vol.27 景色の家
「無印良品の家」で暮らしている方を訪ねて青森県三戸郡へ。
情報学研究者のドミニク・チェンさんが、美しい風景に佇む「窓の家」に会いに行きました。

家に会いに | 2022.11.2

こちらは、2019年12月公開されたものを再編集しています

プロローグ

家族の環世界

子どもが生まれてから、それまでは当たり前に在るものと思っていた「家族」というものについて、考えるようになった。家族とは、最初から在るものなのだろうか? 親と子がいれば、自然と家族になるのだろうか? それはおそらく違う、と最近は思うようになった。家族はつくられるものであり、家族をつくる時間というものがあるのだ。
台所でコトコトと火で温められる鍋、そこから流れる美味しい香り、隣のフライパンからジューッと野菜を炒める音。戸棚からコップを取り出し、テーブルにカチャカチャと食器が並べられる。呼びかけられた子どもは読み耽っていた本をバタンと閉じて、いそいそと部屋から出てきて、台所とダイニングを行き来する母と父に合流する。
この一連のなにげない所作によって紡がれる時間の蓄積こそが、「家族」という関係性を作り出しているのだと、ふと感じ入る。外界とゆるやかにつながる「窓の家」で午後を過ごして、家とは家族の環世界が作動し続けるための道具であり、インタフェース(境界線)なのだと、改めて思った。

Dominique Chen|ドミニク・チェン
情報学研究者・起業家
1981年生まれ。フランス国籍。早稲田大学文学学術院・表象メディア論系・准教授

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ダイアログ1

だから、ここに建てました

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「窓の家」
K邸|青森県、2019年1月竣工
延べ床面積: 134.14m²(40.57坪)
家族構成: 夫婦・息子

ドミニク・チェンさんが会いにいった家

Kさん夫婦はともに青森県の出身で、2人の最初の出会いは、八戸の別々の高校に通う通学電車の車内でした。
それから20年後、東京で再会して間もなく結婚。
長男の誕生を機に、落ち着いて長く暮らすことができる住まいを求め、家づくりを考えるようになりました。
2人には、高齢になったお互いの両親のそばで、様子をうかがいながら暮らしたいという希望がありました。
また、Kさんはリモートワークが可能な仕事だったため、Kさん夫婦は地元青森に、家を建てることを決意します。
2人の実家はクルマで5分ほどの距離。ご主人の実家の隣に「窓の家」を建て、生まれた街で新しい生活が始まりました。

「ごちそうさまでした」
「あとはお家でゆっくりと」

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玄関脇の土間にはさまざまなキャンプ用品が。今日は外に張ったテントで、 ランチを楽しみました。

チェンさん
庭のテントで素敵なランチタイムでしたね。僕は家を拝見するのが大好きなので、お邪魔するのが楽しみです。

白い壁に穏やかな光のグラデーション

チェンさん
ここで暮らし始めてどれくらい経つのですか。
10ヶ月ですね。竣工直前まで東京で暮らしていたので、地鎮祭や上棟式はその都度、東京から通い、ほとんどメールでの打ち合わせでした。最初に提案いただいたプランの完成度が高くて……。
追加したのはパントリーくらい。あとはキッチンの後ろの長い一枚板のカウンターと収納ですね。それは絶対に欲しかったです。
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チェンさん
このカウンターが必須だったんですね。奥様が料理しているときに、ご主人が仕事したりとか……。
ええ、ここでキーボードをカタカタと。
家には仕事はあまり持ち帰らないので、趣味関係が多いですね。写真の加工や、動画を編集したり、子供と遊んだり。
チェンさん
それぞれの時間をそれぞれの場所で。
はい。好き放題に使っている感じですが(笑)。

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チェンさん
ところで「窓の家」を選んだ理由って?
「窓の家」の空間がゆるくつながる感じが、私たちの暮らし方に合っているかなと。真っ白でシンプルな空間を、自分たちで手を入れながら生活するのが良いと思ったんですよ。
チェンさん
太陽の変化で室内の光の表情がどんどん変わっていくんですね。それを見ているだけで楽しいですよ。
白い壁の光と影のグラデーションがきれいなんですよね。

