リノベしたマンションは高く売れますか?

リノベーションなんでも相談室 | 2024.1.30

ご質問

せっかくお金をかけてリノベーションをするのであれば、もしも売却することになった場合には高く売れたらいいなと期待してしまいます。実際、リノベーションしたマンションは高く売れるものなのでしょうか

人々の暮らし方や価値観の多様化を受けて、中古マンションを購入して、自分に合わせたリノベーションを行う人が増えているようです。新築から中古へと、マンション市場が大きな変化を迎えている中で、こだわりのリノベーションを施した物件の資産価値についてはどのように考えるべきなのでしょうか。

今回は、3度の中古マンション購入+リノベーションと、2度のマンション売却を経験している、宅地建物取引士でファイナンシャルプランナーの”こっしー”が、リノベーションしたマンションの資産価値について解説してまいります。

「高く」は売れるが…

世の中には多くのリノベーションされた物件がありますが、ポータルサイトなどで目にするリノベ済み物件の大半は不動産業者が売主となっている、いわゆる買取再販物件です。今回は、そのような物件ではなく、個人がこだわりのリノベーションを行ったケースを念頭において考えていきましょう。

さて、「リノベーションした物件が高く売れるか」というご質問にお答えしたいと思うのですが、なにをもって「高く」売れると判断すべきかが難しいところですね。短期的な売却で利益を求める人もいるでしょうし、将来の売却時に相場よりも少し高く売れればいいという人もいるでしょう。まずは、このあたりから検討してみます。

(1)リノベーション後の売却で利益を得られるか
結論から申し上げると、短期的な売却で、利益を得られるほど高く売れるということはあまり期待するべきではありません。例えば、中古マンションを3,700万円で購入して、1,300万円のリノベーションを行ったケースにおいて、住みはじめて1~2年後に売却して5,000万円以上で売れるということは多くないでしょう。私も含めて、ここ数年においては、購入価格+リノベーション費用よりも高く売却できたケースも珍しくないものの、その背景には中古マンション価格の高騰もありました。利益が出ればラッキーではありますが、それを狙ってマンション購入やリノベーションを行うのはナンセンスかもしれません。

(2)周辺相場よりも高く売れるか
短期的な利益を見込みにくいとしても、周辺相場よりも高く売却することは難しくないと考えてよいでしょう。実際、リノベーションして4年ほど暮らしたご自宅を売却した神奈川県川崎市の事例では、同時期に売買がなされた同じマンションの別のお部屋に対して、約33%高い金額で成約しています。居住年数2年半ほどの東京都中野区の事例では、他のお部屋に比べて約23%高い金額で取引がなされています。もちろん階数や向きなどその他の条件にもよりますが、リフォームがされていないお部屋と比べれば、多くの場合で高く売ることができるでしょう。

リノベーション後に20年暮らしたお部屋を売却することになった場合には少し考え方が異なるかもしれません。リノベーションして数年であれば、設備などの劣化も少なく、住まい手のこだわりが十分に魅力的に見えるでしょう。しかし、20年も住んでいれば、それ相応の劣化が生じ、お風呂やトイレ、キッチンなどのひと通りの交換も必要になる頃です。そうなると、新たに購入した人もなにかしらのリフォームを行うことになるでしょうから、周辺相場より2割も3割も高く売るというのは難しくなりそうです。

(3)住宅ローンの残債を割らないか
将来的に家を売却する際に、中古マンション購入・リノベーションのために組んだ住宅ローンが残りさえしなければよいという考え方もあります。図1では、5,000万円(物件価格3,700万円+リノベーション1,300万円)の住宅ローンを組んだ場合の残債の推移を示しています。金利が0.7%で変わらないという前提になりますが、10年も経つと元本が約1,300万円減ることがわかります。

図1. 住宅ローン残高の推移

つまり、リノベーションの価値が売却時には一切考慮されないという控えめな想定をしても、マンション価格が下がらなければ、10年後には残債割れを回避できることになります。実際は、リノベーション後10年程度であれば十分に他との差別化も図れるでしょうから、残債割れリスクは極めて低くなるといえそうです。なお、5年後に物件相場が3,700万円のままだとして、相場より18%高く売れれば残債割れしない計算になりますから、5年後の売却でも意外とハードルは高くないかもしれません。もちろん借入額やマンション価格などの諸条件によりますので一例として。

