リビングコストをゼロにする住まい方|対談後編

MUJI VILLAGE プロジェクト | 2021.11.26

まちづくりやエリアリノベーションで引く手あまたのYADOKARI。「タイニーハウス」からスタートしたYADOKARIの誕生から、これまでの取り組み、そしてこれからについて、MUJI HOUSEの川内浩司がうかがいました。

MUJI VILLAGE プロジェクトの概要はこちら

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YADOKARIがひらく「新しい住まいのかたち」
前編はこちら

転機となった『BETTARA STAND 日本橋』

川内
YADOKARIのターニングポイントとして世の中に受け入れられ始めたのは、いつごろですか?
さわだ
大きな転機となったのは、三井不動産さんからのお声がけで、YADOKARIとして初めてリアルで場所のプロデュースと運営をやった2018年の『BETTARA STAND 日本橋』ですね。「BETTARA」というのは、立地が宝田恵比寿神社横ということで、神社を象徴に年一回開催される地域の「べったら市」にあやかってつけた名前です。

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さわだ
それまでに小屋の企画販売や小屋展といったイベント経験はありましたが、基本的に僕らはWeb屋さんで、タイニーハウスなどの情報を発信するWebメディアの運営が中心。外部のライターさんたちの力を借りて僕らふたりだけでやっていたところから、10人くらい社員やアルバイトスタッフを増やして取り組んだ初めてのプロジェクトでした。

日本橋にある三井不動産の管理地の有効活用策として、150平米のもと駐車場で暫定期間約2年。施設はすぐ撤去できる前提で収益化してくれというもので、そこに僕らは不動産でもないし、建築物でも工作物でもないという可動式屋根付きのタイニーハウスをふたつ置いて、ウッドデッキを広くとってイベントと飲食スペースというかたちで運営しました。

人通りの少ないエリアで交流人口を増やすというのも課題だったので、目指して来ていただける場所になるようにイベントをやって、集まった人たちにコミュニケーションしてもらえるように地域の方々も巻き込みながら、気づいたら年間400本くらいイベントをやっていました。

ウエスギ
初めてタイヤ付きのタイニーハウスに挑戦したプロジェクトでもありましたね。駐車場にただ車が二台停まっていて、建築確認申請も防火管理者も不要。それが施設として成り立っているというものでした。
さわだ
これを三井不動産がやったということが革命的なことで、三井不動産の担当部長さんとそのチームがものすごいイケてる熱い方々で、僕たちの言葉をぜんぶ翻訳して会社に通してくれて実現できたことで、いまでも感謝しています。

高架下のデッドスペースをプロデュース

川内
その次の展開が、本日お話をうかがっているこの場所『Tinys Yokohama Hinodecho』(以下、タイニーズ)ですか?

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さわだ
そうです。ここは京浜急行電鉄さんの鉄道高架下で、面白いことをやって人を呼んでほしいというお題をいただいて取り組んだものです。

ここも課題がある街で、もともとは風俗エリアで12年ほど前に一掃作戦をしてアートの街にしたんだけど、毎日アート展があるわけでもないので人が集まらなくなってしまった。次の起爆剤の一環として何でもいいので面白いことをやってほしいと。

そこで、以前から温めていた宿泊施設をやりたいという提案をさせていただきました。僕には、タイニーハウスというものを長時間体験してほしいという思いがあって、泊まってもらって一日を暮らすみたいなこと、「住む」というのに近いこととして宿泊施設を絶対にやりたいと思っていたんです。行政とも長い時間をかけて協議をしながら宿泊許可をいただいて、実現しました。

ウエスギ
今年でオープンから4年目になります。ここも日本橋と同様にタイヤ付きで、ISOコンテナからなるラーメン構造の移動式タイニーハウス6台にホテル、カフェバー、テナントが入った複合施設です。

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ウエスギ
車なんだけど旅館業の許可がとれている事例としても注目されました。実際に牽引可能で、この施設の納品時には新木場の工場から高速道路で引っ張ってきて、最後はバックでいまある場所に入れました。