2階に上がってもいいですか

チェンさん
2階も明るくて気持ちいいですねー。吹き抜けの室内窓からも、向こうのガラス窓越しに外の景色が見える。
2階から見える景色がすごくきれいなので。
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チェンさん
僕も一昨年家を建てたのですが、その前の住まいが半地下のようなマンションで、家を建てるときには「とにかく光を!」って設計者にお願いしたんですよ。
室内窓を通して2階の子供の声も聞こえますし、2階の窓からは夜は月が見えたり、飛行機雲が見えたり。
チェンさん
視線を上げると、いろんなところから空が見えるように窓が配置されている感じですね。僕、窓から空を見ると不思議な感じがするんですよ。違う世界の空を眺めているような。
あ、その感じ、わかります。
チェンさん
このオープンスペースのような用途を限定しない空間を、将来を空想しながら使いこなす楽しさもありますよね。

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ここはサンルームと呼んでいて、今は洗濯物干しに使っていますが、いろいろな使い道がありますよね。子供の遊び場にしたり、机を置いて書斎にもなるし。
チェンさん
明るい書斎はいいね。気持ち良さそう。
机に座って風景を眺めながら過ごすのも素敵ですよね。
チェンさん
子供部屋はベッドと遊び場を収納家具で仕切って、2部屋のように使っているんですね。
設計のときからそう考えていました。今後は半分は寝室で半分は勉強スペースになると思います。将来、もしも、もう一人子供ができたときは2人で使えますしね。

「窓の家」の窓から見える子供時代の風景

チェンさん
新居で暮らして生活の変化ってありましたか?
家で過ごす時間が増えて、出かけることが少なくなりましたね。良い意味で引きこもり(笑)
チェンさん
家が快適なんですね(笑)

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気持ちの変化ということなら、ここは生まれ育った街で、どこも小さいころから見慣れていた風景なんですが、この家の「窓」を通して見ると新鮮で、こんなにきれいなところで育ったんだと改めて気づきました。再発見の気分。
チェンさん
なんだか素敵な話ですね。
建てる前にはドローン飛ばして撮影しながら、2階のどの窓からどんな景色が見えるかシミュレーションもしましたよ。
チェンさん
21世紀の施主って感じですね。その気分、すごくよくわかるんですよ。家づくりを楽しんでいる感じですよね。
私は最初は「ふーん」って感じだったんですが。
チェンさん
僕も家を建てたとき、構造図面から3Dモデルつくってニヤニヤしてたんですが、妻は「ふーん」って感じでした(笑)。
理系男子ならではの家づくりの楽しみ方もあるんですね。
夫・チェンさん
ありますよ!!

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ダイアログ2

「家に会いに。」の前に

庭先のテントでピクニックランチ

チェンさん
こんにちはー。
夫・妻
ようこそ、お待ちしてましたー。
チェンさん
Yくん(長男)、こんにちは!
長男
……(モジモジ)。
チェンさん
あれ? おヒゲが怖いのかな。
シャイなので、初対面の方には……。
チェンさん
僕も小学生の娘がいるからわかりますよ。
ランチは外のテントに準備していますので、荷物を家に置いてテントへどうぞ。
チェンさん
はい。では失礼します。
玄関の土間が広いですねー。自転車とキャンプ用品がたくさんありますね。ひょっとして、今日のランチのテントや設えも、普段キャンプで使っているものですか?
そうですよ。
チェンさん、キャンプは興味ありますか?
チェンさん
あこがれだけはあります(笑)。あこがれが募ってテント買ってしまったのですが、まだ一度も開いていないです。
もったいない! キャンプ、楽しいですよ。
チェンさん
キャンプ歴はかなり長いんでしょうか。
えーと、3年くらいかな。
わりと浅いんです。
チェンさん
そうなんだ。道具がすごいから筋金入りかと思ってました。
二人ともはまるとのめり込むタイプなので。ブレーキかける役がいないんですよね。
この前はフェリーで北海道に行って、知床を3泊、キャンプしながら横断しました。
チェンさん
3泊も。いいですねー。
キャンプ用品メーカーのキャンプフィールドでは7泊したことありますよ。
チェンさん
え、7泊ですか。
5泊の予定があまりに快適で7泊。
お店もシャワーもあるし、WiFiも使えるんですよ。まあ、それはどうかと思いますけどね(笑)
チェンさん
たしかにね(笑)。

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妻・夫
では、テントのほうにどうぞ。

(荷物を置いてみんなで庭先へ)

