日本の家はずっと無暖房住宅でした

コラム | 2011.12.6

家のつくりやうは夏をむねとすべし

日本の家は、ずっと長い間「無暖房住宅」でした。
古代ローマのセントラルヒーティング「ハイポコースト」や、お隣の韓国の床下暖房「オンドル」など、世界的に見ると「暖房」の歴史はかなり古いにもかかわらず、日本ではつい最近まで「暖房」という概念さえなかったと言えます。
「囲炉裏(いろり)」や「火鉢」「こたつ」などはありましたが、いずれも部屋全体を暖める「暖房」ではなく、いわゆる「採暖(さいだん=暖をとるもの)」と言われるものでした。

第二次世界大戦後に石油統制が撤廃され、ようやく石油ストーブが普及し始めます。しかしこの火力の強い石油ストーブでさえ、気密性のほとんどない当時の日本の家では、部屋全体を暖める「暖房」というよりは、「採暖」として活用されていたところがあります。

日本人が長い間、「暖房=家の気密性」というものに無頓着だったことは、吉田兼好の「徒然草」の中の、あまりにも有名な言葉の影響があるのかもしれません。
「家のつくりやうは、夏をむねとすべし。冬はいかなる所にも住まる。暑き頃わろき住居は、堪へがたき事なり。」という一節です。これは、家をつくるときには、夏の住みやすさを優先してつくるのがよい、ということです。
昔の日本の「冷暖房機器なし」という状況を想像すると、夏はとにかく風通しのよい建物にしないと、暑さや湿気で健康を害す恐れさえある耐え難いもので、冬は厚着や採暖、それと「気合い」で乗り切ることができるものだったようです。
「家のつくりやうは夏をむねとすべし」というのは理にかなっていた、というより、それしか方法がなかったと言えるかもしれません。

日本の「窓」とヨーロッパの「窓」

冬はさておき、「夏をむね」とし、現代のようなエアコンなどの冷房器具のない時代に、少しでも涼しく暮らすため、先人達はさまざまな知恵を積み重ねて来ました。その知恵のひとつが、木造軸組構法(在来木造構法)です。

自然の風を建物に通すためには、開放的である事が重要です。
柱と梁で建物を支えているので、柱と柱の間はすべて大きな開口部となり、そこに障子や襖、雨戸などの引き戸がはめ込まれているだけなので、いつでもそれらを開け放したり、取り除いたりすることができます。
この柱と柱の間に取り付けた障子や襖などを「戸」といい、この柱と柱の「間」の「戸」を「間戸(まど)」と呼んだのが、日本語の「まど(窓)」の由来と言われています。
さらに深い庇(ひさし)で夏の強い日差しが室内に差し込むのを防いでいるので、風の通る日は、まるで木陰にいるような、自然と一体化する家づくりでした。

東京国立博物館の庭園にある九条館

一方ヨーロッパでは、冬の厳しい寒さを防ぐことは命にかかわる重大事でした。建物の構法も、厚い石を積み上げて、なるべく外の冷気を入れずに、部屋全体を暖めている暖炉などの暖房の熱が逃げないようにつくられました。つまりヨーロッパの家は「冬をむね」とし、できる限り外に対して閉じていたのです。

柱と柱の間に取り外しできる戸をはめる、開放的な日本の木造軸組構法とは逆に、ヨーロッパの家は石を積み上げていくので、自然と厚い壁となり、外の寒さと隔離された空間をつくりやすくなっています。
それではさすがに息苦しいので、熱は逃さずに必要な空気だけを取り入れるための小さな「覗き穴」が開けられました。これが「窓」の始まりで、英語の窓「Window」は古ノルド語で「vindauga」、vindr「風」 + auga「目」が語源と言われています。日本語だと「風穴」という言葉に近いですね。

イギリスコッツウォルズ地方に残る典型的家屋

少ないエネルギーでより快適に暮らすために

日本とヨーロッパの家は、気候と文化の違いがはっきりと反映され、外と内をつなぐ「窓」の考え方が全く異なっていました。そして日本でも戦後、冷暖房機器の急速な普及とともに、家のつくりも開放的な「夏をむねとする」つくり方から、「冷暖房効果を高めることをむねとする」気密性と断熱性を重視する家づくりへと変わってきました。
しかし、つい最近まで暑さ寒さを受け入れて暮らしてきた私たち日本人にとって、「冷暖房する」という暮らし方は、まだまだ試行錯誤の段階と言えます。

なるべく冷暖房を上手に使い、ガスや電気等のエネルギーを極力使わずに、夏涼しく冬暖かくするには、どんな家が良いのでしょうか?
無印良品の家は、機械や設備に頼ることで得られる快適な暮らしではなく、昔の日本人がごく普通に行っていたような、四季折々の太陽の光や風の流れといった自然のエネルギーを最大限に利用することで得られる家ではないかと考えています。

日本の国土は小さいとはいえ、南北に長く、海や山に囲まれていますので、気温や風の吹き方は、地域や季節によってさまざまです。「夏をむねとした」家しか選択肢のなかった昔と違い、今は壁や窓の断熱性能、冷暖房機器の性能や使い方、近隣環境と気象条件、また、敷地の向きや、近隣の状況によって、陽のあたり具合や、風通しも変えることができます。

全棟温熱シミュレーション「+AIR」は、家そのもののつくりだけでなく、いっそう心地よい暮らしを提案するしくみです。
快適温度の暮らし方を、みなさまと一緒に考え、つくりあげていきます。こらからの快適温度の家づくりにご期待ください。