バイヤー・監修者の山田 遊さんが、緑の庭を抱く「窓の家」に会いに行きました。
家に会いに | 2023.1.25
プロローグ
一所懸命
現在の僕の仕事から考えると、かなり異色であると思うのだが、子どもの頃から歴史が好きで、大学でも史学を専攻していた程だ。日本史の教科書を開けば、中世・鎌倉時代のページで必ず行き当たる「一所懸命」という言葉。文字通り、己の土地を命に懸けても守るという、当時の武士の価値観を表している。
借家ではあるものの、住宅街の中の一戸建てに住んでいると、それぞれの家や
土地は塀や柵、生垣などで、厳重に囲われているように見える。また、たとえそれが囲われていない場所においても、コンクリートやプラスチックの杭、また、金属の板や鋲によって、眼には見えない数多の境界線が引かれている。
そんな街では当たり前の風景を見ると、根強い持ち家信仰も含め、日本人は自身の土地に対して、今でもつくづく一所懸命であるように思えてくる。
もちろん家でのプライバシーを守るために、また、隣人の土地や近接した公共の場との区分を明快にするためにも、そういった境界線は欠かせないものだ。ただ、その境界線が、他を遠ざけるように厳格であればある程、途端に自分たちの生活が窮屈なように思えてしまう。この家を訪れて、まず、そんなことがぼんやりと頭に浮かんだ。
ダイアログ1
だから、ここに建てました
山田 遊さんが会いにいった家
植木の圃場が広がる宝塚で、花と緑が好きな家に育ち地元を愛するYさんは、学生の頃から実家に近い、庭がある戸建住宅に住み、結婚後もその家に暮らし続けました。やがて、次女の誕生を控え、家族4人が快適に生活できる住まいを求め、Yさん家族は家づくりを考え始めます。
第一条件は「地元」に建てること。実家からもほど近い住宅街で見つけた土地は、お隣も「無印良品の家」を計画中でした。Yさん家族はこの場所で、前の家で愛用していた家具や庭木と、一緒に暮らす「窓の家」を建てます。地元と地縁につながり、以前の住まいの記憶を結ぶ、新しい「実家」の完成です。
すぐお隣の「木の家」は、前号でご紹介した「音色の家」です。
「どうぞおあがりください!」
「おじゃましまーす」
- 山田さん
- 「窓の家」の窓辺に何が置かれているか。ちょっと興味がありますね。「窓の家」はそこに住み手の個性が出ますよね。
ウッドデッキは縁側のイメージ
- 山田さん
- 事前にお隣が「木の家」だと聞いていて、「無印良品の家」が二軒並ぶとどんな感じなのか、訪ねるのが楽しみでした。外から見ると、お隣とゆるやかにつながっているように見えますよね。都市生活では隣の家との関係性も、住まいを選ぶ選択肢になっていると思いますが、その点、ここは理想的なレアケースですよ!
- 夫
- 日曜日の夕方、駐車してるクルマを移動して、そこを広場にして、子供たちがお隣の子と一緒に遊ぶんですが、その風景はホンマにいいですよ。
- 山田さん
- 開放的な「無印良品の家」の特質が生きてると思います。お隣と挨拶しやすい雰囲気があるし、子供たちも行き来しやすい。敷地いっぱいに建物をつくり、塀を立てて窓にシャッターつけて、境界線を厳格にすると、そんなつながりはつくりづらいですよね。
- 妻
- 子供が泣いていると、隣の長女が庭まで来て、「大丈夫?あとで遊んであげるねー」って。昔の縁側みたいな感じですよ。
- 夫
- 子供たちには玄関は関係ないですからね(笑)。
- 夫
- 近隣には30坪程度の建売住宅が多く、こことほぼ同じサイズなんですよ。でも開放感はぜんぜん違うと思いました。
- 山田さん
- 周囲には集合住宅や家が多いけど、家の中に入るとそんな密集した印象がないですよ。視線の先に庭があるのも効いてます。
- 夫
- 庭は、京都のお寺の額縁庭園のイメージに倣ったものです。
いろんなモデルハウスを見学しましたが、同じ床面積のリビング・ダイニングでも、空間の持つ開放感が違うんですよ。この家でなければ、庭を削ってでも建物を大きくして、室内を広くしようと考えたかもしれません。私たちは日頃、気づかずに暮らしていますが、建具のデザインを始め、細部の一つ一つに心を配った結果が、この空間の質につながっていると思うんですよ。
- 山田さん
- 古い家具は以前の住まいの頃から使っていたものですか?
