デジファブがかなえる、人と地域を結ぶ家づくり(後編)

コラム | 2018.11.27

建築の業界で近年注目されている「デジタル・ファブリケーション」。コンピューターで数値制御されたデジタル工作機械を使うことで、生産者とユーザーがダイレクトにつながり、多くの人の手を介さずにアイデアをかたちにできる技術です。

小さな住まいを提案するYADOKARIは、この新しい技術を家づくりに応用したいと、常々考えていました。
今回インタビューした建築家の秋吉浩気さんは、デジタル・ファブリケーションの伝道師として活躍している先駆者。その秋吉さんが家づくりのプロジェクトをかたちにしつつあるといいます。
後編では、デジタル・ファブリケーションと家づくりについてうかがっていきます(前編をご覧になりたい方はこちら)。

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秋吉 浩気(あきよし こうき)
VUILD株式会社代表取締役CEO / 建築家・起業家
1988年 大阪府生まれ
「住む事と建てる事」が極端に分離している状況を革新すべく、 日本伝統木構法とデジタル製造技術とを融合したデザイン手法の構築と、その社会実装を行う。芝浦工業大学工学部建築学科にて建築設計を専攻、慶應義塾大学政策・メディア研究科田中浩也研究室にてデジタル・ファブリケーションを専攻。日本建築学会建築雑誌編集委員。日本で唯一のShopBot Guru。若手建築家の登竜門「SDレビュー2018」入選。

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YADOKARI(さわだいっせい/ウエスギセイタ)【聞き手】
住まいと暮らし・働き方の原点を問い直し、これからを考えるソーシャルデザインカンパニー「YADOKARI」。住まいや暮らしに関わる企画プロデュース、タイニーハウス開発、空き家・空き地の再活用、まちづくりイベント・ワークショップなどを主に手がける。動産を活用した高架下ホステル&カフェ「Tinys Yokohama Hinodecho」、イベントキッチンスペース「BETTARA STAND 日本橋(閉店)」などの施設を企画・運営。著書に「ニッポンの新しい小屋暮らし」「アイム・ミニマリスト」「未来住まい方会議」「月極本」などがある。

木材の生産者とつながることで、家づくりの何が変わるのか

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― 秋吉さんは本来の専門である建築分野に、デジタル・ファブリケーション技術を応用することはあるのでしょうか。

大学院を卒業して約3年が経ち、いよいよ本来自分がやりたかった「建築物を起点とした地域づくり」がプロジェクトとしてかたちになります。「まれびとの家」という富山県南砺市利賀村で行なっている家づくりのプロジェクトが、2019年の4月に竣工予定です。

― 「まれびとの家」は、若手建築家の登竜門として有名な「SDレビュー」に入選されていましたね。

はい。この地域に根差す伝統的建築形態「合掌造」に、デジタル技術を融合させることで生まれた、新しい構造形式について評価していただけました。
「まれびとの家」は、地域森林資源とデジタルファブリケーションを建築に活用する試みです。いままでの家づくりの方法だと、木材が産地から消費者の手に届くまでに多くの中間業者を介していました。その結果、ものすごい距離を輸送する必要があったわけです。そうするとさまざまな無駄が生まれます。車を走らせればCO2などの環境負荷もかかりますし、時間やコストがかかる。それは環境に良くないことはもちろん、距離が遠のけば遠のくほど、消費者にとっても生産者にとっても「実感」が失われていってしまいます。

small181127_img02模型写真

small181127_img03俯瞰パース

small181127_img04実寸大部分模型

small181127_img05地域資源の循環図

― 材のような大型のものが、移動するコストは大きいですね。

デジタル・ファブリケーションを活用すると、材料を加工して家を建てるまでに必要な輸送距離が圧倒的に短くなるのです。平均的な距離では10分の1から5分の1ぐらいまで下がります。

― 家が非常に高額な理由のひとつに、中間業者が多すぎることがあります。いままで生産者、運送会社、加工会社、メーカー、施工会社などの間をグルグルと旅していた木材が、消費者と生産者がダイレクトにつながることによって、最短距離で届くようになるわけですね。

さらに、生産者が木材を加工してお客さんに届けるということまで手がけられれば、その分地域に落ちる利益が増え、再び地域に雇用が生まれます。地域が潤うことで、次の世代のための植林まで踏み込むことができるようになります。

― YADOKARIは建築家やハウスメーカーではなく一般のユーザーに近い立場で、家づくりの可能性や新しい住まいの選択肢について発信しています。僕らから見ても、秋吉さんのプロジェクトは素晴らしいと感じました。デジタル・ファブリケーションによって自分たちのつくりたいものをつくれるだけでなく、お金が地元の人たちに落ちるサスティナブルな仕組みがある点が魅力的です。これこそデザインの力だと感じます。
「まれびとの家」は、デジタル・ファブリケーションを導入して生産工程を改革し、地域に利益をもたらすプロジェクトだということでしょうか。