チェンさん
うわー、楽しそうなランチですね。本格的なキャンプキッチンだ。すごい装備じゃないですか。この鍋は……。
地元の魚介類をつかったブイヤベースです。お料理をお願いしたのは、八戸市内にあるワインバー「origo」の豊川くんと、もう一人は、折箱のお料理を用意してくれた「澱と葉」の川口くんです。
では、りんごジュースで乾杯しましょう。
チェンさん
カンパーイ。Yくんも乾杯しようよ。はい!
長男・チェンさん
カンパーイ!!
チェンさん
それにしても、これ、お米の噛みごたえが最高です。うーん、これはおいしい!
川口さん
ありがとうございます。
長男
……ふ、ふりかけほしい。
妻・夫
!!
チェンさん
あー、そうそう。子供はふりかけ大好きだからね。娘もそうでした。最近は大人好みの味の食材や料理を少しずつ増やして、食べてもらうようにしています。今では、ぬか漬けなんかも喜んで食べてくれますよ。
あ! そうそう。チェンさんといえばぬか床!
チェンさん
ええ、ぬか床にすっかりはまっていまして、その勢いでぬか床ロボットもつくりました。スピーカーに質問するとぬか床が答えてくれるんですよ。
それ、見ました、見ました。NukaBot! すごく気になっていて。製品化の予定はあるんですか?
チェンさん
いまのところはまだなんですよね。いくらなら買いますか? ぶっちゃけベースで(笑)
ぶっちゃけベースですよねー。うーん、2万円以内、ですかね。
チェンさん
ですよねー。ですよねー。
妻・夫
……(どきどき)。
チェンさん
今だと〇〇万円くらいしそうな感じで……。
ひゃー!
チェンさん
その価格ならぼくも買わないと思いますよ。塩分濃度のセンサがまだ高くて。でも、5年後くらいにセンサの価格が下がると3万円くらいでできるかもしれません。
それなら買います! 
「そろそろかきまわしてね」とか「食べごろだよー」とか教えてくれるんですよね。
チェンさん
そうそう。「今日はおいしかったよ」とか「イマイチ」とか声をかけると、それに応じて食べごろを調整してくれたり。
機械学習の機能を搭載しているんですね。
チェンさん
そうです。ご主人はIT系と聞いていますが、機械学習系の仕事も?
ディープラーニングは少しだけ。どちらかというと仕事はインフラ寄りが多いです。
チェンさん
あー、大規模システム的な。オートスケーリングに機械学習使うんでしょうか。
そうですね。オートスケールされるインフラの上で、機械学習APIを利用したりしています。
うーん、まったくわからない。

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ランチの後はリビングでティータイム

チェンさん
お二人が地元に戻ろうと思ったきっかけは何だったんですか。
子供が生まれたことですね。都会より田舎で育てたいと思ったんですよ。それにお互いの両親とも、けっこう高齢なので、そのへんも考え合わせて地元に帰ろうと…。孫の成長を直接見てもらえるのも親孝行にもなるかなーと。
私の実家もここからクルマで5分くらいのところで、家畜運送と畜産農家の兼業です。いまは母がメインで牛の世話をしているんですが、私が帰って、母の手伝いをしたいなという想いもありました。
チェンさん
じゃあ、いまも。
はい。朝と夕方、牛のお世話をしていますよ(「家に会いに。」の表紙の牛です)。
このへんはITの仕事は少ないので、私はいまの仕事を辞めて、地元に戻ろうと考えていたのですが、お付き合いのある会社がこちらに事務所を開設してくれて、東京でやっていた仕事をそのまま八戸で続けてほしいといわれて……。それもうまく事が運んだ感じですね。もともとフリーランスだったんですが、いまは半分その会社所属で働いています。
ホント、ありがたいですよね。
もとの仕事を続けられるのは本当に嬉しかったです。でも、世の中の働き方は、そういう方向に動いているのかもしれないです。
チェンさん
とくにIT系の方はUターンして同じ仕事を続ける方が多いみたいです。行動の自由が高まっていますよね。いかがでしたか、この10ヶ月、東京を離れて働いてみて。
うーん、つい、やりすぎちゃうかも。
チェンさん
ひとりで集中できるからでしょうか。
サテライトで仕事してた先輩や、フリーランスの同業者からは、仕事場に自分一人だけで、まわりに人目がないと、自分の好き勝手できてしまうので、ずっと仕事を続けられてオーバーワークになるから、そこを気をつけてといわれていたんですよ。みなさんそうみたいです。集中が高まりすぎて。
チェンさん
僕はそうじゃない人の話も聞いたことあるんで(笑)。リモートワークになると気が抜けちゃって、とか。Kさんは逆なんですね。
そうですね。逆ですね。
チェンさん
東京と八戸で、仕事の感覚や環境の違いは感じますか?
それが、あまりないんですよ。隣に話ができる人がいるかいないか、それくらいの違いです。最近はチャットツールも発達してるし、Slack使ってやりとりしていると、東京とほとんど同じ。あとは、けっこう高性能なスピーカーを設置してもらっていて、東京とずっとつないでいるので、会議が常時つながっている感じで仕事できています。
チェンさん
「さぎょイプ」ってやつですね。
そうです、そうです。東京のオフィスの音声がいつも聞こえてきて、気配が感じられるのは、けっこう助かってます。たまにぼやきとかも聞こえてきますし。
チェンさん
「面倒くさいなー」とか。
そうそう(笑)
チェンさん
リモートワークにはコツがあるんですね。Kさんならではのリモートワークのスタイルができあがっている感じで、参考になります。

