第2回|無印良品は「世界でたった一つの家」はつくりません

無印良品の家づくり | 2026.4.13

どんな家で暮らすかを考えたとき、いくつかの選択肢があります。
その中で、最も自由度が高いのが新築の注文住宅でしょう。
だからこそ多くの人がこう考えます。
せっかく自由に建てるのだから、自分たちの理想をすべて形にしたい。
「世界でたった一つの、自分だけの家をつくろう」と。

それは自然な発想です。
大きな費用をかける以上、思い通りにしたいと考えるのは当然でしょう。

しかし、「自分だけのための家」とは、他の誰にも合わない家でもあります。
そして10年後には、当の自分にさえ合わなくなる可能性が高い。
家族構成も、暮らし方も、確実に変わっていくからです。

特定の個人の、さらに特定の時期に最適化された家は、その後の変化に追随できません。
結果として、まだ使えるにもかかわらず価値を失い、解体されていく。
これは個人にとっても、社会にとっても損失です。
家は社会のインフラでもあるべきと考えるならば、
「誰か一人への最適解」であることは、むしろ弱点になります。

では、どうすればよいのでしょうか。
無印良品の家がたどり着いた答えが、「一室空間」という考え方です。

一般的な住宅は、3LDKのように部屋数で価値が語られます。
用途ごとに部屋を分け、効率よく暮らすための仕組みです。
しかしそれは同時に、暮らし方を固定することでもあります。

子ども部屋は、必要な期間が限られています。
夫婦の寝室のあり方も、年齢や状況によって変わっていきます。
用途を固定された部屋は、役割を終えた瞬間に余剰となり、「使いにくい部屋」になってしまいます。

一方で、一室空間は発想がまったく異なります。
大きなひとつながりの空間をつくり、家具や建具でゆるやかに区切る。
用途は決めない。暮らしに合わせて更新していく。
子どもが小さいうちは広く使い、成長に応じて間仕切りを加える。独立すれば再び開放し、別の用途に使う。

つまり一室空間は、使いながら育てていくものになります。
それは一見すると「未完成」に見えるかもしれません。
しかしそれは、「変化を受け入れる完成形」なのです。

完成度の高い間取りは、その瞬間の満足度は高くても、時間とともに、不満へと反転することもあります。
一方で一室空間は、常に更新される余地を持ち続ける。
家を「建てる時の個別最適解」としてつくるのか、それとも「建てた後に更新され続ける全体最適解」としてつくるのか。
無印良品の家は、後者を選びました。
それは個性を否定することではありません。
むしろ、暮らしの中で自由に個性を描くための条件を整えるという考え方です。
最初から完成させすぎない。変えられる余地を残しておく。
そのほうが、結果として長く使われ、受け継がれていく家になります。
3LDKか、一室空間か。
それは単なる間取りの違いではなく、思想の違いです。
家を「個人が消費するもの」と捉えるか、「社会に受け継がれていくもの」と捉えるか。
その分岐点になります。

一室空間の価値は、それだけではありません。
日本の住宅が抱える、もうひとつの課題——「広さの制約」に対する解答でもあります。
限られた面積の中で空間を細かく分けると、光や風は行き届きにくくなり、実際以上に狭く感じられます。
一室空間では、間仕切りを最小限に抑えることで、視線が抜けます。
光は奥まで届き、風は通り抜ける。
同じ面積でも、体感的な広がりは大きく変わります。
空間に余白があることで、将来にわたる可変の余地を持つだけでなく、心理的なゆとりも生むのです。

実はこの一室空間の原型は、かつての日本家屋にあります。
ちゃぶ台を置けば食事の場に、布団を敷けば寝室に。そして間仕切りの襖を外せば、大きな一室として使うこともできる。限られた空間を多目的に使いこなせる仕掛けは、一方で風通しのよい開放的な空間ももたらしていたのです。
そうした住まいは、世代を超えて、永く住み継がれていました。

京都・詩仙堂

ではなぜ、そんな魅力的な日本家屋が現代に引き継がれなかったのでしょうか。
理由はいくつかありますが、大きくは戦後の暮らしの急速な西洋化と、新たに求められるようになった耐震・温熱性能が、あの開放的な空間構成では成立しにくかったことにあります。

そこで、「一室空間」という発想を、改めて現代に提示するためには、住宅に新しい技術を導入する必要がありました。
次回は、「無印良品の家」が、「一室空間」を、どのような技術でどのように成り立たせているのか、解説します。

川内 浩司
株式会社MUJI HOUSE元取締役商品開発部長。
「無印良品の家」の開発を統括し、ブランドの基盤を築く。
現在はフェローとして、開発者としての専門知見を生かし、豊かな暮らしのヒントや住まいの魅力を、コラムや動画を通じて住まい手へ発信している。