- 夫
- 新しく買ったのはソファと食卓くらい。以前暮らしていたのは、古くて小さな家でしたが、漆喰の味わい深い室内で、そこに合わせて探し求めた家具でした。大事にしていた家具なので「窓の家」に馴染むかどうか、最初は心配だったんですよ。でも見事に馴染んで、真っ白な壁を背景に、空間にうまく調和してくれました。
- 山田さん
- なるほどね。確かに「窓の家」は、空間の許容性は高いなと思いました。いろんな趣味を受け入れてくれる懐の深さがありますよね。そこはちょっと驚いたところかな。
- 妻
- 私たちも住んでから、懐の深さに驚くこと多いですよ。
飾りたくなる場所に住まい手の感性が宿る
- 山田さん
- 内装は標準設定があると思うんですが、どれくらいフレキシブルに、建て主の意向を反映してくれるんですか?
- 夫
- 何でもかんでも自由ではないと思いますが、デザインのバランスが崩れないように調整しながら、予想以上にいろいろ聞き入れてもらえました。前の家の家具を使うことは決まっていたので、まず配置を決めて、それに合わせて窓の高さを調整してもらったり、神棚も後付けじゃなくて、キッチンのニッチと合わせてつくってもらいました。方角もぴったり。
- 山田さん
- この神棚はベストポジションですよ! キッチンには素敵な鍋がたくさんありますねー。これ、ぼくも使ってます。
- 妻
- 子供にたくさん野菜を食べてもらうため、今は鍋で煮込む料理が多いので。山田さんも料理をされるんですか。
- 山田さん
- しますよー!!
- 妻
- キッチンは広いほうがケンカにならなくていいですよね(笑)。
- 夫
- 幅はもちろんですが奥行きも重要!
- 山田さん
- ぼく、実は「窓の家」に住んでる方は、窓のフレームに何を飾ったり、置いているのか気になっていたんですよ。そこに住まい手の個性が表現されるような気がして。このキッチンの窓みたいに、やっぱり何か並べたくなりますよね。
- 夫
- 暮らしの余白みたいな感じでしょうか。
- 山田さん
- そんな、住まい手が何かやりたくなるような余地、飾りたくなる余白が、暮らしを豊かにするんじゃないかって思うんですよ。
ダイアログ2
庭と窓の話
リビングから庭を眺めながら
- 山田さん
- リビングからの庭の設えを見ると、もともとディスプレイすることが好きなんですよね、きっと。
- 妻
- そうそう、主人は常にメジャーを片手に、測りながら配置を調整していますからね。
- 山田さん
- あー、わかります。計算してつくり込んでますもんね。僕の仕事と一緒ですよ。
- 夫
- 暇があればメジャーを持って外に出て、スケッチを描いてね。植物がどれくらい育つかを考え合わせながら、いろいろやってます。
- 山田さん
- 僕も売り場のディスプレイの時はメジャーが必携で、必ず測りながら作業を進めますが、たぶんご主人も同じようなことやってるんじゃないかな。目に浮かびます。感覚だけじゃなくて、測って、計算してつくってますよね。
- 夫
- そうですねー。とりあえず視覚的にきれいに並べてから、確認のために測って、最初の計算通りだったりすると、それはそれで嬉しかったり、とか。
- 山田さん
- あー、それ、あるある。わかりますよー(笑)
- 妻
- 主人の影響なのか、子供たちもメジャー持って、意味も分からずいろいろ測っては、「よしっ」とか、やってますよ(笑)。
- 夫
- グリーンの葉も伸びすぎてもあかんので切ったりとか、それがまた楽しいんですけどね。これがもっと自然な感じになると良いのですが……。ここは植木で有名な町なので、街のお庭のコンテストがあるんですよ。入賞した庭を巡るツアーもあって、ウチももう少し庭が整ったら応募して、人が見にきてくれるような庭にしたいなあって思ってます。
- 山田さん
- まるでイギリスじゃないですか。いいなあ。
- 夫
- 庭は必ずつくろうと思っていましたが、明確なイメージはなくて、決めていたのは縁側的なウッドデッキとシンボルツリーの位置くらいですね。前の家の庭木を組み合わせて、この形になったのは最近なんですよ。
