地震がなくても家は人を殺す

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会社を立ち上げた田鎖さん。SE構法を開発し、丈夫な家をつくっている最中、「地震がなくても家が人を殺す」という状況に直面しました。一般的に住宅の資産価値は年数を経ることに下がっていきます。2,000万円で買った家が、10年後には500万円ですね~と不動産屋さんに言われてしまったり。
田鎖さんのお知り合いのある方は、大規模なリストラの際に、住宅ローンを残したまま職を失ってしまいました。どうしたかというと、家族に家を残そうと自分の生命保険を使って、家のローンを支払おうと考えたわけです。その結果、この方は自死という選択をとりました。地震がなくても家が人を殺めてしまったケースです。
そこで、「価値の変わらない家」をつくろうという考えに思い至ったわけです。構造計算をして耐震性を証明し、将来にも価値を残せる家。ここが田鎖さんの目指すところとなりました。価値を残す、これはつまり以前お話ししたように現在の「長期優良住宅」という考え方と同じ方向になるわけです。100年後も価値が変わらない…というのはさすがに無理ですが、リフォームなどをしなくてもそのまま住める家ということですね。
ローンをやっと払い終わった後に、大規模なリフォームを強いないで済む家ということでしょうか。

みんな献身的

家をつくる人は献身的でなければならない、と田鎖さんが言っていました。人の生活を守りたい。私はそのお話しを聞いたときに「じゃあ、ほかの構造計算とかしてないハウスメーカーさんってワルですね~」と頭の悪い発言をしてしまいましたが、「いやそんなことないよ、みんな生活を守りたいと思ってるよ」と返され、そっか、みんな良心があって家をつくっているのだなあと、改めて勉強になりました。
これは自分の仕事のやり方にも通じるところがあって、だまくらかして高めに価格設定をしたり、そういうことはしてはいけないな(してませんけれどもね)、良心って大事だな、と思いました。他社のことも決してディスらなかった田鎖さん。素敵だなあと思いました。いろんな人へのリスペクトがあって、無印良品の家がつくられているのですね。
さてここまでは、丈夫で長持ちする家をつくろうと思ったという話しをお聞きしましたが、今度はどうして無印良品とタッグを組んだのか、ということを聞いてみました(やっとかよ)。

ある商品を見て「これだ」と思った

価値の変わらない家、丈夫な家、可変性のある家、飽きない家。難しいです。どう考えてもつくるの難しいです。ですが、田鎖さんは無印良品のある商品を見て、「これだ」と閃くこととなります。
その商品とは、「無印良品の自転車」。
自転車の泥除けとかカゴとかって、汚れたり壊れたりしたら変えないとなりませんが、無印良品の自転車はずっと寸法が変わらないので、壊れたりダメになったところがあっても、パーツを買い換えればいいわけです。本体の寸法がずーっと変わらないままだからです。モデルチェンジしないそのかたちに「これ考えたやつすごいな」と。こんなシンプルなものを売る勇気のある人ってどんな人だろう、すごいな、と。そして無印良品に「無印良品の自転車みたいな家をつくりたいんです」と話しをしにいったそうなのです。これが、無印良品が家をつくるようになったあらまし。目から鱗でございます。ああ、すごい。コンセプトに打ちひしがれました。素敵です。

買った人が高く売れる家を

前述した通り無印良品の家は、自転車からインスピレーションを受けて、というのも大きいのですが、逆にいうと、とにかく自信を持っておすすめしたい田鎖さんの思いの家を「よしやろう」と言ってくれたのが「無印良品」だった、ということでもございます。しかし買った人が将来、高く売ることができる家というのは、どうやって実現させているのでしょうか?お聞きしました。

「たとえば、10年前に建てた家と最近建てた家があったとして、間取りも見た目もまったく変わらなかったら、10年前に建てた家の人が家を売ろうと思ったときにも高く売ることができるだろう、ということを考えたんです」ほほう…。
それはどういうことかというと、つまり「絶対にデザインを変えない」という誓いです。一番最初に建てた無印良品の家のデザイン、一番最近建てた無印良品の家のデザイン、一緒です。性能こそ少し進歩していたりしますが(例えばペアガラスがトリプルガラスになっていたりとかね)、全体的なルックスは最初に建てた人も最後に建てた人も同じ。確かにそれだと高く売れそう!!! 「飽きのこないデザイン」というのには、こんな意味があったのですね。人の生活を守るための方法っていろいろあるのだなあと、いたく感心しました。

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2005年の「木の家」

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2018年の「木の家」

ちなみに、あんまり言わないでほしいと言われたのですが、私が言わないと誰も言わなそうなので言います。東日本大震災のときに倒壊した無印良品の家(SE構法の家)は0軒です。実際に被災現場に入った田鎖さん的には、「そんなこと、あの被災地の状況で言えないよ。言うつもりもないよ。」とのこと。差し出がましいことかもしれませんが、よかったらみなさんも参考にしていただけると嬉しいです。