vol.26 理の家
「無印良品の家」で暮らしている方を訪ねて愛知県豊川市へ。
建築家の永山祐子さんが、心地よく整頓された「木の家」に会いに行きました。

家に会いに | 2023.2.22

こちらは、2019年5月公開されたものを再編集しています

プロローグ

生活の中心に招き入れてくれる家

雨が少しぱらつく中、家の前についた。少しだけ高台になった角地に建ち、大きな窓、2階テラスが出迎えてくれる。玄関扉を開くとそこはリビング。
玄関の土間は奥にそのまま続き、モノ置きになっている。そこには形式的な玄関という構えはなく、機能的、かついきなり生活の中心に招き入れられたような感覚。縁側のある日本家屋で縁側から家に入る、みたいな感覚に近いかもしれない。このリビングインの構成には設計者の哲学が感じられる。気さくな人柄のご夫婦と元気な2人の男の子家族の雰囲気にこの構成がピタリとあっているように思った。中は大きなワンルーム、リビング奥のダイニングの吹き抜けを通して1、2階がつながる。ダイニングに面した大きな窓からは家の前の道が続いていくのが高台のためよく見通せる。家全体に広がる幸せな家族の風景。その風景を作っているのは驚くほど整理整頓された美しい見せる収納たち。母の愛が作り出した風景である。

永山祐子|ながやまゆうこ
建築家・永山祐子建築設計主宰。
主な仕事に「LOUIS VUITTON 京都大丸店」「丘のある家」「ANTEPRIMA」「カヤバ珈琲」「SISII」「木屋旅館」「豊島横尾館」「渋谷西武AB館5F」など。ロレアル賞奨励賞、 JCDデザイン賞奨励賞、AR Awards(UK)優秀賞「丘のあるいえ」、ARCHITECTURAL RECORD Award, Design Vanguard 2012、 JIA新人賞「豊島横尾館」など。現在、ドバイ国際博覧会日本館(2020)、新宿歌舞伎町の高層ビル(2022)などの計画が進行中。

01_img01

01_img02

ダイアログ1

だから、ここに建てました

02_img01

「木の家」
T邸|愛知県、2016年12月竣工
延べ床面積: 111.79m²(33.81坪)
家族構成: 夫婦・息子2人

永山祐子さんが会いにいった家

暮らしに「広さ」は求めず、気持ちが隅々まで行き届く1DKのこぢんまりとした生活に満足していたTさん夫婦。
やがて長男が育ち、活発に動き回るようになると、そんなライフスタイルの見直しを迫られるようになります。
手っ取り早く分譲住宅を探すか、土地を探して家を建てるか。
Tさんは自分たちが長年暮らす場所にちゃんと投資しようと、後者を選びました。それから土地を探し始めて2ヶ月。
Tさんが思い描く「家」に合う、南に開けた敷地に出合います。
その家とは「体験@無印良品の家」で、居心地の良さを実感した「木の家」です。高断熱仕様のおかげで屋内の寒暖差がなく、一年を通して快適に過ごせることも決め手になりました。
2人の子供の将来のため、駐車場は4台分を確保しています。

「こんにちは~」
「おじゃまします」

02_img02
02_img03
永山さん
収納も空間の使い勝手も、足したり引いたりできるよう、うまく考えられています。建築家の発想から生まれた家という印象ですね。

キレイな収納に感動!

永山さん
玄関には土間があって、靴とアウターの収納も兼ねているんですね……。収納がとてもキレイ。感動です!!
ホントはクローゼットもここに収めようと計画していたんですよ。家族が家に帰ってきて、この土間の収納スペースを通ると、自然に部屋着に変身して、向こうからリビングに出てくるアイデアだったのですが。これが限界でしたね。
永山さん
画期的! 確かに収納は全部同じスペースにまとめると楽ですよね。うわ! キッチンの収納もすごくないですか。う~、もうキレイすぎて泣けてきます。驚きですよ。単純に持ち物が少ないから整然と片付いているのではなく、煩雑になりがちな子供のおもちゃや学校道具もカゴを使ってキレイに収納してますよね。

