インタビュー団地/マンション再生事業 【対談】北陸電力とMUJI HOUSE|地域のインフラと住まいの編集力が生み出した、遊休社宅再価値化の舞台裏
コラム
2026.08.28
インタビュー
団地/マンション再生事業
コラム
2025年11月に発表された「MUJI INFILL 0 一棟リノベーション」。建築コストが高騰する近年、法人が抱える遊休資産をいかにして再生させるか。
その第1弾として北陸電力の社宅再生に挑んだ、北陸電力株式会社 理事 事業開発部長 屋鋪誠さん、株式会社MUJI HOUSE 取締役 リノベーション事業本部 本部長 豊田輝人に、本プロジェクトに込めた想いや今後の展望について、社宅のモデルルームでうかがいました。
北陸電力株式会社 屋鋪誠さん(左)と、株式会社MUJI HOUSE 豊田輝人
――北陸電力さんは地域の電力事業を担うインフラ企業ですが、どのような経緯で社宅の再生という事業を始めたのでしょうか?
屋鋪:私たち北陸電力は、石川・福井・富山の3県を主な供給エリアとする電力事業者で70年以上の歴史を持っています。2000年頃から電力自由化の流れに合わせ、エネルギーだけでなく周辺分野へと事業領域を拡大する取り組みを進めてきました。
その中で新事業へのチャレンジや、会社が持っている資産の有効活用を行っていて、使わなくなった社宅の再活用は6年くらい前にスタートしました。
寮や社宅は従業員が実際に住んで、地域の皆さんとコミュニティを形成してきた永い歴史があります。寮や社宅として使わなくなっても、引き続き地域との関係性を維持していけるようにした方が良いのではないかという考えもあり、リノベーションによる再生を決めました。
――ちなみに最初の社宅のリノベーションは自社で行ったとお聞きしています。その中で感じた課題感や、その後MUJI HOUSEをパートナーに選んだ理由を教えていただけますか?
屋鋪:これまで3棟のリノベーションを自社で行って、それなりの手ごたえは得ていました。
一方で「北陸電力はこういうこともやっているんだ」と多くの方に知っていただく意味でもっとインパクトが欲しいという気持ちもありました。
MUJI HOUSEさんがURさんと団地リノベーションなどの取り組みをされているのを知っていて、建物の既存の素材を生かすところ・取り替えるところを選ぶセンスが素敵だなあと感じていましたし、パンフレットから、いかに地域の方と共生していくかという思いも感じられたので、ぜひお願いしたいと思っていました。
ただ北陸地方ではそのような取り組みは行っていないということだったんですね。でも一度お話だけでも聞いていただきたくて、飛び込みのようなかたちでお話をさせていただいたんです。
――今回の北陸電力さんとのプロジェクト。MUJI HOUSEとしてはどのような展望を感じていましたか?
豊田:実は「古い社宅をリノベーションしてほしい」というお問い合わせはいろいろなところからいただいていて、でも実現には至らなかったことが多くありました。
私たちは「古くても魅力的な建物をどうやってその地域の未来に残していくか」という強い思いを持ってリノベーションを行っていますので、その考え方に共感いただける会社さんでないと、なかなか難しいのかなと思っています。
北陸電力さんからお話をうかがうと、地域のコミュニティにいかに開いていくかなど、地域の方々への思いの強さを感じ、それであれば私たちが貢献できるのではないかと思いました。
実際に建物を調査すると、状態が良く、使われ方もとてもきれいでしたし、各住戸の日当たりや風通しも良いつくりで、これは非常に魅力的な建物になると思いました。
――今回のリノベーションでは「MUJI INFILL 0(ムジインフィルゼロ)」を適用しています。その特長やポイントを教えていただけますか?
