団地びと|第一回「港南台かもめ団地のコーヒーの人」
MUJI×UR団地レポート | 2026.5.28
「MUJI×UR 団地まるごとリノベーション」でコミュニティを担当するMUJI HOUSE見通が、団地で活躍する「団地びと」の想いと活動のきっかけを紐解きます。
2025年5月に港南台かもめ団地に引っ越してきた舘󠄁林さんは、毎週金曜日に集会所のラウンジで、定期的に開催される団地内のイベントや、平日仕事の休みを利用して、かもめ団地オリジナルのブレンドコーヒー「かもメイドブレンド」をドリップし、訪れる方々に提供しています。
会社員として働きながら「いつかは自分のお店を持ちたい」と考えている舘󠄁林さんにとって、集会所でのコーヒーの提供は目標への第一歩になっています。舘󠄁林さんがかもめ団地に住むことに決めた経緯や、集会所での活動について伺いました。
フルリモートの会社への転職を機に、東京から地元へUターン。
見通
舘󠄁林さん今日はよろしくお願い致します。はじめに舘󠄁林さんが港南台かもめ団地に引っ越してきたきっかけを教えていただけますか?

舘󠄁林
私は幼少期から大学時代の途中まで隣の栄区で育ちました。実家は円海山という山の近くにあって、小さい頃はよく山に登って遊んでいたんです。
最寄駅は港南区の港南台駅だったので、港南台駅の周りには鳥の名前が付いた団地がいくつもあるというのをなんとなく知っていました。
地元の同級生たちを見ても、大人になって一度実家を離れるんですが、緑がある地元が好きでこっちに帰ってくる人は多いですね。

私は大学2年になる頃に東京に住み始めて、卒業後も東京の会社で働いていたので、去年かもめ団地に来る前まではずっと東京都内で暮らしていました。それでたまに実家に帰ってくると「ああ、こっちは空気がおいしいなあ」と感じていましたね。
見通
僕も神戸の田舎の方の出身なので、都会に憧れて東京に住んでいるんですけど、やっぱり田舎に行くと落ち着きます。
舘󠄁林
ですよね。かつてはリモートワークなんてなかったですから、転職を何度かしながらもずっと通勤しやすい場所に住んでいました。でもコロナのときに強制的にリモートワークになったんですね。
その後、コロナが終わった現在もフルリモート勤務にしている会社に転職しました。さらに、以前住んでいたところの家賃が上がることになり「リモートで働けるなら、もう東京に住まなくてもいいかな」と思い、東京を離れることにしたんです。
でもそのときはまだ港南台まで戻ってくるつもりはありませんでした。
軽い気持ちで訪れたかもめ団地に惹かれ、入居を決断。
見通
そうだったんですね!はじめはどのあたりに住もうとしていたんですか?

舘󠄁林
最初は根岸線の山手あたりで物件を探していたんですけど、それほど惹かれるところが見つけられなくて。そんなときにURさんのホームページも検索してみたんです。すると、ちょうど港南台のちどり団地とかもめ団地で空室があったので軽い気持ちで見に行くことにしました。
見学した部屋はリフォームがちゃんとされていて、でもそのときは「選択肢の一つとしてURの団地もありだなあ」と思うくらいだったんですね。
それでその後も団地以外の賃貸を探していたんですが、なかなかいいところが見つからず…。そのうちにだんだん団地が気になり始めて、「次に団地でいいなと思う部屋があったら申し込もう!」という気持ちになっていました。
そうして次にかもめ団地に来たときには、そこに引っ越すことを決めたんです。
見通
そのときは、かもめ団地で「MUJI×UR 団地まるごとリノベーション」が進められていることは知っていましたか?
舘󠄁林
無印良品のアプリを登録してメルマガも購読していたので、見通さんが書いていた団地のレポートを楽しく読んでいましたし、かもめ団地の集会所がリノベーションされて新しくなりましたっていうブログの記事も見ていました。
MUJIさんとは関係ないですが、福岡の団地再生の記事で、団地内の店舗がコーヒー屋さんになったというのを見て「ああ、こういうのいいなあ」と思い、さらにかもめ団地の集会所の記事を見るとシェアキッチンがあるということだったので、勝手に「かもめ団地の集会所でコーヒーを淹れられたらいいなあ」と妄想していたんです。