02_img04

そんなに褒めていただいたの初めてですよ。しかも永山さんに。
永山さん
これって、最初に収納の仕組みやシステムのルールを考えて……。
はい、あとはそれを守るようにするだけですね。いつも仕組みやシステムのことばかり考えています(笑)。基本は家具とケースの組み合わせの足し引きで、どんどん変えられるように。
永山さん
時間とともにモノの量や比率も変わるし、今を基準にするのではなく可変的に対応できるよう考えるのは大事ですよね。というか、もう、人に合う収納の仕組みやシステムを提案する、パーソナル収納トレーナーみたいな仕事されたほうがいいですよ(真顔)。
えええええ、考えたことなかったです。
永山さん
ちょっと、もう……自分もがんばろうって思いました。えーと、どうしても収納にばかり目が向いてしまいますが、この家は空間へのアプローチが特長的ですよね。玄関ドアを入ると直接リビング。玄関スペースがなくて、リビングインで。
02_img05
02_img06
玄関スペースがないのはどうかなと思っていたけど、暮らしてみると開放的で、むしろ快適ですよ。僕が育ったのは、廊下で部屋が振り分けられている家でしたが、ここで暮らすと、そもそも廊下って何で必要だったんだろうと思います。
永山さん
空間を分節して部屋をたくさん欲しい家族には、各個室にアクセスするための廊下が必要ですが、最近の建築家の住宅は、大きな空間に個々のスペースをつくる傾向にありますからね。トイレやお風呂とか、どうしても仕切りたい場所以外は、できるだけフレキシブルに考えるようになりました。まさにこの「木の家」のようなプランです。でも、昔の日本家屋も、大広間を建具で自由に仕切って、道具を置き換え、多目的に使えるよう考えられていましたよね。
あ、確かに! そうですね。

2階も見せていただいていいですか

永山さん
これベンチじゃなくて子供用のベッドですよね。この使い方もいいですね。将来は右側の個室が勉強部屋になるんでしょうか。

02_img07

迷ってますね。リビング学習か勉強部屋か。1階にも学習机を置けるようにレイアウトを考えてもらったので、どちらでも……。
将来個室を欲しがる年齢になったら、2階の二部屋をそれぞれの部屋にするか、部屋を兄弟で分けるのではなく用途や目的で分けて使うようにするか、その時に考えればいいかなと。
永山さん
子供は成長につれてパーソナリティがどんどん変化しますからね。部屋の用途は最初から決めないほうがいいと思います。
家を建てる時には、「今」だけではなく、家族の「将来」を見越してプランを考える必要に迫られますよね。子供はまだ2歳と5歳なのに、将来の教育方針までここで決めなければならない。でも、そんなのわからないじゃないですか。その時はちょっと戸惑いました。
永山さん
そうですね。子供が大きくなるとどれだけモノが増えるのか、今の時点では想像できないですよね。判断の基準すら見えないですし。
だから、将来の選択肢を狭めず、とにかく可変性があり、融通が利く家づくりを目指しました。その結果が今の住まいです。
永山さん
なるほど。家づくりは、カウンセリングのようなもので、家族は何を求め、何が必要なのかを気づく機会でもあるんですよね。

02_img08

ダイアログ2

子供の宝物と収納を考える

再び収納のキレイさに驚く

永山さん
もう、何度も言いますけど、収納が本当にキレイ。キッチンもこれずっとキープされてるんですよね。
え、あ、はい。
そんなに収納上手ですか? 僕はこの家しか知らないのでよくわからなくて。
永山さん
素晴らしいと思います!
そうなんだ。ウチの奥さんがんばってるんですね。
永山さん
あれ!? カトラリーをしまう木製ケースが並べられたコレは……。
無印良品の木製書類整理トレーです。
永山さん
キッチンにオフィス用品って意外だけど、ぴったりじゃないですか。無印良品の木製ケースが横に3個キレイにおさまってますよね。無印良品はキッチン用品とステーショナリーも同じモジュールで設計されているんですね。これはいいアイデアですよ!
いろいろな商品のサイズを測って、どれがぴったり合うのか調べて、結果、無印良品の組み合わせになりました。
永山さん
なるほど。で、こちらはタオルのたたみ方がホントにキレイ、すごい。ホテルみたい。これも何度も言いますが、収納コンサルのプロとして仕事できますね。職業にしたほうがいいですよ。私も依頼したいくらい。

