家具デザイナーの藤森泰司さんが、木製家具が映える「木の家」に会いに行きました。
家に会いに | 2023.1.25
プロローグ
下地のようなもの
自身の仕事でありながら「家具って何だろう」といつも思う。もちろん、生活に必要なものだし、道具として使いやすいかどうかも重要だ。そして、そのフォルムの美しさも大事な要素のひとつだろう。だけど、本当にそれだけだろうか。何だかピンとこない。 以前、小中学校の学童家具をデザインする機会があった。自分の記憶をたどってみても、子供から大人になっていく学校というところは、とにかくいろんなことが起こる。 希望も絶望も一緒くただ。学校の机と椅子は、いつもそんな時、出来事の背景としてしっかりと存在していた。取るに足らないもののように見えて、実はとっても大事な存在なんだと改めて思った。生活というものは、確かな根拠があるようで実は曖昧で掴みどころのないものだ。だからこそ、家具が必要だ。僕たちの日常にほんのわずかでも大切な秩序を与えてくれる。 生きていくための背景。もちろん家もそう。家具とは、そして家とは「下地のようなもの」なのかもしれない。
ダイアログ1
だから、ここに建てました
藤森泰司さんが会いにいった家
植木の産地として1000年の歴史を持つ宝塚市山本地区。
苗木がすくすく育つ穏やかな土地は、住宅地としても最適で、緑豊かな環境に、集合住宅と戸建住宅が共生するように立ち並び、広い空を時折、伊丹を離発着する機影が横切ります。
Mさん夫婦の「木の家」は、この閑静な住宅街に佇んでいます。
Mさん夫婦の家づくりのきっかけは長女の誕生です。
当初は集合住宅や中古住宅の改修も考えていましたが、「木の家」のモデルハウスで開放感と心地よさを体験し、その空間に暮らす家族の未来を選択。白い塗り壁を背景に趣深い照明器具と木の家具が映える新居が完成しました。
「おじゃまします」
「こんにちは!」
- 藤森さん
- ちょうど南側に大きな開口部がある理想的なプランですね。実際に家族が暮らしている家を、隅から隅まで見せていただく機会はなかなかないですから、楽しみです。
外は寒いのに床はポカポカ
- 長女
- こんにちは!(ぺこり) パタパタパタ~
- 妻
- いつも走り回っているんですよ。 階段も遊び場になってます。
- 藤森さん
- 子供が楽しそう。 フロアが床暖房みたいに温かいですね。
- 妻
- 暖房は1階のエアコンだけです。冬は窓から低い陽が奥の壁まで差し込んで床はポカポカ。逆に夏は軒で暑い日射がカットされて、2階のエアコンとシーリングファンで家中涼しいです。
- 藤森さん
- 南北の窓を開けると風も気持ち良く抜けそうですね。
- 夫
- そうですね。 夏秋冬と暮らしましたが一年中快適でした。
- 藤森さん
- 同じウインザーチェアをぼくも持っていますよ。 好きで研究しています。 小ぶりで良いですよね。 これは70年代頃のものかな。
- 妻
- 圧迫感のない椅子を探していたんです。 良いですよね。この家は自分たちが好きな家具のイメージに合わせて、床材を選び、壁は あえて「窓の家」のように真っ白にしてもらいました。
- 藤森さん
- 壁は塗装なんですね。 ぼくは集合住宅のリノベーションでもクロスの上から塗ったりしますよ。 そのほうが深みが出ますよね。
- 夫
- 建てる前は中古住宅をリノベーションしようと思っていたんですよ。でも予想外にコストがかかりそうで、それでマンションを見にいくと、今度は間取りに自分の暮らしを押し込むような窮屈さを 感じました。自分たちの「暮らし」に合った家がほしいと思っていましたから。たまたま見かけた無印良品の家の本に「我が家は、世界でたった一軒しかない」と書かれていて、それに共感できたことも「木の家」を選んだ理由の一つです。
次女はお昼寝。 長女が遊ぶ2階へ
- 藤森さん
- うわ~、 2階は広いですねー。 仕事できちゃいますよ(笑)。
- 夫
- いつも子供が走り回ってます。今は一つの空間ですが、子供の成長に合わせて間取りを変えられるので、それもこの家の良いところだと思いました。
- 藤森さん
- よく友人を招いたりするんですか。
- 夫・妻
- はい。
- 藤森さん
- 「私もこの家が良い」っていいません?(笑)
- 妻
- 同じくらいの建坪の家で暮らす方も「広いなー」って言います。 吹き抜けのおかげですね。最初は冷暖房がちゃんと効くか不安もありましたが、心配するまでもなかったですね。吹き抜けの室内窓を開けると寝室も適温で、エアコンは全部で3台ありますが、寝室のエアコンは使ったことないです。
- 藤森さん
- 室内が吹き抜けを介して全部つながっているのがいいね。 家族の気配がどこからでも感じられますし。
- 妻
- 子供の歌やおもちゃのピアノがキッチンにいても聞こえますよ。
- 藤森さん
- いいですね。それにしてもキレイに暮らしていますよね。ご夫婦の好みがはっきりしてるからか、心地よい統一感があります。
- 妻
- 二人は洋服から音楽までなんでも好きなものが似ていて……。
- 夫
- ほんまに意見が割れることがないんです。だから家づくりも、よく聞く夫婦の主権争いもなくすんなりと……。
- 妻
- 家づくりをぼんやり考えていた頃から、雑誌や本の好きなインテリアをファイリングして、それを二人で眺めたりしていました。
- 藤森さん
- 建てる前からイメージはできあがっていたんですね。
- 妻
- それを実現できるのが「この家だ」と思ったんですよ!
