つながってはたらく。個の時代の働き方
MUJI VILLAGE プロジェクト | 2022.1.7
2021年の春から夏へと季節が変わるころ、私たちは「ぜんぶ、無印良品で暮らそう‐ワーケーション篇‐」と題して、無印良品の平屋『陽の家』で一週間暮らしてくださるグループを公募しました。
そんな私たちの呼び掛けに応じてくださったたくさんの方のなかから5組のみなさまに、『陽の家』でのワーケーションを体験していただきました。
今回は、そのうちの1組で全員フリーランスとして働く5人の仲間たちにお話をうかがいます。
場所にも時間にも縛られず、ワーケーションという概念すら飛び越えて軽やかに暮らし働く彼女たちの思いとは。
今回のお話の舞台 無印良品の家の平屋『陽の家』
千葉県いすみ市の住宅地を抜けた山の上、林のなかにたたずむ無印良品の家の平屋『陽の家』。樹齢400年ともいわれる山桜のシンボルツリーが迎えてくれる。同敷地内には、グランピング施設『フォレストリビング』も備える。
ふだんはモデルハウスとして運営されているこの場所で、一週間を自由に暮らす仲間たちのワーケーションタイムにMUJI HOUSEの川内浩司がお邪魔し、お話をうかがった。
『陽の家』で仲間たちとワーケーション
- 川内
- 本日は、「ぜんぶ、無印良品で暮らそう‐ワーケーション篇‐」に参加してくださっているみなさんにお話をうかがいたくてやってきました。
- 川内
- MUJI HOUSEでは、今後は家は「暮らす」だけの器ではなく、仕事の場であったり、家族以外の宿泊の場であったりとさらに多様化していくと考え、MUJI VILLAGE プロジェクトをスタートしました。
- 川内
- MUJI VILLAGEプロジェクトでは、新しいかたち・場所で「集まって住む」「つながって住む」ことで、働き方も含めて、より豊かに暮らすことができ、かつ“場”の価値が上がっていく状況を創出することを目指しています。
みなさんは、フリーランスコミュニティを運営してつながっている仲間と聞いています。みなさんの働き方や暮らし方についてうかがっていきたいと思いますが、まずは『陽の家』でのワーケーションはいかがですか?
参加にあたって、何かやろうと決めたことなどはあったのでしょうか。 - 井上さん(以下、敬称略)
- 私が、この企画に応募しました。いまここにいる4名と、今日は仕事の都合で参加できなかった1名(ゆうさん)のあわせて5名で、『陽の家』での一週間を過ごしています。
- 井上
- 『陽の家』でのワーケーションにあたって、全体で決めていたことはありませんでした。
みんなで集まって、これからやりたいことの話をしたり、偶発的に生まれることに期待して参加させていただきました。
それぞれの働き方でワーケーションを楽しみつつ、スキルの交換や、互いの夢や思いを語り合い刺激し合いながら高めあっていければと考えていました。
昨夜もみんなで話をしていて、みんなの思いとかを聞いて、私も刺激を受けたし、温かい気持ちになりました。 - MONAさん(以下、敬称略)
- 私は、いろいろと打ち合わせがあったので、この空間のあちこちでオンラインミーティングをしていました。
- MONA
- 私が写真撮影で全国各地を飛び回っているのはクライアントのみなさんご存じで、「すごく素敵なところにいるね! 今日はどこにいるの?」なんて会話が楽しかったりして。
背景を気にする場合はあっち、みんなが写り込んでも問題ない場合はこっちと、打ち合わせによって場所を選んでやっていました。いろんなところに居場所があってよかったです。 - HALUさん(以下、敬称略)
- 私は、今年立ち上げたライフスタイルブランド『mari』のリリースを控えているので、リリースの告知文の準備や試食会のDMを送ったり、ITでできることをやっていました。
- SHIHOさん(以下、敬称略)
- 私も、クリエイティブのお仕事の業務連絡をslackでしたりしていました。
- MONA
- あとは、個々の技術情報を交換する時間があったかな。ソフトの使い方だったりとか、みんなで絵を描いたり、ウッドデッキでヨガをしたり、スイーツ食べて、写真を撮って。
- 井上
- 私は、今朝もオンラインでヨガレッスンをしていました。パソコンとネットワーク環境があれば、どこにいても仕事は完全には止まらないですね。
つながる時代の仕事とプライベートの境目
- 川内
- むかしは、仕事とプライベートをきっちり分けるのが「できる人」といわれました。それがいまでは、ワーケーションという言葉もそうですけど、プライベートと仕事の境目がなくなっている人たちがいっぱいいます。
