ミニマルな暮らしは「考える」暮らし

コラム | 2017.10.10

「小さな住まいで小さく暮らし、お金やモノから自由になれば、よりよく豊かに生きることができる」。
これまでの「小さな住まい」連載コラムを通して私たちが考えてきたことは、そういうことでした。

スクールバスをDIYで住居へと改造し、北アメリカを旅した家族の話「家族のかたち、家のかたち」。この記事は、もうすぐ離れ離れになってしまう家族が残された時間を濃密に過ごすために、それまで住んでいた大きな家から小さな家(スクールバス)へと住まいをダウンサイズして住みながら旅をするお話でした。
小さく住まう、みんなで生きる」では、北欧のエコビレッジや現代のシェアハウス、そして昔の日本の長屋の話を通して、住まいを小さくすることで可能になるコミュニティ共生の暮らしを紹介。
家とお金」では、大金を手にしつつも中古の車(ワーゲンバス)を住まい代わりに購入し、つつましくも等身大で自由に暮らすメジャーリーガーのお話でした。
そして、「二拠点居住と夏の家」は、北欧やヨーロッパでは一般的な「夏の家」を例にあげながら、日本における二拠点居住の可能性について探りました。

小さな住まいで小さく生きるには、前提として所有物を減らすことが大切です。
今回は日本で「小さな暮らし」を実践している方のお話を紹介しながら、モノを減らすことの先にある幸せな暮らし、豊かな暮らしの具体的なイメージはどんなものかを考えていきたいと思います。

バターのために冷蔵庫を持ち続けるのか
国内で小さな住まい方の実践者を取材した書籍『アイム・ミニマリスト(YADOKARI著・三栄書房刊)中でも登場するフリーランスエディター・ライターとして働く増村江利子さん。彼女は数年前に東京から長野に移住し、パートナーとお子さんとともに改築されたトレーラーハウスにお住まいです。

3.11東日本大震災によって私たちは、信頼しきっていた社会のシステムやインフラを信頼しすぎてはいけないこと、それらに依存することはリスクをともなうことに気づきました。

「暮らしを誰かに任せずに自分の手でつくりたい。消費社会から少し距離をおきたい。そんなタイミングで移住した私がまずやったことは、唐突に思えるかもしれないが、冷蔵庫をやめる、ということだった」(参照:YADOKARI 暮らしを小さくすることで、消費社会から距離をおく より)

増村さんはそう語っています。消費から距離を置くということは、自分でつくる、つまり自らが生産者になることを意味します。冷蔵庫をやめることによって、見えてきたことがあるそうです。

「牛乳や肉、魚はたまに買う程度の嗜好品扱いなので、買ったらその日のうちか、翌日の朝にはなくなっている。結局、冷蔵庫にいつもあるのは、卵、味噌、バターの3つだった。冷蔵庫をやめようかと思ってからはじめて、味噌は発酵食品なので冷蔵庫に入れなくてもいいことに気づいた。卵も常温で大丈夫。残ったのはバターだった。自分はバターのために冷蔵庫を持ち続けるのか?と考えたら、急にバカバカしいことのように思えてきた」(参照:YADOKARI 同上 より)

結局、増村さんは冷蔵庫を手放すことになります。
ふつうに考えれば、モノを減らすことによって暮らしは不便になる。生活家電が暮らしに与えてくれるのは便利さでした。冷蔵庫の誕生と進化によって、私たちは食料品店へ頻繁に出かけなくてもよくなった。その一方、買いもののために街へ出る機会が少なくなった。なるほど、便利さとともに、誰かと出会う機会は少なくなったわけです。

人気のミニマリストの到達点は「人間関係」
「ミニマリスト」。この言葉が日本で流行したのは2015年のことです。書籍『ぼくたちに、もうモノは必要ない。』(ワニブックス刊)が話題になったことがきっかけでした。ミニマリストとして、自身の暮らしを題材にこの本を著したのは佐々木典士さん。流行によってこの考え方は広まっていきましたが、フローリングに布団が敷かれているだけの、極端なイメージが先行してしまい、ミニマリストが本当に大切にしているものが霞んでしまったように思います。

当然ながら、ミニマリズムの目的は「減らすこと」そのものではありません。
佐々木さんが考えるミニマリストとは「自分の必要なモノの量を自分の価値基準で決めている人」であり、ミニマリズムとは「減らすことを通じて、生きる価値を見直す」ことです。
では、「生きる価値」とは何か。YADOKARIが企画したトークイベントのなかで、佐々木さんはこう語っています。

「主観的幸福度を測るために “カレンダー・マーキング法” という方法があります。1日を通してどう感じたかという気分の印(○、△、×)をカレンダーにつけるというものです。〔中略〕自分はひとりでいるほうが好きだとずっと思っていたんですが、これを振り返って見たら、実は人と繋がって何かをした日に◯が多かったんです」(参照:YADOKARI ミニマリストは一度通過すればいい。繋がりから生まれる幸福感 より)

佐々木さんは同じトークイベントのなかで、「現代の幸せへの影響度が一番大きいのはお金でもモノでもなく、人間関係である」と語っています。彼は現在、それまで拠点としていた東京から、京都へと移住。移住後は、地域で開催されているDIYのワークショップによく参加しているとのこと。
「必要ないものはつくりません。つくることが目的ではなくて、何かをつくり上げる過程を人と共有することが面白いですね」(参照:YADOKARI 同上 より)

小さな暮らしは考える暮らし
ミニマリストとして世界中でも注目される佐々木さんがたどり着いたのは、「減らすこと」から「つくること」、そして「人間関係をつくること」でした。豊かで幸せな暮らしを考えるうえで、このことは重要なヒントであると感じています。

今回ご紹介したお二人の事例が教えてくれることは「モノを減らして、小さくシンプルに暮らすということは、けして物事がシンプルになることではない」ということなのかもしれません。シンプルな暮らしは、便利なモノがない分、工夫を重ね、たくさんのことを考えなければなりません。

私たちは、たくさんのものを消費し、便利なモノを増やしています。それによって暮らしの物事をできるだけ“自動化”し、考える負担をできるだけ減らすことで、受け身の暮らしをしているのかもしれません。これからより技術発展していく世の中で、IoTのみならずAIやロボット技術が日常の暮らしに入り込んでくる未来のことを考えると、これからの暮らしはますます「考えない暮らし」になってしまう様にも思えます。

でも、それは本当に幸せなことなのでしょうか。面倒なこと、不便なこと、疲れること、時間のかかること、そして考えること。小さな暮らしが教えてくれるのは、モノを手放すことの代わりに、考えるコト=豊かに生きる知恵 を増やすことなのかもしれません。

みなさんはたくさんのモノと向きないながら、どんなコトを考えていくのでしょうか? 未来の豊かな暮らしのヒントは、日々の暮らしの中に眠っているのかもしれません。たくさんのご感想、メッセージをお待ちしております。