デッキでは、子供が水遊びしたり花火を楽しんだり。気持ちが良い季節は庭で食事をしたり。風通しが良くて気持ちが良いです。住宅が密集する土地だったので、どれだけ開放的な家を実現できるのか、正直不安でした。でも、窓の配置の工夫で、家に入ってしまうと、建物に囲まれている感じがないんですよね。 - 山田さん
- 確かにそうですねー。
子供たちが遊ぶ2階へ
- 山田さん
- 2階が賑やかですね(笑)。拝見してもいいですか。
- 夫・妻
- どうぞー。
- 夫
- 吹き抜けがどうしても欲しかったので、それぞれの部屋を最小限に計画して、残りのスペースを思い切って吹き抜けにしてます。
- 妻
- キッチンに立ってても子供の声が聞こえるし、雰囲気も伝わってきますね。ケンカしてるな~とか。
- 山田さん
- 実は僕は「窓の家」見るのは初めてで、この吹き抜けの室内窓も含めて、開口部がたくさんあると、きっと光がたくさん入って明るいんだろうな、と思っていたんですよ。でも、それだけじゃないですよね。さっきも少し話しましたが、窓辺が増えるということは、何かを飾る「棚」も増えている。窓を設けると同時に飾り棚が増えているんですよね。
- 夫
- 床の間がたくさんある感じかな。窓辺に何かを置く場合も、季節感は大事ですから。
- 妻
- けっこう悩みますよー。日々悩んでます(笑)。
- 山田さん
- ウンウン。
ここが子供部屋ですねー。うわ~これは楽しいよね。二人で遊び放題だもんなー。 - 夫
- 子供部屋はとにかく楽しい空間にしようと思いまして……。
- 長男
- はい、どうぞ! 走るー走るー働くクルーマ~♪
- 山田さん
- あ、ミニカーいただいちゃった。ありがとう。テントかっこいいねー。
- 長男
- えへへ。
- 夫
- 長男と長女なので、将来はそれぞれの個室が必要になると思うんですよ。だからこの部屋は真ん中で仕切って二部屋で使えるように考えてます。
- 山田さん
- なるほどね。
あれ? これは、おもちゃじゃなくて楽器ですよね! - 夫
- フォルクローレの楽器です。今は子供が遊んでますが、以前は僕が演奏してました。教則本がないので、見よう見まねで。プロの演奏のビデオを見ながら練習していましたね。
- 山田さん
- そうだったんですか。
- 夫
- 実家でピアノ教室をしていた母は、早くに亡くなったのですが、オカリナの音色が好きで、小学校の頃から僕にオカリナを吹かせていたんですよ。オカリナでよく演奏されるのが「コンドルが飛んでいく」なんですが、そこからフォルクローレの世界へ入りましたね。ピアノより民族音楽の素朴さに惹かれるようになったんですね。ケーナやサンポーニャを知って、どんどんはまって、その頃はグループに参加して演奏させてもらってました。
- 妻
- いつか二人でペルーに行きたいですねー。二人とも旅行が好きで、行きたいところも似てるんですよ。
ダイアログ3
「窓の家」と「木の家」が並ぶ景色
クルマの話から家の話へ
- 山田さん
- ひょっとして前のクルマはminiだったんですか。僕も乗ってましたよー。縦列駐車が大変でね。
- 夫
- 昔のmini、好きでしたからね。小さいクルマで小回りききそうなんですが、やたらと大回りが必要でしたね(笑)。
- 山田さん
- そもそも普通のチャイルドシート付けられないですもんね。
- 妻
- ベビーカーを屋根に乗せて走っていたら、駐車場のおっちゃんに「奥さん、旦那さんに新しいクルマ買うてもらえや」って言われてたし(笑)。
- 山田さん
- 僕は今はカングーに乗ってますが、国産で魅力的なクルマがあればそれを選びたいんですけどね。これはハウスメーカーの住宅にもいえますが、単純に売れるものだけを評価しちゃうと、イノベーションは起こりずらいし、魅力的な商品は生まれてこないですよ。
- 夫
- 僕は「家」を見るのが好きで、「無印良品の家」以外のモデルハウスもけっこう見に行ってるんですよ。いまの家を建てるときも、同時進行で紹介された工務店からの提案も受けていたんですが、外見もプランも、そのへんの建売とほとんど一緒なんですね。注文住宅なのに注文住宅っぽくない。しかも「そんなこと注文していないよ」みたいなことも勝手に図面に描かれていたり。