でも「かもめ団地オリジナルのブレンドコーヒーをつくりました」というイベントレポートの記事を読んで、「あ、先越された」と思ったんですね。
その後、入居の契約に来た日曜日に「本日コーヒーDAY」と書かれた看板が集会所の中に置かれているのを見つけました。コーヒーDAYが木曜日であることを確認して、入居後、リモート勤務の休憩時間に集会所に来てみました。
そうしたらここにMUJI HOUSEのスタッフさんがいたので、「コーヒーをいただきたいんですけど、かもメイドブレンドを淹れているんですか?」と聞いたら、「今日は違うコーヒーなんです」ということだったんですね。
変な人だと思われるかな?と心配しつつ「最近ここに引っ越してきて、コーヒーのお店をいつかやりたいと思っているんですが、この場所で私がコーヒーを淹れることはできないですか?」と聞いてみました。
「そういうのはちょっと…」と断られると思っていたんですが、意外にも「大丈夫かもしれないですよ!」ということで、見通さんの連絡先を教えていただきました。
見通
それでお電話をいただいたんですね。
あのときは「かもメイドブレンド」というオリジナルのコーヒー豆はできていたけど集会所でコーヒーを淹れてくれる人はいなかったんです。当時「かもメイドブレンド」をやっていた学生さんたちと「もっとしっかりチームをつくりたかったね」と反省会をしていたところでした。舘󠄁林さんが来る1カ月くらい前のことです。
その後、舘󠄁林さんがかもめ団地に引っ越してきて「コーヒーを淹れたいんです」というので、あれあれ?ってなって。
集会所のリノベーション後もURさんとは「集会所でコーヒーを淹れてくれる人がいたらいいね」と話していたので、舘󠄁林さんが来たときには「それはそれは…!」という感じになりました。

集会所が2024年の10月にリニューアルオープンし、それからしばらくは集会所でクラブ活動をやりたい人を募集していたんですよ。それで、「読書会をしたいです」「俳句をしたいです」「開けてない分冊百科があるのでみんなでやりたいです」など、いろいろなことをやりたい人が集まってきました。
舘󠄁林さんがかもめ団地に来た2025年5月は、クラブ活動の募集が少し落ち着いてきた時期でしたが、「集会所でコーヒーを淹れたい」というのは全然変なことではありませんでした。
コーヒーのおいしさを周りの人と共有するよろこび。
見通
ちなみに舘󠄁林さんにとってコーヒーの魅力はなんですか?
舘󠄁林
だいぶ遡りますが、学生時代にイタリア系のジェラート屋さんでアルバイトをしていたんです。イタリアのジェラート店には必ずエスプレッソマシンが置かれていて、コーヒーも一緒に楽しめるようになっているらしく、そこで働いているうちにコーヒーが好きになり、自宅でもドリップして淹れるようになりました。
その後おいしい淹れ方を学びたくて、コーヒー屋さんのドリップ教室に参加したりもしました。コーヒーを淹れているときの香りでいい気分になりますし、コーヒーを飲むときの一連の流れが好きですね。

見通
そうなんですね。人のために淹れることのやりがいはなんでしょうか?
舘󠄁林
自分がコーヒーが好きというところから始まっているので、周りの人に同意を求めて満足したいという気持ちが強いかもしれません(笑)。自分が淹れたコーヒーに満足してもらってコメントをもらえるとうれしい気持ちになります。

団地での暮らしと集会所の活動がシームレスにつながる。
見通
舘󠄁林さんは会社員をやりながら休日、コーヒーを淹れていますよね。ここでコーヒーを淹れ始めたのが2025年の8月からなのでもう9カ月くらいになりますが、今の感想を教えていただけますか?
舘󠄁林
そうですね、団地に住みながら団地で活動しているので、実はコーヒーを淹れるのに使っている道具たちは、自宅で使っている道具をほぼそのまま集会所でも使っています。活動のために大掛かりな設備投資をすることなく、団地での暮らしと集会所の活動がシームレスにつながっているので、気負わずにスタートできたのがすごくよかったと感じています。
イベント以外では仕事が休みの日に活動しているので、住民の方がその日に集まってワイワイ過ごしてくれるのが理想ではありますが、人が来たり来なかったりなかなか読めない感じではありますね。


見通
今後、いつか自分のお店を開業することもお考えでしょうか?

舘󠄁林
いつかコーヒー屋さんをやりたいと思っていながらも、実際に会社員を辞めてそっちにシフトするなら、ちゃんと稼がなければいけません。それは簡単なことではないと思っていたので、やるなら定年後に始めて年金の足しになればいいなくらいの感じで考えていたんですね。
なので仕事が休みの日に、団地内の集会所でコーヒーを淹れる活動を気軽に始められたことが、今はちょうどよいんです。現実的なことと折り合いがつけばコーヒーの方にもっとシフトして行きたいですが、まだ悩んでいるところです。
見通
集会所が住民の方の自己実現の場にもなったらいいなと思っていますが、館林さんにとってそういう場所になっていますか?
舘󠄁林
はい、いきなりテナントを借りてやるのはプレッシャーが大きいので。団地の真ん中ということで、訪れる方が爆発的に増えることはないと思うんですけど、ある程度常連さんも来てくれるようになりました。
集会所でのコーヒーが交流のきっかけに。
見通
コーヒーを目的に訪れる方は多い日でどれくらいですか?
舘󠄁林
15人くらいですね。見ていて面白いのが「自分は一人で人付き合いもしてなくて…」と言っている方たちが、集まった人同士でたくさんしゃべって帰るんです。だから、みんなしゃべる場所とかきっかけがあったら人付き合いが始まるんだなと思いました。
それから、団地の敷地内でも隣の港南台中央公園に近い場所に看板を置くと効果的だということが分かりました。港南台駅からかもめ団地に帰ってくる人はもちろん、隣のちどり団地に住む人にも見てもらえます。「看板を見て来ました」という人がちらほらいらっしゃいますね。