- 藤森さん
- なるほど。確かに無印良品の家は、多様な趣味を受け入れるベーシックな下地という感じがします。もっとモダンなインテリアが好きな方でも、その逆の方でも受け入れられると思いますよ。
建築家と一から家をつくるのも楽しいけど、それなりに労力も必要です。でも何かベースやルールがあれば、住み手はそこから自分たちの暮らしを発想できる。この緩やかなルールや寛容なベースが「無印良品の家」の絶妙な立ち位置なんですね。
ダイアログ2
2階にて、家具と住まいについて
手づくりの机
- 藤森さん
- 家具の趣味も統一感があっていいですよね。
- 妻
- あのテーブルは主人がつくったんですよ(後方写真の座布団と写っているテーブル)。今はパソコンを置いて使っていますが、もともとは食卓用につくったので、二人分のお膳がキレイに並ぶサイズです。
- 夫
- 毎週、木工教室に通って、完成まで2~3ヶ月かかりましたね。
- 妻
- まだかかるの~? っていつも聞いてましたから(笑)
- 藤森さん
- 本格的ですよね。ホゾで組んでしっかりつくってますからね。いいですよ、これ。
- 夫
- ありがとうございます。楽しかったですよ。カンナ掛けがしんどかったですが。
- 藤森さん
- つくるの好きなんですね。
- 夫
- はい!
- 藤森さん
- こうして家具をつくることを経験すると、身の回りのモノを見る目が変わりますよね。学生が木工やデザインを勉強するときも、実際につくってみるのがいちばんですよ。
- 夫
- ええ、あーこんなふうにできてるんや、とか、こんなに大変なのか~とか。
- 藤森さん
- でも、もう少し経ったら机が二つ必要になりますよ~。ね、つくってもらおうね。
- 長女
- うん。
- 妻
- 今、子どもが2階で遊ぶときに使っている台は、以前はテレビを置いていたベンチだったんですよ。
この部屋も今は遊び場ですが、女の子二人なので将来は大きな部屋をシェアして使うか、簡単な間仕切りで良いのか、後々、子どもと話し合って決めればいいと。コンセントだけは振り分けで準備してますが。 - 藤森さん
- 床は寝室も同じ仕上げで、今は置き畳を敷いてるんですね。寝室に差し込む柔らかい光が気持ちよくて、畳の上でお昼寝したくなりますね~。
- 妻
- そうですね。ただ、将来的にはこの置き畳は1階の吹き抜け下に移動して、床座もできるスペースにして、寝室にはベッドを置く予定なんです。
- 藤森さん
- なるほど。先のことまでちゃんと考えられていますね。
- 夫
- まだ家ができてから一年なので、買い足したものもあるんですが、子どもが小さくて悪戯ざかりなので、今は買わずにもう少し大きくなったら子どものものも含めて、新しい家具を考えようかなと思っています。
現在の暮らしと将来の暮らし
- 藤森さん
- 寝室の隣がクローゼットなんですね。けっこう広いですね。
- 妻
- 部屋には収納家具は置かずに、ここに収納を集約しました。
- 藤森さん
- お二人の趣味のモノもここに収まっているの?
