巾木について

コラム | 2018.10.2

「巾木」って必要?
無印良品のデザインの原点は「引き算の美学」です。「華美な装飾をしない」のはもちろん、そのモノに要求される機能を満たしながら、余計な線、面、色をできる限り取り除くというものづくりを目指しています。線や面、素材などの構成要素を見直すうえで、「省く」という作業は簡単ではありません。無印良品の商品イメージともいえる「シンプル」は、デザインの目標ではなく「ずっと使いやすい」を目指した結果のデザインといえます。

前回のコラム「あえて言ってこなかった『無印良品の家』のこだわり」では、建築に関わる者にとって有名な言葉「神は細部に宿る(God is in the details)」をご紹介しながら、「無印良品の家」の窓まわりについて、日頃あまり気にされない家の「ディテール」についてお話ししました。
家は、異なる素材同士、又は異なる面・線(縦と横など)が接する部分を「隙間なく、しっかりつなぐ」ということが必要とされる部分が多く、その「つなぎ方」が多くの場合、重要な「ディテール」となります。

ちなみに、「名建築」と呼ばれる「建築作品」では、使用する部材や面の構成が通常の建築とは異なることも多く、そういった場合に、かなり「アクロバチックなディテール」が考案され、それが魅力となっていることが少なくありません。
しかし、「アクロバチックなディテール」は、職人泣かせです。かなり入念に時間をかけて施工しても、一度ではうまくいかず、何度かやり直しを強いられ、ようやく完成する、ということも多いでしょう。だからこそ完成したときには、人の心を動かすものがあるといえます。
しかし、「無印良品の家」は「作品」ではなく、むしろ「日常使いの道具」と考えていますから、何度もやり直さないとうまくいかないようなディテールは使えません。ですが、これまでの家づくりでは「当たり前」とされてきたディテールでも、無理なくつくれて、その上でもっとシンプルにかつ機能的にできないか、と常に工夫を重ねています。
今回のテーマの「巾木」もそのひとつです。

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「巾木」って何?
「巾木(はばき)」とは、床と壁を繋ぐ部材のことです。壁の一番下にある帯状の、通常は木製でできているアレです。なぜこれが家に必要かというと、床と壁という、水平と垂直の異なる面の素材がつながる部分なので、そのつなぎ目をカバーする役割を担っています。

この巾木は、家の長い歴史の中で当たり前のものになっています。必ず必要なものなので、逆にこの帯状の部材に彫り込みを入れて大きく立派にするというデザインもあります。
しかし、「無印良品の家」の空間は「住まい手の個性で自由に描ける真っさらなキャンバスのようにありたい」と考えているので、なるべく余計な「線」は消したい、そういった意味ではこの巾木も窓枠のように無くしてしまいたいもののひとつです。

ところが、巾木には「床と壁の隙間をふさぐ」の他にもう一つ重要な役割があるのです。
壁や天井に使われている「石膏ボード」は、文字通りボード状の石膏の両面を厚紙で覆ってあるという建材です。石膏が主原料ですから、火に強く、万が一火災が発生した場合の延焼を防ぐために、法律でも使用が定められている標準的な部材で、コストも安く加工も容易、壁や天井の下地材として大変優れた素材ですが、紙と石膏でできているため、衝撃や打撃で凹みやすく、とくに床と接する部分は石膏が露出しているため、もろくなりやすくなっています。
壁と床に接する部分は、床を掃除する際に、どうしてもそのもろい場所にモップや掃除機が頻繁に当たるところでもあります。つまり巾木はこの衝撃から石膏ボードを護る役割も担っているのです。

「家」は「白いキャンバス」であると同時に「日常使いの道具」であれ、と考えている無印良品としては、日常の掃除が、壁を傷つけることを恐れながら、こわごわ行うものになってしまうのであれば、巾木をなくす、という選択肢はなくなります。

そこで、「窓の家」の巾木は木製を採用していますが、掃除機などの衝撃を防げる最小限の大きさ、かつ色は壁と全く同じ色に仕上げています。「全く同じ色に仕上げている」と簡単に言いましたが、壁と巾木の異なる素材の色を合わせるというのは、なかなか難しい作業です。とくに「白」は繊細な色ですからなおさらです。微妙に違う「白」は、かえって居心地の悪いものです。
もし「窓の家」が「一品モノ」だったら、異なる素材の「壁」と「巾木」の色あわせは、現場で何度も色を調合して調整することになるでしょう。
しかし、窓の家は「商品」として、誰がつくっても同じ品質で仕上がるように考えられていなくてはなりません。そこで、まず壁の色は、無数にある「白」のうち、色番号を定番として指定し、その「白」と同じ色になるよう工場で色管理(社内にて管理方法が決められています)された塗装を巾木に施しているのです。このオリジナルの工場塗装された巾木を使用することで、壁の「白」と同じ色の巾木が苦もなく目立たなく取り付けることができているのです。

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木の家」の巾木も同様に壁の「白」と同色に塗装されたものを取り付けていますが、こちらは木製ではなく、アルミ製です。なぜアルミ製なのか。実は、そこには巾木だけでは説明しきれない深—い理由(わけ)があります。ということで、「木の家」については次回お話しいたします。

日ごろ気にも留めない、名も知られぬ足元の巾木。実はこんなに奥行きが深いのです。みなさんの家にはどんな「巾木」が付いていますか? ぜひ、ご意見、ご報告お待ちしております。