見通
港南台駅まで行けばお店がいくつもありますけど、これまでは団地の中にふらっと集まれる場所はありませんでした。
昔は隣同士が顔見知りでしょうゆを貸し合うような関係性があったと思うんですが、今はSNSやメールが発達して、むしろ隣同士はよく知らないくらいがちょうどいいと感じる人が多いと思います。
その一方で、集会所に来たら誰かに会えるっていう「共用部を介したつながり」が今の時代に合っているのかなと思うし、舘󠄁林さんがコーヒーを淹れることでそれが実現できていると思います。
舘󠄁林
そうですね。ここで淹れている「かもメイドブレンド」が好きでいらっしゃる人もいますし、おしゃべりをするのが目的でコーヒーを飲みに来る人もいらっしゃいます。

見通
「かもメイドブレンド」をつくるときに、千葉の花見川団地で3カ月くらいに渡ってワークショップを開き、産地別・ブレンド別のテイスティングをして味を決めて、最後にロゴをつくるということをやりました。
ちなみに千葉でコーヒー豆を販売してもあまり売れないんですけど、かもめ団地のマルシェではけっこう売れるんですよね。以前港南台にあった高島屋で買い物をしていた人たちでコーヒーが好きな方が買っているのかなと想像しています。
舘󠄁林
たしかに「昔はよくブルーマウンテンを買って飲んでいたわ」という方がいらっしゃいますので、そういう方は多いかもしれませんね。
集会所で行われる活動が団地に活気をもたらす。
見通
あと、集会所の中だけではなく、テラスや目の前の公園などでもコーヒーを飲んでほしいと思っています。
僕が昔住んでいた神戸の団地の集会所は普段全然機能してなくて、人の気配がない寂しい場所だったんですよ。だから集会所の周りでコーヒーを飲んでいる人がいれば、「集会所はいい雰囲気の場所なんだなあ」というのが伝わりますし、団地全体がよりあたたかい雰囲気になると思うんです。

舘󠄁林
そういえば、以前ここでコーヒーを淹れていたら、隣の管理事務所と間違えて鍵の受け取りに来たご夫婦がいました。その後にご夫婦はかもめ団地に住み始めたんですが、旦那さんがバンドをやっていて、最近夜に集会所の集会室を借りてバンドの練習をしています。
夜集会室の明かりが点いているので、「あ、なんかやってる!」っていう雰囲気が生まれています。今度集会所でミニライブもやるそうで、「ライブ用のコーヒーを淹れてもらうことはできますか?」と相談を受けたのでこれから準備をしようと思っています。

見通
そうなんですね!集会所で何かをやりたいという人が現れたとき、これまで窓口は僕しかいなかったんですけど、僕が知らないところでそういうことが起きているというのを聞いて、今ちょっと感動しています。
僕はここに住んでいないですし、いずれは離れてしまう身なので、舘󠄁林さんや自治会さんや住んでいる方同士で活動の話をしたり、イベントを一緒にしたりするのはすごく理想的です。


理想は集会所で毎日誰かがいて何かをやっている場所と認識されること。
見通
さっき舘󠄁林さんの将来的なコーヒー屋さんとしての目標を聞かせていただきましたが、これから1~2年くらいの間だったらどんなことをしたいですか?
舘󠄁林
やはり今後私自身はどこかでコーヒー屋さんをやりたいという気持ちがあるので、ずっとはここにいないと思います。それに、ここで私だけがコーヒーを淹れるのではなく、同じように何かやってみたい人が出てきて「私は〇〇をやります!」というふうになったらすごくいいなと思います。
団地や地域の方々に、いつ来ても誰かが集会所にいて何かを飲めるとか、毎日何かやっている場所として認識されるのが理想だと思います。
見通
たしかに毎日のようにこの集会所が活用されるようになれば、さらに集会所に訪れる人が増えると思いますし、そうなっていくことを楽しみにしています。そのために僕らはいろいろな活動をフォローしていきますので、これからもよろしくお願い致します。




