デジファブがかなえる、人と地域を結ぶ家づくり(前編)
小さな住まい | 2018.10.30
近年の建築業界で注目されている「デジタル・ファブリケーション」。
レーザーカッターや3Dプリンタなどの、コンピュータと接続されたデジタル工作機械を使い、設計データ通りにさまざまな素材を切り出し、製作する技術のことです。
多くの人の手を介さず、アイデアを短時間でかたちにできるデジタル・ファブリケーションの登場によって、ものづくりの環境が大きく変化しています。それはYADOKARIが手がける小屋やタイニーハウスづくりでも同じことです。
そのデジタル・ファブリケーション業界の若手トップランナーが、秋吉浩気さん。
YADOKARIは、とあるイベントの登壇者として秋吉さんにお会いしたときから、「彼こそ未来の新しい家づくりを担う人材だ」と直感し、ぜひじっくりとお話をしたいと思っていました。
その想いがかなった今回の対談では、秋吉さんにデジタル・ファブリケーションと家づくりの未来について、うかがっていきます。
デジタルでかなう、よりパーソナルなものづくり
― いまはまだ、デジタル・ファブリケーションという言葉を、耳慣れないと感じる人も多いと思います。
そうですね。でも実際は、すでに同じ仕組みを搭載したマシンを使いこなしている人が多いのです。たとえば、家庭用のミシンのデジタル刺繍ミシンがありますね。ミッキーマウスの模様をピッと押すと自動的に刺繍するようなミシンです。デジタル・ファブリケーションも、仕組みはほとんど同じ。デジタル出力する機器が、ミシンだったり、3Dプリンターだったり、僕が取り扱っている「ShopBot」のようなデジタル加工機だったりするという違いだけなんですよ。
― デジタル刺繍ミシンは、子ども用品を手づくりする際によく使われるマシンですね。それぐらい簡単に扱えるものなのでしょうか。
基本的な使いやすさは、そこまで変わらないと思います。実際僕の会社、VUILD株式会社(以下VUILD)では、主婦や学生といった一般の方向けのワークショップも行なっていて、それこそデジタル刺繍ミシンの使い手と同じ層の方々が、ShopBotで日用品を製作しています。
― 面白そうですね。どんなものをつくっているのですか。
テーブルや収納などの家具が多いですね。2日間のうちの1日で、受講生とVUILDのスタッフがディスカッションして、それぞれの希望をデータに反映します。2日目にはそのデータをShopBotで出力して作品をつくるんです。たとえばひとつの棚を、自宅のサイズ感にあわせたり、お気に入りのアイテムがぴったり入る高さにしたり、好きな模様を加えたりして、自分だけの生活用品をつくっていきます。
人が既製品に合わせるのではなく、人に合わせた物をつくる時代に
― データを製作するのは、VUILDの方ですか。
データのつくり方から学び、製作する5日間の研修も開催していますが、2日間の短期体験では我々のメンバーがデータを作成してしまっています。
しかし、最終的には自分で考えたアイデアを自分で実現することを目指しているので、近いうちにユーザーがWEBブラウザ上で自分好みの家具を簡単に設計できるような、プラットフォームを2018年11月末に公開する予定です。設計者抜きで、エンドユーザーの皆さんと、ShopBotを持っている地域の工房を直接結ぶプラットフォームです。設計ツールの使用料は無料にして、出力先のShopBotオーナのもとで製品をつくるときに課金する仕組みなので、まずは自分らしい生活用品のかたちを、自由につくってみて欲しいですね。
― 好みの家具のデータを無料でつくれるのは、画期的です。あれこれと考えて、データをつくるだけでもワクワクしますね。家具は大きなものなので、実際に手に入れる前に、サイズ感やデザインなどを熟考したいものですから。
いままでも、オンライン上で家具のコーディネートをARなどの仮想空間でシミュレーションするサービスはありました。ただし規格品を使うと、部屋の間取りに対応する限界があります。でもデジタル・ファブリケーションなら、ミリ単位の調整やより自由な意匠が実現可能になる。いままで特注でなければ手に入らなかった製品が、手軽につくれるようになります。
― それは嬉しい! 切り出されたパーツを組み立てるのは、誰もができることなのでしょうか。
