二拠点居住と夏の家

コラム | 2017.9.12

ひとつの場所に家族とともに住まい、ひとつの場所から会社へ通い、遊びに出かけ、帰ってくる。多くのひとにとって、住む場所はたったひとつです。

私たちは、日々の疲れを癒やすため、年に何回かは遠方へ出かけ、ホテルや旅館で過ごします。しかし、よほど泊まり慣れた場所ならともかく、ゆっくり過ごせるようになるまでには、とてもたくさんの時間がかかるものです。短期間の滞在であれば、慣れたころにはチェックアウト。帰宅後、わずかな思い出とともに残ったのは移動疲れだった、というのはよくある話です。

繰り返しになりますが、私たちのほとんどは、「慣れた場所=家」をひとつしか持っていません。家がひとつ、ということは当然、暮らしかたもひとつだけ。ひとつの暮らしかたに疲れたとき、気晴らしするための「もうひとつの場所」を持ち合わせら、暮らしはどのように変化するのでしょうか。

今回は、暮らしの拠点をもうひとつ持つこと、いわゆる「二拠点居住」のお話です。

北欧の「夏の家」
「二拠点居住」と聞くと、「別荘」「避暑地」「リゾート」「お金持ち」を思い浮かべるひとも多いと思います。日本では、ただでさえ住宅コストが高く、1軒の家を購入・維持するのも精一杯である時代が長かったため、もうひとつの家を持つことはお金持ちのステータスシンボルのようなものでした。10年前の調査では、別荘として住宅を所有しているひとは、たったの0.7%しかいないのです。
(参考:総務省統計局調査

ただ、海外を見渡すと、その様相はまったく異なります。「別荘」は決してお金持ちだけのものではなく、ふつうのひとびとの暮らしのなかで活用されているのです。

二拠点居住の先進地といえばヨーロッパや北欧。ドイツのクラインガルテン、ロシアのダーチャ、フィンランドのモッキ、スウェーデンのコロニー、デンマークではコロニヘーヴ。国によって名称やかたちは異なりますが、週末や短い夏のバカンスを自然豊かな環境で、家族や友人たちと過ごすための場所であることが共通しています。これらは総称として「夏の家」「サマーハウス」と呼ばれています。

デンマークのコロニヘーヴを例にとってみます。その起源は18世紀末。急速な工業化のなかで首都コペンハーゲンに人口が集中し、ひとびとは窮屈な住まいと劣悪な都市環境のなかで暮らしていました。休みの日になると自然を求めて身近な場所に居場所をつくった、それがデンマークの「夏の家」、「コロニヘーヴ」でした。

コロニヘーヴとはそもそも「コロニー(集合体)」+「へーヴ(庭)」、つまり「庭のコミュニティ」という意味です。もちろん庭だけがあるのではなく、寝泊まり可能な小屋がついています。ですが、あくまで重要なのは「庭」です。

日本とデンマークの住宅に対する価値観の違いについて、日本コロニヘーヴ協会のイェンス・イェンセンさんはこう語っています。

「日本とデンマークでは敷地と建物に関する考え方がまったく違います。日本は、建物が敷地いっぱいにつくられている。デンマークは、敷地に対して建物が小さい。必ず庭をつくるからね。家を小さくすることによって庭の面積が増えるなら、小さくしたほうがいいという考えだね。(中略)庭と住まいの関係性がとても大切で、家の中からどんな庭の景色が見えるか、庭でどんなふうに遊べるかを考えている。アウトドアリビングといって、庭もひとつのリビングとして捉えているんです」。
(参照:YADOKARI 【対談】自由で幸せな国。北欧の豊かな暮らしを日常に より)

またコロニヘーヴの小屋は、豪華ではなく、とても質素。上下水道はありますが、電化製品も必要最低限のものだけ。最低限のインフラしかないものが主流です。あくまで庭が主役ですので、小屋の前に広がる庭で子供たちとオーガニック野菜を育てるのもよし、気の知れた仲間とBBQやお酒を嗜むのもよし、自然のなかで家族や仲間と共にゆったりと過ごす時間はプライスレスです。日本でも地方の空き家などをDIYで改修しながら週末二拠点暮らし、「無印良品の小屋」などコンパクトな小屋を活用してプチ別荘暮らしなどが手軽に行える時代にもなりつつあります。

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もうひとつの家、もうひとつの暮らし
理想的な家について私たちが想像を膨らませるとき、イメージに描かれた家にはきっと庭が広がっている方も多いかもしれません。当然、都市の暮らしのなかでその理想を実現するのは、よほどのお金持ちでなければ難しいでしょう。しかし、デンマーク人が都市生活者のための“庭”としてコロニヘーヴを考えたように、私たちもまた「もうひとつの場所」をつくることは、空き家や遊休地が都市地方限らず増えている時代にそう難しくないはずです。さまざまなハードルはあるかもしれませんが、日本特有の住宅コストの問題がもっとも大きいでしょう。

実現のためのポイントは、やはり、小さな暮らし、小さな住まい。
前々回の記事「小さく住まう、みんなで生きる。」で書いたように、私たちはひとつの場所、ひとつの家に、暮らしに必要なものすべてを詰め込んでしまっています。それぞれの家族が共通して所有しているモノ(例えばキャンプ用品や釣り道具のように不定期で使用するもの)や場所(例えばシェアハウスで実践されているリビングやキッチンの共有)をみんな(隣人やコミュニティ)でシェアして所有すれば、住まいは小さくて済む。暮らしと住まいのダウンサイジングによって、住宅にかかるお金は低く抑えられるはずです。

平日は職場へのアクセスを考えて都市に小さな居を構え、週末は、自然豊かな「もうひとつの家」でのんびり過ごす。せっかくだから、その家は家族や友人みんなでDIYでつくったりシェアすることができればコストが抑えられる以上のメリットがあるに違いありません。

これからますます活発になっていくはずの、二拠点居住。みなさんが描く理想の暮らし、家の使い方は何を大事にしていくのでしょうか? たくさんのご意見をお待ちしております。