豊田:「MUJI INFILL 0」は2015年にスタートした商品です。当時リノベーションというと、一般的には表面的にすごくかっこいい素材や派手な設備などが注目されていました。
その一方で私たちとしては、住まわれる方が不安にならず、安心して永く住める住まいが大事だろうと考えていました。
そこで、表面的なところだけでなく、見えない部分までしっかりチェックをして性能を上げていく取り組みを行いました。それが「MUJI INFILL 0」という商品で、それから約10年この取り組みを続けています。
今回入れさせていただいたのは「MUJI INFILL 0 ZEH(ムジインフィルゼロゼッチ)」という商品です。
そもそも「MUJI INFILL 0」にはフルスケルトンにして「暮らしの0地点をつくる」というコンセプトがあります。そして、その中を住まわれる方が自由に編集できる。0からプラスしていけるのが特長です。
自由に編集できるというのは、間取りの自由度が高いという意味でもあり、そのためには断熱性能を高めておく必要があります。逆に断熱性能が低いと、広い空間を冷暖房するのが難しいため、部屋をいくつもつくって空間を小間切れしなければなりませんが、断熱性能を高めておけばエアコン1台で広い空間を冷暖房できます。
今回のリノベーションにおいては「ZEH」ということで、北陸の冬の寒さにも対応できるよう、断熱性能を非常に高くしています。新築マンションを建てるときの基準よりもワングレード上の仕様で、薄くて性能の高い断熱材や、ペアガラス入りのインナーサッシを付けています。既存ガラスと合わせて3枚のガラス構成となるため、高い断熱性だけでなく、
遮音性能も非常に高くなり、外からの音が入りにくく、落ち着いて過ごせる環境が整えられています。
今回東京・大阪以外で初めて「MUJI INFILL 0」やらせていただきました。きっちりとしたリノベーションができ、快適に住んでいただける空間に仕上がったと思います。
屋鋪:最初はコスト等を考慮し、素材を生かした簡易的なリフォームも検討していました。しかし、私たちはエネルギー会社としてカーボンニュートラルを推進していますので、非常に断熱性能が高い「MUJI INFILL 0 ZEH」に親和性を感じました。
また、冬の寒さが厳しい北陸において、高い断熱性能はお客さまに訴求できるものでもあります。今回この仕様のご提案をいただき仕上げていただいたのは非常に良かったと感じています。
私は社員としてここと同じような間取りの社宅に通算6年くらい住んでいましたけど、比べて見ると今風の広い間取りになり、社宅のときには感じられなかったデザイン性も備わって「こんなにも変わるのか」という印象を受けました。
――住まいを自由に編集できるという特長。そこにはどんな思いがあり、どんな工夫をしていますか?
豊田:昔はお父さんお母さんがいて、お子さんが2人いて…という家庭が多かったと思うのですが、時代が変わって今はいろんな家族構成が一般的になっています。
ですから、間取りをこちらで固定するのではなく、それぞれの方に合った間取りで暮らしていただきたいなという思いで「MUJI INFILL 0」をつくっています。
昔の日本家屋では、襖で部屋を仕切ったり、開けて一体にしたりという使い方がされていましたが、そういった知恵を現代においても生かしていこうと考えて私たちは引き戸を使うようにしています。
あとは無印良品の家具を使って仕切る提案もしています。スチールユニットシェルフという商品があり、その中でも背の高い商品を使うことで目線を遮ることができますし、収納兼壁にすることもできます。
――今回は社宅一棟丸ごとのリノベーションということで、外壁や外構などにも手を加えています。外回りについてはどのような工夫をしていますか?
豊田:今回のような団地型の建物は敷地を目いっぱい使うのではなく、余白を残して建てられています。そういう建物がどういうデザインが良いのかを考える中で、建物の周りにあってゆとりある広い、空や地域の自然の色を引き立たせるように建物を白で塗装しました。
あとはシンボルツリーを植えさせていただきました。今後10年20年経っていく中で木が建物やここに住まわれる方々と共に大きく成長し、この場所がしっかりと使われている象徴になることを願っています。
URさんでも団地が開発された50年前に植えられた木が今はものすごく大きく育っていて、それらがつくり出す木陰でこどもたちが遊んでいたりします。
そのように自然と建物がうまくリンクして、建物が地域と一緒に育っていけるといいなと思っています。
屋鋪:外構の計画は予算の都合で実現できなかったものもありました。そんな中でラインを引くだけですごくいい感じに仕上がったところがあり、そういったデザインセンスはさすがだなあと思いました。
今後いろいろな人に住んでいただく中で、外構も少しずつ手を加えながら永く親しまれる住まいにしていけるように努力していきたいと思います。
――これまで「MUJI INFILL 0」はエンドユーザーさん向けに提供をしてきました。今回は法人向けとなっており、補助金の活用もプロジェクトの後押しになっていたと思います。どんな補助金が活用できましたか?