- 妻
- 2階にトイレはいらないって言ってるのに、いつまでも2階の平面図にトイレが描かれていて「絶対にこっちの方が便利ですよー」とかね。
- 夫
- 外構も勝手にデザインされて「これかっこいいでしょ」とか。「外構は自分でやるゆーてるやないですか!」って。
- 山田さん
- もう、それ「注文してないよ住宅」ですね。きっと押し切られちゃう人もいるんでしょうね。
- 夫
- いや、多いと思いますよ。例えば「窓の家」の天井高は2m30cmですが、「天井は高いほうがいいですよ。無印良品の家みたいな低い天井はダメです」って。いまこうやって見ると、低くて圧迫される感じはまったくないし、仮に天井高が2m50cmだったら、この家具を置くと空間が間延びして、合わなかったと思うんですよね。天井は高いほうが贅沢、と、高くする傾向があるみたいですが、そこに置かれる家具のサイズまで考えているのかなーと思うことがあるんですよ。
生活で使う道具と合わせるなら、「無印良品の家」はバランスがいいなーって思います。スプーンから家具まで扱ってる無印良品ならではの、リアルなバランス感覚が息づいている。ここまで空間のバランスが良いと、部屋に置くモノを選ぶのも慎重になるし、ちゃんと計算して飾ろうと思うようになりますよ。 - 山田さん
- 確かに空間の余白の活かし方や、切り取られた空間の使い方に意識的になりますよね。実際に人が暮らす「窓の家」を訪ねるのは初めてですが、それをすごく感じましたよ。その点、この家は本当に考えられている。壁面のレイアウトも相当考えてますよね。壁とフレームと時計のバランスも見事ですよ。
- 妻
- 時計をどこに掛けるかは、あの時計の大きさに紙を切り抜いて、壁に貼って時間かけて考えてましたからね~。
- 山田さん
- それ! それ大事です。
- 夫
- ネットを使えばモノは翌日には届くけど、それを設置するビスを打ち込むまでは、時間をかけて考えて、決まってからも最後の確認をしたり……。でもね、そういうことを考える生活がなかなか面白いんですよ。
- 山田さん
- 面白いですよね。そうした意識をどう持てるかですよね。壁の空白や窓によって生まれるスペース。そこをどう使おうか。そんなこと考えなくてもいいはずなのに、それを意識的に考えることで暮らしの質が高まっていくのだと思います。
- 夫
- そうですねー。気にしなくなると暮らしに対する考え方も希薄になるし、モノへの愛着もなくなりますよ。
- 山田さん
- 例えば、子供が口に入れる食べ物だったり、日常で肌に触れるものとか。そういうモノへの意識や関心も薄れてきますよね。
- 夫
- 僕は昔っから理屈っぽいって言われましたけどね(笑)。
でも、「無印良品」の商品や「無印良品の家」も真面目な理屈で構築されてるじゃないですか。家具のモデュールも、しっかり計算されている。ああいうの好きなんですよ。 - 妻
- 特に男性はそういうの大好きですよね。
- 夫
- でも、工業デザインってそういうものだと思うんです。理屈があってできてるのがデザインだと思います。
リビングに座卓を並べてティータイム
- 山田さん
- リビングは座卓にすると、また雰囲気が変わりますね。これもいいじゃないですか。
- 夫
- だんじりをやってるので、仲間が集まって飲んだり食事したりすることがあって。座卓の宴会モードにすれば10人くらいは楽に座れますよ。
- 山田さん
- 床座で庭を眺めるのもいいですねー。
- 夫
- 前の家は狭かったですからね。子供が生まれてそろそろ家を考えようかって、ありきたりの理由から家づくりは始まったんですが、最初は漠然と考えるくらいで。
- 妻
- たぶんその頃に、私がたまたま「無印良品の家」のモデルハウスを見かけて……。
- 夫
- 最初は、その家で使ってるモノが全部、無印良品の商品なんだろうなと思っていたんですよ。ところが行ってみると、建物も無印良品だった!