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お茶の準備ができましたよー。
川口さん
滋賀県のほうじ茶をどうぞ。お茶請けは鶴田町の栗の渋皮煮と「origo」さんのカヌレです。
チェンさん
ありがとうございます。カヌレは世界でいちばん好きなお菓子です!!
地元の紅玉を使ったカヌレだそうです。
チェンさん
りんごを使うのは珍しいですね。おいしいですよ、これ。
キッチンまわりもスッキリ整理整頓されてますよね。アイランド型のキッチンは設計者からの提案だったんですか。
そうですね。設計者さんからの提案です。
チェンさん
キッチンのガスコンロ、パワーがありそう。
そうですね。お湯が沸くのも早いんですよ。
チェンさん
私の妻もハイパワーのガスコンロは使い勝手がいいっていってましたよ。奥様は料理好きなんですね。
はい! 大好きです。
チェンさん
声のボリュームが上がりましたね。
料理はもちろんなんですが、最近、気づいたのは、実は調理器具や調味料を集めるのが好きなんだって……。調理器具マニアですね。
チェンさん
わかります。このフランスの鋳物のホーロー鍋は、わが家でも使ってますから。良い鍋はやっぱりいいみたいで、集めたくなるのわかりますよ。
いいですよねー。
チェンさん
それにしてもキレイに暮らしていますよね。
それはですねー、新聞や郵便物などは無印良品で買ったバスケットに入れたり、キャビネットにすぐしまうようにして、視覚的な雑音を減らして、なるべくスッキリ見えるように心がけています。
チェンさん
前からそんな感じだったんですか。
うーん、そうでもないかな。東京で住んでいたマンションはモノで溢れいて、新聞や郵便を置きっ放しでも気にしていなかったかもしれないです。
チェンさん
じゃあ、ここに引っ越してから「このままではダメだ」と。
そうですね。スッキリ暮らしたいという気持ちは以前からあったので。
新居に移ってから持ち物も相当減らしましたよ。引っ越しのときは東京からダンボール60箱くらい送ったんですが……。
チェンさん
え、60箱も?!
そのうちの開梱したのは半分くらい。それで十分、快適に暮らせていますからね。未開封の箱が隣の倉庫に積まれてます。
チェンさん
本も減らしたんでしょうか。部屋に本が溢れていないですよね。
そうですね。自分はデジタルで読んでますから。でも料理の本なんかは……。
私は紙派なので、厳選した料理本をパントリーにしまっています。
チェンさん
なるほど~。