僕自身も、休暇で旅にでかけようとしていたのに、どうしても出なければならない会議が入ってしまった場合、むかしなら休暇をあきらめるということもあったかもしれませんが、いまなら旅先で会議の時間だけパソコンでオンライン会議に参加するということができるようになりました。逆に言えば、どこでも仕事ができてしまうということは、逃げ場がない、ということでもある。そもそも、ワーケーションがよいことなのか悪いことなのかもまだ過渡期だと思います。
仕事とプライベートの境目、みなさんはどうしていますか。 - 井上
- 私は、会社員の彼と同居をしているのですが、自分のメンタルバランスを保つために住まいとは別に家具付き賃貸サービスなどを活用して、もうひとつの拠点をつくっています。
そこでは、気持ちを整えたり、仕事をしたり、お友達を呼んで楽しんだり。仕事でもプライベートでも使っています。
2拠点で空間を分けてはいますが、どちらの空間でも仕事もするしプライベートな時間も過ごします。仕事の時間、プライベートの時間と「時間」を切り分けている感じです。 - MONA
- 私はフリーランスの彼と同居しています。ふたりともフリーランスで、境目がないのは自分たちのなかでも課題です。
線引きがなさすぎてキツくなってくるので、カレンダーをつくってふたりのスケジュールを管理しながら、どちらかが家を空けたりしてバランスをとっています。
世界と日本各地に拠点がある定額住み放題サービスを活用して、ふたりでワーケーションをすることもあります。私は全国へ撮影をしに行くので、仕事でも活用しています。
今日は休みと決めた日でも、スマートフォンで仕事の問い合わせへの返信をしたりはしますね。 - HALU
- 私は、生活のすべてが仕事のためですね。休みっぽくしたいときも、すべての活動には仕事がベースにあります。自分の興味のあるものが、マネタイズにつながると考えています。
住まいは、逗子で彼と同居していて、葉山に同業の方とシェアしている古民家の工房を構えています。どちらもシェアなので、2拠点を1物件用の家賃で賄っているという状況です。 - SHIHO
- 私も好きが仕事になったので、グラデーションです。境目はあいまいです。すべての時間が仕事につながっているという考え方っていいなと思っています。
でも、つめこみすぎると自分が疲弊しちゃってよいアウトプットが出せないし、余白の時間を楽しむことは大切。それで、よい循環が生まれるんじゃないかと思います。
私は、東京の一戸建てのシェアハウスに住んでいて、会社員2人、フリーランス2人の女性4名で暮らしていますが、それぞれのライフスタイルに違和感はありません。もちろん家でも仕事をしますが、誰かが隣の部屋にいるという安心感にも助けられています。
「個」として生きていくこと
- 川内
- みなさんは、フリーランスコミュニティの仲間ということですが、どのようにつながっているのでしょうか。
フリーランスとして個人で働いて収入を得ていくことや、世間の共感を得ることへの不安はなかったですか? いまの働き方や暮らし方を選択した思いを教えてください。 - 井上
- フリーランスコミュニティは、#個の時代の入春式 といって、入社式のように、フリーランスがそれぞれの思いを綴って発信するという企画を呼び掛けたことからスタートしました。
同じくらいの世代で夢に向かって頑張っている人たちとつながりあって応援しあえる関係を築けたらいいなと思ったんです。
- 井上
- 現在は50人くらいのメンバーで、日ごろはLINEグループ内でコミュニケーションをしています。あとは個々につながって、一緒にお仕事をすることも多くなってきましたが、そもそもは仕事というよりはひとりの人として仲良くなりたいなというのが始まりでした。
私は、関西から東京へと上京したため、独立当初は家探しから始めました。不安はなかったわけではありませんが、日本にいれば何かしら職はあると思い、そういう意味では死なないなと思っていました。
また、ヨガを通して多くの人に健康になってほしいという思いが強く、縛りの強い会社よりも個人で活動した方ができることの幅が広く、早いのではないかと考え、独立しました。 - HALU
- 私は、大学卒業後に就職せずすぐにフリーランスとして活動を始めました。高校時代に無理なダイエットがたたって体調を崩したことをきっかけに、将来は「食」で独立すると高校3年生のときに決めていました。
活動費用は、すべて自己資金です。大量生産ではなく受注生産。拡大志向ではなく、わかる人に届けたい。スイーツの食材は限られているので、たくさん売れればよいだとどこかで搾取がある。それこそ森林伐採につながるとか。
