寒い家は、体に悪いのでしょうか?

リノベーションなんでも相談室 | 2020.11.3

みなさんの住宅購入・中古マンション・リノベーションのさまざまな疑問・質問に、趣味=中古マンションの“こっしー”がお答えする「リノベーションなんでも相談室」のお時間です。

今回お答えするご質問は、こちら。
「これからの季節、家のなかの寒さが気になります。家が寒いと体に悪い影響があるのでしょうか?」

冬場の寒さというのは、つらいものですよね。在宅勤務など家で過ごす時間が長くなった方も多いでしょうし、家のなかって意外と寒いんだなと感じ始めた方もいらっしゃるかもしれません。前回のコラム「ヒートショックとは、何ですか?」で室温と健康について触れましたが、今回はもう少し踏み込んで、家の寒さが人体に与える影響について解説してまいります。

寒い家は、体に悪い

結論からいってしまうと、寒い家は体に悪い影響を与えます。2018年にはWHOが「Housing and health guidelines」のなかで、冬季においても室温を18度以上に保つべきだと強く勧告をしています。また、英国保険省によれば、室温が16度を下まわると呼吸器系疾患、10度前後になると血圧上昇や心臓血管疾患のリスクが高まるという指摘もあります。ヨーロッパ諸国では、暖かい家で暮らすことは基本的人権と捉えられており、例えばドイツでは低所得者向けの集合住宅への断熱改修が国や自治体のサポートのもとで進められています。

寒い季節に体に負担がかかることは、日本における月別の死亡者数を見てもよくわかります。図1のように、季節変動の少ない悪性新生物(がん)に比べ、心筋梗塞等の循環器系疾患や肺炎等の呼吸器系疾患は冬場に死亡者数が多くなることがわかります。10~3月の寒い季節と4~9月の暖かい季節を比べると、循環器系疾患で23%、呼吸器系疾患で19%も冬場の死亡者数が増えているのです。家の寒さと健康についてはさまざまな調査・研究がなされておりますので、いくつかご紹介いたします。

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図1. 2019年死因別死亡者数(厚生労働省「人口動態統計」より作成)

1. ヒートショック

まずは、前回取り上げた「ヒートショック」です。年間19,000人が被害に合っているという厚生労働省の推計もありますし、住宅の低温状態に伴う緩やかなヒートショックも含めると年間で約12万人もの被害が出ているという推計もあるようです。

2. 血圧の上昇
朝起きたときの室温が低いと、血圧が10mmHg以上も上昇するという調査結果も存在します。国土交通省のスマートウェルネス住宅等推進調査事業の報告では、起床時の室温と血圧についての分析結果がまとめられています。起床時の室温が20度(適正な室温)と10度(低い室温)の場合を比べると、30歳男性の場合は3.8mmHg、80歳女性では11.6mmHgもの血圧上昇が生じるという結果が出ております。

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図2. 起床時の室温と血圧の関係(出典:日本サステナブル建築協会)

3. コレステロールの増加
寒い家で暮らすことは、血中コレステロールの増加にもつながるようです。暖かいリビングから寒い廊下やトイレへの移動など、血圧の急な上昇と下降を繰り返すことで血管が傷つき、その傷にコレステロールが沈着し、動脈硬化の進行が促されてしまいます。前述の調査によれば、寒い家(18度未満)に住む人は、暖かい家(18度以上)に住む人に比べて、高コレステロールと診断されやすい傾向あるようです。血管への負荷は目に見えませんが、知らず知らずのうちに体はダメージを受けているということですね。

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図3. 室温とコレステロール値の関係(出典:国土交通省スマートウェルネス住宅等推進調査事業)

4. 健康寿命
室温の違いによって、健康寿命にも差が出るという興味深い調査結果もあります。年齢ごとの要介護状態となる人の割合を調べたところ、暖かい家に暮らしている場合、寒い家と比べて要介護状態となる年齢(健康寿命)が4歳長くなることがわかっています。人生100年が叫ばれる時代において、少しでも長く健康な状態を保つということは、ますます求められるのではないでしょうか。

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図4. 室温と健康寿命の関係(出典:国道交通省住宅宅地分科会資料)

足りない住宅性能と対策

家の寒さによって健康面でも多くの影響が出てくることがわかりました。暖房をしっかりと運転すれば室温を保つことができるのですが、断熱性能の低い住宅では暖房費の負担が重たくなるため、十分な暖房がなされない場合も多いようです。残念ながら、住宅の断熱性能・省エネルギー性能についての満たすべき基準は存在せず、マンションなどの大規模住宅を新築する際でも、基準への適合状況の届け出義務(適合していなくてもよい)にとどまります。さらに、中古マンションをリノベーションする際には、届け出義務すら存在しませんから、室内の快適性を無視した住まいもつくられているというのが現実です。

せっかくリノベーションをするのであれば、快適な空間で暮らしたいものですが、そのときには「断熱」「間取」「空調」の3点を意識してみてください。断熱材やインナーサッシにより基本的な断熱性能を強化したうえで、室内のどこにいても暖かいような仕切り過ぎない間取りをつくり、人がいる場所だけでなく家全体を暖めるような空調計画をしてみると、家のなかでの温度ムラが減り、快適な住環境に近づけることができます。

今回は、家の中の温度と健康との関係について解説しました。健康であることの価値は健康でいるうちは気が付かないともいわれますが、住まいづくりの際には20年・30年先の未来まで思いを馳せてみてはいかがでしょうか。無印良品のリノベーション「MUJI INFILL 0」では、性能も大切にしたリノベーションを行っております。ご興味を持たれた方は、リノベーション講座や相談会にお越しください。

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“こっしー”プロフィール

無印良品のリノベーションで働く、“こっしー”こと大越 翔は、自身の自宅も含めて100以上のリノベーションを担当。
宅地建物取引士やファイナンシャルプランナー、マンション管理士としての知見を生かしながら、さまざまな物件と向き合ってきました。
みなさんの住宅購入・中古マンション・リノベーションのさまざまな疑問・質問にコラムを通じ、お答えします。

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