豊田:国が行っている長期優良住宅化リフォーム推進事業がありまして、それが補助金の中では大きいものでした。条件として、断熱性能が高いか?建物自体がきちんとつくられているか?という点がポイントになります。
断熱性能に関しては、「MUJI INFILL 0」がそもそも高い仕様ですので簡単にクリアできました。建物の部分に関しても、北陸電力さんがしっかりとつくられていて、図面もちゃんと残っていたことでこちらもクリアできました。
――昨年の11月に今回のプロジェクトの発表を行いました。その際にメディアの方の反応や、北陸電力さんの社内での反応はいかがでしたでしょうか?
屋鋪:MUJI HOUSEさんとの発表ということで北陸でも多くのメディアに取り上げていただきました。それから社内での反響が想像以上に大きくて、特に若手の社員がワクワクしていたのを感じましたね。一般的に堅いイメージの会社ですが「うちの会社はこんなこともやるんだ」という反応が非常に多かったです。
豊田:たくさんのメディアの方に来ていただき、北陸電力さんと私たちがコラボレーションをすることで「何をやってくれるのか?」と社会的に非常に注目されているのを感じました。
――そして、リノベーションが完了してから行った内覧会。来られた方はどんな感想を話されていましたか?
屋鋪:2日間内覧会を行ったところ、約150名という非常に多くの方に見学に来ていただきました。実際に部屋を探している方だけでなく、無印良品さんの商品に日頃から関心を持っている方にもたくさん来ていただきました。
部屋に入っていただくとすぐに「ああ、無印良品さんの部屋だね!」という感想を持たれていた方が多かったのが印象的でしたね。
コンクリート打ち放しにしたところは「ちょっと攻め過ぎでは?」という意見もありましたが、これも我々としては特長的なデザインだと感じています。
それからリノベーションが完了する前に「住みたい!」と言ってくださる方もいらっしゃいましたし、北陸に移住するタイミングで新居に選んでくださった方もいらっしゃいました。
――今回の取り組みのPRはどのようにされましたか?
豊田:オンライン・オフラインの両方でPRを行いました。オンラインとしては、インスタグラムでの発信や、この地域に住まわれているメール会員の方々への発信。オフラインとしては、この地域にある無印良品の店舗にチラシを置いて、内覧会の告知を行いました。
私たちは北陸地域で「MUJI INFILL 0」や「団地リノベーション」といったリノベーションされた住まいの提供をするのは初めてでしたので、この地域の方々に対して私たちの取り組みをご紹介する機会になりました。
――今回のインタビュー、そろそろ締めくくりに入りたいと思います。北陸電力さんとして今後どのように遊休資産を活用していこうとしているか展望をお聞かせいただけますか?
屋鋪:今回MUJI HOUSEさんと一緒に富山と金沢で2棟の社宅のリノベーションを行いました。時代の変化に伴い社宅のニーズが減ってきており、現在も何棟か廃止に向かっている建物がありますが、それらの建物の有効活用も引き続きやっていこうと考えています。
また、当社に限らず、社宅を有効活用したいという声がいろいろなところから聞こえてきています。他の地域の電力会社の方も見学にいらっしゃいましたし、他の業界の方からも反響がありました。
社宅などの住居に限らずいろいろな不動産の有効活用をすることで地域の賑わいをつくっていきたいと思います。その際に自社だけでは考え方が固定的になりがちですので、いろいろな知見を持った方々とコラボして良いものをつくりあげていきたいと考えています。
――今回MUJI HOUSEとして初めて「MUJI INFILL 0 一棟リノベーション」を行いました。今回の知見を生かして今後どのような展開をしていきたいですか?
豊田:これまでは企業さんが持つ古くなった遊休資産は壊して建て直すことが多かったと思いますが、今建築費が高騰している中で建物を新築することが以前と比べて難しくなっています。その中で「既存の建物をどう生かしていくか?」というのが重要な課題になっています。
実際、古くても良いものはたくさんあります。日当たり風通しが非常に良くて、地域になじんでいるこの団地型の社宅もそうです。このような建物を壊して、面積を最大限取れる建物に建て替えるのではなく、コストをできる限り抑え、既存の良さを生かして後世に残していく。そういった考え方で建物を使っていく視点が非常に大事だと思っています。
遊休資産について多くの企業さんが活用方法を悩まれていると思いますので、これからそういった方々のお手伝いができればいいなと考えています。
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