インタビュー「無印良品の家は小屋に似ている」(前編)

コラム | 2018.1.16

私たちYADOKARIがタイニーハウスや小屋をつくるにあたって、「無印良品の家」がいつも念頭にありました。外観や内装はもちろん、あえて構造で部屋を仕切らないデザインは、YADOKARIが大事にするミニマルな暮らしが具現化されています。当初は生活雑貨や家具をつくっていた「無印良品」がなぜ家をつくるに至ったのか、そしてどんなコンセプトでつくってきたのか。そこに、私たちが未来の住まい方を描くための重要な手がかりがあるかもしれない。
今回のコラムはインタビューの前編。私たちYADOKARIから、「無印良品の家」の開発を取り仕切るMUJI HOUSEの川内浩司さんにお話をうかがいました。

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川内 浩司
「無印良品の家」住空間事業部開発部長。株式会社MUJI HOUSE取締役。
無印良品が考える賢く豊かな暮らしをかたちにすべく、新築注文住宅から、マンション、リノベーションまであらゆる「住まいのかたち」づくりに関わる。

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YADOKARI(さわだいっせい/ウエスギセイタ)【聞き手】
住まいと暮らし・働き方の原点を問い直し、これからを考えるソーシャルデザインカンパニー「YADOKARI」。住まいや暮らしに関わる企画プロデュース、タイニーハウス開発、空き家・空き地の再活用、まちづくりイベント・ワークショップなどを主に手がける。

無印良品の家は従来の家に対するアンチテーゼだった

― 生活雑貨を主につくってきた無印良品は、どういった経緯で、どんなコンセプトで家をつくり始めたのでしょうか。

無印良品は「日常の暮らしに必要なものを必要なかたちでつくる」という考えのもと、たくさんの商品、例えばえんぴつ、消しゴムをはじめ、家具などもつくってきました。一貫したコンセプトでやってきたなかで、家をつくってほしいという声はユーザーからたくさん届いていました。今から17年前、2000年のことです。もちろん、家は暮らしに必要不可欠なものです。そこで開発を開始したわけです。
「無印良品の家」のコンセプトを考えていくなかで、既存のハウスメーカーは、値段や売り方も含めて本当に暮らしに必要な家をユーザーに供給できているのだろうかという話がでていました。

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川内 浩司 氏:「無印良品の家」住空間事業部開発部長。株式会社MUJI HOUSE取締役

ハウスメーカーのビジネスモデルは総合住宅展示場にモデルハウスを建て、そこで家を販売しています。お客様は夢のような住まいに憧れて、いざ家づくりの相談がはじまると、モデルハウスの仕様からどんどんスペックダウンしていきます。なぜか? 実際にモデルハウスと同じ家を建てようとすると、8千万〜1億円ぐらいかかるからです。モデルハウスはあくまでモデル。ユーザーに夢を見せて購買意欲を刺激しつつ、打合せをしながら現実的なところに落ち着いてもらう。それは違うんじゃないかと。

従来の家のかたち、つくり方、売り方までも含めてアンチテーゼが必要なのでは? そこからスタートしたのが「無印良品の家」です。

世界でたったひとつの、あなたのためだけの家はつくりません

そういうわけで、現在、無印良品の家では住宅展示場にモデルハウスをいっさい建てていません。普通の住宅地に、100〜140m²ぐらいの等身大のモデルハウスを建てています。お客様がモデルハウスに来て気に入ってもらえたら、建っているものと同じ家をお客様の土地にそのまま建てます。つまり、無印良品の家は、無印良品がそれまでつくってきた文房具や家具などのプロダクトの延長線上にあるのです。

そして、無印良品の家は、住むひとのためだけの“フルオーダー”の家を初めから目指していないのです。私たちは「世界でたったひとつの、あなたのためだけの家」はつくりません。「あなたのためだけの家」は、本当に良い家なのだろうか?
買った人とその家族にとって、買った瞬間は確かにジャストフィットの家ができます。でも、そのときフィットしていた家は、10年後はズレてしまう。小さかった子どもは成長するし、人数も増減します。買ったときにいろいろ考えて実現した“幸せ”は結局長続きしないんです。

また、ひとつの家にはひとつの家族しか住まないわけではありません。もう少し長いスパンでみれば、別の誰かが住み継ぐこともあるわけです。そうすると、デザインや間取りを含めて、ますますフィットしない家になる。だから、壊して、また別の家族にとってフィットする家をつくることになる。いまだにそんなことが繰り返されているのです。

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無印良品の家は住み継ぐ家

建築的なアプローチになりますが、無印良品の家の発想は小屋に似ているんです。家がただの箱であれば、その時々の状況に合わせて自分で編集して、フィットするように暮らします。誰かに住み継ぐときにも同様です。次に住む人にとっても価値がある。むしろ個室を備えることを目指してきた戦後の日本の家づくりへのアンチテーゼとして、箱のような家をつくれないかと考えました。

2004年に、無印良品として最初に売り出したのが「木の家」。ただの箱のような家で、基本的に個室はありません。小屋のようにミニマルな家を原型としてつくりました。
当時、いたるところで話題になりました。でも実際にそこに住もうとしたひとは最初の一年でたったひとりしかいませんでした。否定的な意見で一番多かったのは、「間仕切りのない空間にどうやって家族が住むんだ、プライバシーがまったくないじゃないか」というご意見でした。

