今考えられる「最高性能」を備えた無印良品の家
住まいのかたち | 2015.7.28
前回のコラム「これからの家の性能を考える」でお話したように、無印良品の家では、「エアコンに頼らなくても快適な家」という夢に向かって、全面的に家の「性能」を見直しましたので、今回はその内容について具体的にお話しします。
実は、2004年に販売を開始した木の家は、この10年の間、細かい仕様改定は行ってきましたが、性能やデザインには一切手を加えていませんでした。
「永く使える、変えられる」家がこれからの日本にとって本当に必要な家である、という信念のもとに設定された性能と一室空間というデザインは、当時では標準的な住宅と比べて、「規格外」と言えるほど先を行っていたからです。
「30年後の普通」を選んでください
日本で「家の断熱」が推奨され始めたのは、1979年の日本政策金融公庫の仕様書といわれており、その金融公庫を利用するために一定の断熱性能が規定されたのは1989年で、わずか25年前でしかありません。
そんな中無印良品の家は、2004年発表当初より、当時4等級あった次世代省エネルギー基準の最高等級を上回る温熱性能を全棟に採用し、その後の高い省エネ性能を求められる長期優良住宅認定制度(2009年~)や、地域型住宅ブランド化事業(2012年~)などの新しい制度に、もともと高い温熱性能を有していたので、費用を追加することなく標準仕様のまま認定されてきました。
しかしここ最近で、地球規模での環境・エネルギー問題もあり、住宅の断熱・省エネ性能に対する私たち日本人の感覚もニーズも随分進化し、ついに2020年に日本の住宅史上初めて、一定以上の省エネルギー性能を持つことが建築基準法上で「義務化」されること、あわせてZEH(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)の普及を図ることが、国土交通省および経済産業省より発表されています。
これまで長らく義務化基準のなかった日本の住宅の断熱・省エネ性能は、今から5年後にようやく「標準値(スタンダード)」が見えてくることとなりました。
それは私たち日本人全体の生活レベルや、地球環境にとって喜ばしいことであり、また、無印良品の家が義務化の15年前にすでに、同様の性能値を全棟に採用していたことを、誇らしくも思います。
そして同時に、無印良品の家がさらに未来を見据えて、今できる最良の性能を目指すべきタイミングと考え、「義務化」ではなく未来でも「推奨」されるZEH(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)基準を約30%も上回る断熱レベルに今回改定しました。
この新性能は、 建物の外壁や窓からの熱の逃げやすさを表す「外皮平均熱貫流率Ua値(ユーエーチ:数値が小さいほど家の熱が逃げにくい)で「0.41」、 夏期の日射による熱の侵入量を表す「夏期日射取得係数ηA値(イータエーチ:数値が小さいほど日射による熱が入りにくい)」で「1.30」と、いづれも性能値で2倍以上上回り、これは北海道旭川市などの最も寒いエリアの外皮平均熱還流率基準値(Ua値:0.46)をもクリアしています。
次世代省エネルギー基準値 (2020年義務化レベル) |
旧仕様:無印良品の家 (5間×4間・延床面積105.98m²) |
新仕様:無印良品の家 (5間×4間・延床面積105.98m²) |
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Q値 (熱損失係数) |
2.70 | 2.10 | 1.52 |
μ値 (夏期日射取得係数) |
0.070 | 0.049 | 0.042 |
Ua値 (外皮平均熱貫流率) |
0.87 | 0.64 | 0.41 |
ηa値 (冷房期の平均日射熱取得率) |
2.80 | 1.70 | 1.30 |
耐熱等性能等級 | 4 | 4 | 4 (最高等級) |
