美意識と文化性のある未来のライフデザイン(後編)

コラム | 2019.5.28

IDÉE(イデー)」の創始者としても知られ、「自由大学」や「ファーマーズマーケット」など、新しい価値観と場をつくり続けている日本を代表するプロデューサー 黒崎輝男さんに、未来の豊かな住まい方についてお話をうかがっています。

デザインの考え方を、家具やインテリア、建築だけでなく、食など生活の全てに拡張し、美意識や文化性を持たせていきたいとおっしゃる黒崎さん。従来のローンありきの家の在り方や、所属・雇用関係に捉われず、みんなが人間本来のコミュニケーションをもとにつながり、仕事や暮らしをシェアしていくような場所をつくっていこうと考えています。
そんな黒崎さんに、若手と一緒に今後取り組んでいきたいことについて聞いてみました(前編はこちら)。

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黒崎 輝男(くろさき てるお)
1949年東京生まれ。「IDÉE(イデー)」創始者。オリジナル家具の企画販売・国内外のデザイナーのプロデュースを中心に「生活の探求」をテーマに生活文化を広くビジネスとして展開。「東京デザイナーズブロック」「Rプロジェクト」などデザインをとりまく都市の状況をつくる。2005年、流石創造集団株式会社を設立。廃校となった中学校校舎を再生した「世田谷ものづくり学校(IID)」内に、新しい学びの場「スクーリング・パッド/自由大学」を創立。「Farmers Market @UNU」「246Common」「IKI-BA」「みどり荘」「COMMUNE246」などの「場」を手がけ、新しい価値観で次の来るべき社会を模索しながら起業し続けている。

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YADOKARI(さわだいっせい/ウエスギセイタ)【聞き手】
暮らし(住まい方・働き方)の原点を問い直し、これからを考えるソーシャルデザインカンパニー「YADOKARI」。暮らしに関わる企画プロデュース、タイニーハウス企画開発、遊休不動産と可動産の活用・施設運営、まちづくり支援イベント、オウンドメディア支援などを主に手がける。可動産を活用した高架下タイニーハウス複合施設「Tinys Yokohama Hinodecho (グッドデザイン賞)」、イベントキッチンスペース「BETTARA STAND 日本橋(暫定終了)」などの施設を企画運営。著書に「ニッポンの新しい小屋暮らし」「アイム・ミニマリスト」「未来住まい方会議」「月極本」などがある。

資本関係よりも、信頼関係

― 最近ご担当されたNOHGA HOTELの総合キュレーターは大手不動産会社からご依頼があったのでしょうか?

依頼のあった不動産会社が、もともとホテルプロデュースをやってたんだけど「ちょっといまの時代違うんじゃないか」って相談を受けて、まわりまわって僕たちに頼んだ。僕らホテル業界じゃないじゃないですか。ホテル業界はこうじゃなきゃいけないっていって、ホテルのデザインだけやってる人たちがいるわけですよ。

YADOKARIだって編集業界じゃない。出版でもないし、情報でも、建築不動産でもない。新しい流れをつくるひとつの思想があって、YADOKARIっていう名前もそうだし。小さい家でいいから、いろいろヤドカリのようにやっていく。そういうところが、これからどんどん伸びていく。みんなでうまく。要するに資本関係はなくても、友達だから、同じ思想だから一緒に組む。そういうことができてくると面白くなってくる。

そのときに、表面的なお金のことじゃなしに、やっぱり良い奴だとか、あいつなら信頼できる奴だとか、そういう深いつながりみたいなものを僕はすごく大事にしていて、それが持てるような人間としかやらないと思う。名刺で肩書きや企業の名前を見るんじゃなくてね。

― 仲間として一緒に何かやるときは、どういうところを見ているのでしょうか?

