ヒートショックとは、何ですか?

リノベーションなんでも相談室 | 2020.10.20

みなさんの住宅購入・中古マンション・リノベーションのさまざまな疑問・質問に、趣味=中古マンションの“こっしー”がお答えする「リノベーションなんでも相談室」のお時間です。

今回お答えするご質問は、こちら。
「毎年冬になると、ニュースなどでヒートショックという言葉を耳にします。何となく危険だというイメージはあるのですが、ヒートショックとは一体どういうものなのでしょうか」。

そろそろ寒さを感じる季節になってきましたね。おっしゃる通り、ここ数年でニュースなどでもヒートショックという言葉をよく見聞きするようになりました。危険そうに思えるけれど、若い人にとってはどこか他人事にも思える「ヒートショック」について、今回は解説してまいります。

ヒートショックとは、なんでしょう

寒い冬に外出するとなれば暖かい上着を着ますよね。では、冬場にリビングからトイレに行くときにわざわざ上着を着ることがあるでしょうか。当然、家の中でコートを着ることはないでしょうが、ポカポカ暖かいリビングから、ヒンヤリ寒い廊下を通りトイレやお風呂に行くのを億劫に感じた経験がある方もいると思います。それです。その温度差が問題なのです。

国土交通省の資料によれば、居間と脱衣所の平均温度がそれぞれ16.7℃、12.8℃となっており、同じ家の中でも部屋によって大きな温度差があることがわかります。この室内の温度差がヒートショックの原因となります。室温の急激な変化が血圧を急上昇・急低下させ、脳梗塞や心筋梗塞等の疾患を引き起こし、主に浴室内での悲惨な事故につながるのです(図1)。朝晩の冷え込む時間帯は平均値以上の温度差があるでしょうから、寒い家においては、お風呂やトイレに行くときにもコートを着たほうがよいのかもしれませんね。

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図1. ヒートショック発生の流れ(参考画像:Rinnaiホームページより)

ヒートショックの被害は想像以上に大きく、厚生労働省の推計によれば、年間約19,000人の高齢者がヒートショックが原因で入浴中に亡くなっているそうです。2019年の交通事故死亡者数3,215人と比べても、看過できない問題であることがわかります。また、東京都健康長寿医療センターの発表を見ると、あまり寒いイメージの無い地域でも多くの被害が出ていることがわかります(図2)。逆に、寒さが厳しいはずの北海道では、沖縄に次いで被害が起こりにくいこともわかります。

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図2. 都道府県別高齢者1万人あたりの入浴中心肺停止状態件数

ヒートショックと、住宅の性能

ヒートショックの原因が家の中の温度差にあるということですから、日本の住まいについて、もう少し詳しく見てみましょう。以前のコラム「古いマンションは寒いですか?」において、断熱性能の基準が存在し、何度か改正されていることに触れました。現在使われている基準は次世代省エネルギー基準と呼ばれ、平成11年に改正された際の性能を満たすことが求められます。2017年の国土交通省の推計によれば、この次世代省エネルギー基準を満たす住宅ストックはわずか10%にすぎないのです(図3)。9割の住宅ストックは20年以上前の基準にすら適合していないという驚くべき数字ですね。

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図3. ストック住宅の断熱性

2017年度に新築された住宅の次世代省エネルギー基準への適合割合もわずか62%ということですから、性能不足の住宅が世の中にあふれているといえます。2020年からは住宅においても省エネ基準適合の義務化が予定されておりましたが、残念ながらそれも見送りとなり、今後も性能不足の住宅が供給され続けることとなりました。

先ほどご紹介した図2において、比較的温暖な地域で多くの被害が出ているというのは意外なように思えますが、実は住宅の性能が関係しているのです。北海道のような寒冷な地域は住宅の断熱等の性能が高く、かつ全館空調で廊下や脱衣室も十分に暖めている一方で、温暖な地域では二重サッシや複層ガラスの採用率が低く、断熱性能が乏しい住宅が増えるという現実があるようです。

ヒートショックへの対策

すぐにできるヒートショックへの対策としては、以下の消費者庁の発表が参考になりそうです。これらを意識し、入浴の際に急に体温が上がることが無いように気を付けることが大切です。

(1) 入浴前に脱衣所や浴室を暖めましょう
(2) 湯温は41度以下、湯につかる時間は10分までを目安にしましょう
(3) 浴槽から急に立ち上がらないようにしましょう
(4) 食後すぐの入浴、またアルコールが抜けていない状態での入浴は控えましょう
(5) 精神安定剤、睡眠薬などの服用後の入浴は危険ですので注意しましょう
(6) 入浴する前に同居者に一声掛けて、見まわってもらいましょう

また、リノベーションを行うのであれば、断熱性能の向上は実施したいところです。断熱性能を高めて家の中の温度差を小さくすることで、ヒートショックのリスクを小さくすることができます。とくにフルスケルトンからのリノベーションを行う場合は、局所的ではなく家全体で断熱性能を高めることが可能になります。こちらについても「古いマンションは寒いですか?」を合わせてご覧ください。

国土交通省の統計によれば、中古マンションをはじめて購入する方の約8割は30~40代です。そのときには、自分がヒートショックの被害に合うなど想像もつかないかもしれませんが、長く暮らす住まいですから、デザインや目先の費用にとらわれず、30年先、40年先の健康や快適さも考えて住まいをつくりたいものです。

今回は、これからの寒い季節に増えるヒートショックについて解説しました。快適な住宅をつくるために断熱性を高めることは大切ですが、ほかにも気密性や日射、湿度のコントロールなど重要なポイントはいろいろあります。このあたりもいつかお話ししたいですね。無印良品のリノベーション「MUJI INFILL 0」では、性能も大切にしたリノベーションを行っております。ご興味を持たれた方は、リノベーション講座や相談会にお越しください。

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“こっしー”プロフィール

無印良品のリノベーションで働く、“こっしー”こと大越 翔は、自身の自宅も含めて100以上のリノベーションを担当。
宅地建物取引士やファイナンシャルプランナー、マンション管理士としての知見を生かしながら、さまざまな物件と向き合ってきました。
みなさんの住宅購入・中古マンション・リノベーションのさまざまな疑問・質問にコラムを通じ、お答えします。

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