vol.26 理の家
「無印良品の家」で暮らしている方を訪ねて愛知県豊川市へ。
建築家の永山祐子さんが、心地よく整頓された「木の家」に会いに行きました。

施工例 | 2019.6.11

ダイアログ3

家づくりを振り返って

暮らしのデザインと子供たち

永山さん
階段から眺める庭もいいですね。外の駐車スペースにはクルマがたくさん駐められますね。
4台分の駐車場は欲しかったんです。将来子供がクルマに乗るようになったら、4台分必要なので。
永山さん
戸建て住宅で4台分の駐車スペースは都内だと考えられないです。うらやましい。
まあ、このへんはクルマに乗るほうが便利なので暮らしの必需品ですから。
永山さん
インテリアに目を移すと、構造の柱梁は白塗装の拭き取り仕上げなんですね。
クリア仕上げだと木の印象が強くなるので、もう少しぼんやりした雰囲気にしたいなと思って、この仕様を選びました。
永山さん
ほかに、家を建てるときに注文したことはありますか?
テレビの位置と設置方法でしょうかね。テレビ画面だけが窓みたいに見えるよう、ケーブル類はすべて壁面にスッキリ収めてもらいました。

04_img01

永山さん
家電や家具のセレクトも素敵ですよね。ダイニングのJ.L. Mollerの椅子はヴィンテージですか。
いえ、現行品です。デンマークに仕上げや張り地をオーダーして、納期は家の工期とほとんど同じでした(笑)。
永山さん
もともと家具が好きなんですね。
好きになったのは、家づくりを考えるようになってからですね。最初、ダイニングテーブルは良いものを選びたいと思い、家具屋さんを訪ねたら、テーブルだけじゃなくて椅子選びも大事ですよと聞いて、そこから興味を持つようになりました。いちばん座りやすかったのがこの椅子でした。
永山さん
私も良い椅子で暮らしたいと思い、ついに憧れの椅子(スーパーレッジエーラです)を買ったのですが、籐編みの座面を子供が踏み抜いて壊しそうで心配で。

04_img02

キッチンで大事なこと

永山さん
家づくりを考えたのは子供が生まれてからですか?
はい。以前は賃貸の1LDKで、二人だけなら狭いほうが隅々まで手が行き届くし、私たちには広いスペースは必要なかったんですよ。長男が生まれてからもしばらく、そこで暮らしていたのですが、子供が活発に動くようになると、もうどうにもならなくなって。
それで土地を探して。とにかく早く建てたかったので急いで探しましたね。2ヶ月くらいで見つけました。
永山さん
早い! でも勢いって大事ですよね。「木の家」を選んだ理由は?
手っ取り早く分譲住宅を買う選択肢もあったのですが、「木の家」のモデルハウスの居心地の良さを二人で体験して、ずっと暮らす場所になるのなら、家族が長く過ごす場所にお金をかけようと。一応、住宅展示場も見たけれどグッとくるものはなかったですね。
永山さん
この家はなかなかいいサイズ感ですよね。実際に暮らしてみていかがですか。
まさに「事足りるサイズ」です。どこにいても吹き抜けを介して子供の気配が感じられるのも助かります。
永山さん
子供は数分でも親の姿が見えないと「ママどこ~!?」ってなっちゃいますからね。気配が伝わるのは重要ですよ。
冬が温かいことも大事なポイントだったので、家中どこも寒暖差がなくて、お風呂場の脱衣場も寒くないのは良いですね。冬は半袖でも大丈夫で、外の寒さに気づかずについ薄着で外出しちゃったりとか。

