旧々耐震とはなんですか?

リノベーションなんでも相談室 | 2022.8.23

ご質問

中古マンションについて調べていると、旧々耐震という言葉を目にすることがあります。かなり古いということだけはわかるのですが、旧々耐震とはどのようなものなのでしょうか

中古マンション流通が活発になり、古いマンションを購入してリノベーションをする人が増えています。一方で、あまりにも古いマンションとなると、「本当にこれを買って大丈夫なのだろうか」という不安な気持ちにもなるものです。とくに、生命・安全にかかわる「耐震性」については、ご質問のように気にされる方も多いのではないでしょうか。

今回は、現行の耐震基準のふたつ前の基準である、いわゆる旧々耐震(または旧旧耐震)基準のマンションについて、宅地建物取引士でマンション管理士、自身も数年前まで旧々耐震マンションを所有していた”こっしー”が解説してまいります。

耐震基準の変遷

まずは、基礎的なところからはじめましょう。度重なる震災を教訓として、日本の建築基準法は、耐震基準の改定を行ってきました。1950年に建築基準法が制定されて以来、1971年・1981年・2000年に耐震基準についての重要な法改正がなされているのです。2000年の法改正は木造住宅に言及したものであるため、マンションにおいては、1971年以前を「旧々耐震基準」、それ以降1981年までを「旧耐震基準」、それ以降を「新耐震基準」と表現することが一般的です。

図1. 震災と耐震基準法の変遷

1971年の法改正のきっかけは、1968年に北海道で発生した十勝沖地震でした。この地震では、学校や庁舎などの鉄筋コンクリートの建築物での被害が多く、マンションを含めた鉄筋コンクリート造の建物の耐震性に見直しがかけられました。これまでよりもコンクリートの中の鉄筋の量を増やし、柱や梁にねばり強さを与えるようになったのです。

1978年に発生した宮城県沖地震を契機に、鉄筋コンクリート造の建物の耐震設計方が抜本的に見直されることになり、1981年には、いわゆる「新耐震基準」が誕生したのです。表1の通り、震度5程度の中規模地震に耐えればよいという従来の考えから、震度6~7程度の大規模地震でも倒壊しないという考えへと、大きく方針転換がなされたのです。なお、1981年6月1日以降に建築確認申請が受理されたものが新耐震基準となりますから、竣工年月とのずれがある点にお気を付けください。

表1. 旧耐震基準と新耐震基準の違い

旧耐震基準
(1981/5/31までの確認申請)
新耐震基準
(1981/6/1以降の確認申請)
中規模地震
(震度5強程度)
倒壊しない 軽微なひび割れ程度にとどめる
大規模地震
(震度6~7程度)
とくに規定はない 倒壊しない

過去の震災での被災状況

このような建築基準法の変遷を見ると、新耐震基準以前のもの、とくに旧々耐震基準のマンションにおいては、大地震が起こった際に大丈夫なのだろうか、と不安になるかもしれません。1995年に発生した阪神・淡路大震災の被災状況を調査したレポートが公表されておりますので、耐震基準と被害状況についての具体的なデータを見てみましょう(図2)。

図2. 阪神・淡路大震災の被災状況

ご覧のように、新耐震基準と旧耐震基準でも被災状況の差がありますが、旧々耐震基準のマンションにおいては、さらに多大な影響が出ていることが見て取れます。大破・中破の合計を見ると、旧々耐震基準では、新耐震基準の8倍以上の割合となっており、大破のみでいえば、実に28倍以上の割合で被害が発生しているのです。また、1階が駐車場や店舗などになっているピロティ構造の建物でとくに被害が多かったことも報告されています。旧耐震・旧々耐震基準のマンションにておいては、耐震化が急がれます。

耐震性以外の懸念点

マンションは命を守る住処であり、大切な資産でもありますから、すでに耐震改修済みなど新耐震基準に適合するものを除けば、旧々耐震基準のマンションは積極的にオススメできるものではないと考えています。また、耐震面以外にも古さゆえに懸念となることがありますから、下記の内容もふまえて、旧々耐震基準のマンションと向き合ってみてください。以前のコラム「ヴィンテージマンションが気になります」も参考になるかもしれません。

懸念点(1)住宅ローンがつきにくい
ここ数年で、新耐震基準以前のマンションについての住宅ローン審査が厳しくなった印象があります。とくに、旧々耐震基準に該当する古い物件については、現行の耐震基準をクリアしているというエビデンス(耐震診断結果など)がない場合、物件事由で審査が否決となることも多いのです。住宅ローンが満足に組めない物件は、相対的に低い価格でしか売却ができなくなりますから、資産性という面でもネガティブな要素となります

懸念点(2)断熱性能が極めて低い場合が多い
住宅の断熱性能など意識されなかった時代に建ったものですから、コンクリートに直接壁紙を貼っているなど、いまでは考えられない無断熱状態のマンションも多数存在します(図3)。耐震補強などで新耐震基準に適合している場合でも、快適な暮らしをつくるためにはリノベーションの際に断熱材を追加する、窓への対策を行うなど、十分な工夫が必要となります

図3. 中古マンションの断熱の様子

懸念点(3)アスベスト撤去が必要になる可能性がある
旧々耐震基準のマンションの場合、天井が壁紙ではなく吹付材で仕上げられていることも多々あります。検体検査の結果、吹付材にアスベストが含有されていることが発覚した場合には、その撤去費用も別途準備しなければなりません。広さなどによりますが、追加で200~300万円程度の費用が、アスベスト撤去のためだけに必要になりますから、それを見越した資金計画を立てましょう

今回は、旧々耐震基準のマンションについて解説しました。中古マンションリノベーションの営業現場では「管理がよければ、いくら古くても大丈夫」という説明を耳にすることもありますが、そのような無責任なセールストークはいかがなものでしょうか。中古マンション選びにおいては、リスクも正しく理解した上で、最適な判断をしたいものです。

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“こっしー”プロフィール

無印良品のリノベーションで働く、“こっしー”こと大越 翔は、自身の自宅も含めて100以上のリノベーションを担当。
宅地建物取引士やファイナンシャルプランナー、マンション管理士としての知見を生かしながら、さまざまな物件と向き合ってきました。
みなさんの住宅購入・中古マンション・リノベーションのさまざまな疑問・質問にコラムを通じ、お答えします。

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