「働き方」を考えると「生き方」が見えてくる

小さな住まい | 2017.12.5

前回のコラム「小さな暮らしで考える、住む場所と働く場所」では、みなさんからお答えいただいたアンケート結果から、これからの住まい方の輪郭がぼんやりと浮かび上がってきました。ただ、そこから垣間見えるのは、住まい方と働き方を調和させることの難しさです。

都心にオフィスが集中し、郊外に住居が集積することによって、住む場所と働く場所は遠く引き離されています。それによって長時間・長距離通勤が日常化し、地域のコミュニティで生きることはほとんど不可能になっています。

働き方を変えずに職住を近接させるためには、住む場所を都心へ近づけなければなりません。ただ、都心へ近くなるほど、当然、住まいのコストは上昇します。その上昇コストを軽減するための手段が小さな暮らしであり、住まいのダウンサイジングによって家賃や生活費などの数万円のコストダウンができる…。

これは前回の記事で紹介したシミュレーションですが、それはあくまで、働き方を変えない前提でのものでした。確かにそれによって職住近接が実現すれば、長距離通勤から解放され、時間の余裕が生まれます。ただ、それがすなわち豊かな暮らしなのかというと疑問が残る。ベターであるけれども、ベストであるかどうか、みなさんも賛否両論あるかと思います。

本当に豊かな暮らしを求めていくためには、「衣食住」だけでなく「働」(働き方)を含めてトータルに暮らしをチューニングしていく必要がありそうです。
今回は働き方の観点から小さな暮らしについて考えていきます。

自由度の高い働き方ほど満足度が高い
アンケートのなかで、現在の職業の満足度について皆さんにお答えいただきました。
まず合計値における割合として、全体の42%の方が今の職業に満足と答えています。
以下は、職業別に満足度をグラフ化したものです。

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注目すべき点として、上位に「専門職系(弁護士、コンサルタントなど)」(66%)や「経営者・管理職」(61%)、「商工自営業・フリーランス・SOHO」(60%)と自由度の高い職業がランクインしています。

一方で、いわゆる一般的な会社員の職種の満足度は軒並み低調です。「営業職系」(42%)は平均値と同等ですが、「一般事務・企画・経営関連職系」(39%)、「販売・サービス職系」(38%)、「労務系(生産・製造など)」(32%)と下位に位置します。
総合すると、自由度の高い職業ほど、満足度が高いという傾向が見られます。

上位2つは、収入の満足度の高さが職業の満足度をかさ上げしているとしても、必ずしも収入が高いわけではない「商工自営業・フリーランス・SOHO」や8位「クリエイティブ職系」(53%)は、すべてあるいは多くの裁量が個人に委ねられている職業です。下位が軒並み会社に紐づく仕事であることから考えると、「自由度の高い職業ほど、満足度が高い」という傾向がありそうです。

前回のコラムでも紹介しましたが、「自然の豊かな場所で暮らしたいが、毎日会社まで長い時間かけて通いたくはない」という質問に対して81%、同様に「職場に行かずに自宅でできる仕事をしたい」に対しては54%のひとが「そう思う」と答えています。「自由度が高い」という場合、裁量の自由があるという意味に加え、働く時間と場所が自由であり、住む場所もまた自由であるという意味も含まれていると考えられます。

「はじまり」のための小さな暮らし
私たちは、仕事や会社といった“働き方”に重心を置きながら、「どこに住むか」(=場所)、「どんな家に住むか」(=住まいのかたち)、「どのように住まうか」(=ライフスタイル)といった“住まい方”を考えています。理想的な住まいをどんなに豊かに想像できたとしても、差し迫る前提として、まず会社があり、職場があり、労働時間、そして通勤時間があります。理想的な住まいがそれらのフィルターを通ることで、理想は(悪い意味で)現実になる。私たちの一生の中で、働き方は確かに重要な位置を占めます。とくに20〜30代の働き盛りには、働くことと生きることはほぼ同義であるひとも少なくないでしょう。

つまり、住まい方と働き方の関係を図式化すると「住 < 働」になります。住まい方は働き方の後回しにされているのです。この関係を「住 > 働」あるいは「住 = 働」にすることなしに、私たちは理想的な住まいを手に入れることはできないはず。理想的な住まい方は理想的な働き方と密接に結びついているようです。

アンケート結果の話に戻ります。結果から見えてきたのは、「自由度の高い職業ほど、満足度が高い」。ここでの「自由」は仕事において裁量が与えられているという意味に加え、働く時間と場所が自由であるという意味も含みます。