例えばマーク・ニューソンがまだ駆け出しのころ(現在は世界的デザイナーとして活躍)に一緒に食事をしたときに、あいつが歯ブラシをいっぱい集めてて。これはなかなかデザイナーとしては面白いなと思った。で、マーク見たら本当に歯ブラシいっぱい持ってるわけよ、高い歯ブラシ6,000円とかのあるじゃないですか、豚毛のとか。若手のデザイナーは貧乏なのに、ちゃんといろんな珍しいのがあったりして。そういうことが好きな奴らは、やっぱりデザイナーとして見込みがあるんだろうなと。

イタリアの家具屋の社長は一緒に食事をしながら、どこに食べに行くかとか、どんな食べ方するかとか、そこでデザイナーを見る。やっぱりそういうところであって、肩書きやプレゼンテーションブックじゃなくて行く方が正しいんじゃないかなって。
一緒に飲んでみて、飲み方とか食べ方とか、それで友達でっていう方が。グデングデンに酔っ払ってもいいから、何しろとにかく仲良くなれるかどうかっていうのが、やっぱりすごい大切だと思う。

いろいろな分野や次元に「橋をかける」

― 黒崎さんはポートランドにも精通しており、TRUE PORTLAND(創造都市ポートランドガイド)などの本も出されていますが、ポートランドのどういうところがいちばんの魅力ですか?

やっぱりヒッピーカルチャーですよね。
日本の場合、68年闘争の後ぱたっとやめちゃった、全共闘世代から。僕はそのとき就職もしてないからヒッピーのままじゃないですか。自分たちはそんなに過激な活動をしたわけではないけども、音楽だとか文化だとかすごく影響を受けて、それを問題意識としてずっと持ち続けながら生きてきた。

日本の場合は、大企業に勤めて、そのまま今度は猛烈サラリーマンになって、日本を経済的にうまく持っていった時代があった。アメリカは音楽でも文化でもそのまま来ていて、その子どもたちがアップルコンピューターやGoogleをつくったり、そういう奴らが西海岸にゾロゾロいるわけじゃないですか。新しい考え方でどんどんやって、その息子あたりがいまの中心になってる。

ポートランドは、そういうヒッピージェネレーションの子どもたちがサンフランシスコからまた逃れて、コミューンがいっぱいあった。そういう良い意味でのヒッピーカルチャーがそのまま伸びてきて、いまのアメリカの情報産業を支えてる。
日本はそれがなくて、真面目に大企業の中に入っちゃったんで、それは当時としては正解だったのかもしれないけど、長期的に見るとそれだけで終わっちゃう。だからやっぱり次をつくるためには、小さい家でもいいからもっと生き方を変えて、農的な生活だとかいろんなことをやっていく必要がある。

橋を渡すっていうのは僕たちのひとつの仕事じゃないかと。
「Bridge over, Troubled water」明日にかける橋じゃないけど、そういう橋をいろんなところで。
ポートランドと東京に橋をかけたり、農業とIT企業をやっている人たちに橋をかけたり、いろんな違う次元のものに橋をかけるのは、僕が死ぬまでにやらなきゃいけないこと。デザインと産業やお金に橋をかけるのはやってきたんだけど、もうちょっと違う、食と何かとか、やりたいなと思ってる。

若手と共に、次の時代へのムーヴメントをつくる

― これからの新しい生き方や住まい方を模索している若手の世代に対して、メッセージがあればお願いします。

やっぱりね、世界中ぐるぐるまわって、白紙にしてものを見て、僕はいつもそうなんですけど、定点観測じゃないけどいろんなところを見て、その兆候、ひとつのナチュラルワインを見たりしても、そういう世界的な動きを見ることです。
それは最先端を見ることでもあるし、クラフトは一番古くからあることでもあるし、同じことだと思うんですよね。そういうのをじっと見ながら、「何なんだろう?」って考えていくと、何か共通項があったり、世界が変わっていって、価値観が変わっていくのが少しずつ見えて、そこに関わっていくことが時代をつくることになっていくんじゃないかな、と僕なりに思っているんですよ。だから旅が僕のベースになっている。

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― いろいろなところを、仲間をベースに点々とするっていうのも、黒崎さんのライフワークのひとつなんですよね。その中で、いろいろなプロジェクトみたいなことも、どんどん仕掛けていくんですか?