- ※Q値、μ値は、平成11年省エネ基準におけるⅣ地域での基準値
- ※Ua値、ηa値は、平成25年省エネ基準のⅥ地域での基準値
ZEHとは、ある一定以上(2020年に義務化される断熱性能のおよそ30%増し程度)の断熱性能をもち、太陽光発電と周辺装置(蓄電池や、高効率エアコンなど)を設置することで、使用する電気量と生み出す電気量をプラスマイナスゼロにする家のことです。
無印良品の家は、このZEHに求められる断熱性能のさらに30%増しの性能を目指し、実現しました。
すでに、無印良品の家は5年後の断熱性能義務化ではなく、その先のZEHの、さらに先を見据えているのです。
なぜ、そこまでやるのか。私たちは、「使用エネルギー(電力)がゼロで、エアコンが使えて快適な家」ではなく、「エアコンというエネルギー(電力)に頼らなくても快適な家」を目指したいからです。
では、どのようにして、このような高い温熱性能を実現したかについて、簡単にご説明しておきましょう。
外張り断熱と充填断熱を併せた「ダブル断熱」
無印良品の家は、2004年の発売当初から「外張り断熱」を採用し、柱と柱の間ではなく、柱の外側に硬質断熱材を張り巡らし、柱による断熱欠損と、壁体内結露を防ぐ合理的な断熱工法を採用してきました。これにより2020年の義務化基準をクリアできる充分な断熱性能をすでに有していますが、さらに10年、20年先を見据えた性能にするためには、すでに外張り断熱工法は、断熱欠損などの補うべき欠点がないので、あとは断熱材の厚みを増すしかありません。しかし、外壁仕上げを支えることや、敷地の余裕のことなどを考えると、性能を倍にしたいからといって、単純に厚みを倍にするわけにはいきません。
これにより、断熱性能の大幅なアップが実現できました。どんな断熱材をどのくらい使うかは、目指す性能を出せるかどうか、工法として現実的かどうかを吟味しながら決定し、最終的に図のようにしたのです。
壁だけでなく、屋根面もこれまでの倍の厚さにしています。
トリプルガラスとアルミ樹脂複合サッシを併せた「高性能ハイブリッド窓」
次に、忘れてはいけないのは「窓」の断熱性能です。
無印良品の家は、太陽光を上手に取り入れるパッシブデザインを採用しているため、南側の窓を大きく取るデザインが特長で、窓の断熱性能についてはこれまでもこだわってきました。
断熱性能の高い大きな窓を南側に設けることで、昼間は太陽の温かい熱を取り入れながら、夜間の窓からの熱の放出を防ぐことができるからです。
今回の断熱性能の大幅な改定により、壁・屋根の断熱性能が大きくアップしました。このため、壁の表面温度と、窓の表面温度に差があり過ぎた場合に、かえって結露や不快感の原因になりかねません。
そこで今回新たに採用したのが、これまでのハイブリッドフレームに、Low-Eトリプルガラスとさらに3枚のガラスでできる2重の空気層に断熱効果の高いアルゴンガスを注入するという、念の入った「高性能ハイブリッド窓」です。
このLow-Eガラス+アルゴンガスのトリプルガラスの断熱性能は、単位面積あたりの熱の逃げる量(熱貫流率/U値と言います)が、0.065W/㎡kという驚異的な数値になっています。
どのくらい驚異的かというと、旧仕様の無印良品の家の外断熱の外壁とほぼ同じ性能なのです。つまり「一般的な家の外壁と同等以上の断熱性能を持つガラス」ということになるのです。
これらの、「今考えられる最高の断熱性能」を有する壁・屋根・窓を装備し、無印良品の家は、今後さらに長きにわたり、快適で、地球環境に優しい家のトップランナーであり続けることができると、私たちは確信しています。
ところで、これだけすごい性能にすると、かなりお値段が上がってしまうとご心配される方もいらっしゃると思いますが、実はそれがそれほどでもないのです。なぜでしょう? それは、また次回お話しいたしましょう。
まずは、この「規格外れ」の断熱性能、皆さんはどう思われますか? ぜひご意見をお聞かせください。