住人祭を知っていますか

住まいのかたち | 2008.11.11

住人祭とは
今回はいつもの間取りの話から離れて、近隣のコミュニティーに関わる「住人祭」というイベントについて話してみようと思います。日本では「隣人祭り」とも呼ばれるこのイベントは、1999年に老人の孤独死が社会的な問題となったフランス・パリで始まったLa fete des voisinsが始まりです。
その内容はとてもシンプル。年に一度5月の最終週の火曜日に住人たちが集まって、飲み物や食べ物を持ち合い、顔見知りになろうという趣旨のおまつりです。今ではヨーロッパ各地で750万人以上が参加するイベントとなっています。

この運動を無印良品が知るようになったのは、2008年夏にデザイナーユニット、アトリエ・グリズーが無印良品有楽町 ATELIER MUJIにおいて展示会を行い、ここで紹介したのがきかっけです。
彼らは本国フランスでの運動を知って、日本でも自分の住んでいる集合住宅でこの運動を展開しています。本来は年に一回のイベントですが、彼らは、数ヶ月に一度、集合住宅の住人がみな集まって、食事をしたり、ワインを飲んだりして住人同士のコミュニケーションを図っているとのことです。

そこには何もルールがあるわけではありません。ただ集まって話をするだけ、お互いを知り合うきっかけづくりをしようというもので、一度会話をすれば、そのあとは、日頃の挨拶はもちろん、なにか困ったことがあれば、声を掛け合うことが自然とできるようになるといいます。
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誰かの役にたちたい
こんな単純な運動がなぜ世界中に、しかもこんな勢いで浸透していくのでしょうか。
都市に住むというのは孤独なものです。隣の人と会話をしたいという、とても普通な感情があるからでしょう。地縁や血縁の濃い、田舎の暮らしを捨てて都会にでてきてみると、隣の人がどんな人かさえ知らない生活が始まるのです。コミュニティーなど、わずらわしいと思う人も多いでしょうが、人のつながりをなくしては生きていけないものですし、なにしろ不安です。
突然何かの理由で自分が弱くなったとき、人の助けが必要になる時があるかもしれません。時々、老人が病気で一人で亡くなり、まわりもそのことに気付かないなどという事件を聞くと悲しくなります。誰かに助けてもらいたいことが、きっとあるはずです。わずらわしいとどこかで思う、人との付き合いも、それなくして生きていくことは難しいのです。ほどよい関係で隣の人とつながっていきたい、集まって住むという人間の習性の自然な感情です。

集まって住めば、元気な人ばかりがいるわけではありません。老人や子どもや、病気の人など、社会的に弱い人がいるのが普通です。
その仲間の中にいる弱い人を守ってあげたいと思うこと、それがコミュニティーの原点ではないでしょうか。誰かに助けてもらいたいと思うときがありますが、しかし反対に誰かの手助けになりたいとも思うものです。そのことによって、人間は本来の優しさや豊かさを手に入れることができるように思えます。人間は、誰かの役にたって生きたいと思うものです。

安心できる、そして住みやすいコミュニティーを手に入れるための第一歩は声を掛け合うこと。隣の人が、また同じ集合住宅にすむ人が誰か知ることです。
今日から、勇気をもって住人に挨拶をしてみてはいかがでしょう。そして年に一回食べ物や飲み物を持ちよって、話をしてみてはいかがでしょう。きっと挨拶ができる住人同士のコミュニティーは気持ちのいい暮らしとなるでしょう。
無印良品が考える集合住宅でも、こうした住人祭が行われるように応援しています。

2008年11月11日配信 無印良品の家メールニュース Vol.110より