- 妻
- 衝撃的でした。それで一気に。
- 夫
- 僕は無印良品が特別好きというわけではなくて、むしろMUJIだけで暮らす人と自分は違う趣味だと思ってましたから。でも「窓の家」のモデルハウスに入った瞬間のインパクトは大きかったです。宝塚店は「木の家」と「窓の家」の二つのモデルハウスがあるんですよ。うちは「窓の家」かなーと。
- 妻
- 三角屋根の「家」らしい形も好印象でした。
- 山田さん
- 暮らしぶりも趣味も「木の家」より「窓の家」に合ってるんじゃないかと思います。
- 妻
- お隣は逆に「木の家」にぴったりの雰囲気なんですよ。ライフスタイルと調和する素敵な空間になっています。インテリアのことは本当に勉強になりますよ。
- 山田さん
- うーん、「無印良品の家」が並んでいて、しかも同じタイプの家じゃなくて、「木の家」と「窓の家」が並んで建ってるなんて。これは奇跡ですよね。
- 夫
- この土地は、一筆の土地を二つに分けて売られていたのですが、入手の条件は、隣と2棟同時に建てることだったんですよ。たまたま宝塚店で「木の家」を建てる土地を探している方がいらして、それで地鎮祭も合同で催して、そのときに初めてお隣の家族と会ったんですよね。いまでは一緒に庭づくりを楽しんだり、インテリアの相談をしたり。家族構成も同じで、子供の誕生月も同じ。ご飯を一緒に食べたりもしますよ。
- 山田さん
- 家をつくるときは、きっといろいろな選択肢があって考えてしまうと思うけど、この家とお隣の家が並んでいるような環境だったら納得だな。これが都内で実現できれば、ホンキで考えちゃいますね。隣の家もセンスの良い佇まいや、キレイな庭であってほしいですから。それが塀や垣根を立てるのではなく、ゆるやかにつながっている感じは素敵だと思います。
- 夫
- 家のコンセプトも大きいですよね。庭に面した大きな窓から、庭を経て駐車スペースに抜ける流れと、お隣の大開口とウッドデッキの外部空間のゆるやかなつながりは、意図して計画したものではなく、「無印良品の家」がもともと特徴として備えていたものです。外に出て「こんにちは」って、言葉を交わしやすいし、子供たちも行き来しやすい。もしも敷地面積にいっぱいに家を建てて、塀をつくり、シャッターつけて、閉鎖的になれば、どんだけ同じデザインの家が並んでも横のつながりはつくりにくいと思います。
- 山田さん
- 2軒でここまでできるなら、3軒、4軒集まればもっといろいろできますよね。さすがに街規模になると難しいけど、回覧板を回すくらいの規模なら理想的じゃないですか。
- 夫
- それくらいの区画って、自治会をつくるほどじゃないし、コミュニティとしては成立しづらい気がします。でも、もしも「無印良品の家」同士のゆるやかなつながりができれば、エリアの結束は大きいと思うし、小さなコミュニティでも存在を認められるようになるかもしれませんね。
無印良品が千里中央でやっている「MUJI×UR」のプロジェクトは、個人的にとても興味があって、地域コミュニティを再生する手段としてはなかなか良いなあと思います。面白いですよね。自治体や福祉法人がやらなければならないことを、無印良品が違う方法でやっている。 - 山田さん
- なるほどね。
- 夫
- 家づくりは、十分な時間があれば、建築家に依頼するのもアリだったと思います。ただ、建築家に頼むとこだわりすぎて、訳がわからなくなる不安もありました。でも、「無印良品の家」は、ハウスメーカーと建築家の中間くらいの立ち位置なんだと知って、ディテールは無印良品がある程度セレクトした中から選び、モデュールで計算されているベースもお任せできる。あとは、自分たちが大切にしてるモノを活かせるプランやレイアウトに集中したかったんですよ。
- 山田さん
- 選択肢が広いことが豊かではないんですよ。お店もそうですが、何でもかんでも選べると、顧客は逆に選べなくなる。そのために選ぶプロがいるわけですから。
- 夫
- そういうもんですよね。今日は山田さんとお話をして、改めて家のことをたくさん考えましたよ。
- 山田さん
- 僕も今日一日で、家のこと、考えるようになりました!
- 夫
- 住んでからでも家のことを考えてますけどね。次は何を飾ろうか、より住み心地よくするために何ができるかとか。それは改修とかリフォームとかじゃなくて、日々の暮らしの中のことなんですよね。
- 山田さん
- そうですよね。今日は本当にありがとうございました。
エピローグ(編集後記)
小さく豊かなコミュニティ
Vol.20とVol.21は、「家に会いに。」初のお隣さん同士の取材となりました。
(たねあかしになりますが、前回の編集後記で予告した「続きのストーリー」とは、お隣さんの「窓の家」に会いに行くということだったわけです!)