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マンションと戸建て住宅。東京と地方都市

リビングから庭へ。景色を眺めながら

チェンさん
リビングから外に出ることができるんだ。ウッドデッキいいですね。もう寒いのかなと思っていましたが、陽があると温かいですね。庭についてはご主人が?
はい。私は芝生をお願いしたくらいで。
ほぼほぼ自分ですね。あとは好き勝手にやろうかなと(笑)。
チェンさん
なんか、いい感じに意思疎通ができてるんですね。
白い家と緑の芝生って合いそうですよね。
この面積の庭を、素人が芝生を張るのは大変だといわれましたが、来年はチャレンジしたいと思っています。それから、もう2本くらい木を植えたいですね。
チェンさん
垣根がないのもいいですね。そのおかげで、風景と地続きになる感じがしますよ。家の中からずっと景色がつながって、向こうの畑や遠くの山がより近くに感じられる。
お隣が庭をきれいに手入れされる方なので、家族はそれを借景として楽しませていただいてます(笑)。
チェンさん
こちらも素敵な家だし、お互いが借景になってる感じじゃないですか。
そうかもしれないですね。
チェンさん
こう、まだ何もない山砂だけの庭を眺めているのも好きなんですよ。いろんな想像ができて、何時間でも眺めていられます。
そういえば、青森は縄文遺跡が多いですよね。このあたりも土器は出るんですか。
出ますよ。ガンガン出ます。その道路の先では発掘調査もしてましたし。
チェンさん
ホントですか。
えーと、そこ。庭のそこに見えているの、縄文土器の破片だと思いますよ。
チェンさん
えええええええ。あ! ホントだ!! 文様が。
……(ニコニコ)。
チェンさん
って、Kさん、ぜんぜん驚かないですよね。
子供のころ、遊びで少し掘るだけでけっこう大きなものも出ましたからね。
チェンさん
えええええ。そんなに……。
それ割って遊んでました。
いやいや、それダメ。割っちゃダメ
でも、当時は、このへんの子供にとっては、そんなに珍しいものではなかったんですよ。ちょっと掘ってみますか?
大人が二人で穴を掘ってると怪しい人たちだと思われますよー。
チェンさん
まあ、確かに……(笑)。

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では、リビングに戻りましょうか(笑)。
チェンさん
どうですか。実際にこの家で暮らしてみて。
ホントに大・満・足です! 
窓の家」を建てて良かったと心から思いますね。快適なのはもちろんですが、デザインが気に入っていて。ベタですがシンプル・イズ・ベストですよね。
そうね。シンプルは飽きないし。
30年以上暮らす場所だと思うので、なんとか風や流行の装飾で豪華に見せるより、シンプルな建物と空間に自分たちで手を加えるほうが私たちに合ってるなと。
チェンさん
どういうところを自分で手を加えようと考えたのですか。
たとえば、ドローン飛ばして窓の位置を決めたと聞きましたが、ほかにもハッスルしちゃったところあります?
先ほども話しましたが、最初に出していただいたプランは、二人の希望を十分に反映されていて、実は、その時点でほぼ手を入れるところはなかったんですよ。
最初にお願いした共通の希望は、広めのリビングと広めの土間。それにウッドデッキくらいかな。
そうだ。ドローンで撮影した動画、ご覧になりますか?
チェンさん
ぜひ!

(ご主人が準備中)

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チェンさん
おー、すごい! 画像が安定していますね。三脚立てて撮影してるみたいですよ。音は大きいんですか。
まあ、けっこううるさいですね。
主人のお母さんが外で草刈りをしている最中に、ドローンを飛ばしたときは、すごい羽音で、アブの集団が襲ってきたと思ったらしいです。
チェンさん
ははははは。たしかに、びっくりしますよね。
僕が想像していたのは、敷地図上で飛ばす位置を決めて、そこで上空で静止させて、どう見えるのかを確認しているのかと。
そうです。位置は外壁のラインにしっかり合わせています。
チェンさん
うーん、こういうのって、男が独りで盛り上がちゃうんですよねー。いいですねー。
上棟のときや柱梁が組み上がった段階など、施工途中できるだけ記録を残すように飛ばしていました。
チェンさん
おー、タイムラプスでどんどん組み上がっていく。ドキュメンタリー作品みたいじゃないですか。すごい、すごい。
東京にいたころは、ドローンを飛ばす許可がなかなか下りないんですよ。こういうのは地方じゃないと無理ですね。