- 妻
- 主人は服と靴が好きで、今はここに押し込んでます。子どものものも少ないから今は大丈夫ですが、将来は縮小してもらわないといけないかも……。ね。
- 夫
- は、はい。
- 藤森さん
- それでもモノは少ないですよね。同世代の子育て中の家は大変なことになってると思いますよー。
- 妻
- この家で暮らしてから、モノはできるだけ増やさないようにしようと考えるようになったんですよ。子どもが大きくなるといろいろ増えてくると思いますし。
- 藤森さん
- うーん、子ども部屋のこともそうですが、暮らしの将来のビジョンがしっかりしてるんですね。
- 夫
- そこまで視野に入れて、やっぱり「無印良品の家」がいいと思ったんですよ。他のハウスメーカーの住宅ではそのイメージがなかなか描けなくて。
- 藤森さん
- デザイナーは、生活とは何か、そのために必要な道具とは何だろうかといつも考えていると思います。だけど、そうした本質的な問いに向き合うあまり、どこか自分自身のリアルな生活がおろそかなってしまうところがあります。
先ほどもいいましたが、お二人の話を聞くと「無印良品の家」はそのリアルを受け入れる緩やかなルールなのかなという感じがしています。それに共感できる方は多いと思いますよ。 - 妻
- そうですね。
- 藤森さん
- 最近のプロダクトは、例えばオフィス家具は可能な限りカスタマイズできるよう設計され、環境に合わせていろいろと仕様を変えることができる。ただ、それを実現するためには、まず、しっかりとしたフォーマットが求められるんですよ。それは「無印良品の家」の緩やかなルールに通じるものを感じます。
僕も人々の生活の「下地」になるような家具や道具を考えたいと思っています。仕事を始めた頃は、今あるものより「こういうモノ」の方がいいんだ、という批評的な意識でデザインをしていましたが、一方で、じゃあ自身の生活はどうなんだという思いもありました。なので仕事ではいつも、生活というリアルな実践の場に入っていかないと、人に対してきちんと提案できないと思って取り組んでいます。何かに対して疑問を持つことと、リアルな実践は両立できるはずなんです。
ダイアログ3
1階で、再び家具とキッチンの話
古くて良いものを探す
- 藤森さん
- あ、このテレビ台は僕の知人の家具ブランドのものですね。
- 妻
- そうなんですか。ここに引っ越してから買った家具の一つです。ほかには、絵本のブックスタンドとカップボードは同じ家具作家さんにつくってもらいました。ウィンザーチェアは神戸のヴィンテージ家具のお店で探してきて……。
- 藤森さん
- この古いモデルは今は人気があるから探すのが難しいですよね。
- 夫
- あと2脚、そのうち同じメーカーのボウバックのタイプを探そうと思っています。
- 藤森さん
- ウインザーチェアは貴族が使っていた宮廷家具とは違い、民衆が自分たちの使う椅子を、小径木をろくろで削って棒状にして、それを厚い板に差して自分たちで作った座具なんですよ。僕の見解では、おそらく最初はスツールだったものが、快適さを求めて背もたれが付いたんだと思います。当時としてはかなり座り心地が良い椅子だったはずです。同時にどこか牧歌的な柔らかい雰囲気もありますよね。
背が面ではなく、細い棒でつくられているから、視線が抜けてテーブルに4脚くらい並べても圧迫感がないですよね。自分たちが暮らすための道具を自分たちで考え、その形式がやがて徐々に世界に広まっていき、現在でもつくられています。でも現行品じゃなくて古いものを見つけてくるなんて、なかなか良い趣味をされているなと思いましたよ。 - 妻
- 昔からこの椅子が好きだったんです。照明器具はもともと好きだった作家さんがつくったものを、新たに追加して取り付けています。
- 藤森さん
- ベンチはジャッキー・チェンのアクション映画でおなじみの中国式のベンチですね。無印良品にも同じような商品がありますよね。
- 夫・妻
- ジャッキー・チェン(笑)
- 藤森さん
- 室内では植栽もうまく使っていますが、ガーデニングもお好きなんですね。
- 妻
- これは、ここに引っ越してきてからの趣味ですね。主人がとくにはまってまして。
- 夫
- お隣さん(「窓の家」です)が詳しいので、いろいろ教えていただいてます。ガーデニングが好きになったのはお隣さんがきっかけでした。以前はまったく興味なかったんですけどね。
- 妻
- このあたりは植木で有名な地域なんですよ。ガーデニングとお料理はこの家に引っ越してから目覚めた趣味よね。
- 夫
- そうなんですよ。時々、台所にも立つようになって。ネットのレシピ見ながらですが。
- 妻
- それで私は、横から~の(笑)
- 夫
- ダメ出しが厳しくて……。
- 妻
- キッチンが広くなったので、二人でキッチンに立てるようになって……。いろいろつくってくれるので助かってます!
