空き家がつなぐ、人と地域と過去・未来

MUJI VILLAGE プロジェクト | 2022.2.25

MUJI HOUSEでは、それぞれの新しい「感じ良いくらし」の実現を目指してMUJI VILLAGE プロジェクトの旅を続けています。

今回は、全国で広がる空き家問題に、住まう人のいなくなった空き家を、次の担い手につないでいくという新たな価値創造で応えようとしている人たちを訪ねます。

空き家の売り手と、買い手、そしてそのつなぎ手たち。どのようにしてバトンのリレーは始まったのか。どんな未来が待っているのか。MUJI HOUSEの川内浩司が、空き家をめぐる挑戦の先人に、お話をうかがいました。

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オンラインでお話をうかがった。

湯本 正博(後ほど登場)
空き家の売り手

ウルマカズノリ(写真左上)
空き家の買い手

大原 弦太(写真左下)
空き家のつなぎ手
長野県中野市 都市計画課 主事

川口 直人(写真右下)
空き家のつなぎ手
YADOKARI/空き家ゲートウェイ プロデューサー

川内 浩司(写真右上)
株式会社MUJI HOUSE取締役/「無印良品の家」住空間事業部開発部長/一級建築士

今回のお話の舞台「信州中野の空き家」

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長野県中野市の高社山の麓にある空き家。もとオーナーが子ども時代を過ごした思い出の詰まった家だが、人が住まなくなって十数年の時が流れた。季節になれば、敷地内のあんず、柿などの果樹が実を結ぶ。

中野市と連携協定を結んだ空き家活用プラットフォーム『空き家ゲートウェイ』を通して100円で販売され、このたび新たなオーナーに受け継がれた。

つなぎ手の思い「空き家に新たな価値を」

川内
『空き家ゲートウェイ』について、各地で広がる空き家問題を、良いかたちで解決に導けるアイデアだと、かねてより注目させていただいていました。

MUJI HOUSEでは、新しいかたち・場所で「集まって住む」「つながって住む」ことで、より豊かに暮らすことができ、かつ“場”の価値が上がっていく状況を創出することを目指したMUJI VILLAGE プロジェクトを進めています。

MUJI VILLAGE プロジェクトの概要はこちら >

川内
このMUJI VILLAGEにもつながる話として、ぜひ今回の取り組みについて詳しくうかがいたいと思っています。

まずは、『空き家ゲートウェイ』について教えていただけますか。
川口さん
『空き家ゲートウェイ』は、日本中の空き家を「100均物件」として掲載し、売り手と買い手をマッチングするプラットフォームです。

YADOKARI株式会社と株式会社あきやカンパニーの共同運営で、2019年7月にスタートしました。

掲載している空き家物件の価格は、100円もしくは100万円の「100均物件」。

購入希望者が、その空き家をどう使いたいのか売主にアピールし、売主は希望者のなかから空き家を託せると思った相手を選んで売却するしくみです。

project220225_03空き家ゲートウェイ

川口さん
空き家バンクにも登録できない、不動産屋さんでも扱ってもらえないといった流通の難しい空き家にフォーカスし、ある人にとって悩みの種である空き家が、別の誰かにとっては使い道のあるものになるという価値創造を目指しています。

つなぎ手の思い「『空き家ゲートウェイ』なら流通させられる」

川内
中野市は『空き家ゲートウェイ』と連携協定を結んでいますが、どういった経緯で協定が実現したのですか。
大原さん
空き家の流通促進を目的に、連携協定を結びました。

私が中野市の空き家担当として情報収集をしているなかで『空き家ゲートウェイ』を見つけて、素晴らしい取り組みだと感動し、サイトの問い合わせフォームから問い合わせをさせていただいたのが始まりです。

中野市では、空き家バンクへの空き家登録も進めていますが、状態が悪いからと断らざるをえなかった物件も多くあります。

そのような状態の悪い物件でも、『空き家ゲートウェイ』なら所有者の掲載希望があれば、掲載できます。

現在、これまでお断りしてきた空き家の所有者さんに、『空き家ゲートウェイ』なら掲載させてもらえますよと声がけを進めているところで、今回の物件もそのなかのひとつでした。

十数年に渡って空き家だった物件で、所有者の湯本さんはここ7年間は売ろうと頑張ってこられたんですが扱ってくれる業者さんがおらず、あきらめかけていました。

倒壊してまわりに迷惑をかけたくないので費用を捻出して解体するかという話も出ていた状況で、今回の100均マッチングでは、地域のためになるかたちがいいよねと100円物件としてすんなり出してくれました。

project220225_04解体の話も出ていた今回の物件

大原さん
取引については、私たちに一任いただいていましたので、購入申し込み者の方々の思いを私も直接うかがいました。

『空き家ゲートウェイ』に掲載されてから1ヶ月の間になんと35名の方から反応があり、そのうち4名の方が最終選考に残りましたが、オンラインの画面越しにすごく熱量を感じたのは、最終的に買い手となったウルマさんだったなあと印象に残っています。

100均マッチングをやる上で、中野市として事業者向けの空き家活用補助金を新設しました。600万円の補助がつくので、ご活用いただいて素敵な土地にしていただければと思います。

買い手の思い「地域のみなさんとワクワクするようなことを」

川内
物件を購入されたウルマさんは、この空き家をどうしたいと思っていらっしゃいますか。

ウルマさん(以下、敬称略)
この物件は、自分自身の住宅として、そして1階部分は、地域の情報発信やコミュニティを築けるようなカフェにしたいと計画しています。地域の方はもちろん、高社山への登山客や観光客が気軽に立ち寄れるような場です。

