住み継がれる家には理由がある-魔法瓶より暖かい家であること(前編)
無印良品の家づくり | 2026.5.11
前回は、「住み継がれる家」として木造を選ぶ理由についてお話ししました。
そして、壁に頼らない一室空間を成立させるための木構造についても触れました。
前回のコラム>
一室空間でありながら、構造が安定していること。つまり安全性を達成した次に解決しなければならないのが、温熱環境=快適性です。
日本人は本質的にエコな暮らしが好き
一般的な住宅は、3LDKや4LDKといったように、部屋ごとに区切られています。
そして、人がいる部屋だけを暖めることで、効率よく快適性をつくろうとしています。
人が居る時だけその部屋を暖める、「間欠・部分空調」は、たしかにエネルギー消費の面で合理的です。
また、私たち日本人は、古くは部屋を暖める「暖房」ではなく、火鉢や炬燵のように、人が暖を採る「採暖」という、究極的に「エコ」な暮らし方をしてきたので、暖める対象が「人間」から「人間が居る部屋」にやや広がっただけの、受け入れやすい生活スタイルと言えるでしょう。
一方で、仕切りがない一室空間は、当然ですが温熱環境を部分的にコンロールできません。
好むと好まざるとに関わらず、常に家全体を暖めたり冷やしたりの「全館空調」が前提となります。
欧米では一般的なこの空調方式は、日本では、設備設置にも維持費にも大きな費用がかかる、「贅沢な手法」ということで、むしろ避けられてきました。
しかし、「間欠・部分空調」は、家の中に温度差が生じ、その温度差による不快感だけでなく、結露や健康被害につながるリスクがあることは、近年よく知られるところとなっています。
それでも。
「贅沢」より「簡素」であることを好む多くの日本人は、部屋を細かく仕切り、部分空調をする、という生活スタイルを選んでいるようです。
イギリス:暖炉のある家
日本:火鉢のある部屋
贅沢ではない全館空調
しかし、「全館空調」が「セントラル・ヒーティング」のような複雑で高価な空調設備を必要とせず、維持費(ランニングコスト)も部分空調と大きくは変わらない、としたらどうでしょうか?
一見、室温管理にコストがかかりそうな「一室空間」ですが、新しい技術と考え尽くされたデザインがあれば、逆に「一室空間」だからこそ、けして贅沢ではない、ごく自然体の全館空調が可能になります。
3LDKの部分空調には、仕切った各部屋にエアコンが必要ですから、部屋の数だけ、つまり最低4台は必要となります。廊下や化粧室・浴室もと考えるとさらに設置コストは嵩みます。
一方、一室空間は、空間がつながっているからこそ、空気も熱も家全体に行き渡る。
それは設備の数を増やすのではなく、「空間のあり方」で快適性をつくるという考え方です。

家の断熱の理想は魔法瓶?
ところで、夏季に高温多湿となる日本では、古くから吉田兼好が『徒然草』で「家のつくりは夏をむねとすべし」と説いた通り、通気性が最優先されてきました。そのため、かつての日本には家を「断熱する」という発想も技術もありませんでした。
先に述べたように、冬期に「暖房」ではなく「採暖」で過ごしてきたのも、それが理由です。
その文化・精神は綿々と受け継がれ、なんと昨年まで建築基準法には「断熱」に関する明確な義務規定が存在しなかったのです。(2025年4月よりようやく一定以上の断熱性能がない家は建築許可が下りなくなりました。)
もちろん、実際にはそのずっと前から真摯に家づくりに取り組むハウスメーカーや工務店では、高いレベルの断熱を施しています。そして、こうした断熱性に優れた家は、その保温・保冷力の高さから、しばしば「魔法瓶のような家」と表現されます。
無印良品の家も、「一室空間」の温熱環境を良好に保つために、2004年に「木の家」を発表した当初から、断熱性能には人一倍こだわっています。
しかし、断熱性能値を上げるために、住む人が五感で感じる快適性を犠牲にすることは、私たちの本意ではありません。
家の断熱性能を究極に上げようと思ったら、窓をなくして、文字通り密閉された「魔法瓶のような家」にするのが一番近道かもしれません。しかし、そのような家が快適でしょうか?
私たちはむしろ、「魔法瓶のような家」の閉じられた環境には否定的です。
一室空間がもたらす代表的な魅力は『間取りの可変性』ですが、私たちはそれ以上に、その『開放感』を大切に考えているからです。
そして、「一室空間」であることこそが、開放感という感覚的な気持ちよさだけでなく、「魔法瓶のような家」では到達できない物理的・温熱的な快適性をも手に入れられると考えています。
その具体的な仕組みについて、次回コラムでご紹介しましょう。

株式会社MUJI HOUSE元取締役商品開発部長。
「無印良品の家」の開発を統括し、ブランドの基盤を築く。
現在はフェローとして、開発者としての専門知見を生かし、豊かな暮らしのヒントや住まいの魅力を、コラムや動画を通じて住まい手へ発信している。



