なぜリノベ文化が根付かないのでしょうか?

リノベーションなんでも相談室 | 2023.6.20

ご質問

欧米では既存住宅をリノベーションして暮らすのが当たり前だと聞きました。日本ではリノベーション文化が根付いていないように感じますが、どうしてなのでしょうか

みなさんの身近な人で、中古住宅をリノベーションして暮らしている、という方はいるでしょうか。リノベーションという言葉をよく耳にするようになったものの、まだまだ当たり前の選択肢にはなっていないように思います。日本において、リノベーション文化が根付いていない背景にはどのようなことがあるのでしょうか。

今回は、現在3度目のマンション購入とリノベーションを実施中の、ファイナンシャルプランナーでマンション管理士の”こっしー”が、日本で中古住宅やリノベーションが広がりにくい背景について解説してまいります。

中古流通が進まない、日本の住宅業界

日本では諸外国と比べて中古住宅の流通が進んでいないと言われていますから、まずは世界各国との比較から見てみましょう。国土交通省の「既存住宅市場の活性化について」という報告の中に、既存住宅流通シェアの国際比較がまとめられています。図1のとおり、ヨーロッパ各国やアメリカと比べて、日本の住宅市場では、圧倒的に新築が優勢であることがわかります。

図1. 既存住宅シェアの国際比較

他にも、環境先進国といわれるドイツとの比較も興味深いものがあります。世界の住宅事情や空き家対策についてまとめられた書籍「世界の空き家対策 公民連携による不動産活用とエリア再生」では、ドイツにおいて現存する住宅のうち、1978年以前に建てられたものが68%を占めている(2011年時点)というデータが紹介されています。日本の3分の1しか新築住宅を建てないドイツでは、既存の建物を改修しつつ長く利用する制度や文化があるようです。

リノベ文化が根付かない背景

それでは、なぜ日本ではこれほどまでに中古住宅の流通やリノベーションが文化として定着していないのでしょうか。これだ、というひとつの理由にたどり着くことは難しいでしょうが、中古流通がなかなか広がらない背景について考えてみます。

背景(1)住宅の耐久性が低い
まずは、長期的な利用に耐えうる建物をつくることができていない、という大きな課題があります。歴史を振り返ると、戦後の復興やその後の高度経済成長を支えるために「質より量」の住宅政策がとられてきました。都市部に人口が集中し、家が足りない状況を解決するためには、質はさておき、とにかくたくさんの住まいをスピーディに用意することが求められていたのです。当然ながら、そのような状況では、長く使うことが前提の家づくりがなされることはなく、スクラップ&ビルドが基本的な考え方でした。

それから何十年も経った平成21年には長期優良住宅認定制度が始まるなど、住まいの質に目を向ける流れは確かにあるようです。しかし、長期優良住宅の認定を受けているのは新築全体の30%弱ということですから、耐久性の高い住宅ばかりが建てられているという状況にはなっていません(表1)。また、住宅の高断熱化は、人の暮らしやすさや光熱費の削減だけでなく、建物の長寿命化にも寄与します。日本では2025年からようやく住宅の省エネ義務化が開始されますが、他の先進国から大きく遅れをとっている状況なのです。中古流通とリノベーションを加速させようにも、その土台となる良質な住宅が少ないという日本の住宅事情があるのかもしれません。

表1. 長期優良住宅認定実績の推移

令和元年 令和2年 令和3年
認定実績 107,389戸 100,503戸 118,289戸
新設住宅着工戸数
に対する割合
24.9% 25.5% 27.7%

背景(2)築年数による不動産価格の下落
日本における不動産の評価の仕方も、中古住宅の流通促進を阻害する要因となっているようです。日本では、新築時から築年数を経るにつれて、建物の価格が下落していくのが一般的です。金銭的な評価が低い(=古い)住宅に対して、多くのお金をかけてリノベーションすることに抵抗感があるというのもわかる気がします。アメリカなどの中古流通が盛んな国においては、住宅の価値が築年数を経てもなお維持されるマーケットになっていますから、ある種の“もったいなさ”が日本と比べて少ないというのはあるのでしょう

背景(3)リノベーションが評価されにくい不動産市場
築年数を経るごとに建物の価格が下がっていくことに加えて、せっかくリノベーションをしても、その分を売却時に評価してもらいにくいという日本の不動産市場の慣習もあります。リノベーションの価値を頭では理解していても、なんとなく贅沢品のように映るということもあるのかもしれません。

またドイツを例に出しますが、ドイツでは中古住宅の売買の際に、住まいのエネルギー性能の証明書(エネルギーパス)を明示する制度があるなど、施したリノベーションが適正に評価される仕組みがあります。売主・買主双方が住まいの性能などを正しく理解した上で、安心して中古住宅の売買を行える仕組みをつくることができれば、日本でも中古住宅の流通が爆発的に増える可能性もありそうですね。

変わりつつある、中古住宅市場

全国的にはリノベーション文化が根付いているとはいえないものの、首都圏のマンション市場では、中古流通やリノベーションの人気が加速しているなと感じています。木造の戸建住宅と比べて耐久性が高く、柱の腐食やシロアリによる問題が起こりにくい鉄筋コンクリート造のマンションであれば、中古物件でも長く住めるというイメージが湧きやすいのかもしれません。マンション価格の高騰もあり、新築を諦めて中古マンションを購入する方もいるのでしょうが、2016年に新築・中古が逆転して以来、7年連続で中古マンションの方が売れている状況が続いています(図2)。リノベーションした物件の評価や売買のプラットフォームが少しずつ整ってきている印象もあり、中古リノベーションが当たり前の選択肢になる日も近そうです。

図2. 首都圏のマンション市場推移

今回は、日本で中古住宅の流通やリノベーションが普及しにくい背景について解説しました。人口減少・家あまりの時代ですから、新築住宅の総量規制を行うなど、中古活用に向けたドラスティックな動きがあっても面白そうだなと想像したりもします。あるいは、新築住宅を建てる場合は「無印良品の家」も含めた高耐久な住まいしか建てられないようにするなど、子の代、孫の代まで責任を持った住宅政策に期待をしたいところです。

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“こっしー”プロフィール

無印良品のリノベーションで働く、“こっしー”こと大越 翔は、自身の自宅も含めて100以上のリノベーションを担当。
宅地建物取引士やファイナンシャルプランナー、マンション管理士としての知見を生かしながら、さまざまな物件と向き合ってきました。
みなさんの住宅購入・中古マンション・リノベーションのさまざまな疑問・質問にコラムを通じ、お答えします。

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