UA値は快適性の指標か?断熱性能の先にあるもの

無印良品の家づくり | 2026.6.22

無印良品が考える「これでいい」住まいとは、どのようなものなのか。
既存の住宅産業の枠組みにとらわれない家づくりとは、どのようなものなのか。
2004年の「木の家」発売から20余年が経った今、私たちが目指す「真に価値ある家づくり」について、改めて整理してみたいと思います。

「UA値」は快適性の指標か?

以前のコラムで、無印良品の家が目指す「魔法瓶より暖かい家」の仕組みについてお話ししてきました。もちろん、そのベースとして高い断熱性能(UA値)を備えることは大前提です。
しかし、私たちが本当に求めているのは数値そのものではなく、「実際の暮らしの心地よさ」です。

実は、同じ断熱性能(UA値)の家でも、自然室温(エアコンなどの空調を使わない場合の室内温度)が同じになるとは限りません。
周辺建物との関係性、窓の向き・大きさや位置、窓に設置するウインドウトリートメントの種類・その開閉タイミング、さらにはその地域の気象条件によって、家が外部から受ける熱の影響は大きく変わるからです。

つまりUA値は、快適な家をつくるための数ある指標のひとつに過ぎません。

+AIRシミュレーションによる緻密な設計

開放的な空間で、エアコンに頼りすぎず、日だまりのような心地よさを実現する。この理想の暮らしを実際の住まいに落とし込むために、無印良品の家では、設計段階で全棟に対して「暖冷房負荷計算」をベースとした独自の「+AIR」室内環境シミュレーションを行っています。

「+AIR」のベースとなる「暖冷房負荷計算」とは、その家の断熱性能値を基に、「家のかたち」と「外部環境」を変数として、その家が一年を通して快適な室温を維持するために、どれだけの冷暖房エネルギーを必要とするかを割り出す手法です。

・家の断熱性能はどのくらいか。
・冬にはどれだけ太陽の熱を取り込めるのか。
・夏にはどれだけ日射の影響を受けるのか。
・外気温、天候は年間を通してどのように変化するのか。

「断熱性能」×「家のかたち」×「外部環境」という要素を緻密に積み上げ、最終的に快適温度を維持するのに必要なエネルギー量を算出します。

これまでお話ししてきたように、パッシブデザインにより、外部環境を上手に取り込むことで、このエアコンに頼る度合い(必要冷暖房エネルギー量)は小さくなります。
つまり、このシミュレーションが示す数値は、単に省エネ性の話でははありません。
いかに自然の恩恵を享受して、「日だまりで暖まるような、あるいは木陰で涼むような心地よさ」の割合を高められているか、を表しているのです。

だからこそ無印良品の家では、UA値という単純な性能値だけではなく、この「+AIR」室内環境シミュレーション(暖冷房負荷計算)と併用する設計手法にこだわっています。

トイレの室温まで確認します

もう一つ重要なことは、「+AIR」室内環境シミュレーションは、外部環境を盛り込んだ必要冷暖房エネルギーを出すだけでなく、設計段階で「家中の温度分布」まで確認することが可能、ということです。

例えば、エアコンを1、2階に1台ずつ設定した場合、

・吹き抜けの上と下で温度差ができていないか。
・エアコン非設置の廊下や化粧室の温度はどうか。

といった「家の中の温度ムラ」までも検証しながら、全体の必要冷暖房エネルギーを割り出すので、その家に必要なエアコンの能力や最適な台数、設置位置まで提案できる、というわけです。

エアコンはあくまで補助的な設備であり、建物自体の性能設計が最も重要です。しかし特に昨今の夏の暑さの中、家中を快適温度に保つには、建物とエアコンを一体で設計することは不可欠となっていると言って良いでしょう。

目に見えない「快適」を設計する

このように無印良品の家は、壁や柱で区切られた物理的な空間構成だけを設計しているのではありません。
空間そのものが持つ、明るさや開放感などの視覚による快適性に加えて、そこに満たされる空気の質までも計算し、人が心地よいと感じる環境そのものを設計しているのです。

図面上に見えるのは、壁や窓を描く線だけですが、その先にある「見えない温熱環境」まで設計すること。それは、誰もがこの家で永く快適に暮らせる未来を設計する、ということではないでしょうか。

それが無印良品の家が考える家づくりなのです。

川内 浩司
株式会社MUJI HOUSE元取締役商品開発部長。
「無印良品の家」の開発を統括し、ブランドの基盤を築く。
現在はフェローとして、開発者としての専門知見を生かし、豊かな暮らしのヒントや住まいの魅力を、コラムや動画を通じて住まい手へ発信している。