もしも、月に住むなら~都市に郊外にどこに住むか~
住まいのかたち | 2009.9.29
今回は、突然ですが「もしも、月に住むとしたら」について考えてみます。
あまりに突飛で、無意味と思われるかもしれませんが、2006年にNASAは「月面基地建設を2020年までに開始する」と発表しており、ロシアも日本も2030年前後の月面基地構想を明らかにしています。
そう遠くない将来、月で産まれ、美しい地球を見ながら育った、「月がふるさと」という人が現れるかもしれないのです。
そうは言っても、空気も水もないところになど、わざわざ住みたくないと思われる方がほとんどだと思います。しかし、空気や水がないということは、あたりまえですが、台風や水害がありませんし、建築資材も腐食の心配なく使えます。空気やチリに阻害されず曇りの日もないので、太陽エネルギーは地球よりはるかに効率良く利用できるでしょう。
空気がない上に、重力が地球の1/6ですから、家の階段は数段あればよくなるでしょう。
地震(月震?)も少なく、重力も小さく、台風・雨もなく、建築資材は長持ちするので、気密性の問題を除けば、力学的には家を建てるのはすごく楽になります。東京ドームのように内外の気圧差を利用するような建て方も非常に簡単にできてしまいますから、家のかたちはとても自由になります。
現実的には、空気が外に漏れ出さないようにすること、昼夜の激しい温度差(最大300度くらい差があるそうです)や、大量の宇宙放射線などを避けることを考えると、地下に潜るのが良さそうですが…。
ところで、重力の小さい月での楽しみは、ゴルフのドライバーショットで1,000ヤード以上かっ飛ばしたり、バスケットボールで華麗にダンクシュートを決めたりと、地球では考えられないダイナミックなプレーが楽しめそうです。
また、月には空気がありませんので、昼夜を問わず満天の星が楽しめます。そして月はいつも同じ面を地球に向けているので、地球側に住めば、24時間地球を見ることができます。青く光る地球を見る「お地球見」は格別でしょう。
さて今回申し上げたいのは、もちろん月移住計画ではありません。
「住めば都」という言葉があります。「どんな場所でも住んでみれば、その場所の短所には慣れてしまい、長所だけがよく見えて、愛着が湧いてくる」と言うことではないでしょうか。私たちは、「慣れ」を待つのではなく、「家」はもっと積極的に住む場所の長所を取り入れ、短所を抑える役目を果たすべきだと考えています。
「みんなで考える住まいのかたち」では、集合住宅やリノベーションなどのスケルトン(構造体)のこと、水まわりや収納などのインフィル(間仕切りや設備)のこと、これまでさまざまな角度から皆さんと一緒に考えてきました。しかし、それが「何処(どこ)」であるかについては、特に触れていません。
あえてお断りするまでもなく、それは地球上の、しかも日本国内で、かつ「普通に人が住んでいるところ」という漠然とした前提であったと思います。「どう住むか」について考えるときに「どこに住むか」について、もっと深く掘り下げていく必要があるのではないか、と私たちは考え始めています。
例えば無印良品の「窓の家」の窓(ピクチャーウィンドウ)で切り取られる景色が、山や海なのか、または東京タワーなのかによって、この家のテーマである窓の設計は全く異なってくるはずです。もっとわかりやすい例で言えば、都市部で、まわりに何でもそろっているけれど、敷地が狭い場所と、郊外で、スーパーまで車で行かなくてはならないけれど、敷地は広く確保できる場所とでは、家のかたちと住まい方は変わってくるはず、ということです。
「月に住もう」と思うと、そこに地球とは全く違う家が必要と誰もが考えます。しかし私たちは、都市部に住むときと、郊外に住むときでは、せいぜい広さが少し違うくらいで、ほとんど同じような家で良いと考えていないでしょうか。
さらに現実的には、どこにどう住みたいかという希望と同時に、予算や、学校や職場との距離、親や親戚との関係なども全て考えなくてはなりません。
いくら月に住みたいと思っても、何十億円もかかったり、行き来するのがたいへんだったりすると、本当に住もうという人は、ほとんどいないでしょう。実際に家を取得しようとするときに、これらを同時に考え、結論を出すことはとても難しく、また面倒なことかもしれません。
みなさんは、「どこに、どんな風に、いくらの予算で住みたいですか?」ときかれたときに、即答できますでしょうか?「みんなで考える住まいのかたち」では、「どこにどう住むか。」について、コストや日常生活、環境などを含めて、少しずつ具体的に考えていこうと考えています。
ぜひご意見をお聞かせください。(次週、後編に続きます)