「木の家」の新しい階段 形態は機能に従う、その先へ。
住まいのかたち | 2026.1.16

2004年に販売を開始した「木の家」。余計な装飾を削ぎ落とし、簡素でありながら豊かに暮らすための編集可能な「余白」を設計するという発想から開発されました。
今回、その原型の空間に、深い落ち着きと成熟した温もりを加えるために、新たな素材とディテールを20年ぶりに追加設定いたしました。
この連載では、その新しい素材やディテールについて、テーマごとにお話ししていきます。
第3回となる今回は「スチール階段」についてです。
「木の家」の階段は、家の中心の吹き抜けに置かれることが多く、上下階をつなぐ大切な機能を担っています。同時に、そのデザイン・ディテールによって空間の印象を大きく左右する存在でもあります。
もともと「木の家」の階段に「スチール」素材を採用したのには理由があります。
強固なビスで建物躯体に固定する方式とすることで、将来1階と2階の動線が変わるくらいの大きな間取り変更があった場合でも、階段位置を変更して対応できるという、普通の家ではあり得ない機能を持たせたかったからです。
さらに従来仕様では、階段の「ささら」(側板)を、踏み板を支える構造をそのまま表した、ジグザグ形状にしています。
このそっけないともいえる階段のかたちは、階段の持つ機能を優先した結果であり、「形態は機能に従う」「デザインしないデザイン」という無印良品の思想、そして「永く使える、変えられる」=「資産価値のある家づくり」という根源的なコンセプトの、両方から生まれています。
従来仕様
新仕様
今回この「木の家」の象徴とも言えるスチール階段に、20年ぶりに新たなデザイン・ディテールを追加しました。大開口によって自然の景観とエネルギーを取り込み、間仕切りのない構造体によって住み手が自由に編集できる空間を実現した結果、底抜けに明るく開放的だった「木の家」に、「適度な陰影と静かな落ち着き、そして温もり」を与えたいという考えからです。
そのために、空間要素からできる限り「線」を減らすことを目指しました。
ささら(側板)形状は、ジグザグから、ストレートへ。構造としては同じ役割を果たしながらも、視覚的な印象は大きく変わります。線が折れ曲がらず、ただ静かに上下を貫く。その姿は、階段を「機能に徹した造形」として見せるのではなく、空間の一部として溶け込ませて、むしろ「消す」ことを目的としています。
従来仕様
新仕様
同時に、従来仕様では、踏み板をささら面にボルトで固定していましたが、踏み板を支えるアングルを溶接とすることで、このボルトをささら面からなくしています。
ボルトは、どうしてもデザイン的には情報量の多い要素となりますが、それを敢えて露出することで、施工性やメンテナンス性が向上し、そこに機能美が生まれる、というのが従来仕様の考え方でした。今回は「線を消す」ために製造段階で一手間二手間かけることにしたわけです。
コストや手間をかけても線を消していく、いわば究極の引き算といえるのではないでしょうか。
色も新たにマットなグレーを追加しました。無印良品の家具やプロダクトでも使われてきたこの色は、派手さはありませんが、木の素材感を引き立て、空間に奥行きを与えてくれます。明るさではなく、落ち着きによって空間を整える色。ささらやボルトの線を消すことと相まって、まさに美しい陰影を演出するためのディテールなのです。

こうして見ていくと、「木の家」の新しいスチール階段は、何かを足した結果ではなく、徹底して削ぎ落とした末に生まれたものだと分かります。それは「木の家」新仕様全体に共通する姿勢でもあります。
これらの様々な工夫とは裏腹に、日常生活でこの階段を上り下りするとき、きっと何も意識に引っかからないのではないでしょうか。
視界に入っても、「階段」としてではなく、「陰影の一部」と捉えられる。そう感じてもらえたなら、この新しいデザインの目的は達成されたといえるでしょう。
「大人が静寂を楽しむ空間」を、本気で目指した結果として生まれた階段。
新しいスチール階段は、「木の家」が次の成熟段階に入ったことを、静かに、しかし確実に語っているのではないでしょうか。



