ゲストハウスについて
寄稿・インタビュー | 2009.4.17
「ゲストハウス」という言葉を聞いたことがありますか。
住人同士のコミュニケーションをうながす仕掛けを組み込んだ新しい住まいのかたちです。
海外では、バックパッカーや短期滞在者向けの「簡易的な宿所」を指すこともありますが、最近、都内を中心に増えているのが、キッチンやリビングなどの設備を複数名の住人が共同利用する「定住型シェア住居」としてのゲストハウスです。
今回は、ゲストハウス「バウハウス高円寺」を運営する大関商品研究所の大関耕治氏、ゲストハウス専門のポータルサイト「ゲストハウス・ガイドブック ひつじ不動産」を手がけるひつじインキュベーション・スクエアの北川大祐氏,佐藤正樹氏に、ゲストハウスにおけるコミュニティについてお話を伺いました。
お互いを知っているという安心感
ゲストハウスは、住人同士で賃料を折半する「ルームシェア」と似ていますが、北川氏によると、両者は運営のかたちが異なります。
「ルームシェアは一般に、住む人が運営者となって、生活の枠組みづくりやトラブル対策、入居者の募集などをすべて自分たちで行いますが、ゲストハウスでは、外部の事業者がシェア生活に最適な運営の基本的枠組みを提供します」(北川氏)。
ゲストハウスでは、調理器具や食器、テレビなど、「住人同士の交流を生むような生活設備」は運営事業者側が用意します。シェア生活特有のリスクも運営事業者が一部肩代わりします。例えば、シェアしている住人の一部が退去してしまうというのはルームシェアでよくあるケースですが、ゲストハウスの場合、残された住人の賃料負担は変わりません。
また、住人同士のトラブルが起こった場合は、外部の運営事業者がクッションとなるため、住人同士の人間関係を良好に保ちやすいのも特徴です。
ゲストハウスは2007年末時点、都内で約400棟あるそうです。住人の7割以上は日本人。年齢別で見ると20代後半が最も多く、男女比では7割が女性です。
「住人同士がお互いに顔と名前を知っているので、女性でも安心感があるようです。病気など誰かの助けが必要なときは、声を掛け合うこともできます」(北川氏)。
誰かの力になりたい、誰かに助けてもらいたいと思うこと、それはコミュニティの原点かもしれません。
会話がコミュニティをつくる
人気ゲストハウスの1つ「バウハウス高円寺」は、東京地下鉄丸ノ内線新高円寺駅から徒歩1分前後、大通りから1つ路地を入った閑静な場所にあります。もともと、学生向けの下宿として使われていた築50年の木造建築を、大関氏が購入し改修したもの。年月を経てあめ色になった床、存在感のある曲がり階段、アンティークの靴箱、昔ながらの金物。昭和の風情は残しつつ、全面的に修繕が行われています。
玄関のたたきを上がり、廊下を奥へと進むと、共用のキッチンとラウンジがあります。
共用の冷蔵庫はコールドテーブルと呼ばれる業務用の横型タイプ。棚や壁のフックには食器や調理器具が整然と並びます。
キッチンとラウンジをつなぐ大型のカウンターテーブルにはお酒やグラスが置かれ、ちょっとしたバーの雰囲気。仕事から帰宅した住人が自然と集まって、そこでお酒を飲むことも多いそうです。
ラウンジにはアンティークの家具が置かれ、日だまりの中、おだやかでノスタルジックな空間が広がります。
ゲストハウスには、一般賃貸住宅に近い雰囲気の物件から、ポップな内装の物件、ハイグレードの設備で落ち着きのあるコミュニティを演出する物件など、さまざまなタイプがありますが、バウハウス高円寺ではあえて古民家風のデザインを選択したそうです。
ラウンジの掃き出し窓を開けるとウッドデッキにも出られます。
室内との高低(レベル)差がなく、一体感、開放感があります。
ウッドデッキには木製テーブルや植物などが置かれ、周囲にはキンモクセイがたくさんの芽を出していました。
バウハウス高円寺では、こうした空間デザインのセンスに共感する人が集まり、共通の価値観を持つ住人同士が良質なコミュニティを作るという好循環が生まれています。
ゲストハウスのコミュニティを良好に保つ秘訣は「ルールを決めておくこと」だそうです。ゲストハウスでは通常、運営事業者がコミュニティ管理の中心となり、入居者とのコミュニケーションを踏まえた上で共用設備の使用ルールなどを定めています。
例えば、食事の用意をするとき、1つしかない炊飯器をほかの住人が使用しているというケースも起こり得ます。炊き終わったらすぐ内釜を空にする。余ったご飯はラップに包んで冷凍庫にストックしておく。簡単なことかもしれませんが、「1つしかない共用設備をみんなが使い回せるよう、生活のノウハウがある程度マニュアル化され、浸透している」(佐藤氏)と言います。
ただし、バウハウス高円寺のようにコミュニティが成熟していくと、お互いに声を掛け合う、ほかの住人のことを考えて行動するということが自然とできるようになります。
ゲストハウスでは清掃業務を外部に委託するのが一般的ですが、バウハウス高円寺では住人の1人がすべての清掃を担当し、ほかの住人は、担当者の負担を増やさないよう配慮しながら共同設備を使っています。ウッドデッキにある植物への水やりは、当番制にしていなくても、花が絶えることはないそうです。
このように、自主性に任せたコミュニティ管理が可能なのは、それぞれがコミュニティのあり方について丁寧に考えているからかもしれません。住人同士が互いに声を掛け合うと、気持ちのいい暮らしができるようになる。そんなお手本のようなコミュニティといえるのではないでしょうか。
コミュニティのある共同住宅という可能性
都市部でゲストハウス人気が高まる理由として、北川氏は「プライバシーだけが優先され、隣の住人の顔も知らないような都市生活に、みんなが疑問を持ち始めている」と言います。とはいっても、シェア住居と聞くと、コミュニケーションをわずらわしく感じたり、経済的なリスクへの不安から躊躇してしまう人は多いでしょう。いろいろな職業や趣味、考え方、国籍の人がいる都市では、共通の価値観を持つ人を集めるための仕掛けも必要かもしれません。ゲストハウスのように、外部に運営事業者がいてコミュニティづくりのサポートをするという手法が広がれば、シェア住居のハードルはぐっと低いものになりそうです。
2件のゲストハウスを運営している大関氏は今、「都内で畑付きのゲストハウスを計画している」といいます。みんなで育てた野菜を収穫したり、収穫した野菜を使った料理を持ち寄ってパーティを開く。そんなコミュニティがあれば、きっと毎日が楽しいことでしょう。
無印良品では今後も、取材やアンケートなどを通じてコミュニティのあり方、暮らしの選択肢について、みなさんと一緒に考えてみたいと思います。みなさんはどんな暮らしがしたいですか?
ご意見をお待ちしています。