- 藤森さん
- ご飯は土鍋で炊いてるんですか。
- 妻
- はい。うち、炊飯器ないんですよ。
- 藤森さん
- うちもないですよ。電子レンジもないですから。食べる分だけホーローの厚手の鍋で炊いて食べてます。美味しく炊けますよね。
- 妻
- 直火炊き、美味しいですよね。
日差しが心地よいリビングでベランダを眺めながら
- 藤森さん
- それにしてもホントに落ち着きますね。ずっと家にいたくなりません?
- 夫
- なります。出かけなくなりました。家にいるのがいちばん。僕、実家が戸建てなんですが、冬がめっちゃ寒かったんですよ。夏は夏で暑いし。そういうのを経験してきたので、この家住んでからは感動の連続です。
- 藤森さん
- 今も心地よい温かさですよね。
ここから見える庭のデッキはリビングと一体感があって良いですね。気候が良い季節は外で過ごすのも気持ちが良さそう。外で食事をしたりしますか? - 妻
- お茶とおやつくらいですね。夏は子どもがビニールプールで楽しんでます。秋は鉢植えの葉っぱでおままごととか。
- 夫
- 子どもは遊び場の延長で、僕たちにはリビングの延長という感じです。
- 妻
- この開放感は「木の家」ならではですよね。でもインテリアは「窓の家」が好きだったんですよ。私たちが家づくりを考えたときに最初に訪ねた宝塚店は、「木の家」と「窓の家」二つのモデルハウスがあったので、良いところ取りさせてもらいました。
- 藤森さん
- 建坪25坪とうかがいましたが、広さも十分ですね。間取りはどうやって決めたんですか?
- 妻
- 営業担当の方がこちらの希望に応えたプランを考えてくれて、その最初の提案を見てほぼ即決でした。
- 藤森さん
- えええ。スゴイ提案力。
- 夫
- 実はその方とうちは当時、家族構成が一緒で、ここと同じ「木の家」にお住まいだったので、いろいろと具体的なアドバイスもいただけたんですよね。
- 藤森さん
- そうだったんですか。
- 妻
- こちらが伝えるイメージにもちゃんと応えてくれて、それを無理なく受け入れられる器であることも「無印良品の家」の良さだと思いました。
- 藤森さん
- さっき、子どもが大きくなったら新しい家具を買い足したいっておっしゃってましたが、次は何がほしいですか?
- 妻
- ソファかな。今より小ぶりなものにしたいですね。
- 藤森さん
- 大きなソファにするのかと思いきや、小さいものに買い替えるなんて、面白いですね。
- 妻
- 寝室の畳がここに敷かれると、床座でもくつろげるようになると思うので、小さなソファでいいかな~と。
- 藤森さん
- 確かに大きなソファを買っても、夫婦で横並びで座るってなかなかないと思うんですよね。二人で同じ方向見て並んで座るって不自然じゃないですか?
- 夫
- あ、そうかも。
- 藤森さん
- だから最近は、大きなソファに買い替えるより、今のサイズにラウンジチェアを追加する方も増えてますよ。ご主人がソファでごろりと横になって、奥様はラウンジチェアで……。
ん? その逆かな? - 妻
- 私も畳を敷いて、無印良品の「体にフィットするソファ」を置いて自由にくつろぐイメージでした。
- 藤森さん
- 将来、子どもたちが独立したら、日差しが気持ち良いこのスペースで、2脚のパーソナルチェアを置いてゆったり過ごすのもいいですよ。
- 夫・妻
- いいですね!