03_img01

ま、まさか。でも本当はキチッとしてないほうなので、すぐにでも崩壊しそうで、とにかく気をつけるようにしていますよ。
永山さん
え!?
夫・妻
??
永山さん
あのー、崩壊のイメージゼロなんですが……。ありえないですよ。
あーでも、昔は片付けできなかったらしいですよ。服も部屋に山積みだったそうです。
そうなんですよ。その思い出もトラウマなんです。母は収納が苦手なタイプだったので、身近にお手本もなくて、逆に収納の仕組みに興味を持つようになったのかもしれません。いまも雑誌やテレビで収納の特集があるとつい見てしまします。
永山さん
いや、その雑誌の収納特集に載るレベルですよ。ご主人は、奥様は収納がこんなに得意だったこと、結婚してから知ったんですか?
そうですね。家に帰ってきたらいつも片付いているし、自分は、どんな収納が能率的なのかとか、あまり考えたことないですから。

03_img02

永山さん
(バスルームを見て)お風呂の吐水口と排水口のキャップはいつも洗って外しているんですか。
お風呂掃除は僕の担当なので、お風呂から出ると毎回キャップを外して洗ってますね。中に湯垢がつくことがあるので。
永山さん
素晴らしい!
え、普通は外して洗わないんですか?
永山さん
普通は、毎回は外さないですね。ええ。
本当にキチンとされててホントにびっくりです。私の家もこちらと同じ築2年で、建ててしばらくはがんばっていたんですが、いまでは家のことを考える時間がどんどん少なくなって……。
でも、テレビで拝見するとすごくキレイなお家で、そこで暮らしている方が今日来られるなんて、ホント恐ろしいと思ってました。はい。
永山さん
いえいえ、とにかく仕舞っちゃえばそれなりに見えるように、部屋の一角に大きな収納スペースをつくり、そこに衣装ボックス60個積んで、どんどん組み替えながらモノを収めています。とにかくぱぱっと入れて、時間がないときは、衣装ボックスの中はちゃんとたたまなくてもいいことにして。自分の中で手抜きルールをつくらないといろいろ大変なので。収納の効率が良いと、家事の効率も良くなりますよね。家の中が煩雑だと頭の中も煩雑になりがちですし。
そうですね。まさにシステム=効率だと思って収納を考えています。

03_img03

子供の宝物はどうしまう

永山さん
もう着れなくなった子供服は人にあげたりして、貯めずに手放しているんですよね。
ええ、処分しますね。捨てるときはちょっと躊躇しますけど。
そういうときは僕が思い切って捨てたり、譲ったりしています。
永山さん
そうやって整理していても、子供はいろいろ家に持ち込みますよね。石とか虫とか、学校のプリントもあるし、図工の工作もあるし、それに幼児教育教材のオマケがどんどん増えたり。
それはすぐには捨てられないので、一旦貯めて、保管スペースがいっぱいになったら、残すか捨てるか分別して整理しています。保管のスペースも大きくするとどんどん貯め込んじゃうので、できるだけ小さなスペースにしていますね。
永山さん
うちは長男が毎日大量に絵を描いて、それを切り抜いて貯めていて。でも、いつも大事な切り抜きなくして、探すの大変だから、切り抜きをしまう箱をつくりました。いまはそこからも溢れて、知らない間にルンバに吸われてます。
夫・妻
一緒だ(笑)!!
永山さん
で、ルンバのゴミ捨てのときにこっそり救出してます(笑)。
まったく同じですよ。絵を切り抜いたら箱に入れて、そこから溢れたら選り分けて捨ててもらってますね。
永山さん
ただ、やっぱり紙なので、箱に入れるとくしゃくしゃになるから、最近はスクラップブックに貼ってしまうようにしました。
それ、いいアイデアですね。
永山さん
でも、結局、子供に代わって親が貼る羽目になり、余計な仕事が増えて、自分は何をやってるんだろう……って(笑)。
あはははは。でも笑いごとじゃないですね。子供の絵はとっておきたいけど、どれが大事なのか本人しかわからないし、でも全部はとっておけないし。でも、捨てると怒られるし。
永山さん
あー、そうそう。難しいですよね。わかるわかる(笑)
永山さんの家と同じ事件が、わが家でも起こっていることがなんだか不思議ですよ。