「木の家」と「窓の家」、形は違えど同じ無印良品の家に住む二つの家族の暮らしは、それぞれの商品の特性を生かしたとても感じの良いものでした。今回お邪魔したYさんの「窓の家」のリビングから望む庭の美しさは、ご主人のガーデニングへのこだわりと情熱によって実現したもの。室内から四季の移ろいを感じることができるのは本当に素晴らしいです。
さて、今回の「続きのストーリー」ですが、このように無印良品の家が二軒並んで建っているケースは非常に珍しいですし、二家族がお隣同士になった経緯や地鎮祭まで合同で執り行ったという家づくり中のエピソードなどを聞かせていただくうちに、二つの「無印良品の家」で暮らす家族の素敵な関係性も含めて、これはぜひ二軒ともご紹介したいと思ったのです。
訪問していただいたバイヤーの山田 遊さんも対談の中で触れていますが、二つの建物の間にはフェンスは設けず、緩やかにつながるようにしていることが家族同士のコミュニケーションをスムーズにしています。今回MさんとYさんはそれぞれ「無印良品の家」で豊かに暮らしたいという同じ価値観のもとに計画を進められたので、通常ではなくすことがなかなか難しい境界部分の考え方も自然とバリアを取り去る方向になっていったのではないでしょうか。
これまでも私たちは、「住人祭」や「MUJI×UR団地リノベーションプロジェクト」などで新しい地域コミュニティの形成に取り組んできましたが、今回のように「無印良品の家」に住む二軒のお隣さん同士というもっとも小さな単位ではあるものの、豊かで楽しく、美しいコミュニティが生まれていることは、私にとっても新たな発見でした。そしてそれが建物の関係性も含めて、二家族がどのように暮らしたいかをもとに生み出されたものであることは、本当に素晴らしいことです。家づくりを通じてこのような意識が高まれば、自然なご近所づきあいも生まれ、薄れつつある地域コミュニティもまたつながりを強くしていくことができそうです。
ページ冒頭の写真は、Yさんが「こんなコミュニティがもっと増えたらと願って」とお送りいただいたもの。「無印良品の家」がつなぐ二つの家族。毎日がとても楽しそうです。(E.K)
「無印良品の家」に寄せて | バイヤー・監修者 山田 遊さん
生活を形作っていくこと
普段、仕事で店をつくる際や、自社の事務所に対しては、こだわりが強く、細部にまで執着してしまう一方で、僕自身は、借家に住んでいるせいか、自宅に対してそもそも他人のものだ、という意識をまだ払拭できないでいる。そのため、自分の日々の生活に対しては、こだわりや執着の意識は希薄で、それどころか、むしろ淡白なあまり関心がないようにすら思える。
その反動だろうか、僕は、知人や友人の自宅を訪れた際に、一通り、家の中を見回ることが、なぜかとても好きだ。どこか外で長い時間を費やして、その人と会話するよりも、家で生活している様子や、置かれているものなどの風景を通すことで、その人自身をより一層深く理解できるような気がするからだろう。
だからこそ、今回「無印良品の家」のモデルハウスではなく、実際に「窓の家」で、家族で生活している宝塚市のYさん宅を訪問し、一通り家の中を見学させていただいたことは、個人的にとても興味深い体験だった。
どうしても僕の仕事上、ものに溢れて暮らす日々の中で、僕が夢見る自宅での生活は、必要最低限なものだけを残して、余分なものを極力削っていく作業だと考えがちだった。だが、Yさん家族が暮らす「窓の家」は、そんな僕の思い込みを見事にひっくり返してくれた。
家の中に点在し、それぞれ大きさの異なる窓を見ているうちに、窓は、ただ外光を取り入れるための存在だけでなく、時には棚や床の間のように機能し、また、時には大胆に壁を切り取ることで、空間の中にあるそれぞれのものが置かれる場所を、緩やかに導いてくれていることに気がついた。それは、家具や生活道具はもちろん、窓辺に置かれた調度品たちも、そして窓の外のYさん作の庭の植物に至るまで。そんな、過不足もなく適切に置かれた、Yさん家族と共に日々を過ごしているものたちを眺めていると、なんだかとても良い気分になれたのだ。
そう、単純なものの多寡や、増減の問題ではないのだ。もちろん、家という箱だけでも、ものという中身だけでも、僕たちの生活は成り立たない。だからこそ、家とものの間にある理想的な均衡を意識し、考え、そして手を動かし続けることで、生活は形作られていくのではないのか。Yさん家族は、確かに丁寧に生活を形作りながら、豊かな日々を過ごしているように、僕には思えた。[2016.10]