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住まいの選択肢とマインドシフト

チェンさん
住まいっていろいろな選択肢があるじゃないですか。
そうですね。東京で結婚したてのころに、都内のマンションを見に行って、モデルルームを出た後で二人で感想をいい合ったことがあるんですよ。点数が二人とも同じくらい。60点。それで、分譲マンションは自分たちには合わないなと思って。それからしばらくはマンションを見にいくことはなくなったよね。
そうね。
その後、子供が産まれてから、3人で、またハウスメーカーの物件を見にいったのですが、悪くはないないんだけど、やっぱり自分たちには合わないような…。
そのハウスメーカーは外装は良かったのですが、インテリアに関しては、スイッチプレートやドアノブや、細部の質感やデザインがバラバラで統一感がなかったんですよね。落ち着かない感じがして。
うんうん。
チェンさん
それはお二人の共通の感覚だったんですね。
そうですね。お互いすぐにわかった感じ。
そのあとで、なければ自分たちでつくるしかないと、まず、前に無印良品 有楽町(現在は閉店しています)資料をもらい、気になっていた「無印良品の家」のモデルハウスを見学に行って。そこで「もうこれしかない」って思ったんですよ。細かいディテールまでちゃんと心配りされていて、デザインに統一感があって、余計なものはなくて、手を抜いていると感じるところがなかった。
八戸は「窓の家」と「木の家」の両方のモデルハウスがあって、二つ見比べることができたのも良かったですよ。僕は最初は「木の家」が良いと思ったんですが。
私は昔から白い壁へのあこがれがあって、そこは譲れなかったですね。そのあとはネットで「窓の家」のいろいろな施工例を二人で見て、Instagramでも「#窓の家」で施工例を探して、「窓の家」がどれだけ素敵なのか主人にプレゼンしていました。
チェンさん
最終的には、奥様のプレゼンを聞いているうちに「これいいかも」って。
どちらも魅力的な家ですからね。この家も、「木の家」ほどオープンじゃないけど空気感は共有できている感じがして、いいなと思っていました。
チェンさん
ひょっとして、家を建てる前まではマンション派だったとか。
もともとは、都内に住み続けるならマンションかな~とは思っていました。ただ、子供が生まれて、Uターンを本格的に考え始めて、こちらに戻るなら戸建住宅がほしいなと。
子供が生まれて、これからの人生をどうしようと考えるようになり、地元に帰る選択肢も見えてきて、それなら家を建てようと考えるようになった感じです。だから本格的に家づくりを考えたのは、子供が生まれてからですね。
チェンさん
僕は、もともとは完全なマンション派で、家を新築するなんてありえないと思っていました。それで、結婚してから妻と1年半かけて40物件くらいマンションのモデルルームをまわったんですよ。でも、二人とも満足がいく物件がなかった。「なんでないんだろう」と絶望しかけたときに、ないなら自分で建てる選択肢もあると気づいて、それで家を建てようと…。戸建住宅志向がまったくなかった人が、家を建てるマインドにシフトするきっかけってあるんだなと、改めて思いました。
夫・妻
あー、同じですね。
チェンさん
ご両親はもうこちらに何度か来られているんですよね。
はい、ここで一緒に食事をしたり…。
チェンさん
ご両親はどんな感想を。
冬の寒い時期は、家中、どこも温かくて驚いていました。私の実家は築40年くらいで、お茶の間から廊下に出ると息が白くなるくらい温度差がありましたから。この家はどこでも室温がほとんど同じなので、それだけでとても快適です。
実は前の会社の同期が、偶然、同時期に都内で無印良品の家を建てていたんです。彼は「木の家」ですが。
チェンさん
同じ時期ってすごいですね。その方のお家はもうご覧になられたんですか。
まだなんですよ。彼は、私の実家に遊びにきたことはあるんですが、この家は見ていなくて。お互い訪問するのを楽しみにしてます。
チェンさん
いいですね。今日はどうもありがとうごいました。とても楽しかったです。

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エピローグ(編集後記)

どこに住むのが幸せか

「家に会いに。」Vol.27で会いに行ったのは、現状の無印良品の家の販売エリアとしては最北端の青森県に建つKさんの「窓の家」です。

IT企業勤務のご主人と畜産農家を手伝う奥様。お仕事の内容としては全く違うジャンルのお二人ですが、もともと東京にお住いだったご夫婦が青森にUターンして得られたのは、四季折々の自然を常に感じられる素晴らしい環境と「窓の家」というスタイリッシュな生活のプラットフォーム。この対比がKさんの暮らしのかたちを引き立てていると感じます。

さて、今回取材を終えて改めて考えたのが「どこに住むのが幸せか」ということ。
今回、Kさんも東京から青森に生活の拠点を大きく移されたわけですが、これには周辺環境だけではなく、暮らし方そのものにも大きな変化を伴ったはずです。でも今回の取材ではそのストレスは全く感じなかったことがとても印象的でした。