04_img03

永山さん
給湯は電気でキッチンはガスなんですね。
深夜電力でお湯を沸かすヒートポンプ給湯器を使っているので、食洗機や洗濯機などの家電も、できるだけ割安な深夜電力で稼働させています。キッチンは、IHを使った経験がないし、もしもの災害を考えると、家のエネルギーは一つに依存しないほうが良いと思ったので。
永山さん
なるほど。お話をうかがうと、高性能で、可変性があって、暮らしに合わせて柔軟に変えやすかったり、無印良品そもそもの考え方が生かされた家という印象ですね。部屋を小割りに仕切らずに、吹き抜けの一室空間で、家族が気配を感じながら暮らすスタイルなどは、建築家が発想する家に近いと思いました。ハウスメーカーや分譲住宅は、空間の気積じゃなくて床面積でスペースを考えがちなので、床を犠牲にする吹き抜けはあまりつくらないし、吹き抜けをつくるにも、構造をがんばらないといけないので、こういう空間を実現するのは難しいと思いますよ。
個室の数を増やすか、大きな空間を仕切って使うか、住宅の考え方もいろいろなんですね。
永山さん
戦後、大量の住宅供給が求められた時代に、西洋化した衛生的な暮らし方を目指して、「LDK」のシステムで住まいを捉える考え方が、モダンライフの象徴のようになりました。その後、分譲集合住宅やハウスメーカーの家は、広さや空間の豊かさよりも「LDK」の数字、つまり部屋数で家の価値を競うようになったのだと思います。
でもいまは、部屋数ではなくて、居場所として価値のある空間を求める価値観が広がっていますよね。キッチンもどんどん開放的になりました。この家もキッチンはリビングと一体化していますが、昔は女性が働く炊事場としてリビングと区分された時代がありました。
そうしたキッチンの変化は日本だけですか?
永山さん
それぞれの国の生活文化によって違いはあると思いますね。例えば、東南アジアの国では、食事はほとんど外で食べるので、キッチンがあるのは富裕層の家だけという例もありました。日本でも近年はシェアハウスのように、何人かでキッチンを共有する家もありますよね。その人のライフスタイルや暮らしの考え方に合わせて選べる選択肢は確実に広がっていると思います。

04_img04

ところで、永山さんが建築家として家を設計するときは、何からスタートするのでしょうか。
永山さん
みんな同じだと思いますが、最初は建主の要望を聞きます。でも、最初に伝えられる希望は、どの家にも当てはまるような、当たり前の話が中心なので、意外に参考にならないことが多いんですよ。そもそも、これから新しくつくるものに対して具体的な要望ってなかなか思い浮かばないですよね。
そうですね。
永山さん
だから趣味のお話などを通して、どんな時間が好きかとか、どんな場所や時間を大事にしたいのかを探るようにしています。お風呂に入るのが好きだとか、階段で本を読むのが好きとか、その人が大切にしている時間は何かを会話から探すことが多いです。人を招くのが好きな夫婦なら、ホームパーティーを開きやすい空間づくりを考えて提案したり、ピアノ演奏が好きなら、空間のアコースティックスを重視したり、大事にする時間や場所は人それぞれですからね。そうした話を参考に空間を組み立てていく感じです。
なるほど。やっぱりカウンセリングに近い。
永山さん
そう思います。奥様は家にいる時間、どこにいることが多いですか?
私はキッチンに立っている時間が圧倒的に多ですね。
永山さん
そうですよね。私もわりとそうなんですよ。だからキッチンから何が見えるかを大切に考えるようにしています。キッチンに立って見える窓の外に、季節を感じられる樹があれば、毎日キッチンに立つ奥様が最初に季節の変化に気付くんですよね。立ち仕事が多い主婦には、少し手を休めて季節の移ろいを楽しむことができる、ホッとする瞬間を提供したいので、キッチンは特等席にしたいといつも考えますよ。この家のキッチンも正面の大きな窓から空が見えるし、リビングも見渡せるし特等席ですよね。
そういうのって男性の建築家は考えないかもしれないですね。
そうかも!
夫・妻
今日は楽しいお話をありがとうございました。
永山さん
こちらこそ、おじゃましました。

04_img05