HOUSE VISION が目指すもの
住まいのかたち | 2013.2.26
「新しい常識で家をつくろう」
2013年3月2日(日)~24日(日)に東京・青海にて、世界規模の展覧会「HOUSE VISION 2013 TOKYO EXHIBITION」が開催され、無印良品も1/1スケール実物大の「家具の家」を出展します。
連載の第2回は、この展覧会「HOUSE VISIONが目指すもの」について、展覧会ディレクターで無印良品のアドバイザーでもある原研哉氏の言葉を引用してお話ししましょう。
1. 良い果実を得るにはよい土をつくらなければならない
「家」とはその国の文化という土壌に育った実のようなもの。いま理想の家を手に入れるためには、よい土を耕さなければならないといいます。
日本人は世界の中でも最も清潔な文化をもっています。例えば、靴を脱いで、床に座って暮らすという文化は日本人のもっとも優れた文化のひとつといえるでしょう。また簡素で簡潔な美意識についても同様に、世界から注目される日本の美意識です。それは質素でなく、簡素という、削ぎ落としの過程で発見する、「もの」の本来の価値を見つけ出していく作業とも言えます。
簡素が豪華さを凌駕していく瞬間があるのです。こうした日本の美意識を再発見すること、それは土壌を耕すことと似ているのです。いままで眠っていたものを掘り起こし、水をやり育てていくことが日本のこれからの暮らしを考えることになるのです。
2. 欲望のエデュケーション
暮らしには様々な可能性が秘められています。特にこの数年、中古住宅をリノベーションして自分の思い通りの暮らしを手に入れるという動きが起きています。住宅着工件数もピークを越えて市場には住宅が余り始めています。日本には、優良な住宅のストックが多くあります。こうしたあるものを活かして住んでいくことができるような時代にもなりました。
しかしそのときに、自分はどんな家に住みたいのかということに対しての事例がまだまだ足りていないようにも思います。
潜在的に潜む様々な暮らしへの希求は、実際に形として可視化されたときに始めて欲望というかたちになるのです。「こんな家があったりして」と実際のかたちにすることが、人々の欲望に火をつけることになるのです。そしてその欲望とは、単に消費をあおるようなものではありません。本当にこれからの暮らしのあり方を示すものである必要があります。
成長時代の終焉を迎えた今、成熟社会のあり方を示すことが日本のみならず、世界に向けて必要なときが来たのです。欲望とは形になったときに始めて気づくものなのです。そのために我々は展覧会という形をとって、企業や建築家がその知見や先進技術を結集してその未来をつくってみるのです。
3. 家はあるゆる産業の交差点
テレビはテレビとして存在するのではなく、壁の一部になっていくでしょう。照明は天井の中に組み込まれていくでしょう。かつてのように、家電製品やキッチンのような住宅設備が単品でその価値をつくる時代は過ぎ去ろうとしています。使わないときは見えないほうがいいのです。
ものだけではありません。エネルギーや情報ネットワークなどのインフラも同じように家の中に組み込まれていきます。家には住宅産業のみならず、健康医療や物流、交通インフラや車のありかたもが一体となっていくでしょう。家は様々な物やインフラが複合化されていくのです。
ひとつひとつのものを開発するのでなく、それをつなげていくこと、複合化することによって見えてくる未来の暮らしのあり方を、建築家の想像力も加えてかたちにすることが何より必要なのです。家は産業の交差点なのです。
4. HOUSE VISION IN ASIA
HOUSE VISIONは展覧会がゴールではありません。この2年間、建築家や企業の方々と意見交換をし、研究会の場を重ねてきました。研究会は日本のみならず、中国、インドネシア、インド、シンガポール、韓国とアジアの主要な国や都市で未来の暮らしについて話し合い、また暮らしの調査をおこなってきているのです。
いま、それぞれの国の近代化は、西洋化へと向かうのでなく、自国の文化や文脈の上に未来を模索し始めています。そのときにHOUSE VISIONの活動は、未来を明示する具体的なビジョンを指し示し、同時にそれぞれの国がそれを模倣するのではなく、独自のHOUSE VISIONをつくりだすために連携を進めています。
5. MUJI HOUSE VISION
無印良品では「感じのいい暮らし」と題して、日本の美意識を発掘しながら、奇をてらわずに、ちょうど良い、等身大の暮らしのありかたを考え続けています。
「これがいい」ではなく「これでいい」という理性的な暮らしを探求しながら、日常の暮らしの豊かさや快適性をどう実現していくのか、自然体で、「感じのいい暮らし」を見つけていきます。
今回の取り組みの中では、ものの持ち方を考えていきたいと思います。無印良品が長年培ってきた収納家具のありかたを見つめ、家具と家のモジュールをあわせながら、家具そのものが建築の構造体となっていくという合理的な家の形を探求してみました。
暮らしを考えるとき、家から考えるのでなく、身のまわりの持ちものや家具から考えていくこと。家具をつかって暮らしを自由に編集していくこと。ものを合理的に持ち、そして壁の中に埋め込んでいくこと。
収納と家の構造体が一体になることで、家の形がかわるかもしれません。家具を配置すること、そのことがすでに家となるのです。家はものの持ち方、収納の仕方から考えていくのです。
家の中に暮らしを納めようとしていたいままでの家づくりに、これからは暮らしのかたちが、ものの持ち方が、家になるという考え方をしてみたのです。収納のモジュールをもう一度洗い直し、その可変性を追求し、時代や家族のかたちの変化にも追従できるべきものでなければいけないと思っています。
>「HOUSE VISION 2013 TOKYO EXHIBITION」に向けての坂氏のコメントを、こちらの動画からみることができます
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