あえて言ってこなかった「無印良品の家」のこだわり

住まいのかたち | 2018.8.28

感じ良いくらしのための「器」としての家
「無印良品の家」では、家が「豊かなくらし」「感じ良いくらし」のための「くらしの器」であるためには、まず「永く使える」ことが最低条件と考えています。
日本の住宅が欧米に比べて寿命が短いと言われるのは、物理的な劣化によるものだけでなく、生活様式の変化に家が合わなくなることで建て替えられてしまうケースもある、ということを踏まえて、無印良品の家が「永く使える家」の条件を、次の4つと定めています。

1. ずっと高耐震・高耐久性能であること
2. ずっと快適であり続けること
3. ずっと飽きないデザイン(=普遍的なデザイン)であること
4. 住む人の生活様式の変化に合わせて間取りを変えられること

今回は2 の「ずっと快適であり続けること」について、これまでと少し違う視点でご紹介したいと思います。

まず「快適」な家、とはどんな家でしょう。
数値で表せる目安として、「室温」「湿度」「遮音」「明るさ」があるのではないでしょうか。これらがどんな数値なら快適であるかは、個人差がありますから、これらの状態を容易にコントロールできる、ということが重要でしょう。「室温・湿度・遮音」は、家の断熱・気密性能を高めることでコントロールしやすくなります。明るさは、最大限明るい空間をつくれれば、暗くすることは可能です。無印良品の家が、これらを非常に高い次元で達成できていることは、これまでのコラムでも触れてきたので、今回は置いておくとして、これらの数値が目安にならない「快適さ」について考えてみましょう。

数値で目安を示せない「快適さ」。それはひとことで言うなら、「居心地」ではないでしょうか。
どんなに性能数値が良くても、例えば、いつも座る椅子の座り心地が悪ければ、たちまち「居心地が悪い」、つまり快適ではなくなります。視覚でも触覚でも、ほんの少しの違いだけで、居心地の良し悪しは変わってきそうです。

ですから、無印良品の家では「居心地の良さ」を実現するために、家のひとつひとつの部材の選定やデザインにとてもこだわっています。しかし、これらのこだわりは、住む人の視覚・触覚にごく自然に入ってくるべきもの(もし強引に、あるいは不自然に視覚・触覚を刺激するものであれば、居心地が悪くなりますから)なので、解説されなければ気づかないことが多いように思います。
そこで、今回のコラムから何回かに分けて、あえて言ってこなかった「無印良品の家」のこだわりポイントをご紹介していこうと思います。

まずは第1弾として、「窓の家」の「窓」を見てみましょう。

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神は細部に宿る(God is in the details)
窓の家」というくらいですから、もちろん窓にはこだわっています。
窓からの景色が一枚の絵画に見えるよう、目立つフレームをなくし、風景だけを切り取る「ピクチャーウィンドウ」であるために、「窓の家」の窓は、外の景色を邪魔しない細いサッシフレームによるシンプルなデザインでありながら、トリプルガラスとアルミ+樹脂の組み合わせで非常に高い断熱性能と耐久性を併せ持つハイブリッドサッシを採用しています。

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しかし今回ご紹介したいのは、この窓そのものではありません。この窓のまわりのディテール(窓の取り付け方)です。

ディテールとは建築用語としてよく使う言葉で、「細かい収まり」ということになります。建築がつくる空間の質は、全体のかたちや間取りなどの大まかなデザインだけではなく、使われている素材や、その素材の取り付け方などのごく細部(=ディテール)によっても大きく左右される、という意味で、「神は細部に宿る(God is in the details)」という言葉が建築業界にあります。この言葉は、モダニズム建築の巨匠、ドイツの建築家ミース・ファンデル・ローエが好んで使い有名になりました。

一般的な住宅の窓には、窓と壁の間に、木製の枠がつけられます。枠をつけて収めると多少窓と壁の関係が凸凹していても、その部分を隠せるうえに、施工が簡易になるからです。
無印良品の家「窓の家」では、窓まわりの上と左右については、この枠をなくし、すべて壁の仕上げのまま繋げています。小窓の下枠だけは、埃がたまりやすい場所で、拭き掃除をしたりすることも多くなるので、強度のあるアルミ製の板材を回しています。このアルミ板は厚さわずか3ミリ、壁からほんの1ミリだけ出すデザインで、ほとんど枠があることを感じさせない取り付け方をしています。

180828_img03木製枠のある窓
180828_img04無印良品の家「窓の家」
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この窓は、建築工事や設計のプロの方が見ると、すぐに「よくこんな高い施工精度が必要な、難しいことをやっている。」と感心されるのですが、一般の方はほとんど気づきません。ただ、「『窓の家』はなぜか解らないけど、外の景色が他の家とは違う入り方をしてきて、居心地がいい。」と、感じていただけるはずで、それが「あえて言ってこなかった気づかないこだわり」という所以なのです。
ぜひ次に「窓の家」を見る機会があれば、窓まわりを注視してみてください。「なぜか居心地がいい」理由の1つがそこにあります。

このように、無印良品の家には、あえて言ってこなかった気づかないこだわりのディテールや、素材使いに溢れているので、このシリーズでこれから少しずつご紹介していきます。
このようなこだわりについて、みなさんはどのようにお考えになりますか。ぜひご意見をお聞かせください。