― プライバシーという概念って、いまの子育て世代には少し違和感があると思います。大事なことですが、少なくとも家族間のプライバシーを守るものは部屋の壁ではない。それまでの世代なら、子どもがそう思っていようがいまいが、親が「子どもには一人一部屋だ」って意識があったと思うんです。世の中にどんな変化があったのでしょうか。

戦前の日本の多くの家は小さな畳の部屋で、座布団を出せば客間、お膳を出せばダイニング、寝るときは布団を敷いて寝室、というように、食べることや寝ることを一つの部屋で済ませていました。戦後になって、50年代に公団住宅がやっとダイニングと寝室を分けて40m²という広さながら「2DK」という間取りを発明し、寝食分離された住宅が普及し始めます。
60年代に入って、アメリカのテレビドラマ『奥様は魔女』『ルーシー・ショー』でブラウン管に映し出されたアメリカ人の暮らしに、多くの日本人は自分たちの住んでいる家との大きな差を感じたのではないでしょうか。なんでも揃った広いキッチン、家族と同じ数だけあるプライバシーが確保された部屋。皆、自分たちもいつかこういう家に住みたいという憧れが背景にあって、大和ハウスがつくったプレハヴ住宅の草分け「ミゼットハウス」は「はなれ」の子ども部屋として大ヒットしたように思います。子どもに個室を与えるのが親の甲斐性になり、それが家族の幸せのかたちになっていきました。でもそういうのはもう違うんじゃないの?って思い始めたのが2000年ぐらいからなんです。

木の家」は「一人一部屋」の間取りの文化に対するアンチテーゼなのです。無印良品は今あるものに対するアンチテーゼ、その手があったかといわれるような一歩先のデザインのプロダクトをつくってきました。華美なデザインを無駄だから省いていくという発想はいまでは当たり前ですが、「木の家」を世に出したときは賛否両論どころか、“賛”は本当に少なかった。かっこばかりでこんな家住めるかって言われ続けてきました。

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(左 ウエスギセイタ、右 さわだいっせい:YADOKARI株式会社 共同代表取締役)

みんなでご飯食べて、みんなでお風呂入って、みんなで寝る。そんな暮らし方が広がってきた

― 最初の一年では一軒しか売れなかったということですが、2004年の発売から13年が経ちますが、世の中の流れはどのように変わっていったのでしょうか。

おかげさまで、いまでは年間300棟くらいコンスタントに売れています。ハウスメーカーみたいに何千何万単位で売れるわけではないけれど、事業としても十分成り立つようになりました。
これは意図したことではなかったのですが、2009年に長期優良住宅制度(※)がはじまったことも追い風になりました。日本の住宅は25〜30年で寿命を迎えるために、スクラップ&ビルドを繰り返しています。ユーザーはだいたい30年以上のローンを組んでいますから、ローンが終わった頃に家を壊す。ということは、日本人はみんなずっと住宅ローンを抱えて暮らすことになる。そんな暮らし方で豊かになるわけないじゃないですか。その反省もあって、長期優良住宅の制度がはじまったのです。
さっきいったように、無印良品の家は住み継ぐときのことまで考えて、ただの箱にして、ハードも長持ちするものにしました。表面的なデザインのことをいわれますけど、何より耐震性と耐久性を最優先したつくりになっている。そういうこともあって、無印良品の家は、何も変えなくても、そのまま長期優良住宅に認定されたんです。税制の優遇もあるし、ローンの金利も安くなります。このことが後押ししてくれた面もあります。

― 今から10年前の2007年に有楽町の無印良品で開催されていた「無印良品の家」のセミナーに行ったんです。そのときオープン・エー 馬場正尊さんと、HOUSE VISION 土谷貞雄さん(当時:ムジネット取締役)が仰っていた「これからは“気配”を感じる家を増やさないといけない」という話がとても印象的でした。無印良品の家はまさに「“気配”を感じる家」だし、ぼくらYADOKARIがタイニーハウスや小屋に惹かれたのも同じ文脈にあると思います。

購入する層は30代の前後、出産を控えていたり、就学前の子どもがいる夫婦です。子どもが大きくなったら家具で仕切って寝る場所をつくります。個室はありませんので、ダイニングの大きなテーブルにみんな集まって、子どもは勉強し、お父さんは新聞を読む。

― 子どもが個室ではなくダイニングテーブルで勉強するのは、いまの子育て世代にはずいぶん一般的になってきました。そのほうが子どもの成長にとって、いい影響があるっていわれてますね。

たしかに。そういう暮らし方が広がってきたという実感があります。みんなでご飯食べて、みんなでお風呂入って、みんなで寝る、という暮らしができる空間がいいと思うひとが少しずつ増えてきました。東日本大震災を機に、家族との時間や距離感、そして家のあり方への思いが変化していったこともあるかもしれません。無印良品の家はそのような世の中の変化の中で受け入れられてきたといえます。
「無印良品の家」が売れる様になったことと、「小さな家」がひとびとの関心を集めるようになってきたことは、深いつながりがあるように思います。

(後編に続く)

※「長期優良住宅制度」|正式には「長期優良住宅の普及の促進に関する法律」。従来の「つくっては壊す」スクラップ&ビルド型の社会から、「いいものをつくって、きちんと手入れをして永く大切に使う」ストック活用型の社会への転換を目的として、長期にわたり住み続けられるための措置が講じられた優良な住宅(=長期優良住宅)を普及させるため、平成20年12月5日に成立し、平成21年6月4日に施行。(国土交通省)

※後編は2018年2月上旬に公開予定です