基本的に、釘などを使う必要はなく、組み合わせるだけで製作できます。つくるものによって、さまざまなパターンの接合部(差し込む部分と、それを嵌め込む部分)をデザインして、挿すだけで強度が保てるのです。このように難しい加工は機械でできてしまうので、ヤスリ掛けなどの最終工程を、自分でしてしまえば精度の高いものでもDIYできてしまいます。
― 出力し、組み合わせて、ヤスリ掛けするだけなら、素人でもつくれそうです。思い通りにカスタマイズしたものを、つくってみたい人はたくさんいそうですね。
はい。ワークショップで「デジタル・ファブリケーションで出来ること」についてお話をすると、参加されている方はいろいろなアイデアが湧いてくるようです。
とくに主婦の方は、日頃から家の設えについて考えているからか、「この大きさで、花瓶をここに置きたい」、「ここにはコードを通したい」、「この高さは厳密に何センチにしたい」など詳細な要望がどんどん出てきますね。生活に対する創造性を無限に膨らませて貰うのが僕らの使命です。
― 既製品に自分を合わせて生活するしかないと思っていたのが、その制約が外れて、自分好みのものがつくれるわけです。きっと自由な発想が溢れてきますよね。
技術を中心に、人が結びつくデジタル・ファブリケーションの潮流
― 秋吉さんは大学で建築の勉強をされていたわけですが、どういった経緯でデジタル・ファブリケーションに興味を持たれたのですか。
建築設計を専攻している学生だったころは、自分が計画しているものとそれを使う人との間に距離を感じていました。そのとき学んでいた分野は、人に会うこともなかったので、誰のためにやっていることなのか実感できなかったのです。それに対して、3Dプリンターなどのデジタル・ファブリケーション技術の周辺で起きているムーブメントは、技術を中心にどんどん人が結びついているように感じられました。
― 「ファブラボ*」などの工房では、地域ぐるみでものづくりを楽しむ雰囲気があります。
世界中の「ファブラボ」で、子どもから老人までが集まって、地域で必要なものを自分たちでつくるワークショップが行われています。従来のDIYの場合、かなり高度なスキルや技術が必要とされるので、間口が広がりにくかったのです。
ところがデジタル・ファブリケーションの技術が一般化するにつれて、一気にものづくりの裾野が広がりました。
「データをつくって、ピッと入れるだけで、考えていたことがかたちになる」というのは、新しい地域づくりや生活づくりの可能性を広げますよね。そこで僕は大学院ではデジタル・ファブリケーションを勉強することにしたのです。
― 秋吉さんの会社であるVUILDは、2013年から「ShopBot」というデジタル加工機の代理店をされています。当時秋吉さんがまだ大学院生だったことを考えると、その行動力に感嘆するのですが、きっかけは留学か何かだったのでしょうか。
幸いなことに、たまたま2013年に横浜でデジタル・ファブリケーションの世界会議「FAB9」があったのです。そのときにレーザーカッターや、3Dプリンターの有名な開発者や、世界約200箇所のファブラボを運営しているオーナーたちが訪れていました。僕もそこに参加して、一緒にものづくりワークショップを楽しみました。そこで1週間師事した「ShopBot」の開発者に「日本でShopBotを広めないか」と冗談で言われました。ジョークでSHOPBOT JAPANというTシャツをつくって毎日着てたのですが、それが現実になったという感じです。
― 当時起業したのが、いまのVUILDにつながっているのですね。
もともと「建築物を起点とした地域づくり」をやりたいと思っていました。そういった分野は、自分で道を切り拓くしかなかったので、そもそも就職する気はなかったのです。だから、取り敢えず進んでみようと……。はじめは小さい家具をつくって売ったり、子供の遊具をつくったりしていました。
― 目標の「建築物を起点とした地域づくり」に向かって、一歩ずつ進んでいますよね!
起業から5年経ち、最近ようやく当初の目標に近づいたところです。来年の春先には、富山県の南砺市五箇山で行なっている家づくりや地域づくりのプロジェクトがかたちになります。
― 「まれびとの家」のことですね。興味深いプロジェクトです。後編では、そのお話をもっとうかがいたいですね。
後編では「デジタル・ファブリケーションを活用した家づくりや地域づくり」をテーマにお話しします。