03_img04

ダイアログ3

家づくりを振り返って

暮らしのデザインと子供たち

永山さん
階段から眺める庭もいいですね。外の駐車スペースにはクルマがたくさん駐められますね。
4台分の駐車場は欲しかったんです。将来子供がクルマに乗るようになったら、4台分必要なので。
永山さん
戸建て住宅で4台分の駐車スペースは都内だと考えられないです。うらやましい。
まあ、このへんはクルマに乗るほうが便利なので暮らしの必需品ですから。
永山さん
インテリアに目を移すと、構造の柱梁は白塗装の拭き取り仕上げなんですね。
クリア仕上げだと木の印象が強くなるので、もう少しぼんやりした雰囲気にしたいなと思って、この仕様を選びました。
永山さん
ほかに、家を建てるときに注文したことはありますか?
テレビの位置と設置方法でしょうかね。テレビ画面だけが窓みたいに見えるよう、ケーブル類はすべて壁面にスッキリ収めてもらいました。

04_img01

永山さん
家電や家具のセレクトも素敵ですよね。ダイニングのJ.L. Mollerの椅子はヴィンテージですか。
いえ、現行品です。デンマークに仕上げや張り地をオーダーして、納期は家の工期とほとんど同じでした(笑)。
永山さん
もともと家具が好きなんですね。
好きになったのは、家づくりを考えるようになってからですね。最初、ダイニングテーブルは良いものを選びたいと思い、家具屋さんを訪ねたら、テーブルだけじゃなくて椅子選びも大事ですよと聞いて、そこから興味を持つようになりました。いちばん座りやすかったのがこの椅子でした。
永山さん
私も良い椅子で暮らしたいと思い、ついに憧れの椅子(スーパーレッジエーラです)を買ったのですが、籐編みの座面を子供が踏み抜いて壊しそうで心配で。

04_img02

キッチンで大事なこと

永山さん
家づくりを考えたのは子供が生まれてからですか?
はい。以前は賃貸の1LDKで、二人だけなら狭いほうが隅々まで手が行き届くし、私たちには広いスペースは必要なかったんですよ。長男が生まれてからもしばらく、そこで暮らしていたのですが、子供が活発に動くようになると、もうどうにもならなくなって。
それで土地を探して。とにかく早く建てたかったので急いで探しましたね。2ヶ月くらいで見つけました。
永山さん
早い! でも勢いって大事ですよね。「木の家」を選んだ理由は?
手っ取り早く分譲住宅を買う選択肢もあったのですが、「木の家」のモデルハウスの居心地の良さを二人で体験して、ずっと暮らす場所になるのなら、家族が長く過ごす場所にお金をかけようと。一応、住宅展示場も見たけれどグッとくるものはなかったですね。
永山さん
この家はなかなかいいサイズ感ですよね。実際に暮らしてみていかがですか。
まさに「事足りるサイズ」です。どこにいても吹き抜けを介して子供の気配が感じられるのも助かります。
永山さん
子供は数分でも親の姿が見えないと「ママどこ~!?」ってなっちゃいますからね。気配が伝わるのは重要ですよ。
冬が温かいことも大事なポイントだったので、家中どこも寒暖差がなくて、お風呂場の脱衣場も寒くないのは良いですね。冬は半袖でも大丈夫で、外の寒さに気づかずについ薄着で外出しちゃったりとか。