自由度の高い職業とは、上の項目でいえば、「専門職系(弁護士、コンサルタントなど)」「経営者・管理職」、「商工自営業・フリーランス・SOHO」、「クリエイティブ職系」です。企画、営業、販売などの職種で会社に勤めている方にとっては、転職や起業でそのような職業を選択するのはハードルが高いかもしれません。特殊な資格やスキルのことはさておき、自由度の高い職業ほど、定期的な収入が見込めず、いまの生活条件を維持できるほどの収入がなければ、決断は難しい、と。そう考えるのでしょう。

しかし、ここで一歩を踏み出すための“てこ”として、私たちは「小さな暮らし」が役に立つのではないかと考えます。

それまでの暮らしのなかで溜め込んできたモノを手放し、家族との親しい距離感を保てるサイズの家に住まう。それによって生活コストは圧縮できます。

例えば現在の給与が月30万円で、それと同等の収入を「自由な仕事」で得るのは難しい。けれど、20万円の収入を得るぐらいなら現実的に考えられるという方もいるでしょう。その減収分に当たる10万円は、小さな住まいで家賃を抑え、付き合いで遊んだり飲んだりしていた支出を無くせば、節約するのはそう難しくないようにも思えます。

「働き方」を考えると「生き方」が見えてくる
小さな暮らしという“てこ”によって動き出すことができるとしたら、どんな職業が選択肢になるのでしょうか。といっても、ひとによって得意不得意、向き不向きがあるでしょう。
YADOKARIが運営するウェブマガジンでも、たくさんの小さな住まいとともに、本業とは別にちいさく始める「小商い」の事例を多数紹介しています。その中から、ヒントとして事例をひとつご紹介します。

大磯を拠点にデザイナーとしての活動の傍ら、もうひとつの肩書として焼き芋屋「やきいも日和」を運営するチョウハシトオルさんをご紹介します。
【インタビュー】大事なことは始めること、「やきいも屋・デザイナー」のチョウハシトオルさんに聞く小商い|ちいさくはじめる小商い(参照:YADOKARI)

その焼き芋は一般的に食されているものとは違って、大きな壷の中に芋をぶら下げ、底に入れた練炭で熱しながら1時間かけて芋を焼く「つぼ焼き芋」です。できあがった焼き芋は、皮は香ばしく、中身はねっとりと焼き上がります。大磯の店舗や各地のマルシェを転々としながら生計を立てています。この商売をはじめたきっかけについて、チョウハシさんはこう語っています。

「以前は東京のデザイン事務所で働いていたんですが、このまま東京で働き続けていくことに疑問を感じ、地元に帰って仕事をしたいと考えるようになったんです。独立を機に、地元の大磯に(デザイナーとしての)活動の場を移したのですが、まずは地元に僕のことを知ってもらおうと思いはじめたのが『焼き芋屋さん』だったんです。つぼ焼き芋のことは父から昔の焼き芋屋さんのお話を聞き、興味を持っていたので、まずは焼き芋用の壷を一台購入し、地元の朝市などで販売を始めました」。

デザイン業に加え、もうひとつの職を兼業することでそのふたつの仕事が相乗効果を生んでいます。デザイナーとしてのスキルを生かし、のぼり旗や包み紙、看板やウェブサイトのデザインを自分ですることができます。一方で、各地に移動しながら焼き芋屋を開くことで、焼き芋屋が「動く」ポートフォリオとして機能しているともいえます。

「まずやってみることが重要だと思います、そして、始めやすくするために、なるべく初期投資をあまりかけないことも大事です。小商いを楽しむより投資の回収が目標になってしまいますからね」

会社を離れ、それまで仕事で磨き上げてきたスキル一本で勝負するのはたしかに難しいかもしれません。でもチョウハシさんのように、故郷とはいえ新天地で活動をはじめるときにあえて「デザインスキル × 焼き芋屋」の二足のわらじを履くことで、ふたつの収入源ができるだけでなく、相乗効果も期待できるのです。

最近では大手企業のなかでも、副業を良しとする会社が増え始めていますが、報酬を得ることではなく新たなコミュニティとの繋がりや視野を広げるために週末ボランティアや地域の活動に積極的に参加するようなパラレルキャリア的な動きをする方々も増えてきているようです。

日本人のほとんどが会社員化してきたなかで埃をかぶってきた「小商い」が、こうした形で再評価されてきています。その背景には、安定的なお給料を得るよりも大事なもの、例えば、家族との時間や地域コミュニティで暮らすという当たり前のことが見直されているのかもしれません。

アンケート結果を踏まえて、働き方の観点から小さな暮らしについて考えてきましたが、みなさんはいかがでしょうか?「どう働きたいかを考えることが、どう生きたいのかに繋がっていく」。そんなことを改めて教えて頂いたようにも思います。たくさんのご意見をお待ちしております。