インタビュー「小さな暮らしの未来」(後編)
小さな住まい | 2018.2.13
「無印良品の家」の開発を取り仕切るMUJI HOUSEの川内浩司さんと、日本の小屋・タイニーハウスムーブメントを牽引するYADOKARIのさわだいっせい・ウエスギセイタによる対談インタビュー、後編は「小さな暮らしの未来」についてお話していきます。
暮らしの一部をシェアすることで生まれる広さ
― 私(YADOKARI ウエスギ)はいま、一人暮らし用の28m²の部屋に妻と息子の家族3人で住んでいます。小さな暮らしの実験としてはじめたのですが、いざやってみるとさすがに小さいんです(笑)。とはいえ、ただ広ければいいわけではない。例えば、共用できる部分をシェアして無駄を省けば狭い空間でも広く使うことができます。
一方で、家族向けや多世代同居用のシェアハウスが近年増え始めています。子どもの送り迎えを交代でし合ったり、両親以外の住人にも子供の面倒を見てもらうなど、子育て世代はシェアする暮らし方への関心が高まっているようです。
同じような暮らし方で、コレクティブハウスがありますね。いろいろな世代の家族が住むことでお互いにメリットがある。共働きの若い夫婦が仕事で留守にしている間はシニア世代が子どもの面倒を見て、その代わり、元気な若い世代が掃除をするし、ごはんもつくる。みんなで一緒に食事をともにするのも楽しい。コレクティブハウスは理想的なコミュニティでもあるし、一方で非常に合理的なんです。
無印良品では「MUJI×UR 団地リノベーションプロジェクト」として、集合住宅をリノベーションしています。団地は間取りが古いですが、インフラとしてとても優れています。
当然、集合住宅は世帯ひとつひとつで完結しています。でも、もし共通で存在する機能を各戸から切り離してみんなでシェアしたらどうなるでしょうか。昔、トイレやお風呂は共同だったし、調味料の貸し借りをしていたので、キッチンを共有することもできますね。集合住宅としてせっかく集まって住んでいるわけですから、そのメリットを生かして何かできないかと考えています。
団地再生物語というコラムで、
「もしも団地内にキッチンスタジオがあったら」
「もしも団地の集会室をキッチンスタジオにできたら」
という提案を投げかけました。団地のなかに場をつくることで、それまでになかったコミュニケーションが生まれるかもしれません。これについては、皆さまからいろいろなご意見をいただきました。
自動運転がつくる未来の住まい方
― 一方で、これからは街と住まいとの関係も大切だと感じています。ミニマリストの佐々木典士(ささきふみお)さんとお話した際に「カフェはリビング、食堂はダイニングキッチン、コンビニは冷蔵庫」と言っていたことが印象的でした。
街は暮らしの延長として捉えることができます。街の機能が充実すればするほど、家のなかにはほとんど何も要らなくなります。すると、必然的に家は小さくてもよくなる。もちろん、田舎で大きい家に住んで、暮らしを自己完結するのもいい。でも、都会に勤める会社員の場合、そういう暮らし方をしようとすると職場からは遠くなりますよね。
― ここで以前にもコラムで取り上げた働き方の問題が出てきます。都会で仕事をしているひとでも、本当は自然に囲まれた場所で暮らしたいと思っている割合は多い(コラム第7回「小さな暮らしで考える、住む場所と働く場所」)。現代では、理想的な暮らし方と現実的な働き方を両立させるのが難しい。そんな状況のなか、不動産に対する「動産」としての家や空間が注目されはじめています。
いまキャンピングカーって売れてますよね。この前、北海道に行ったら、道の駅やスーパー銭湯の駐車場にキャンピングカーがたくさん止まっていました。主にアクティブシニアによく売れているそうです。定年退職した後に、転々としているのでしょうか。
― 先日アメリカで開催されていたタイニーハウスのカンファレンスに行ってきました。アメリカではバスをリノベーションして移動式のタイニーハウスにするパッケージがよく売れているようです。以前に小さな住まいのコラムでも紹介した「vanlife」もその流れのようで、カーリノベーションのマーケットも少しづつ広がっていくと感じています。
また今後は自動運転の発達にも注目しています。移動手段としての車が、家・仕事場(店舗含む)としての機能を持ち始めると予想しています。サテライトとしての動産が母屋や商業店舗などと連動すると不動産の概念が大きく変化していきそうですね。つい先日発表されたトヨタのコンセプト車「e-Palette Concept」などもモビリティの未来を予期させます。
二拠点居住が当たり前になる時代
車に住むのは確かに便利だけど、毎日狭い空間で暮らすのはさすがに厳しい。そこに自動運転が普及すれば、二拠点生活が簡単にできるようになります。平日は都会に駐車場を借りて車で生活をしますが、金曜日の夜、車に戻って寝ている間に田舎に移動している。休日は自然が豊かなところでのびのび過ごすことができます。
― さらにEV車が普及すれば、排気ガスが発生しないので車ごと家の中に入っていくことができます。土曜日の朝ふと起きると、車がモジュールとして田舎の家に接続されている。そういう時代が本当に来るかもしれません。また、太陽光発電やバイオ下水処理などのオフグリッド技術、ホームオートメーションやVRなどのIoT技術も進めば動産の可能性はより広がることでしょう。
20年後にはガラッと変わるでしょうね。そのときに、いまのようなかたちの家ははたして必要とされるのでしょうか。ぼくは必要だと思ってしまいますが、生まれたときから車のなかで育っているひとにとっては、別に必要だと思わないでしょう。
とにかく、人も減っていくし、土地も余っていく。田舎なら100万円も出せば広大な土地が手に入ります。5人で買ったら20万円ぐらいで購入できてしまいます。そう遠くない将来には、車のような家と自然の豊かな場所の両方に住む二拠点居住が当たり前になるかもしれません。
合理的な選択としての「小さな暮らし」
― ぼくたちYADOKARIが活動をはじめてから6年が経ちますが、その間にタイニーハウスや小屋、小さな暮らしへの注目度は確実に高まってきました。カウンターカルチャー的な側面もありますが、今後「小さな暮らし」は社会の中でどう受容されていくとお考えでしょうか。
第4期第4回 「小さな住まい」についてのアンケート で「お金は必要だがお金のために生きるわけではない」という項目で肯定的な意見が83%と圧倒的に多いのが目立っていました。一方で「収入が減っても自分の好きな仕事をしていきたい」については、そう思う人がまだ半分以下。「わからない」という意見が37%と多数を占めました。でも、少しずつではありますが、お金やモノに縛られたくないと思うひとが増えている事実は数字に顕著に現れています。
「無印良品の家」を2004年に始めましたが、最初は全然売れませんでした。でも、時代の潮目が変わって、本気でほしいと思う人が少しずつ増えてきました。2,000万円もする家ですから、ファッション目的ではなく合理的な判断で購入してくれたのだと思っています。
小さな暮らしやシェアする暮らしは、つい最近までファッションのようなものでした。それだけでは結局続かないんです。でも、例えば、キッチンやトイレやバスルームを共用にすることでメリットが生まれる、あるいはベッドとデスクを簡単に切り替えられるようにして部屋を広く使えるようになる。技術の進歩に合わせて、そういう合理的な仕組みをつくっていくことで、小さな暮らしと住まいを選択するひとたちが増えていくと思っています。
(インタビュー後編 終)