- 藤森さん
- 実際に住まわれている家の中をこんなに隅々まで見せていただくことなんて、なかなかないですからねー。今日は本当に楽しかったです。ありがとうございました。
エピローグ(編集後記)
小さく豊かに暮らすこと
今回訪問したMさんの「木の家」。これまでご紹介してきた家は比較的郊外に建てられたものが多かったのですが、都市部でも「無印良品の家」で豊かな暮らしを実現されているご家族は、全国にたくさんいらっしゃいます。
今回私たちは「決して大きくはないけれど、なんだかとてもわくわくする家」そんな「木の家」に会いに行くことができました。
これまでの「家に会いに。」をご覧いただいている皆さんでしたら「無印良品の家」の家が郊外でも都市部でも同じかたちでフィットしていることにお気づきになるでしょう。
Mさんの暮らしを覗いて感じたことは、小さく暮らすということは決して我慢することではないということ。そして広いということは気持ちよく暮らすことと必ずしも比例しないということ。
小さいということを決してネガティブなことと捉えずに、どうすれば家族が心地良い時間を過ごせるのか、さまざまな工夫を重ねてそれを楽しむ。むしろ限られた中だからこそ暮らしに大きな広がりが感じられるのだと思います。
お引渡しからまだ1年足らずですが、Mさんの「木の家」は日々成長し、しっかりと家族に寄り添っていました。これからまた少しずつ変化を伴いながら、その先にはまた「木の家」での新しい発見が待ち受けていそうです。
訪問していただきました藤森さんには、Mさんが使っている家具の話を中心にさまざまな話題を引き出していただきました。2階の吹き抜けを中心としたスペースでMさん夫婦とのおしゃべりをのんびりと楽しんでいらっしゃったのですが、やはりこの家が気持ちいいが故なのでしょうね。
さて、話は変わりますが、「無印良品の家」の公式インスタグラムがスタートしたのはご存知でしょうか。全国のモデルハウスの様子やMUJI×UR団地リノベーションプロジェクトなど、無印良品に囲まれたくらしのかたちをご紹介していますのでぜひチェックしてみてください。
インスタグラムでは、全国の「無印良品の家」のユーザー様もご自宅で撮影された写真をたくさんUPしてくださっています(ハッシュタグ #無印良品の家 で検索してみてください)。
実は、今回のMさんの「木の家」を訪問先に決めたのもインスタグラムでUPされていた写真がきっかけだったんですよ。
素敵な暮らしの瞬間を切り取った写真ばかりですから、こちらも覗いてみてはいかがでしょうか。
さて、毎回完結のこの企画ですが、実は今回の訪問には続きのストーリーを用意しています。
なぜか?って。本文をよーく読んでいる方なら、なんとなく察しがつくかもしれません。
ぜひ次号 家に会いに。Vol.21をお楽しみに!(E.K)
「無印良品の家」に寄せて | 家具デザイナー 藤森泰司さん
家の伸びしろ
仕事で海外に行くことも多いのだが、よく現地の方々に「うちの家で食事しませんか?」というお誘いをいただく。いつも喜んで伺う。実はその時、食事はもちろんのこと、もっと楽しみにしているのは「どんな暮らしをしているんだろう?」という、暮らしぶりへの興味だ。それも、建築家やデザイナーの設計した家ではなく、職人さんだったり、仕事では繋がっていながらも、自分と異なる職業の方々のリアルな暮らしぶりが見たいのだ。なぜかといえば、意図的に構成されたインテリアというより、やはりその土地土地で生まれてきた文化の匂い、言い換えればどうしても出て来てしまう無意識的な部分、例えばモノの配置や、色や素材、暮らす人々の何気ない所作に興味があるからかもしれない。
今回、Mさん夫妻の家に伺った時もなんとなくそんなことを考えていた。ご自宅を丁寧に案内していただきながら、家についていろんなことをお話ししたのだが、その話の具体的な内容以上に、空間を”体感”することで、お二人が「どう暮らしていきたいか?」が本当に素直に伝わってきた。家ってやっぱり暮らす人が作っているんだなあと強く思った。そして同時に、じゃあ家って何だ?家具って何なのだろう?生活って何なのか?という、デザイナーにとってはずっと考え続けなければならない命題がぐるぐると身体と頭を駆け巡ったのを記憶している。
Mさん夫妻の家は、自分たちの暮らしをしっかり考えながらも、どこか”抜け”があった。それが心地よかった。先のことを考えていながらも、決め切らないという余白があった。それは二人のかわいい娘さん達が成長するにつれて皆でゆっくり少しずつ作っていくものなのだろう。もっと言えば、娘さん達がそれぞれ独立していった先まで。つまり、あたりまえのことなのだが、住むということは変わり続けるということなのだ。家は、その変化を受け止めていかなければならない。住まい手と一緒に家もゆっくりと成長していくのだ。
素敵な家には、必ずわくわくする”伸びしろ”があると思う。[2016.5]