こぢんまりした宿泊棟も備えたかたちで、この地区をみなさんに楽しんでいただけるような小さな拠点にできればと考えています。

project220225_05古牧橋付近から見る高社山

ウルマ
私には、長年あたためてきた夢があります。

それは、自然ゆたかなところで自分らしい生活をしたい、地域のみなさんと一緒に地域も盛り上げられるようなワクワクすることをしたいということです。

この夢を実現するために、空き家バンクや不動産会社などで長野県を中心に物件を探していたところ、それまでもよく拝見していたYADOKARIさんのサイトから今回の物件に出会いました。

カフェのイメージは、物件がもともと持っている風情を生かした古民家風カフェです。

ぶどう、りんご、きのこといった中野市の特産品をつかったローカルファーストでできるようなメニュー構成にできればと思っています。

ローカルファーストという意味では、物件の改築自体も地元の工務店さんと計画を進めているところです。
川内
いつごろまでにといった目途は、あるのでしょうか。
ウルマ
私自身は東京生まれで、現在は神奈川県在住ですが、子どものころから親に連れられてよく遊びにきていた北信地方に思い入れがあってこの土地を選びました。

私としては中野市にすぐ住みたいという思いなので、まずはできるだけはやく物件を住める状態にするというのが一番の目標です。それと同時に、カフェを開業できるようにもしたいです。

できれば年内、次の雪が降る前にはなんとかかたちにしたいと考えています。図面をつくりながら今年の雪解けを待って、具体的に着工する計画です。
川内
ご家族の反対とかは、なかったのでしょうか?
ウルマ
妻も東京出身ですが、やりたいことがあるならやればと言ってくれています。子どもは、もうすぐ成人です。

私自身は50代ですが、これからのライフスタイルについて、この物件のための資金繰りなども含めて人生設計を考えていきたいと思っています。
川内
空き家を100円で購入して、自分でリノベーションして使おうとするような方というのは、30代前後の若者をイメージしていたのですけれども、お話をうかがっていると50代以上でもありうる話ですね。
ウルマ
ありうると思いますよ。若者だけの特権じゃないと思っています。無理して頑張らなくても、できることを楽しく地域のみなさんとやるということで良いのではないでしょうか。

成功することしか頭にありません

川内
売り手の湯本さんとは、会われましたか。
ウルマ
購入後に実際にお会いして、お話をさせていただきました。人間味のある素晴らしい方でした。

子どものころ住まわれていた物件ということで、慣れ親しんだ場所をうまく引き継ぐかたちで未来につなげたいです。これまでの思い出を大切にしていきたいと思っています。
川内
湯本さんは思い出のある家を、ウルマさんに託されたわけですが、プレッシャーを感じることはありませんか。上手くいかなかったら、申し訳ないといったような。
ウルマ
正直、失敗することを考えていません。

成功させるということしか頭にありませんので、今からとても楽しみにしています。今日も工務店さんと打ち合わせをしていて、夢が膨らんでいます。
川内
失敗することを考えていない、というのは感動しますね。ウルマさん、輝いて見えます。

売り手の思い「美味しい干し柿を、受け継いでくれたなら」

川内
売り手である湯本さんは、手放すこととなった家へは、どういった思いがありますか。100均物件ということで、実際に100円を受け取られたのでしょうか。

project220225_06売り手の湯本さん(写真右)。温かなお人柄が、画面からも伝わってくる

湯本さん
兄姉たちに囲まれて末っ子として育ち、働き始めるまで暮らした家です。最後は、母がひとりで住んでいましたが、十数年前から空き家となっていました。ときどき風を通しに行くくらいで、ずっとそのままになっていました。

今回、購入いただいて100円を受け取りました。でも、お金の問題じゃないです。

この地域は、過疎化が進んでいて、空き家になるとますます人の気配がなくなってしまいます。

空き家の草刈りをしていて、ふと見上げたら、すぐそこにカモシカがいたなんてこともありました。あのときは、びっくりしました。

ウルマさんのカフェの計画を見させていただいて、人が集まる場所をつくってもらえるのはいいなあと思いました。完成したら行ってみたいです。

庭には、あんずや柿、梅、ブルーベリーの樹があって実をつけます。活用してもらえたらうれしいです。

project220225_07果樹が実をつける

湯本さん
庭の柿の実でつくった干し柿は、どんな和菓子よりも美味しいのですよ。無農薬で栽培した柿の実で手づくりした、添加物なしの自然の干し柿です。

ぜひ、干し柿をカフェで出していただきたいなあ。教えてあげたい。そのときは、関与しにいくかな(笑)
川内
美味しそうですねえ。いただいてみたいです。

カフェが完成したら、私たちもぜひお邪魔したいです。そしてまた記事としてご紹介させてください。

今回のような取り組みは、3人、5人と仲間が集まったら加速度的に一気に盛り上がるんじゃないかと思います。

誰もがウルマさんのように強い意志を持っているわけではないけれど、新しい暮らしのかたちを望んでいる人たちはいる。

私たちMUJI HOUSEが大きなしくみをつくり、人が使ってその場が充実していく。MUJI VILLAGEプロジェクトにもつながる流れとして、今回は大きな可能性を感じました。

みなさん貴重なお時間を割いていただき、ありがとうございました。

※物件および中野市の写真は、長野県中野市提供