーション以上に少ないエネルギーで、家のどこにいても、いつでも快適温度であることが実証できました。
このデータ検証は、もちろん今後も継続し、冬期データをまたこのコラムにて報告いたします。
夏の「鎌倉の家」の、快適性と省エネ性をみなさんはどのように考えますか? みなさんのご自宅の光熱費と比較して、いかがでしたでしょうか? ぜひご意見をお聞かせください。
そして、今回のデータ検証でみなさんにお伝えしたいのは、これだけではありません。ほんのわずかしか電気を使っていない上に、実はそれ以上の電気を産んでいる、というお話を次回はしたいと思います。ご期待ください。