04_img03

永山さん
給湯は電気でキッチンはガスなんですね。
深夜電力でお湯を沸かすヒートポンプ給湯器を使っているので、食洗機や洗濯機などの家電も、できるだけ割安な深夜電力で稼働させています。キッチンは、IHを使った経験がないし、もしもの災害を考えると、家のエネルギーは一つに依存しないほうが良いと思ったので。
永山さん
なるほど。お話をうかがうと、高性能で、可変性があって、暮らしに合わせて柔軟に変えやすかったり、無印良品そもそもの考え方が生かされた家という印象ですね。部屋を小割りに仕切らずに、吹き抜けの一室空間で、家族が気配を感じながら暮らすスタイルなどは、建築家が発想する家に近いと思いました。ハウスメーカーや分譲住宅は、空間の気積じゃなくて床面積でスペースを考えがちなので、床を犠牲にする吹き抜けはあまりつくらないし、吹き抜けをつくるにも、構造をがんばらないといけないので、こういう空間を実現するのは難しいと思いますよ。
個室の数を増やすか、大きな空間を仕切って使うか、住宅の考え方もいろいろなんですね。
永山さん
戦後、大量の住宅供給が求められた時代に、西洋化した衛生的な暮らし方を目指して、「LDK」のシステムで住まいを捉える考え方が、モダンライフの象徴のようになりました。その後、分譲集合住宅やハウスメーカーの家は、広さや空間の豊かさよりも「LDK」の数字、つまり部屋数で家の価値を競うようになったのだと思います。
でもいまは、部屋数ではなくて、居場所として価値のある空間を求める価値観が広がっていますよね。キッチンもどんどん開放的になりました。この家もキッチンはリビングと一体化していますが、昔は女性が働く炊事場としてリビングと区分された時代がありました。
そうしたキッチンの変化は日本だけですか?
永山さん
それぞれの国の生活文化によって違いはあると思いますね。例えば、東南アジアの国では、食事はほとんど外で食べるので、キッチンがあるのは富裕層の家だけという例もありました。日本でも近年はシェアハウスのように、何人かでキッチンを共有する家もありますよね。その人のライフスタイルや暮らしの考え方に合わせて選べる選択肢は確実に広がっていると思います。

04_img04

ところで、永山さんが建築家として家を設計するときは、何からスタートするのでしょうか。
永山さん
みんな同じだと思いますが、最初は建主の要望を聞きます。でも、最初に伝えられる希望は、どの家にも当てはまるような、当たり前の話が中心なので、意外に参考にならないことが多いんですよ。そもそも、これから新しくつくるものに対して具体的な要望ってなかなか思い浮かばないですよね。
そうですね。
永山さん
だから趣味のお話などを通して、どんな時間が好きかとか、どんな場所や時間を大事にしたいのかを探るようにしています。お風呂に入るのが好きだとか、階段で本を読むのが好きとか、その人が大切にしている時間は何かを会話から探すことが多いです。人を招くのが好きな夫婦なら、ホームパーティーを開きやすい空間づくりを考えて提案したり、ピアノ演奏が好きなら、空間のアコースティックスを重視したり、大事にする時間や場所は人それぞれですからね。そうした話を参考に空間を組み立てていく感じです。
なるほど。やっぱりカウンセリングに近い。
永山さん
そう思います。奥様は家にいる時間、どこにいることが多いですか?
私はキッチンに立っている時間が圧倒的に多ですね。
永山さん
そうですよね。私もわりとそうなんですよ。だからキッチンから何が見えるかを大切に考えるようにしています。キッチンに立って見える窓の外に、季節を感じられる樹があれば、毎日キッチンに立つ奥様が最初に季節の変化に気付くんですよね。立ち仕事が多い主婦には、少し手を休めて季節の移ろいを楽しむことができる、ホッとする瞬間を提供したいので、キッチンは特等席にしたいといつも考えますよ。この家のキッチンも正面の大きな窓から空が見えるし、リビングも見渡せるし特等席ですよね。
そういうのって男性の建築家は考えないかもしれないですね。
そうかも!
夫・妻
今日は楽しいお話をありがとうございました。
永山さん
こちらこそ、おじゃましました。

04_img05

エピローグ(編集後記)

整理と整頓

今回取材をさせていただいたTさんのお宅をはじめ、無印良品の家のオーナーのみなさんは本当に整理整頓が上手だなと思うのは私だけではないと思います。私も取材後に、「自分はなんて整理整頓ができない人間なんだろう」と自己嫌悪に陥ることもしばしば…