それはこのプロジェクトのひとつの側面ですが、全てではありません。
生産工程の改革は、僕らの会社であるVUILD株式会社(以下VUILD)がShopbotの代理店として地域に提供する価値です。
もうひとつ、僕らが建築家として提供する価値が、建築の力によって富山県南砺市五箇山という地域に、外から人を呼び込むこと。地元の豊富な木材で家をつくることで、木材の消費を促進し、ひいては観光でも地域に利益をもたらすことが目標です。具体的には、僕らがデザインした50m²以下のタイニーハウスを宿泊施設として地域で活用します。

― 木材の地産地消ですね。

はい。食品などを見ると、現代は材料への関心度が上がってきましたよね。誰が育てた野菜で、どんな味がするのか、吟味する人が増えました。これと同じで、木材も生産者の顔が見える、地域の個性がある材料の良さに気づいてもらいたいのです。地域の質の高い木材でつくった家に宿泊する体験によって、地域の良さを感じてもらい、地域のポテンシャルを引き出す起点になれればと考えています。もともと五箇山は合掌造りの家や演劇村など、観光資源が多い地域なんですよ。

― VUILDが手がけた家、素敵ですね! ぜひ宿泊してみたいです。

日本の家の質を維持するために、ユーザーに求められるもの

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― 秋吉さんのプロジェクトにとても共感したうえで、あえてうかがうのが、インターネットで生産者と直接やりとりすることに、負の側面があるのでは……ということです。インターネットを使えば海外とも簡単につながれるということは、安さを理由に海外の生産地の木材を購入するということに、つながる心配はないでしょうか。

そこはユーザーの見識が問われるところでしょう。いままで何が繰り返されていたのかというと、こういうことなのです。
安さ重視で、たとえばインドネシアの木を大量に伐採して合板をつくり、地場の労働者を搾取し、環境負荷を顧みずに長距離輸送をして家をつくる。その結果、海外の資源を安く買い叩いて過剰に奪い、国内の生産地には仕事を与えずに産業を先細らせることになります。安さだけを考えて消費することは、持続性を無視したビジネスモデルに加担することになるのです。
僕はユーザーが意識を変えることは悪循環をストップさせる大きな力になると信じているので、その点は訴えていきたいですね。僕のプロジェクトで、輸入木材の使用を希望される場合は、その代わり植林する基金に寄付してもらうとか……何かしらアイデアを導入していくつもりです。

― 秋吉さんのプロジェクトが目指す、より良い世界のイメージを伝えていくことが大事ですね。

その通りです。一方で希望的な兆候もあります。
インターネットで国々がどんどん近くなり、グローバル化が進んでいくと、逆にローカルなものに価値が置かれるようになると思うのです。日本の木材なら、サクラや、ヒノキの良さが世界へと知られていく。それはインターネットが普及してきたからこそ見えてきた、次のフェーズです。
例えばインバウンドの旅行者は、インスタグラムで日本固有の風景を探しますよね。こういう時代だからこそ、日本固有の木材の良さが、見直されていくのではないでしょうか。

― 確かにそうです。個人の裁量が大きくなればなるほど、仕事においても、暮らしにおいても、目先の利益に振りまわされない選択をすることが大切になってきますね。プラスの兆候を見逃さずに、より良い未来をつくるためのビジョンを持って、新しい技術を取り入れていきたいものです。

最後に、デジタルの良さは、データは国境や地域を超えられることです。
日本でつくった建築物のデータを、世界中に散らばる7,000台以上のShopbotに送信し、現地の材料で出力することも可能です。そういう、物質を輸送せず、空間を超えて遠くの他者と共創することのできる可能性も、私たちの目の前には広がっています。



家は単なる箱ではなく、人が集う場であって欲しいと、YADOKARIは常々考えています。ですから、秋吉さんの「建築物の民主化を起点とした地域づくり」というミッションにはとても共感しました。
家が人のためにあるなら、それをつくる過程でも、人と人のつながりを大切にしたいもの。急激に進むグローバル化によって、安さを求めて国内の生産者をないがしろにし、国外の資源や労働力を搾取するような悪循環の上には、良質な場が育つはずもありません。
しかし、インターネットはグローバル化を加速する面がある一方で、ローカルな地域から情報を発信し人を呼び込む力も持っています。ならば地域から発信されるよいものに目を留め、生産者と直接つながり、サスティナブルなものづくりをしていくことが、近い未来に個人単位でできるようにもなるでしょう。

デジタル・ファブリケーションという、デジタルとものづくりを結ぶ技術の登場によって、個人がものづくりをすることができるようになった。
それは、ものづくりに個人の意思を反映することができるようになることでもあります。そういったフェーズにおいて、デジタル・ファブリケーションの先端を走る秋吉さんの誠実さには、多くの学ぶべきものがあると感じました。

みなさんは、デジタル・ファブリケーションの技術の先に、どんな未来があると思いますか?
たくさんのご意見、ご感想をお待ちしております。