住み継がれる家には理由がある-魔法瓶より暖かい家であること(後編)
無印良品の家づくり | 2026.5.25
前回、開放的で窓の大きい MUJI HOUSE の「一室空間」は、一見冬寒く夏暑そうですが、実は窓の大きさを抑えて断熱性能を上げた「魔法瓶のような家」より、少ないエネルギーで家全体が暖かい、というお話をしました。
今回はその仕組みをもう少し具体的にご紹介したいと思います。
なぜ MUJI HOUSE が、「魔法瓶のような家」ではなく、「魔法瓶より暖かい家」を目指しているのか。その違いについてです。
まず前提として、「魔法瓶より暖かい家」であるためには、「魔法瓶のような家」と同等の断熱性能を持っていなければなりません。
MUJI HOUSE ではそのために「ダブル断熱」や「トリプルガラス」を採用しています。
壁の内と外に二重に断熱層を持たせ、熱が最も逃げやすい窓には、トリプルガラスとアルミと樹脂のハイブリッドフレームを採用。一室空間を丸ごと包み込む高断熱被膜をつくっています。


家の断熱性能は仕様だけでは決まらない
しかし、重要なのは、断熱の仕様を高めるだけでは不十分だということです。
なぜなら、家の断熱性能は、窓の大きさ・配置、建物のかたち、大きさによって、変わってくるからです。
窓を大きく取ると断熱性能が落ちるのはわかりやすいですが、例えば細長い家や、複雑な形をした家も、真四角な家と比べて、同じ床面積でも外壁面積(外気と接している面積)が多くなるので、同じ断熱仕様でも熱が逃げやすくなるのです。
このように、家の断熱性能は、「断熱仕様×家のかたち(設計)」で決まります。
ですから、それぞれの家の性能は、どんな断熱材を使っているか、だけではなく、どこにどのくらいの断熱材が使われているかを緻密に計算することでしか、わかりません。
その計算値が「UA値(外皮平均熱貫流率)」です。これは簡単に言えば、「家の熱の逃げにくさ」を表す数値で、この数値が小さいほど断熱性能が高いことを意味します。
実は2025年4月に、このUA値の計算はようやく建築基準法で義務化されました。
MUJI HOUSEでは、真に快適な家づくりに必須の指標であると考え、2011年からすでに全棟で計算を実施し、設計ノウハウを磨いてきました。
例えば、2025年に実際に建設したすべての無印良品の家のUA値の平均は0.39(W/㎡・K)でした。
これは、関東から九州の多くのエリアでの基準値0.87の倍以上の性能であり、寒冷地である北海道・東北の基準値0.46と比較しても高い水準です。
UA値が高いだけでは「魔法瓶より暖かい家」にはならない
現在住宅業界では、このUA値を競う傾向が強まっています。
しかし、断熱性能(UA値)が高いだけでは、「魔法瓶のような家」にはなれても、「魔法瓶より暖かい家」にはなりません。
魔法瓶は外気の影響を受けずに中の温度を維持しますが、最初に入れた水が冷たければ、どんなに外が暖かくなっても、水はずっと冷たいままです。
家も同じです。
「魔法瓶のように」窓を小さくして外部に対して閉じることで断熱性能値を上げた家は、魔法瓶同様、エアコンなどの暖房器具で暖めない限り、冬の朝の冷たい空気は太陽が照りつける昼間になっても冷たいままです。
「それって当たり前では?」と思われるかもしれませんが、無印良品の家は、エアコンの温風よりも、まず「陽だまり」の暖かさを、家に取り込みたいと考えています。
そのため、「木の家」や「陽の家」は、南側に大きな窓を設けています。
窓を大きくすると、いくらトリプルガラスでも、断熱性能値だけを考えれば不利になりますが、室内から逃げる熱より、太陽から獲得する熱の方が大きければ、家は暖かくなるのです。
冬の低い角度から差し込む太陽光は大きな熱エネルギーを持っています。
これを室内に取り込むことで、エアコンに頼らずとも空間が自然に暖まる。これが「魔法瓶より暖かい家」の正体です。

「結果に責任を持つ」パッシブデザイン
南側の大きな窓で冬の低くて暖かい陽の光を家中に導き入れ、夏の高くて強い日差しは、大きな軒で室内への侵入を防ぐ。「木の家」や「陽の家」のあの独特のデザインは、けして奇を衒っているわけではなく、外部環境をうまく生かすために生み出されたかたち=「パッシブデザイン」なのです。
その真骨頂は、エアコン負担を減らす省エネ効果だけでなく、なによりその心地よさにあります。
冬は陽だまりの、夏は風の抜ける木陰の心地よさをもたらしてくれる家になるのです。

そのために、断熱性能値を少し犠牲にしてでも、大きな窓を設けるのですが、そのさじ加減こそが設計の要です。
日中どのくらいの熱を獲得でき、陽が落ちてからどのくらい逃げていくのかを、経験や勘ではなく、きちんと計算しないと責任あるパッシブデザインはできないということです。
そのために、無印良品の家では、窓の向きや大きさ、隣家との関係、さらには建設地の気象データをもとに、冬にどれだけの太陽熱を取り込み、夏にどれだけ遮るかを精密に計算する、独自の温熱シミュレーション「+AIR」を全棟で実施しています。
その結果として、外部からの取得熱まで考慮した冷暖房エネルギー量や光熱費を算出し必要なエアコンの能力や台数までも含めた、「最適な暮らし方」を提案できるのです。
これらはすべて、エアコンだけに頼るのではなく、「建築の力」で快適性を実現するための取り組みです。
ところで、パッシブデザインよりも窓からの景色や抜け感を優先したい場合もあります。
その場合に重要なことは、その設計で必要エネルギーや自然室温がどのような状態になるかをきちんと把握した上で計画を進めることです。
住んでから「こんなに西陽が当たると思わなかった」「こんなに陽が当たらないと思わなかった」ということにならないように、それを把握した上で、西陽が当たる窓には遮熱カーテンや外部ブラインド、もしくは窓の前に植栽を施すなど、暮らし方を提案することも、私たちの責任のひとつです。

もうおわかりかと思いますが、「魔法瓶より暖かい家」とは外に対して「開いたり、閉じたりできる家」ということです。
魔法瓶のように閉じたままの家は、温熱的にも視覚的にも、真に快適な家にならない、と私たちは考えています。
単なる高性能住宅ではなく、陽だまりの暖かさや、風の抜ける心地よさまで含めて、家の性能だと考える。
MUJI HOUSEが目指しているのは、そんな住まいです。

株式会社MUJI HOUSE元取締役商品開発部長。
「無印良品の家」の開発を統括し、ブランドの基盤を築く。
現在はフェローとして、開発者としての専門知見を生かし、豊かな暮らしのヒントや住まいの魅力を、コラムや動画を通じて住まい手へ発信している。



