無印良品の家史上「最もシンプルな箱」ができました
平屋が理想の家になる | 2019.9.17
前回コラム「平屋が理想の家になる『陽の家』登場」でお話しした通り、「いま、なぜ平屋なのか」というと、少子高齢化や働き方改革など、私たちの暮らしに大きな変化をもたらす時代の変革の中で、幅広い世代や多様な住む場所など、さまざまな「暮らしのかたち」に対応できる家が今後ますます求められると考えたからです。
その「平屋」をどんな家(のかたち)にするかというと、木の家や窓の家と同様に「永く使える、変えられる」家であるための「一室空間」=「性能の良いただの箱」であることに変わりはないのですが、それに加えて、平屋の大きなメリットの1つである、「庭とのつながりやすさ」をどのように定型化(商品化)するかがポイントと考えていました。
この「どう庭とつながるか」には、いろいろな考え方、手法があり、家のかたちとあわせて、平屋を考え抜いた結果、無印良品の家史上「最もシンプルな箱」にたどり着きました。今回はその経緯についてお話しようと思います。
庭とのつながり方を考える
家と庭との在り方は、大きく2つに分けると「クローズ型」と「オープン型」になります。
「クローズ型」は、ヨーロッパなどに昔から多く見られるかたちで、建物が密集していて、開口部が取り難いような場所で、□やコの字型、あるいはL型に庭を囲み、外の空間から遮蔽された中庭=半外部空間をつくり、採光や通風を確保しながらも防犯上もメリットがある、というものです。
無印良品の家では、「平屋」を広大な敷地に悠々と建てられる贅沢な家、とは捉えておらず、例えば夫婦2人がミニマルに暮らしたいときにも丁度良いサイズとして適応できる家にしたいと考えていたので、まず都市部にも適した、中庭で外とつながる「クローズ型」の検討から入りました。
普通に考えれば、中庭によって部屋が分断されるので「一室空間」にはならないのですが、中庭という半外部空間までも含めた「一室空間」にできるのではないか、と試行錯誤を繰り返しました。
が、やはりどうしても「永く使える、変えられる」一室空間にはなりません。
そこで、中庭をさらに分断して、各部屋に大小の庭が付属するような、もはや「どこまでが外か内かわからない」空間構成も考えてみましたが、家そのものが複雑になりすぎました。
参考にしたのは「先人の知恵」
そこで、原点に戻り、「一室空間=ただの箱」が広い開口部で外とつながる「オープン型」でありながら、都市部にも、またどんな広さの土地にも適応できるかたちを検討することにしました。
ここで参考にしたのは、私たちの先人の知恵である、「縁側と庇(ひさし)」です。
大きな庇と縁側による「半外部空間」があることで、ごく自然に「外」を「室内」に浸透させながら、庇がつくる「影」のある半外部空間により、外からの視線が柔らかく遮られます。さらに庇は夏の高くて強い日差しを防ぎ、冬の低くて暖かい日差しを取り入れられる理にかなったかたち、この素晴らしいアイデアをなんとか現代の平屋でも生かせないか、というデザインスタディを何度も何度も行いました。
縁側の現代版として庇のある「ウッドデッキ」を標準装備にする、というのはすぐに決まりましたが、家そのものの「かたち」がなかなか決まりません。
「ただの箱」が、単純に大きな窓で外とつながる、という「かたち」はあまりにシンプルすぎて、何パターンもあるからです。
図面やCGだけでなく、スタディ模型もつくって検討に検討を重ねた上で、外とのつながりだけでなく、室内の空間構成や、さらには都市部の限られた土地でも建てやすいこと、なども吟味した結果、最終的に絞られた「平屋のかたち」が「陽の家」となったのです。
結果として、階段も吹き抜けもない「ただの箱」は、無印良品の家史上「最もシンプルな箱」となり、しかも外と内がシームレスなつながり、変幻自在の一室空間、外とのつながりだけではない空間そのものの開放感、そして都市部から郊外、別荘地まで幅広く対応、という開発当初「平屋」に期待していた要素をすべて満たすことのできる、「多様な暮らしに対応できる家」とすることができたと考えています。
このように、「陽の家」の一見何の変哲もないシンプルなかたちは、じつはいろいろな試行錯誤の結果であることを今回はご紹介しましたが、次回以降は、これら、外とのつながり方や、平屋としての一室空間の魅力、空間そのものの開放感、あらゆる敷地への対応力などについて、もう少し細かくお話ししていきたいと思います。
まずは「陽の家」のこの「かたち」、みなさんはどのようにお考えになりますか?
ぜひご意見をお寄せください。お待ちしております。