タイニーハウスの内部は、道路法による高さ制限はありますが、それほど圧迫感は感じないつくりになっているかと思います。もちろんエアコンもついています。ここは3棟ある宿泊施設のひとつで「Silence」という名前です。ほかに「Wonder」「Discovery」があります。

さわだ
宿泊施設はレイアウトはすべて同じですが、コンセプトとインテリアをそれぞれ変えています。「Silence」は、ちょっと暗い雰囲気にして瞑想できるようなスペースというテーマです。あとのふたつは、家族向け、女子会向けといったところを意識したテーマになっています。

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さわだ
宿泊されるお客様は、観光で来られた方や、一棟貸し切りで女子会をされる方、あとは近くに飲み歩きが楽しい野毛という街があるんですが、野毛飲みでハシゴ酒された方が三次会をしに泊まりに来てくれたりということもあります。

それからカフェエリア。屋根はありませんが、高架下なので悪天候時にも困りません。現在は休業していますが、春になってお客様が戻ってきたら再開する予定です。

YADOKARIの次なる仕掛け『空き家ゲートウェイ』

川内
さらに全国の空き家活用を目指した『空き家ゲートウェイ』というものをYADOKARIさんは始めていて、すごく面白いな、と思っています。このほか、今後の新たな展開予定があればご紹介いただけますか。
さわだ
ありがとうございます。『空き家ゲートウェイ』は、あきやカンパニーさんとの協業で展開しているもので、「売りたい空き家所有者」と「使いたい利用者」をマッチングさせるサービスです。100均物件と名付けて、100円か100万円の物件しか掲載していません。利用希望者がどういう使い方をしたいのか所有者にプレゼンテーションをして、所有者が良いと思う提案を選んで空き家を譲るというしくみです。

新たな取り組みとしては、タイニーズよりも小さいサイズで軽量化した牽引しやすいタイプのタイニーハウスを、ディスプレイ店舗用に開発中です。牽引には重さ制限があるのでタイニーズは専門の業者さんにお願いしましたが、重量750kg以下であれば牽引免許がなくても普通自動車免許があれば一般の車両で牽引することが可能です。

とはいえコンテナを牽引して移動するというのはそれなりに大変なことなので、運転して空間ごと移動できるバンに着目しまして、1970年代のタウンエースなど古いバンを仕入れて改修してキャンピングカーにしたり、1960年代のキャンピングカーを動くホテル仕様にしようということも行っています。新たな協業プロジェクトを、近日中にリリース予定です。

YADOKARI と MUJI HOUSEの交差点

川内
YADOKARIの歩みとMUJI HOUSEを重ねてみたいと思いますが、『無印良品の家』は2004年に初めて『木の家』を発売しました。

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川内
反響はすごくありましたが、誰も買ってくれなくて。30坪ほどの間仕切りのない一室空間でどうやって暮らすの? という声を受けてもうちょっと暮しをイメージしやすいものをということで2007年に『窓の家』を発売しました。ちょうどおふたりが出会ったころですね。

2009年くらいからは『木の家』も売れるようになってきたんですが、タイミングとしてぜいたくな家ではなく、無駄がなく自分流に使い勝手の良い家がやっと売れるようになってきた、と自分たちの先見性に少し酔ったりしてました(笑)。

つまり、MUJI HOUSEとしては、相当ミニマムだし、無駄のないストイックな家だと思いながらやっていたんですが、YADOKARIのタイニーハウスをいろいろ見始めたら、甘いなと思ったんですよね。まだまだミニマムには上があるなと。

