感じ良いくらしは細部にこそ宿る
住まいのかたち | 2016.10.18
先月のコラム「『鎌倉の家』の間取りが決定しました」をお伝えしたところ、たいへん多くの反響がありました。
2階建ての一軒家としては、かなり小さな家(延床面積77.84m²)が、けして広くはない敷地の北側に寄せるのではなく、ど真ん中に建っている、という設計にもかかわらず、ほとんどがご賛同のコメントでした。
みなさんのご意見を拝見して、「感じ良いくらし」を支える家は、家の中だけでなく、家と外の関係、光や風、風景の取り入れ方を考えることが大事であると、再認識いたしました。たくさんのご意見ありがとうございました。
コラムでは「この間取りは一見普通に見えるが、実は普通じゃない」とお伝えしました。間取りだけでなく、ルックス(外観)も一見普通ですが、普通ではないのです。
壁が白くて、三角屋根で、こぢんまりした家、ならどこにでもありそうですが、窓の家は、どこか違います。それは、無印良品のすべての商品に共通する、「無駄をそぎ落とした美しさ」が感じられるからではないでしょうか。
無印良品には、「感じ良いくらし」に寄り添うモノの条件の一つに、人それぞれの多様な暮らしのかたちを邪魔しない「無駄のない美しさ」があると考えています。
しかし単純に、家全体をシンプルな構成にすれば、その家が「無駄のない美しさ」を持つ家になるか、というと、実は「NO」であると、私たちは考えています。
建築業界では、「神は細部にこそ宿る」というよく知られた言葉があります。モダニズム建築の巨匠、ミース・ファン・デル・ローエが好んで使ったとされ、「デザインの簡潔さを目指す建築は、その大きな構成要素をつなぐ小さなジョイント部や周辺の細部デザイン(ディテール)が、よりシンプルに精度の高い仕上がりであってこそ成り立つ。」という意味の名言です。
無印良品の「窓の家」も、「感じ良いくらし」に寄り添う家であるために、間取りや構造を簡潔にするのと同じくらいに細部=ディテールにこだわっています。
例えば、「窓の家」の玄関ドアを見てみましょう。
ドアだけではなく、ポーチ灯や、オリジナルポスト、土間など、素材を生かした、自らを主張しない簡素な玄関まわりは、家全体の「簡潔さ」を支えているばかりか、お客様を気取りなく、気持ちよく迎え入れる家人の気持ちが表れているのはないでしょうか。
左の玄関まわりは、全体は極めて簡素でありながら、雨の日の出入りにも配慮したしつらえになっています。
間取り上で雨を防げない場合には、右のように玄関ドア上に庇(ひさし)が必要になります。この庇のディテールも、いわれなければあることさえ気付かないような、最もミニマルなデザインである「一枚板」で、日よけや雨よけの役割を果たすデザインを採用しています。このような「付け庇」の場合、台風などの吹上げによる風圧を考えると、なかなか一枚板というのは難しいのですが、通常の視点からは見えない位置を計算して補強材を入れ、強度を確保するという工夫が施されています(※積雪地域では使用できません)。
内部についてもご紹介しましょう。
「窓の家」の場合、窓と白い壁で構成される簡潔な空間によって、窓が取り入れる風景を際立たせようとする意図があります。そこで、最下部とはいえ、壁の一部にこのような白壁以外の部材が入ってくることを避けたいことから、木製の巾木を壁と同じ白色に塗装しているのです。「白」と一言でいっても、無数の「白」があるので、塗装品番を合わせている、というこだわりです。
巾木については、たとえ壁と床の境目が傷つきやすくなっても、巾木そのものを取ってしまおう、という考え方もありますが、日常の使い勝手や「永く使う」という観点から、無印良品の家では、全ての家に巾木を付けています。
細かい話ではありますし、巾木が壁と全く同色であることに気付かれる方は少ないかもしれませんが、「窓の家」の凛とした室内の空気感は、実はこの巾木が果たす役割が小さくはないのです。
最後に、レバーハンドルなどの金物類は、常に目にも手にも触れるものだから、いつまでも飽きのこないスタンダードなデザインを追求しました。アルミのバーを曲げ、アルマイト加工を施し、耐久性を高めた無印良品のオリジナルアイテムです。
このように、「ディテール」の「ディテール」までこだわることで、単にフォルムだけを真似しても生まれない、「窓の家」の簡素で清々しい空気感は生まれているのです。
みなさんは家の「ディテール」について、どのように考えられますか? また、日ごろ気になる家の細かい点について、お教えください。ご意見お待ちしております。