トイレまで暖かいのは贅沢でしょうか?

住まいのかたち | 2018.4.17

そもそもトイレはなぜ寒いのでしょうか
みなさんは戸建ての冬のトイレは寒いもの、と諦めていませんか?
「諦めている」のではなく、「人が居る時間が極端に少ないトイレを暖めておくのは贅沢、もしくは必要ない」と考えていらっしゃるかもしれません。
そう考える方は、トイレを暖めるには部屋のエアコンとは別に、トイレ内にヒーターや暖房機能付き便器などを設置しなければならない上に光熱費も余計にかかる、という前提があるからではないでしょうか。
しかし、そもそもトイレはなぜ寒いのでしょうか?
結論から申し上げると、トイレに暖房器具が入っていないからではなく、「家全体を暖める」という発想が、いまだに日本の家にはないからではないか、と私たちは考えています。

家全体を暖めるのは贅沢でしょうか
以前のコラム「日本の家はずっと無暖房住宅でした」でもお話ししましたが、エアコンのない時代の日本人は、夏の高温多湿な気候がもたらすカビや腐れによる健康被害を防ぐために、「夏を旨とした」家づくり(冬の保温より夏の通風を優先すべし、という吉田兼好の教え)を良しとしてきました。
家に風が通ることを最優先して、断熱は全くされていない家での冬の暮らしは、暖房(=家を暖める)は無理なので、火鉢や炬燵などの「採暖」器具(=人が暖を採る)で寒さを凌ぐものでした。この日本人の「暖房」に対する考え方は、エアコンが普及した現在でも、いまだに影響を与え続けているようです。

断熱性能の低い家では、たとえ石油ストーブのような火力の強い暖房器具を使っても足元や窓際が寒い、というように、部屋全体を完全に暖めきれません。私たち日本人は永い間このような家・暮らしに慣れ親しんできたので、トイレや廊下なども含めた、家全体を暖めるのは、セントラルヒーターのような特別な装置と多くのランニングコストが必要な、贅沢なことと思い込んでいるのではないでしょうか。

しかし、「家の断熱性能を上げる」、「家のかたちを工夫する」ことで、家庭用のルームエアコン1、2台で家全体を暖め、その快適さを少ないエネルギーで実現できることを、鎌倉の「窓の家」のデータは証明してくれています。

トイレまで暖かくする「家のかたち」
前回のコラム「この冬の『鎌倉の家』の電力、エアコン、快適温度をご報告します」では、トイレの温度データまでは公開していませんでしたが、鎌倉の家の■1階トイレの温度は以下のようになっています。

2018年1月9日から2月6日まで(29日間)の■外気温平均が4.7℃のときに、主に稼働しているエアコンのある■1階室温の平均室温が21.9℃、■2階室温が平均20.6℃、そしてエアコンはもちろんヒーターもない■1階トイレの温度の平均が18.5℃(例えば2月6日朝6時、■外気温が-2.4℃のときでも、18.9℃)でした。

1階のエアコンは自動運転でつけ放し、2階のエアコンは寒いと思ったらスイッチを入れる、という使い方で、実際にこの期間に2階のエアコンのスイッチを入れたのは4回だけ、それでこの1ヶ月にかかったエアコンの電気料金が8,720円でした。
この結果をみなさんは贅沢と考えるでしょうか?

このように、鎌倉の家がほぼ1台のエアコンで家中暖まるのは、家全体がまるで魔法瓶のように断熱性能が高いことが、もちろん最も大きな理由ですが、ドアで仕切られたトイレまでもがこのように快適温度を維持できているのには、間取りの工夫もあるのです。

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普通の家では、「間取り2」のように、廊下や階段室、玄関はリビング・ダイニングとの間に壁やドアを付けて仕切るのが普通ではないでしょうか。
それは、玄関への来訪者からの視線を避けること以上に、人が居る時間の少ないこれらの場所を切り離して、リビング・ダイニングだけを暖房することで、効率よく暖かくできるから、という思いがあるようです。

しかし、「鎌倉の家」では、「間取り1」のようにリビング・ダイニング・キッチンと廊下・玄関との間に間仕切りを入れていません。
来訪者からの視線は、位置関係で直接通りません。廊下・玄関、そして階段を通して2階の部屋まで、リビングのエアコンで暖めてしまおうという、一室空間の設計思想と、細かく仕切られていない大空間を少ないエネルギーで快適な温度に保つための「高い温熱性能(高断熱・高気密)」があるからです。

廊下・玄関まで家全体が暖かくなれば、断熱性能のほとんどない壁やドアで仕切られていて、かつ小さな空間のトイレは、家全体の大きな熱量により、自然に暖かくなる、というわけです。

間仕切りのない家=一室空間は、開放的な空間、緩やかに家族がつながる暮らし、という狙いだけでなく、実はこのように家全体を均一な快適温度にしようという発想もあるのです。

とても開放的で限られた空間を広く使え、トイレまで(もちろん洗面室、浴室まで)大掛かりな仕掛けや、個別の暖房器具なしで自然に暖かくなる。
このような一室空間の考え方、みなさんはどのように考えられますか? ぜひご意見をお聞かせください。