一般的に「どこに住むか」を決める上で何を優先するかは人それぞれだと思います。ただ「どこに住むか」ということはライフスタイルを決めるということに他ならないわけです。大きく言えば「どう生きたいのか」を決めることになるのですが、なかなかそういった視点で選ぶことはできないことが多いのが実状でしょう。
仮に皆さんが具体的に住宅を購入したいと考えているとして、「どこに住みたいですか?」と質問されたらどう答えるでしょうか。
「環境のいいところ」「買い物に便利なところ」「学校が近いところ」などなど、さまざまな要望があると思うのですが、やはり多くは「通勤がしやすい」ということを基準に決められる方が多いのではないでしょうか。

しかし、近年は働き方改革によって勤務体系が変化したことに加え、インターネット環境の劇的な進歩によって場所を選ばず仕事ができるようになってきています。
このような世の中になってくると、「どこに住むか」ということを考えるとき、これまでのような“居住場所=通勤に便利なところ”というテンプレート的なイメージに縛られず、もっともっと違う価値軸で選択できるようになるのではないかと感じています。これからは「どこに住むのが便利か」ではなく、「どこに住むのが幸せか」ということにシフトしていくかもしれません。

Kさんはこのような社会変化の中で会社を辞めずに同じ仕事を続けられたことも、スムーズにUターンできた理由の一つになっています。これに加えて計画前から「どう暮らしたいか」ということを明確にお持ちになっていたことが新しい環境と暮らしを楽しむことができている最大の理由になっているのではないでしょうか。
正に「どこに住むのが幸せか」を考えることが大事だということを今回の対談を通じて感じることができたと思います。(E.K)

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「無印良品の家」に寄せて | 情報学研究者 ドミニク・チェンさん

窓の家

八戸に「窓の家」を建てた、親子三人暮らしの家庭を訪ねた。八戸駅から車で30分ほどの、開かれた平地のなかの丘の上にあるその真っ白な家は、昼の陽光を一身に浴びて、周囲をまばゆいばかりに照らしていた。

二階建てのサーフェスに大小の窓が散りばめられていて、玄関側からはリビングがくっきりと見て取れる。広い外構は土だけ均してあって、若い樹が一本立っているだけだ。聞けば庭の植え込みは、夫がこれからゆっくりと自力で行っていくらしい。少しづつ樹々で埋まっていく未来の庭の様子を想像するだけで、楽しくなってくる。

玄関に立つと、ご夫妻と6歳の男の子が笑顔で迎えてくれた。少し家のなかを拝見してから、家の前のオープンスペースに広げたターフの中で、地元のバルの方が準備してくださったとても美味しいブイヤベースとお弁当をご馳走になった。隣家は夫の実家で、道を挟んだ向かい側は様々な野菜が植わった綺麗な畑があり、遠くには山々の緑が映えている。

夫のAさんに話を聞くと、もともと都内でIT系の仕事をしていて、ネットにさえ繋がっていれば場所を選ばない仕事なので、Uターンを決めたのだという。彼と情報処理技術の少し専門的な話を交わすうちに、過去に自分も地方で家を建てるという選択肢を考えたことを思い出した。この家で生活する親子の姿にしばし、自分にもありえたかもしれないパラレルワールドを投影していた。

その後、家のなかを改めてゆっくりと拝見した。最小限に留められているサッシ枠のおかげで、数々の窓から見える外の風景は、まるで空間を切り抜いたかのように感じられる。それは、たしかに家の外に広がっている光景なのに、どこか遠い異世界につながるポータルのようにも感じられる。

また、たくさんの窓があるおかげで、外の空模様の移り変わりによって、家の中の光の表情がころころと変わっていく。太陽が雲間から出入りするのと連動するように、居室の明るさが増減するので、家全体が外の自然とつながっているようだ。

不思議な時間が流れる午後の間、ご夫妻とさまざまな話をさせて頂いたが、最も印象に残ったのは「この家の窓を通すと、慣れ親しんだ地元の景色が違って見える」という妻のSさんの言葉だった。同じ場所であっても、住む家の構造が異なれば、その土地の印象が大きく変化する。家とは、そこに住む家族のメンバー同士だけではなく、家と周囲環境をも仲立ちするインタフェース(境界線)なのだということを、強く実感させられた。私的な家族の時間が、家の周りの風景へとゆるやかに融けていき、世界とのあわいが縁取られる。そんな心地よい縁起を感じさせてもらえる家だった。[2020.2]

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