価値を維持できるリノベーション

売却時の価値を高めることにこだわりすぎる必要はないものの、せっかくお金をかけてリノベーションをするのであれば、長い目で価値を維持できるような空間づくりをしたいものです。売却価格を決める大部分はマンション自体のスペック(立地・広さ・築年数・管理状態など)ではあるものの、高経年の中古マンションが増えていくこれからの時代においては、永く快適に暮らせるようにきちんと配慮したお部屋が求められることになるでしょう。ここからは、長い目で見たときにも価値を維持する工夫について検討してみます。

ポイント(1)マンション選び
リノベーションで価値ある空間をつくれるとしても、マンション自体が長く価値を保ち続けるものでなければ、将来的に高く売ることは困難になります。人口の大幅な減少が予想されていないエリアで、現行の耐震基準をクリアし、持続可能な維持管理がなされているマンションを選ぶことがポイントとなりますが、詳しくは以下のコラムに譲りたいと思います。

「買ってはいけないマンションはありますか?」
「築50年のマンションを買ってもよいでしょうか?」
「長期修繕計画とは、なんですか?」

ポイント(2)自由度の高い間取
マンションの分譲時には部屋数を確保することが優先され、60㎡を下回る広さでも3LDKの間取がつくられることが多くあります。玄関・寝室・洗面脱衣室・リビングのいずれの空間も狭苦しく、それなのに暗い廊下が床面積全体の数%を占めていたりするわけです。20~30年前とは世帯人数や暮らし方・働き方も異なりますから、細かくお部屋を区切るというよりは、むしろある程度の余白を残した空間が求められるでしょう。とはいえ、だだっ広いスタジオのような空間では自由度が高すぎて住みこなすのが難しくなりますから、図2のように、扉などを活用して可変性を持たせるというアイデアもあります。

図2. 可変性のあるリノベーション例(52.23㎡)

ポイント(3)省エネ性能を高める
2025年4月からはすべての新築住宅において、一定の断熱性能・省エネ性能を持たせることが義務化されます。中古マンションをリノベーションする場合はその限りではないものの、10年後・20年後に住宅購入を考える人にとっては、住まいの性能がひとつの判断基準となると考えられますから、見た目が素敵なだけでは選ばれにくくなるかもしれません。ポイント(2)と合わせて考えると、目には見えないお部屋のベース部分は性能を高め(図3)、間取や内装は可変性や自由度を持たせてつくる、というのが永く支持される住まいをつくるためのコツといえそうです。

図3. 壁面の断熱改修の様子

リノベーションは「消費」から「資産」へ。

日本の不動産市場においては、マンションは「資産」で、リノベーションは「消費」するものとして扱われています。そのため、いくらリノベーションを施しても、売却時にはその価値が十分に評価されず、結局はマンション自体のスペックによって価格が決められることがほとんどです。こだわりのリノベーションをしたマンションの流通市場はまだまだ黎明期ではあるものの、そのような物件を専門で扱うメディアやサービスも生まれ、リノベーションが単に「消費」するものではなく、「資産」としても価値があるものへとなりつつあると感じています。特に、目には見えない安全性や省エネ性を高めるような部分においては、中古流通の増加とともに、欧米諸国のように一定の評価がされるように変わっていくことを期待しています。

今回は、リノベーションしたマンションの売却について解説しました。「一点もの」の住まいであることがリノベーションの価値として考えられてきましたが、新築と同水準、あるいはそれ以上まで「性能向上」することも、これからの時代においては重要な価値として捉えられるようになるでしょう。自分が暮らしやすいだけでなく、社会にとっても優しい住まいづくりを意識することで、必然的にそのお部屋の価値が高まるのではないでしょうか。

無印良品のリノベーション「MUJI INFILL 0」では、お金・マンション・リノベーションそれぞれのプロが、物件探しから設計施工までワンストップでお手伝いしています。ご興味を持たれた方は、リノベーションセミナーや相談会にお越しください。

みなさんからのご質問もお待ちしています!/

リノベーションなんでも相談室

“こっしー”プロフィール

無印良品のリノベーションで働く、“こっしー”こと大越 翔は、自身の自宅も含めて100以上のリノベーションを担当。
宅地建物取引士やファイナンシャルプランナー、マンション管理士としての知見を生かしながら、さまざまな物件と向き合ってきました。
みなさんの住宅購入・中古マンション・リノベーションのさまざまな疑問・質問にコラムを通じ、お答えします。

開催予定の「イベント・相談会・物件見学」