「間取りのない家」のすゝめ
無印良品の家づくり | 2026.8.3
無印良品が考える「これでいい」住まいとは、どのようなものなのか。
既存の住宅産業の枠組みにとらわれない家づくりとは、どのようなものなのか。
2004年の「木の家」発売から20余年が経った今、私たちが目指す「真に価値ある家づくり」について、改めて整理してみたいと思います。
いつでも、誰にでも、ずっと、快適な家であるために。
この連載コラムの第1回「家づくりはどうしてこんなに難しいのだろう。」では、15年後、30年後の自分も、そしてその先の住み継ぐ人も、ずっと快適に暮らせるお気に入りの家である続けること、の難しさについてお話ししました。
そしてそのために、無印良品の家は「世界に一つだけのあなたの家」でなく、もっと懐の広い、世代を超えてあらゆる暮らしを受け入れられる家づくりを目指している、とお伝えしました。
そのための、「一室空間」という考え方、そしてその「一室空間」を支える技術や設計手法について、これまでご紹介してきましたが、今回は、「木の家」の設計を例に、「永く使える、変えられる」家について、具体的に解説していきたいと思います。
スタータープラン:「間取りのない家」が全ての暮らしを支える。
図1は、これまでお話ししてきたように、高い耐震性能、断熱性能+パッシブ性能を十分に満たした「木の家」の「一室空間」の一例です。
どんな暮らしのかたちにも寄り添えるように、水回り、2階のフリースペース、さらに玄関土間まで余裕を持ったスペースを確保し、壁を極力排した空間構成で、いわば「間取りのない家」となっています。

このような、無印良品の家独特の「間取りのない家」を初めて見た方は、「こんな作りかけの家にどうやって暮らすの?」と感じるケースも多いかもしれません。
しかし、「間取りがない」からこそ、これから何十年、何世代にも渡って、あらゆる暮らしのかたちに寄り添っていけるのです。
家を建てるとき、当然ですが、多くの人は今の自分と、将来の自分にとって「理想の間取り」を考えます。
「子ども部屋はいくつ必要か」
「書斎は欲しいか」
「収納は足りるだろうか」
具体的なプランニングに入ると、何十年も先の暮らしまで想像しながら、一枚の平面図に答えを描こうとします。
しかし、家族構成はもちろん、働き方も変われば、趣味も変わる。
暮らしは、想像以上の振れ幅で変化していきます。
その変化の幅に全て収まるような間取りをつくることが、本当にできるのでしょうか?
そこで私たちは、「将来を予想する間取り」よりも、「将来に合わせて変えられる、間取りのない一室空間」をスタータープランとして提案しています。
(もちろんスタータープランは敷地形状や環境に合わせて自由に設計できます。)
無印良品の家は、完成した瞬間がゴールではなく、スタートであるという考え方です。
はじまりの家:親子で「川の字」になって寝られる家
例えば、夫婦+小さいお子さん1人で暮らす場合の、部屋の使い方を考えてみました。

子どもがまだ小さい頃は、家族みんなが一緒に寝起きできる十分なスペースを用意します。
三人で川の字になって眠る時間は、家族が過ごす期間の中でもほんのわずかしかありません。
だからこそ、その時間を思い切り楽しめるよう、大きな寝室が嬉しい場となります。
玄関の広い土間は、来客を迎えたり自転車を整備したりと、土間だからこそ多用途に使えるスペースとなり、暮らしにゆとりを生み出します。
収納も、各部屋に細かく分散させるのではなく、引き戸で囲ったファミリークロゼットに集約しました。
物の住所を一か所にまとめることで、家全体がすっきりと整い、生活の変化にも柔軟に対応できます。
2階もまた、一つの用途に決めません。
読書をしたり、ストレッチをしたり、仕事をしたり。
その時々の暮らしに合わせて自由に使える余白として残してあります。
第二フェーズ:プライバシーを尊重しながら、家族の気配を緩やかに感じる家
(「部屋」ではなく、「エリア」という考え方)
「はじまりの家」から数年後。
子どもが小学校へ入学すると、自分の居場所が欲しくなるかもしれません。
そこで収納家具でゆるやかに空間を分けて、「個室」ではなく、「個人のエリア」をつくりました。

家具を間仕切りにすることで、将来また元に戻すことも難しくありません。
そして、「個人のエリア」をつくるために、ファミリークロゼットも引き戸の位置を変えて移動しています。
「引き戸の位置を変えて移動」と簡単に言いましたが、実際、容易に引き戸の位置変更ができるように設計されているのです。
通常、建具は、最初に取り付けた場所でその一生を終えるのが普通です。しかし無印良品の家では、建具も「変えられる間仕切り」であるべき、と考えています。
そのために、天井高や建具の高さを、基本的にすべて統一しています。
さらに取り付けるためのレールに、ビスの付け替えだけで簡単に移動できるアルミレールを用意しています。
この二つの「仕掛け」により、空間を仕切ったり目線を切ったりするのに非常に重宝する引き戸を、腕に覚えのある人なら、DIYで位置を変更することもできるのです。
さて、このように引き戸を移動させて、ファミリークロゼットの位置変更をした結果、もともとその場所にあった書斎エリアは寝室に移動することにしました。
こちらも、ベッドエリアとは家具で仕切っていますが、どちらかの就寝後にデスクの灯りが気になる場合には、家具ではなく、引き戸とレールを追加するか、あるいはファブリックで仕切ることも可能です。
このように、壁で完全に閉じないために、ほどよい距離感が生まれ、お互いの気配を緩やかに感じることで「一つ屋根の下で暮らす」楽しさや意味が生まれるのではないでしょうか。
第三フェーズ〜その先:完全なる「個」が必要な時期の家
さらに年月が経つと、子どもたちは思春期を迎えます。
「受験勉強に集中したい」
「一人になれる場所が欲しい」
そんな時期には、初めて軽微な工事で間仕切り壁を設けます。
「壁を設ける」というと、大変な工事が必要と思われるかもしれませんが、図4のような個室の壁であれば、市販の材料とビスを使って短時間で完了できますし、再びビスを外して元に戻すことも可能です。
吹き抜けに面した部分には新たに引き戸を設置し、主寝室にも引き戸を加えて、お互いのプライバシーを尊重できる空間へと変えることも可能です。

ここで大切なのは、「壁をつくった」ことではありません。
必要になるその日まで、壁をつくらなかったことです。
使わない部屋を十年以上持ち続けるより、その時々の暮らしに合わせて必要な形へ変えていく。
そのほうが、家はずっと合理的で、無駄がありません。

そして、子どもたちが独立したあと。
二つに分かれていた子ども部屋は、再び一つの大きな空間へ戻すこともできます。
趣味の部屋になるかもしれません。
友人を招くライブラリーになるかもしれません。
夫婦それぞれの寝室エリアになるかもしれません。
固定された間取りは、暮らしを縛ってしまうかもしれません。
暮らしを間取りに合わせるのではなく、間取りが暮らしに寄り添って変化してくれる。
とても難しそうなことを、無印良品の家の一室空間は、いとも簡単に実現してくれます。
家は、完成した瞬間が終わりではありません。
住み続ける時間の中で少しずつ姿を変え、その家族だけの住まいへ育っていく。
そしていつでもリセットが可能。
それこそが、無印良品の家が考える「永く使える、変えられる家」なのです。

株式会社MUJI HOUSE元取締役商品開発部長。
「無印良品の家」の開発を統括し、ブランドの基盤を築く。
現在はフェローとして、開発者としての専門知見を生かし、豊かな暮らしのヒントや住まいの魅力を、コラムや動画を通じて住まい手へ発信している。



