トイレは家のどこに置く?

住まいのかたち | 2018.5.29

前回のコラム「トイレまで暖かいのは贅沢でしょうか?」で、トイレの温度について検証したところ、温度そのものよりも、トイレタンク上の「手洗い」の是非や、実例に挙げた「鎌倉の家」のトイレの位置など、普段みなさんがトイレについて感じられていることに関するご意見をいくつかいただきました。
そこで、今回は「温度」ではなく、「トイレそのもの」について少し考えてみたいと思います。

トイレは御不浄?
「トイレ」は、その昔は「御不浄(ごふじょう)」、「厠(かわや)」、「手水(ちょうず)」、「憚り(はばかり)」、「雪隠(せっちん)」などといわれ、いまでも、「お手洗い」、「便所」、「化粧室」、など、さまざまな呼び名があります。みなさんは、日頃何と呼んでいるでしょうか? おそらくいろいろな呼び方があるのと同様、トイレに関する感じ方、考え方もさまざまなのではないでしょうか。

最近の日本のトイレはとても清潔ですから、「トイレが最も寛げる場所で、読書や瞑想の恰好の場所」という方もいれば、「やはり御不浄は御不浄、なるべく長居はしたくない」という方もいるようで、そこがトイレの奥深いところでしょう(笑)。
昔から日本人は、し尿が貴重な肥料であったこともあり、古くから汲み取り式のトイレが普及していたようです。

しかし、汲み取り式トイレは、資源の有効活用には大変有効ですが、臭いやハエの発生などの大きな難点があります。ですから、昭和初期までは、農村部では多くの家が母屋の外に汲み取り式トイレを設置していました。使い勝手より、臭いやハエを避ける方が優先されていたわけです。

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昭和初期中流世帯の典型的1戸建住宅(日本下水文化研究会内屎尿・下水研究会資料より)

都市部では、スペースの関係から家の中にトイレが設置されていましたが、汲み取り式であることに変わりはなかったので、設置場所は、玄関から一番遠い廊下の突き当たり、建物の端っこと相場は決まっており、その上で必ず窓を設置して通風を確保する、というのが常識でした。

しかし、いまの水洗式+換気扇の付いたトイレは、極めて清潔で、もはや「御不浄」ではなくなっているといってよいでしょう。したがって、近年では、家の中のトイレの位置を決める要素は、使い勝手、視線 、音が3大要素になっているのではないでしょうか?

「廊下のない家」のトイレ
したがって、現代の家では、使い勝手からトイレの位置を決めるようになり、
1:動線を考えて、化粧室・浴室と隣接させる場合
2:外出前後や来客のトイレ使用を想定して、玄関ホールに設ける場合
という2パターンが典型的な設置位置となりました。

このいずれの場合でも使い勝手とは別に、家族が集うリビングやダイニングへの視線や音の配慮が必要となるので、リビング・ダイニングと廊下を隔ててトイレを配置されることが多いようです。

ところで、無印良品の家は「一室空間」なので、廊下がありません。
だからこそ、無印良品の家のトイレは寒くならないのですが、廊下のない家にトイレを設置するのは、やはりプランニング上、廊下のある家よりさらに、この視線や音について気を使う必要があります。

例えば、「1:動線を考えて、化粧室・浴室と隣接させる場合」で、廊下のある家と、ない家でどうプランニングが違ってくるのでしょうか。
以下は、無印良品の家 岡崎店モデルハウスのプランをもとに、廊下のあるなしでプランを比較してみました。

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廊下をなくすことで、リビングが広くなるだけではなく、リビング~ダイニング~キッチンをより広く繋げることができます。
さらにトイレ・洗面(洗濯機置場)はキッチンと繋がり、家事動線がよりシンプルになります。

無印良品の家 岡崎店での廊下をなくすためのトイレ配置の配慮は、リビング・ダイニングからトイレ・洗面の入り口が直接見えないように壁を配置することでした。さらに玄関からキッチン・トイレ・洗面へのアプローチで、リビングを横切らなくても行けるように土間スペースを広げています。そうすることで玄関も広く明るく開放的になっています(このような「廊下のない家」は、家全体の断熱性能耐震性能が非常に高いからこそ可能なのです)。

次に 、「2:外出前後や来客のトイレ使用を想定して、玄関ホールに設ける場合」について、前回コラムでも紹介した「鎌倉の家」で、「温度」ではなく「使い勝手」の観点から見てみましょう。

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鎌倉の家」は、1階床面積46.37m²(14.02坪)と、かなり限られた空間となっていますが、廊下をなくすことで対面キッチンが実現しています。
トイレですが、廊下があるときのようにダイニング・キッチン側に入り口を設けるわけにはいかないので、開け閉めで場所を取らない引き戸を玄関ホール側につけています。
もちろん、どこからもトイレ入り口が見えないことが理想的かもしれませんが、これだけ限られたスペースの一室空間で、どこかには視線が通らざるを得ないとすると、常時人が居るわけではない玄関側に入り口を持ってくる、という選択をしています。

ちなみに、コラムへのご意見投稿で、「トイレタンク上の手洗いは、きちんと手洗いができない上に水が壁に跳ねて使いづらい」というご意見をいただいていますが、確かに「あの」手洗いだけでしっかり手を洗うのは厳しいかもしれません。
トイレと洗面が隣接していれば、洗面台で手を洗えば良いのですが、「鎌倉の家」のように2階に洗面がある場合は、できればトイレの中に「手洗い」を設けておきたいものです。トイレのスペースを広く取ることができない場合でも、設置できるコンパクトな手洗いも、無印良品の家ではご用意していますので、ぜひ参考ご検討ください(笑)。

たかがトイレ。されどトイレ。
今回ご紹介したプラン例については、賛否両論あると思います。
スペースとしては畳1枚程度のトイレですが、家の中になくてはならない、でもあまり見せたくない。そんなトイレについて、みなさんのご意見をぜひお聞かせください。