暮らしのかたち・家のかたち(2)

住まいのかたち | 2015.6.2

みんなが望む暮らしのかたち
前回のコラム「暮らしのかたち・家のかたち(1)」では、いきなり間取りや家のかたちなどの「欲しいかたち」を描き始めるのではなく、遠回りのようでも「どんな暮らしがしたいか」を先に考えてみてはどうか、というお話をさせていただきました。そうすると、

    安心・安全な暮らしがしたい
    いつも快適に暮らしたい
    笑いの絶えない楽しい暮らしがしたい<
    お金にゆとりのある(困らない)暮らしがしたい

というような思いがすぐに浮かびます。これらが、家を建てるときに誰もが望む「暮らしのかたち」のようではありますが、これではあまりに漠然としているため、前回のコラムでは、「4.お金にゆとりのある暮らし」について具体的に解きほぐしてみました。皆さんにとっての「本当に必要な家のかたち」がすこしずつでも見えてくるように、何回かの連載で考えていきたいと思います。
ということで、今回はまず残りの3つについて、もう少し具体的に解きほぐしてみましょう。

安心・安全な暮らしとは
1.安心・安全な暮らし」を家のかたちに落としていくのはとてもシンプルです。

    地震や台風に強い構造を持つ家
    その強さがずっと続く家
    構造以外の仕上げ材・設備類も永く使え、メンテナンス性が高い家

ということに尽きるのではないでしょうか。

では「2.いつも快適な暮らし」をささえる家のかたちとはどんなものでしょう。
1.安心・安全な暮らし」に比べて、何を「快適」と感じるかは個人差もありますし、建てる地域や風土などさまざまな条件を考慮するため、簡単に家のかたちに落とし込めそうにありません。
そこで、個人差は置いておくとして、快適な家の物理的要素を整理してみます。

    室内の温度・湿度をコントロールしやすい家
    昼間は太陽の光で明るく、風が通る家(自然の力をうまく取り入れられる)
    無駄に広い必要はないが、「狭い」という閉塞感もない家

というところでしょうか。

笑いの絶えない楽しい暮らしとは
いよいよ難しくなってきました。「3.笑いの絶えない楽しい暮らし」というのは、まずは家族同士が仲良くなければなりません。そこは前提とさせてください。その上で、仲の良さがずっと続いて笑いが絶えない家をかたちに落とすと、

    家族同士のコミュニケーションが取りやすい家
    家族の成長・変化・気持ちに合わせて空間を変えられる家

となれば、理想的ではないでしょうか。
これには異論もあるかと思います。家族仲良く暮らすためには、「家事負担が少ない、掃除がしやすい家」「家族でいつも一緒に食事ができる家」などもあるでしょう。
家に「誰と住むか」は、もしかしたら家づくりにおいて、最も大切なことかもしれません。子どもが増えたり、親と同居したりと、ライフステージが変化しても、笑いの絶えない家族について考えることが、家づくりを考えることかもしれません。家が家族をつくるのではなく、家族に寄り添った家のかたちをつくることが、家づくりの目標ではないでしょうか。これについてはぜひ、皆さんのご意見をお聞かせください。

「4つの思い」は「ひとつのかたち」に
これらの4つの思いは、実は全てつながっています。

    安心・安全な暮らしがしたい
    いつも快適に暮らしたい
    笑いの絶えない楽しい暮らしがしたい
    お金にゆとりのある(困らない)暮らしがしたい

1.安心・安全な暮らし」でなければ「2.快適な暮らし」であるはずがなく、快適でなければ「3.笑いの絶えない楽しい暮らし」は望めません。「4.お金にゆとりのある暮らし」に関しては言うまでもないでしょう。決して贅沢な暮らしではなくても、必要最小限のお金は必要です。家にお金をかけすぎて、そこでの暮らしがお金にきゅうきゅうとしてしまっては、本末転倒です。

このように、4つを解きほぐすと「家のかたち」もつながっていきます。
「地震や台風に強い構造を持つ家」、「その強さがずっと続く家」のかたちは、「永く住める家(資産価値を失わない家)」のかたちであり、「室内の温度・湿度をコントロールしやすい家」、「昼間は太陽の光で明るく、風が通る家」は、結局「将来にわたっての維持費・光熱費などのランニングコストが極力かからない家」でもあるわけです。
また、「昼間は太陽の光で明るく、風が通る家」の実現に向けて、太陽の光や風を家中に行き渡らせるために、部屋の間仕切りを極力なくして吹き抜けを設けると、家族同士の気配が常に感じられ、「コミュニケーションが取りやすい家」になりますし、ときに多くの人が集まれる空間や、個々の時間を大切にする空間をつくることは「家族の成長・変化・気持ちに合わせて空間を変えられる家」となりますし、そのような大きな空間は「地震や台風に強い構造を持つ家」によって実現できるのです。

無印良品の家はなぜ「注文住宅」ではなく「商品」なのか
このように漠然としてはいますが、誰もが望む家づくりの大きな4つの思いを突きつめていくと、実はひとつのかたちに集約できることに気づきます。その家のかたちを実際に商品化したのが、無印良品の「木の家」なのです。

「書斎が欲しい」「納戸が欲しい」「子どもが二人いるから子ども部屋は2つ」というような、そこで暮らす方の、家を建てるその瞬間の要望を細かく聞き、でも全部は叶えられないのでそれらの要望を取捨選択して、「その人だけの、建てる瞬間のための家」を一軒一軒つくっていくよりも、暮らしの原点となるような家のかたちを商品化し、合理的に生産・供給することで、リーズナブルで、安定した高品質の、「感じ良い暮らしのための家」を提供することができると考えたわけです。

そのような考えで2004年に販売開始した「木の家」は、当初は4つの思いを突きつめた家のかたちが、結果としてそれまでの家の常識を打ち破るものであったので、商品として称賛はされても、なかなか実際に住んでいただけませんでした。しかし数年経った頃から、この考え方が理解されるに連れて徐々に売れ始め、発売開始後11年経った今も、販売当初と全く変わらぬかたちのまま、時が経つほどむしろ売れているという住宅業界の常識を破る状況が続いています。
木の家のあと、4つの思いを別の視点でかたちにした「窓の家」を2007年に、「都市に住む」ことに限定した家のかたちとして「縦の家」を昨年販売していますが、いずれも、「注文住宅」ではなく、「商品」として提供することにこだわり続けているのは、そういう理由からなのです。

もちろん、一つ一つの素材からかたちまで、すべて自分好みの家をつくっていく「注文住宅」も素敵ですが、無印良品が「商品として成り立つ=いつでも誰にでも感じ良い暮らしを提供できる」まで考え尽くした家のかたち、皆さんはどのようにお考えになりますか。ぜひご意見をお聞かせください。