「モジュール」と「様式」
住まいのかたち | 2014.11.11
畳という「モジュール」
私たち日本人の住まいと深く関連あるアイテムに「畳」があります。
畳に、ちゃぶ台を置けばリビングダイニング、布団を敷けばベッドルーム、座布団を敷けば客間と、簡素かつ多目的に使える住空間を畳のおかげで、私たちは手に入れました。
もう一つ、畳の大きな功績は、畳というアイテムによって、日本人全員が共通の空間イメージを持てていることです。
「6畳間」とは文字通り畳6枚分の大きさの部屋、と言うことですが、単に広さではなく、図のように通常は畳の敷き方まで決まっています。
6畳間は約10m²です。
10m²と言われても5m×2mなのか、3.2m×3.2mの空間なのかイメージしにくいですが、6畳間と言われれば、畳が6枚敷かれた3.6m×2.7mの空間をすぐにイメージできるのです。
実際の畳の大きさは、同じ日本でも地域によって寸法が異なるので多少の違いはあるものの、「6畳間」という一言で、広さだけでなく部屋のかたちまで共通のイメージを持てるのは、世界でも珍しいかもしれません。ただ一言「6畳間」というだけで、ベッドと机と本棚をおいてどのくらいのスペースが残るかまでイメージできるのです。
このように、日本の家は「畳」という共通の「基準寸法=モジュール」を持ち、それは日本人にとって共通の空間表現言語となっているわけですが、もうひとつ住空間を表現する共通の言語を私たちは持っています。いわゆる「nLDK」です。
nLDKという 新「様式」
もともと日本の民家は平屋で、ふすまで仕切られただけの大きな空間に畳を敷きつめた「田の字型」と言う様式が一般的でした。ふすまを開ければ冠婚葬祭などで人が集まる大きな広間となり、必要に応じてふすまを閉めれば寝室やダイニングになるという、自在に使える空間でした。
それに対して「nLDK」とは、戦後、都市部に人が集中して住み、ベッドやテーブルといった家具での生活、核家族化などの暮らしの変化にともない、新たにつくられた様式です。
コンパクトで合理的に暮らせるこの新しい間取りは、当時の私たち日本人にはとても使い勝手がよく、瞬く間に浸透し、新「様式」として定着し、古くから日本人が使用している畳というモジュールと、nLDKという新様式の組み合わせで、現代の日本人の住空間イメージは驚くほど共有・均一化されたのです。
「33坪の2階建て3LDKの家」というと、1階は16畳のリビングダイニングと5畳のキッチンに浴室2畳、化粧室2畳、玄関と玄関ホールで4畳、トイレ1畳と階段室2畳に廊下が1畳で合計33畳。2階は8畳+ウォークインクローゼット3畳の主寝室と、6畳+1.5畳収納の子供部屋が2つにトイレ1畳プラス階段2畳、廊下が4畳でやはり33畳。併せて66畳=33坪で、「このくらいあれば、家族4人が暮らすには十分だけど、加えて納戸などの収納スペースがもう少しあると申し分ないです」と、ほとんどの人がイメージできてしまうのが私たち日本人の凄いところだと思います。
変わるものと変わらないもの
無印良品は2004年に「家」を販売する際に、畳というモジュールは大切にしながら、nLDKという様式に変わるものとして「一室空間」を提案しました。
無印良品が、畳というモジュールを大切にしているのには理由(わけ)があります。
畳の寸法は3尺×6尺です。1尺は約30.3cmですが、西洋の基準寸法であるフィートもほぼ同じ30.48cmです。これは偶然ではなく、いずれも人体の寸法から来ており、なるべく合理的な寸法で暮らしやすくと考える住宅のモジュールとして、非常に理にかなっているわけです。
ですから、このモジュールは変わらずずっと使えるものであり、無印良品では家に限らず、家具や生活雑貨についても、この畳モジュールを念頭にデザインされています。
一方、nLDKという「様式」については、戦後大変便利に使われてきたものの、戦後の生活様式そのものがあらゆる面で変わってきた現代においては、また新しい様式があるべきと考えました。
建築様式とはもともと、一定の時代と地域において共通するデザイン・空間構成が抽出されたものであり、言い換えれば時代によって変わっていくものなのです。
そこで、無印良品の家では、「永く使える、変えられる」という理念の実現のために、「一室空間」と言う新しい様式の家をつくっていくことにしました。
「一室空間」といっても、無秩序に大空間をつくっているわけではなく、ずっと日本人が大切にし、重宝してきた「畳モジュール」に基づいているので、必要に応じて空間を小割りにした場合でも、使い勝手の良い空間になるように設計されているのです。
無印良品の家の一室空間で暮らす人はすでに1,000組を超え、同じく団地の間仕切りを取り去ったMUJI×UR団地リノベーションプロジェクトに住む人も少しずつ増えています。
私たち無印良品の家では、この「一室空間」で「永く使える、変えられる」が新しい様式になると信じて、この家づくりを進めています。
戦後ずっと「nLDK」という様式に慣れ親しんできたので、「33坪3LDK」と言われればイメージがつきますが、「110m²一室空間」と聞いても、どんな家なのか、全く想像がつかない方がほとんどだと思われます。
ぜひ一度、実際の無印良品の家の「一室空間」を体感されて、ご意見をお聞かせください。