軒のデザイン ― 「木の家」のアイコンさえも消すという挑戦
住まいのかたち | 2026.2.13

2004年に販売を開始した「木の家」。余計な装飾を削ぎ落とし、簡素でありながら豊かに暮らすための編集可能な「余白」を設計するという発想から開発されました。
今回、その原型の空間に、深い落ち着きと成熟した温もりを加えるために、新たな素材とディテールを20年ぶりに追加設定いたしました。
この連載では、その新しい素材やディテールについて、テーマごとにお話ししていきます。
第5回となる今回は、室内空間で様々な機能を支える「軒のデザイン」についてです。
「木の家」を象徴する意匠のひとつに、深い軒の存在があります。
なかでも出幅1,820mmというダイナミックな庇は、外観の力強さと同時に、室内と外部をやわらかくつなぐ重要な役割を果たしてきました。その大きな軒を成立させるために設けられた鉄柱は、構造的にも意匠的にも「木の家らしさ」を語る上で欠かせないアイコンと言えるでしょう。

しかし近年、「木の家」を計画する敷地条件や住まい方は少しずつ変化してきています。
都市部を中心に、間口がコンパクトな敷地での計画が増え、建物のボリュームや外観に求められる表情も、より静かで抑制の効いたものへとシフトしてきたのではないでしょうか。今回の新仕様で掲げた「線を消す」というコンセプトも、そうした時代背景と無関係ではありません。
そこで私たちは、時代に合わせた新たな選択肢として、これまで当然のように存在していた鉄柱を「なくす」ことに挑戦しました。
言い換えれば、木の家のアイコンとも言える要素を、あらためてゼロベースで見直す試みです。
その結果、鉄柱という垂直ラインを消すだけでなく、鉄柱を受けるための梁が不要になったため、軒先の厚みは従来と比べて1/2以下となり、屋根の水平ラインが整えられました。


従来仕様
新仕様
もちろん、従来の鉄柱付きのデザインが持っていた価値が失われたわけではありません。
従来仕様の深い軒下に柱が立つことで生まれる空間は、内と外を柔らかく仕切り、半外部空間としての豊かさを生み出しています。雨や日差しをコントロールしながら、外部を「居心地のよい余白」として部屋のなかへと取り込むことができるのです。
一方で、鉄柱をなくしたコンパクトなプランでは、半屋外としての魅力を残しながらも、外部との一体感がより強調されます。
鉄柱という視界を遮る要素がなくなることで、庭やアプローチとの連続性が高まり、敷地全体を広く感じさせる効果も期待できます。敷地条件や暮らし方によっては、こちらの方がふさわしいと感じるケースも少なくないでしょう。
軒の奥行きも、構造的な検討の結果、1,820mmから1,365mmへと見直しています。
この変更は、パッシブデザインの観点から見ると一長一短があります。軒が浅くなることで冬期には太陽光が室内に入りやすくなり、より多くの太陽エネルギーの恩恵を受けやすくなる一方、夏期には日射遮蔽の工夫がこれまで以上に重要になります。
そのため、今回の軒の新仕様は、単に見た目だけではなく、パッシブ性能の変革として捉え、カーテンや外部シェード、植栽といった日射遮蔽要素はもちろん、それらをどのように暮らしに取り入れていくかまでも含めた設計提案を行なっています。
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「コンパクトだから鉄柱なしが正解」ということではなく、鉄柱のある深い軒下の魅力も、柱をなくした軽やかな外観の魅力も、どちらも「木の家」らしい選択肢となります。
重要なのは、敷地条件や暮らし方、そして住まい手の好みに応じて選べるようになったことです。
選択肢が増えることは、設計の迷いを増やすのではなく、より的確な答えに近づくための余地を広げることになるはずです。
今回の外部軒の新デザインは、「木の家」のアイコンとも言える鉄柱をなくすという、かなり思い切ったものです。しかしそれは今回の新仕様全てに通じることですが、「木の家」を別のものに変える試みではなく、「木の家」をより柔軟で成熟した存在へと更新するための一歩なのです。
「木の家」は、新仕様が加えられて広がった選択肢により、これまで以上に、住まい手の感性に寄り添い、豊かで感じの良い暮らしを自由に描くキャンバスとなってくれるでしょう。



