冬、エアコンなしでも暖かい家
住まいのかたち | 2015.9.22
前回、「なぜ無印良品の家は、「自由設計」ではないのでしょうか」で、無印良品の家は「安全性、快適性、耐久性」と両立させるために考えつくされた「商品」でなければ、この自由な空間は供給できない、というコラムを公開したところ「家具の間仕切りなどで、ゆるやかに家族がつながる暮らしは理解できるが、寝室やリビングだけを暖房できず、常に家全体を暖房しなければいけないので、冬は寒いのではないか、暖房費がかかるのではないか」というご質問をいただきました。
その疑問にお答えするため、前回「次回は木の家での暮らし事例をご紹介します。」と申し上げましたが、その前に、無印良品の家の温熱性能=「『パッシブデザイン+高い断熱性能』による快適性能」について、もう少しお話ししたいと思います。
コラム「今考えられる「最高性能」を備えた無印良品の家」でもご紹介したように、無印良品の家は、まだほとんどのハウスメーカーで使われていない、「ダブル断熱」と「トリプルガラス」を標準採用し、なるべくエアコンに頼らずに快適温度を保てる家づくりを、断熱性能だけでなく、設計手法も含めて、未来に向けて進めています。
(無印良品が考える快適温度の家づくり「+AIR」のコーナーもぜひご参照ください。)
しかし、どんなに断熱性能を上げても、冬に暖房の要らない家にはなりません。魔法瓶に水を入れてもお湯にはならないように、仮に全く熱が逃げない家がつくれたとしても、外気温が5℃のときに室温を20℃にするには、最初にエアコンなどの暖房器具で家の中を暖めなければならないからです。
では、どうすればエアコンに頼らない家を目指せるのでしょうか。
エアコンのような暖房器具がなければ家の中に大きな熱源はありませんが、家の外、私たちの暮らす地球には、太陽熱という素晴らしいエネルギー(熱源)があります。
無印良品の家では、図のように南側の大きな窓で、太陽光を最大限にとり入れるデザインを採用し、暖房器具がなくても昼間晴れていれば、太陽熱という偉大な自然エネルギーで家中を暖められるのです。そして、夏は深い軒(のき)で太陽光をカットし、南側の大きな窓は、風を家にとり入れて涼を取る役目を果たしています。
ここで重要なのは自然エネルギーである太陽光を、直接部屋を暖める熱源に使っていることです。
太陽光発電を柱としたスマートハウスやZEH(ゼロエネルギーハウス)は、太陽光から生み出した電力を使って家のエアコンや照明を動かす仕組みですが、暖房に関しては
「太陽エネルギー → 発電 → エアコン稼働 → 暖気」より
「太陽エネルギー → 暖気」の方が
はるかにエネルギー効率がいいし、エアコンの送風より快適なはず、というのが、太陽光を直接とり入れることにこだわる理由です。
このように、冬も夏も自然エネルギーを上手にとり入れて、室内を少しでも快適な温度に近づけようとする設計をパッシブデザインといい、私たち日本人がエアコンなどのない時代からずっと培ってきた知恵なのです。(コラム「日本の家はずっと無暖房住宅でした」もぜひご参照ください。)
さてここで、この南側の大きな窓から太陽光をとり入れる、というパッシブデザインがなかったらどうなるか、シミュレーションしてみましょう。
わかりやすくするために、通常はありえないでしょうが、南側の窓を全てなくして壁とし、太陽熱が直接家の中に入らない場合の、真冬の室温シミュレーションです。
青色の折れ線が、東京の2月の外気温
赤色の折れ線が、5間×4間半の、標準仕様の「木の家」室温
緑色の折れ線が、5間×4間半の、南側の窓を全てなくした「木の家」室温です。
南側の窓を全てなくした「木の家」(緑色)は、外気温(青色)が0℃の時も10℃の時も、ほとんど関係なく約7℃前後をキープしています。いかに木の家が、外気温に影響されない、魔法瓶のようなすぐれた断熱性能であるかを表していますが、残念ながら7℃では、暖房なしではやはり寒いですね。断熱性能がどんなに良い家でも、暖房しなければ当たり前ですが、このような結果になってしまいます。
それと比較して、標準仕様の「木の家」(赤色)を見ていただくと一目瞭然なのですが、こちらは「木の家」のデザインコンセプト通り、南側に大きなトリプルガラスを配した設計で、日中太陽が出ている時にぐんぐん室温が上がっていることがおわかりいただけると思います。
これが自然の力、太陽の力です。太陽エネルギーをダイレクトに入れることで全く暖房することなしに、室温が午後1~2時に25℃にもなって、その後しっかりとした断熱性能のおかげで、太陽が沈んでもゆるやかにしか室温は下がらず、外気温が0℃近くになる朝6時くらいでも、12℃以下に下がることがありません。
もちろん、これはエアコンを全く使用していないシミュレーションです。朝起きた時に12℃では寒い、ということであれば、例えば寝る前に少しだけエアコンをつけて室温を数℃上げておけば、最低室温も数℃上げることができるわけです。外気温にもよりますが、全くエアコンに頼らないまではいかなくても、極力頼らない家は、すでに実現しているのではないでしょうか。
太陽の恵みをとり入れるためには、南側に大きな窓が必要、でも窓を大きく取ると断熱性能が落ちる、というのがこれまでのパッシブデザインのジレンマでしたが、これをトリプルガラスは見事に解決してくれたわけです。
このように、「木の家」はこれまで以上に高い断熱性能を手に入れて、生来のパッシブデザイン効果をさらにいかんなく発揮できるようになりました。
そして、最初の質問に戻りますが(笑)、たしかに一室空間で吹き抜けのある家は、日本のこれまでの一般的な家のように局部的に暖房できないので、暖房が効きにくく、したがって暖房費もかかる、というのが普通のイメージかもしれません。
しかし「木の家」は、一室空間で吹き抜けがあるからこそ、パッシブデザイン効果で、ゆるやかに暖かく、家中温度差の少ない快適温度を、エアコンを極力使わずに実現できているのです。
みなさんは、このようなパッシブデザインと高い断熱性能で実現する、冬、エアコンなしでも暖かい家について、どのようにお考えになりますか。ぜひご意見をお聞かせください。