その後、2019年に出したのが平屋建ての『陽の家』です。

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川内
階段も廊下もない家ですが、4人家族で70平米が売れ筋です。そうやって受け入れてもらえるようになったことがすごく嬉しいし、その路線をつきつめていきながら、小屋以上家未満といったものをやっていきたいと考えています。
ウエスギ
僕自身は、MUJIが大好きで、高校時代からおっかけをしていたんです。2004年の『木の家』が出たときも、大学生ながらセミナーに行ったりしていました。
川内
ああ、ありがとうございます(笑)
ウエスギ
MUJIの「『これがいい』ではなく『これでいい』」というフレーズが、YADOKARIのイズム、暮らしの美意識と重なるところがあり、それをYADOKARIとして突き詰めていったら僕らのタイミングではタイニーハウスだった。

僕自身、住まいでタイニーハウスを実践して、タイニーハウスに家族で住むには、それぞれが息抜きできるような、たとえばいま話をしているデッキのようなオープンスペースや移動できるということが必要だなということを実感しています。

僕らのタイニーハウスも本質的には、これが動いた暮らしをどうつくっていくかというところにあって、近い将来でいうと、自動運転のテクノロジーが重なってくると、僕らのタイニーハウスのようなサテライトモビリティは、母屋にドッキングするようなライフスタイルになってくると思っています。『陽の家』を見たときも、「平屋」+「サテライトモビリティ」というのを誰か発表してくれないかななんて、さわだと話をしていました。

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リビングコストをゼロにする住まい方とは

川内
最後に、さらに先を見据えた話をしてみたいと思います。先ほどの『空き家ゲートウェイ』は、売る人が売っておしまいではなくて、売った後のことまで気にしているのが面白いなと思っていますが、空き家の老朽化が進んでいれば更地にしてサテライトモビリティで行ってそこで暮らすとか、何台かそこに集まってというのもありなんじゃないか、と思うのですがどうなんでしょう? 売り主にとっては愛着のある家が壊されてしまうのだけど、誰も居なくなってしまった場に人が帰ってきて活用されていく、という未来を示せれば、売り主にも納得していただけるのではないかと。

たとえば、先ほども話があったように母屋とタイニーハウスがドッキングするかたち。僕も似たようなことを考えていたところで、母屋をピロティ型にして一階部分に可動式のタイニーハウスでドッキングする。水まわりなどのインフラは母屋のものを利用する。そういったものがいろんなところにあれば、安くいろんなところに行けるようになりますよね。

さわだ
使ってないときは貸し出して、とかもできますね。
ウエスギ
ちょうど過渡期ですよね。可動産と不動産の曖昧なラインが、テレワークが加速したことで、僕ら的には前向きになってきた。
さわだ
移住者も増えていますし、二拠点居住ということもパソコン一台あればできるリアルなものになってきました。

いま、新しい別荘のかたちというのを探っているところで、今日見ていただいたバンもそうですし、タイニーハウスもそうですし、そういうのを選べるようなマッチングサイトを考えています。

それがいずれ、面白い別荘に特化していって、別荘を使っていないときは貸し出すことができて物件を収益化できる。それで家賃や購入費を相殺できて、リビングコストゼロということをやっていこうかなと。

逆に、住んでくれる人からという発想では、たとえば住む人が映像制作ができる人ならその人にPR映像をつくってもらうといった仕事をしてもらって、その仕事と交換で住宅やオフィスの家賃をゼロにしていくみたいなものを、いろいろと提案しているところです。

川内
高い住宅ローンを組んで、何千万かけてマンションを買って、いきなりここに住むというのは考えてみれば博打ですよね。
ウエスギ
自然災害も多いですしね。怖いですよね。
川内
動ける家というのはいいですよね。逃げられるしね。
ただコンテナでもトレーラーハウスでも、どこにでも置いてよい、というわけではない。そういう場所を提供しあうコミュニティがあったら最強ですよね。

最後になりましたが、YADOKARIさんは仲間たちと小屋をDIYしたり、集客してコミュニティを盛り上げたりといったことも得意だと思っているので、ぜひそういった人を巻き込んで一緒に盛り上がっていくといったところでも、MUJI HOUSEとご一緒いただけることがあればうれしく思います。

さわだ・ウエスギ
ぜひぜひ!
川内
本日は、ありがとうございました。