うん。仕事としてほとんど全部生きてきてる。ただ旅行者というんじゃなくて。それをつないで、また全体としても盛り上がっていくっていう状況をつくるのが、僕の特質。

タイニーハウスのデザインをするのもいろいろなアイデアで、海外と日本のデザイナーと一緒に考えながらやっていくのが良いと思う。対価で誰々で、というふうにしちゃうと高いし、やっぱり違うじゃないですか。自分の名前を傷つけないために守りに入っちゃう。リスクを冒して新しいことはなかなかやれないと思うんですよね。
無名でも若い面白い奴で、自分でつくれるぐらいの安いものにしていくと全然違うと思うんです。これから有名になるような人をどんどん立てていって。昔からそういう人と付き合ってたから、伸びる感じ、才能っていうキラキラッとしたものを見るのに慣れてるんですよね。ちょっといけるな、とか、絶対いけるとか。伸ばすっていうのは醍醐味ですよね。

これからつくりたい場所

― 最後の質問です。これまでクリエイティブ、創造性、アート、場づくりなどをやって来られましたが、最終的に目指していきたいもの、どういう場所をつくれたら自分は幸せだったなと思えますか?

僕はとりあえず世界全体を変えるとか、そんな大層なことはいえないから、滝ヶ原ではユートピアっていってるけど、自分の「いいな」と思う関係性とそういう場所をつくっていきたいなと。「状況」としてそういうものをつくっていきたい。

僕がいってるのは施設産業じゃなくて、状況をつくりたいわけです。要するに家とか、施設じゃないと思うんですよ。そこに住む人間がいて、情報を流したり、中のコンテンツがあったりして、トータルでの状況。なんかいろんな奴が働いているけども、そいつらが良い奴で。だけどデザインがちゃんとしてないと、そういう良い状況は絶対できないと思うんですよ。やっぱり確固たるちゃんとした目が、視線が、趣味があること。それと、どんなもの食べて、どんな生活してってこと。

こんなんだったらなりたくないっていうような、センスのないお金持ちっていっぱいいるじゃないですか。でも海外なんか行くと、質素だけどすごく良い暮らしぶりをしてる人がいて、スキッとしてる。

日本でもそういう目で見てると、いないわけじゃない。普通の人の中の良さみたいな日々の生活。それを引っ張り上げていって。だけど社会が良くないと、それはなかなか生きてこないじゃない。
それにはやっぱり社会も良くなんなきゃいけないし、良い志の人がちゃんと生きていけるといいなと思うんですよ。
YADOKARIがやろうとしてることは、まさにそういう小さい家だけど、しょせん住む道具。コルビュジエがいってるみたいに、道具・機能としての家っていうのは、住むっていうこと自体を考えていかなきゃいけない。

60年代でも、ビートルズにしろローリングストーンズにしろ、中産階級の、労働者階級の人たちがロックをやってお金持ちになって、お城買ってロールスロイス乗って、それはもういまの時代は全く古いわけじゃないですか。
もっと小さいタイニーハウスで、趣味が良くて、この花の生け方がかっこいいね、この窓から見える自然の景色が最高だねとか、そういうところにどんどん落とし込まれて行くと、もうちょっと違う社会になってくると思うんですけどね。

食べ物もちゃんと考えて、美味しいものをちゃんと食べて。やってる仕事も、別に何億円も入らないけども、ちゃんとした仕事をやってスキルアップしてっていう、そういう価値観にピタッと照準を合わせてやればいいと思うんですよね。それは世界に誇れる日本の思想であるわけだから。

暮らしの部分を丁寧に。そこをちゃんとつながってやっていったら良いんじゃないんですかねぇ。


長年にわたり「生活文化の探求」を行ってきた黒崎さんの活動は、いまや日本の新たな価値観、若者カルチャーの礎となりつつあります。
白紙の目で世界の兆候を見て、これは何なんだろうと自分で考え、その変化に参加していく。それが次の時代をつくることだと黒崎さんはおっしゃいます。

信頼できる仲間とつながり合い、自分なりのユートピアとも呼べる気持ちのいい関係性の中で、暮らしも仕事も美意識を持って丁寧に営んでいく。そのための、無理のない住まいの選択肢のひとつが、小さな家であり、古い住宅のリノベーションだといえます。

まだまだ未完成の若い世代にも勇気をくださる黒崎さんのお話から、みなさんにとっての豊かさとは何か? を考えるヒントがあったのではないでしょうか。
たくさんのご感想、メッセージをお待ちしております。