日差しに依存しない設計。「窓の家」が持つ、もう一つのパッシブデザイン
無印良品の家づくり | 2026.6.8
無印良品が考える「これでいい」住まいとは、どのようなものなのか。
既存の住宅産業の枠組みにとらわれない家づくりとは、どのようなものなのか。
2004年の「木の家」発売から20余年が経った今、私たちが目指す「真に価値ある家づくり」について、改めて整理してみたいと思います。
前回のコラムでは、無印良品の家の「一室空間」は、高い断熱性能と、冬の太陽熱を取り込むパッシブデザインによって、「魔法瓶より暖かい家」であることをお話ししました。
では、「窓の家」はどうでしょうか。
「木の家」や「陽の家」と比べると、窓は決して大きくなく、深い庇もありません。
一見すると、これまでお話ししたようなパッシブデザインとは言えないのではないか、と思われるかもしれません

木の家(左)と窓の家(右)
しかし、パッシブデザインとは、その土地の気候、周辺環境、敷地条件に合わせて、最適な方法を選択していく設計思想ですから、気候の異なる地域では、パッシブデザインの「かたち」も変わってくることになります。
日本の多くの地域では、夏は高温多湿で、冬は低温乾燥で晴天率が高い。この気候に合わせて、日本の伝統的な住まいには、自然環境と折り合いをつけながら快適に暮らす知恵が詰まっています。
夏の強い日射を遮る深い軒と、通気が取りやすく、かつ冬の暖かい陽射しを取り入れられる南側の掃き出し窓。これらは古くから日本の住宅に当たり前のように設えられて来ました。
「木の家」や「陽の家」は、その思想を現代的に引き継いだかたちなのです。
冬の陽射しが期待できない地域の知恵
一方で、例えば北ヨーロッパでは事情が異なります。
冬場は極寒で晴天率が低いので、日本の多くの地域のように、陽だまりの暖かさを期待できません。
そのため、暖炉などで室内をしっかり暖め、その熱を外へ逃がさないことが重要でした。
つまり、「熱を取り込む」よりも、「熱を逃がさない」。
そのために窓を小さくする、という知恵が発達していったのです。
日本でも寒冷地や日本海側など、冬場の晴天率がそれほど高くない地域があります。または、
南側に大きな建物がある、敷地条件で大きな窓を設けられないなど、日射取得が難しい場合もあるでしょう。
「窓の家」は、そういった環境に比較的適した、ヨーロッパ型のパッシブデザイン、と言えるわけです。
イギリス・コッツウォルズ地方の伝統的な家
窓の家
窓の家のデザインの秘密
ですから、「窓の家」における窓は、太陽熱を取り込むことが主目的ではありません。
外の景色をいかに切り取るか、開けた時の空気の流れをどのように導き入れるか。これらを考えながら、自由に好きな大きさで、好きな場所に窓を開けていくのが、窓の家の設計手法です。
見たい景色を取り込み、見たくない景色を遮る。
ここでの窓は、外部と内部をつなぐ「ピクチャーウインドウ」として機能します。
空だけを切り取る窓。
お気に入りの庭を取り込む窓。
隣家を避けながら光を導く窓。

通常、窓を自由に配置すると、家全体のデザインは破綻しやすいのですが、「窓の家」は、あらかじめいろいろな大きさの窓がランダムに並ぶことを想定して全体のフォルムが設計されています。そのため、ランダムな窓がむしろ「可愛らしさ」を生むように仕組まれているのです。


日差しを期待せずに設計できるメリット
南側からの日射取得に強く依存しないということは、窓の位置・大きさの自由度だけでなく、プランニングや建物配置の自由度にもつながります。
例えば、敷地にあまり余裕がない場合でも、無理に南側にスペースをつくるのではなく、敷地に対してあえて「振って(斜めに)」配置してみる。そうすることで、坪庭的な場を複数つくり、それぞれの窓から異なる景色を楽しむ、というような選択肢も生まれます。


洗濯物はどこに干す?
窓をランダムに配置しても全体のデザインが破綻しないもう一つの仕掛けとして、「窓の家」にはバルコニーを設定していません。
庭やバルコニーに洗濯物を干す、という日本の習慣も、最近の「共働き」というライフスタイルと相まって、必ずしも常識ではなくなりつつあることも背景にあります。
例えば図のように、脱衣室・洗濯機と繋げて「室内干し」空間を設けることで、人目や時間を気にせずに干せて、家事動線も合理的に収まるのではないでしょうか。


最終的には自分の暮らしに合うかどうか
さて、このように解説すると、
「日当たりが良い土地なら木の家」
「日当たりが期待できない土地なら窓の家」
という理屈になってしまいそうです。
しかし、家はあくまで「暮らしの器」です。
どんな暮らしをしていきたいか。
そして、どんな空間を心地よいと感じるか。
選択基準は、そこが主眼で良いはずです。
なぜなら、無印良品の家なら、どれを選んでも、十分に快適な室内環境を実現できる性能が備わっているからです。さらに、その性能を独自の温熱シミュレーション「+AIR」で数値化して、建てる場所の気象条件までも反映させて事前に確認することができます。
もちろん同じ敷地条件で「木の家」と「窓の家」をそれぞれ設計して、「+AIR」でシミュレーションすると、年間の光熱費に多少の差は出るはずです。それはあくまで冷暖房費の僅かな違いであり、快適性に差がでるわけではありません。
住んでみて、後から「こんなはずではなかった」ということにならないように、その差を認識した上で、あとは「好み」で選ぶことが大事なのです。
「木の家」と「窓の家」。
どちらをどのように建てて、暮らすか。
どうぞ、楽しく悩んでください(笑)。

株式会社MUJI HOUSE元取締役商品開発部長。
「無印良品の家」の開発を統括し、ブランドの基盤を築く。
現在はフェローとして、開発者としての専門知見を生かし、豊かな暮らしのヒントや住まいの魅力を、コラムや動画を通じて住まい手へ発信している。