「整理整頓」という言葉を調べてみると、「整理」も「整頓」も乱れているものを揃えるという同じような意味があります。しかし、「整理」には必要のないものを捨てるという意味合いもありますので、「整理整頓」で最初にやるべきことはまず不要なものの処分からなのでしょう。家の収納スペースと自分が持つモノの量のバランスを常に理解していて、そこから逸脱しないようにコントロールしていくことが美しい収納術のベースになりそうです。

一方、「整頓」はモノを使いやすくなるように順序よく配置するということです。
取材でTさんは基本的な収納の考え方を、“最初に収納の仕組みやシステムのルールを考えてあとはそれを守るようにするだけ。”とお話しされていました。このことを踏まえて振り返ってみると、新築時に盛り込んだ合理的な収納スペースの確保と、使いやすくするためのルールがそこかしこにあることがわかるのではないでしょうか。

でも、このことって簡単にできるものではないと思います。家族全員が自然とこのルールを理解しなければならないので本当に大変。無印良品でいろいろな収納アイテムを購入してなんとなくはきれいになるのですが、そのうちルールが守れなくなって、しまいにはぐしゃぐしゃ……おっと、これは我が家のことでした(笑)。
整理整頓の上手な方に共通しているのは、このルールをしっかりと守って習慣化しているということ。このことが家族の誰もが使いやすく、わかりやすい収納づくりにつながっていると感じます。

「無印良品の家」は収納空間のアレンジがしやすく、無印良品のさまざまな収納アイテムとも相性が良いのですが、Tさんのお宅はその特長を十二分に生かした「理」(きちんと整える・おさめるという意味)の家なのではないでしょうか。(E.K)

05_img01

05_img02

「無印良品の家」に寄せて | 建築家 永山祐子さん

「欲しい家」
~魅力ある生活シーンの集合体~

今回、無印の「木の家」を初めて訪問して感じたのは、新しい生活を築いていこうとしている若い夫婦にはとてもリアリティがあり「ほしい家」と思うだろうなということだった。立体的なワンルームの構成、ダイニングを介して全ての空間が緩やかにつながり、常に家族の気配を感じる。部屋の仕切りが少ないので、閉じた廊下もなく、仰々しい玄関もそこにはない。生活に必要な機能がワンルームの中にコンパクトに配置されている。

南に面した吹き抜けの大きな窓から日の光が差し込み生活の中心となるシーンをつくりだしている。機能によって決められた部屋の集合ではなく、様々な生活のシーンを想起させる魅力的な空間。対面式のキッチンではダイニングの子供達と会話が弾む。子供達はどこにいてもママの気配を感じて安心し、逆にママは子供達の気配をいつも感じている。リビングで遊ぶ子供達、キッチンで遅い夕食をとるパパ、キッチンで食器を洗うママ、皆が別々のことをしていても一緒にいる感覚、など。この家をたずねて来た人は容易にそんな楽しそうな生活シーンをイメージできるだろう。

若い世代は様々なメディアを通じて自分の理想的な生活のイメージを既にもっている。リビング、ダイニング、キッチン、寝室、それぞれのシーンにカテゴライズされた魅力的な事例が並ぶ情報サイトもあるくらいだ。これから家を建てようとする人は特に沢山の情報から自分の生活シーンを疑似体験しているはずだ。だから部屋数、機能スペックなどの情報をいくら羅列しても魅力と感じない。それよりもイメージを想起させるシーンの集合体としての家を見た時に、欲しいのはこれだと思うはずだ。既に多様な経験をリアルにもバーチャルにも得ていて、情報収集とそこからイメージ膨らますのが得意な世代は家の選び方も違ってくるはずだ。そんな世代にイメージの引き出しの多いこの家はリアルに響くはずだ。

今回の取材でT夫妻と話しをしている中で、なぜ無印の「木の家」を選んだのかという話をした。もともと家を持つという欲求はなかったが、下の子が生まれるタイミングでスペースが必要になり家を購入することになった。今までどの家を見てもピント来なかったが無印のモデルハウスを見に行った時に、これだとピンと来たとのこと。少し価格は高くてもこの家なら欲しいと思ったそうだ。そういう選び方をされるのが無印の家なんだなと思った。[2019.7]

06_img01

06_img02