なんで無印良品は家をつくったの?

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無印良品が家をつくる… 生活雑貨や食品、多岐にわたる心地よい暮らしの提案をしてくれる無印良品ですが、家までつくっていたなんて! ということに驚かれた方もたくさんいると思います。
このあいだ、新店レポートのため、姫路店「木の家」モデルハウスに行ったのですが、その際プレス向け内覧会といったかたちで記者さん向けに発表があったんですよね。無印良品の家をつくる指揮をとっている専務取締役の田鎖郁男さんが、記者さん向けにいろいろなことを語ってくださっている中でポロリとこぼした「人が死なない家をつくろうと思ったんです」という言葉が、なんとなく私の頭から離れず、後日取材(といっても私なのでかしこまった形式ではありませんが)を申し込んでお話を聞かせていただきました。

きっかけは阪神・淡路大震災

田鎖さんは俳優の吉田鋼太郎に似たナイスミドルなんですが、優しい物腰が逆に「この人実は怖い人なのでは…」という雰囲気を醸し出しています。個人的にそう思います。でもお話を聞くうちに、本気で優しい人なんだなあと思わずにいられませんでした。
現在50代の田鎖さんが20代前半のときの話です。田鎖さんは材木を売る商社にお勤めになっていたそうで、1995年の阪神・淡路大震災の際にはボランティアでリアカーを引いて合板を支給したり、仮設住宅の建設などに携わっていたそう。震災の被害はみなさんもご存知の通り甚大で、実際に街を歩いてまわった田鎖さんは、いま思い出しても涙が出そうになるほどの凄まじい光景が、頭に刻み付けられているそうです。とくに胸に強く焼きついているのは「家が人を殺す」という事実。木造建築に限らず、地震によって家が倒壊し、その結果圧死してしまうという状況を嫌という程目の当たりにしたそうです。

こちらは以前から少しずつお話させていただいておりますが、日本の法律では木造2階建て以下の建築物は構造設計をしなくていいということを、田鎖さんもそのとき初めて知ったそう。
震災の際に「新築なのに」家が潰れて中で人が亡くなってしまったおうちがあったそうで、田鎖さんは、「それは訴えたほうがいい!」と残された家族に持ちかけたのですが、法律家に聞いてみても「いや、家をつくった人の責任じゃないんです」という返事しか返ってこなくて愕然…。2階建て以下の木造建築は構造設計をされていない・義務化されていない結果、たくさんの人が家の下敷きになってしまったということですね。
田鎖さんも思い起こせば、家をつくっているときに大工さんに「これ大丈夫?」と聞くと「うんだいじょぶじゃね」っていう返事しか返ってこなかったり… 大工さんの勘でつくられている家がいかに多かったかということです。
その結果、阪神・淡路大震災では24万棟の家(うち9割が木造)が倒壊、6,402人もの人が亡くなりました。家が人を殺す。そのことに大変な衝撃を受けた田鎖さん。そして田鎖さんは「人が死なない家」をつくろうと思いました。

地震が来てから家が倒れるまではおよそ3秒間

地震がきてぐらぐらっとしてから、家が倒壊するまでの時間はわずか3秒。こわすぎです。逃げる隙もありません。ドアを開けて、ガスの元栓を閉めて… なんて時間、とてもじゃないけどありません。たった3秒で家に潰され、苦しみながら亡くなっていく… その後、火の手が上がって焼えてしまう。
家って人を殺してしまうのです。家族の生活を守るためのものが、地震の際には人を殺めてしまうのです。そのことに衝撃を受けた田鎖さんは、一念発起して「人が死なない家」をつくろうと考えます。大工の勘だけで家をつくってはいけない。そうして田鎖さんは30歳のとき、会社を起こします。潰れない家をつくるため研究を重ね、SE構法を開発したのです。

(続く)