「木の家」新仕様こだわりの素材その2:壁材 空間を柔らかな光で満たす。
住まいのかたち | 2025.12.5

2004年に販売を開始した「木の家」。余計な装飾を削ぎ落とし、簡素でありながら豊かに暮らすための編集可能な「余白」を設計するという発想から開発されました。
今回、その原型の空間に、深い落ち着きと成熟した温もりを加えるために、新たな素材とディテールを20年ぶりに追加設定いたしました。
この連載では、その新しい素材やディテールについて、テーマごとにお話ししていきます。
2回目の今回は壁材についてです。
壁は、空間の構成材の中で最も大きな面積を占めるものになりますから、当然ながら空間の印象を大きく左右する要素になります。
今回「木の家」に採用した 自然素材からなる壁材は、光を柔らかく吸収して空間に落ち着きをもたらしてくれるだけでなく、その成分の特性により、調湿や消臭機能もあるのです。
卵殻がつくる、独特の質感と陰影
今回採用した壁紙及び内装用塗料は、食品工場から廃材として出る卵殻を細かく砕き、再利用して作られています。
壁クロス(アッシュホワイト)
塗装仕上げ(パールグレー)
卵殻の粒子には大小さまざまな形があり、それが表面に微細でランダムな凹凸をつくります。この素材で囲まれた空間は、なんとも言えない柔らかな光で満たされます。
光が当たると、壁の表面でやわらかく散乱し、強く反射せず、かといって沈みすぎない。
自然素材だけが持つ揺らぎのある表情が、空間に奥行きをもたらします。
遠目にはすっきりと、近づくと繊細な陰影が静かに浮かび上がる。
この「距離や光によって表情が変わる壁」は、空間全体に落ち着いたリズムをもたらし、ストレスの少ない心地良さをつくり出します。
この効果は、印刷やコーティングでは再現しにくい“素材の力”と言えるでしょう。

また、この壁材の主成分である卵殻は、本来であれば廃棄される素材です。
食品工場では毎日大量の殻が出ますが、その多くは処理コストをかけて捨てられてきました。
それを壁材として再利用することで、資源の循環に少しでも寄与する。この素材の背景も、永く使うことを旨とする、「木の家」の価値観とよく合っています。
そして、卵殻の持つ多孔質構造は、消臭や、調湿効果もあることが実証されています。
湿気の多い季節には余分な水分を吸い、乾燥する時期にはほんのりと湿気を戻す。あくまで自然素材らしい穏やかな機能ですが、見た目の柔らかさと、実際に空気質を少しでも人に優しい方向に持っていこうとする機能が一致していて、なんとも愛着の湧く素材なのです。
素材を生かした床やディテール(仕上げ手法)の組み合わせで、空間全体がやさしさに包まれる
前回ご紹介した床材も、木目のムラや色の深みといった “均質ではない素材感” を大切にしたものでした。これらの仕上げ材に包まれて、素材そのものの質感が、空間に穏やかさと落ち着きをもたらします。
また従来、「構造材でありながら美しい柱や梁」を見せるために、「木の家」の基本仕様は柱を見せた「真壁造り」としていましたが、新仕様では、壁仕上げの内側に全ての柱を隠す「大壁仕様」を推奨しています。
視界に入る線を整理することで、今回設定した壁仕上げの光や陰影がより素直に空間へ広がり、落ち着いた佇まいがいっそう引き立つようにしたかったからです。

(左:従来の真壁造り/右:新仕様の大壁仕様)
こうした仕上げは、派手さや強い主張とは無縁ですが、永く住むほどに、その良さがゆっくりと深まっていくでしょう。
自然素材の揺らぎ、手触り、光の反射——。
そのひとつひとつが、豊かな暮らしを静かにかたちづくっていくのです。
「木の家」新仕様は、そんな価値観を大切にしたアップデートとなっています。