売れすぎると弊害というのが絶対にあるので、伝わる人まででいいなというのがあるし、それこそサスティナブルなんじゃないかなというのが自分のなかであります。
フリーランスとして不安はもちろんありますが、大学時代に身に着けたデザインスキルがあればなんとかなると思っています。 - MONA
- 私は、もともとはフリーランスにはなりたくなかったんですが、ウエディングフォトグラファーとして修行時代を過ごした会社を辞めて転職活動をするなかで、独立をすすめてくださる方が多くて、面接にいったのにフリーランスになる後押しをしていただきました。
現在、独立3年目で生活面はとくに困ったことはないです。お金はなくても、なんだかんだ生きていけるし、それよりも新しいことにチャレンジしていたいと思っています。 - SHIHO
- 私は、イラストレーターとして今年8月にフリーランスになりました。
大学を出て、IT企業に就職して営業・Webマーケティング職についたのですが、欲しがってもいない相手に営業して販売しなくてはならないのが苦しくなってしまって。
自分にできることは何かと考えたときに、子供のときから好きだった絵を描く、デザインするというので生計をたてられたらと、副業で実績を積みながら2年ほどかけて独立しました。
私も、ずっとフリーランスとして働くのは怖かったです。でも、いまやらないと、この先の人生が決まってしまう。パラシュートがついてると信じて、崖から飛び降りるような覚悟で独立しました。
始まりには、いつも思いがある
- 川内
- いまITのちからで、フリーランスと会社員というものの仕事の仕方が混ざってきていると感じています。
プライベートと仕事の境目も、その境界線はあいまいになってきている。よい場所で本を読みたいというのと同じような感覚で、良い場所で仕事をしたいというのが広がっている。そういうのがワーケーションとして広がっていくんだろうなと思います。
- 川内
- 「どんな仕事も、一生懸命やったら好きになる」というのが僕の持論ではありますが、本日みなさんの働き方への思いをうかがって僕も共感するところがたくさんありました。
無印良品も、思いが強い会社です。面倒くさいくらい強い(笑) 新しいことを始めようとしたときには、儲かるか儲からないかではなくて、無印良品として受け入れられる考えかというところから始まります。
MUJI HOUSEもそうです。大量生産して儲けようということではなくて、私たちの家づくりに共感していただける方にお届けすることをいちばんに考えています。
それは、決められた間取りしかできない家ではなく、間取りを編集できる家。
今日お話をうかがったように、働き方、つまりは暮らし方は俗人的にも時代的にもどんどん変わっていく。そんな変化に追随できる、永く使っていただける家づくりを目指しています。
本日は、ありがとうございました。
ゆう
クリエイティブディレクター/スタイリスト兼スタジオオーナー
バー、壁紙、雑貨のプロデュース、インテリアスタイリングなど多彩に取り組む。
クリエイティブディレクター/スタイリスト兼スタジオオーナー
バー、壁紙、雑貨のプロデュース、インテリアスタイリングなど多彩に取り組む。
MONA
フォトグラファー
「カメラを通して人生を温める」をコンセプトに撮影で全国を飛び回る。
フォトグラファー
「カメラを通して人生を温める」をコンセプトに撮影で全国を飛び回る。
HALU
Plant based brand『mari』プロデューサー/ビューティーライフデザイナー
植物由来原料のみでつくるスイーツの受注販売などウェルネスな「食」をテーマに多方面で活動。
Plant based brand『mari』プロデューサー/ビューティーライフデザイナー
植物由来原料のみでつくるスイーツの受注販売などウェルネスな「食」をテーマに多方面で活動。
井上いとよ
ヨガインストラクター
癒しをテーマに、さまざまなかたちでヨガレッスン・イベントを開催。
ヨガインストラクター
癒しをテーマに、さまざまなかたちでヨガレッスン・イベントを開催。
SHIHO
イラストレーター/ブランディングデザイナー
「その人らしさ」を伝えるイラストからロゴデザインまで幅広く手掛ける。
イラストレーター/ブランディングデザイナー
「その人らしさ」を伝えるイラストからロゴデザインまで幅広く手掛ける。
川内 浩司
株式会社MUJI HOUSE取締役/「無印良品の家」住空間事業部開発部長/一級建築士
無印良品が考える感じ良い暮らしをかたちにすべく、新築注文住宅から、マンション、リノベーションまであらゆる「住まいのかたち」づくりに関わる。